徹底監視!教育基本法「改正」法案審議
衆議院・教育基本法に関する特別委員会


■参議院・教育基本法に関する特別委員会

■衆議院・教育基本法に関する特別委員会

その他の委員会(衆議院・参議院)

月日 会議名 発言者など 監視員名 監視コメント
11月15日(午後)
教基法特別委員会
<強行採決>
野党の全委員欠席と安倍首相出席のもと、13時から約70分の締めくくり総括審議が行われ、約3時間の休憩をはさんだ後、野党委員が欠席のまま教育基本法案の「強行採決」が行われ、可決された。

<締めくくり総括の概要>
@ 委員会を欠席した野党への批判(参考人質疑、地方・中央公聴会の開催等、野党の要望を受け入れたにもかかわらず委員会を欠席したという理由で)

A 教基法改正の理由説明→社会状況の変化(高齢化、情報化、国際化、高校・大学の進学率の上昇、ニート・フリーターの増加、児童虐待の増加、不登校の増加)

B 「いじめ自殺問題」、「未履修問題」について学校、教育委員会の責任であると主張
*タウンミーティングの「やらせ問題」については言及無し

C 学校、家庭、地域の教育力の再生(回復)を強調

D 教員の資質向上の必要性を強調
(免許更新制、現職教員研修の充実、優秀教員の表彰、メリハリのある教員給与体系)

E 文科省による教育の中央統制の必要性を強調
(法に基づいて行われる教育=「不当な支配」にあたらない、義務教育国庫負担制の必要性、教育は自治事務ではなく法定受託事務であるべき)

<各委員の質問と議論の概要>
○河村建夫(自由民主党)  13時 09分〜  43分
・いじめ自殺問題、未履修問題についての感想は?
・(経済財政諮問会議を牽制した上で、)教育再生会議の位置づけは?
・教育予算の向上が必要では?
・国と郷土を愛する態度を養うこと、また、宗教教育に関する一般的教養の情操は具体的にどのように実施するか?

<安倍首相>
・ 未履修問題・いじめ自殺問題にみられる学校・地方教育委員会の規範意識の欠如
→崇高な使命への自覚と責任感が必要
・ いじめの深刻化
  →家庭・地域・学校が一体になって解決する必要がある
・ 教育再生会議では、各階の有識者による議論によってスピード感を出す
・ 効率化・メリハリのある財政措置が必要

<伊吹文科大臣>
・ 祖先の営みの中で恩恵を受けてきた伝統と文化、そしてそれを育んできた国を愛する心と態度は一体となって涵養される
・ 特定の宗教の布教と宗教の一般的教義とは別で、その分別には教える者の自制が必要

<河村>
・ 特定の宗教・宗派に寄らないためには、地方自治体への指針としての教材=国のガイドラインが必要。
・ 法に命ずるものをそのまま実行するのが教育であり、その事を地方自治体へ徹底する必要がある。
・ 憲法の教育を受ける権利の保障は、国に責任がある。義務教育費国庫負担は、全額国の負担でいい。

<伊吹>
・ 旭川学テ最高裁判決、日の丸・君が代予防訴訟判決にみられるように、教育権の解釈が混乱。しかし、教基法の改正で、法律に基づく教育は「不当な支配」にあたらない事が明確化された。
・ 予算、人事、法令の執行権がそろって責任をとれる。
・ 教育は、自治事務ではなく法定受託事務ではないか。それについては、(教育基本法が改正されたら)その他の下位法の法改正について議論する中で考える。

○斉藤鉄夫(公明党)  13時 52分〜  27分
・ 公・私格差の問題の中で公立学校をどう再生するのか?
・ 再生会議で具体論をどう議論するのか?

<安倍>
・ 公立学校生成のためには、学校の外部評価が必要。
・ また、教員の資質向上が必要であり、教員には「自己の崇高な使命を深く自覚」しなくてはいけない。具体的施策としては、免許更新制、現職教員の研修の充実、優秀教員の表彰、メリハリのある給与体系がある。

○稲葉大和(自由民主党)  17時 09分〜  05分
・ 現行教育基本法は、個人の尊重、個人の自由の行き過ぎを生んだ。
・ 公共心、伝統・文化を育んできた国及び郷土を愛する態度を養い、日本人としての自己の確立をはかることが必要。

○西博義(公明党)  17時 14分〜  04分
・ 生命、勤労を重んずる態度を養うことが必要。
・ 家庭、地域、学校つまり社会の教育力の回復が必要。
・ 高齢化社会、再チャレンジできる社会には生涯学習の理念が必要。
→以上の観点から、教基法改正に賛成する
11月15日
教基法特別委員会
中央公聴会

公述人
1.松下倶子 独立法人国立青少年教育振興機構理事長
2.鹿野利春 石川県立金沢泉丘高校教諭
3.西原博史 早稲田大学社会科学総合学術院教授
4.広田照幸 日本大学文理学部教授
5.出口治男 日本弁護士連合会教育基本法改正問題対策会議議長、同元副会長

 公聴会では、5人の公述人が15分間発言、その後質疑。鹿野、出口公述人は一般公募で選ばれる。
1.松下倶子公述人
 政府案に賛成である。現行法はわが国のその時にあわせて制定されたものであり、その後社会が変化しているので、教育を見直すことが必要である。
 新たに掲げる教育理念が必要である。
1 3条の生涯学習の理念。現行法は義務教育中心である。
2 10条の家庭教育の理念
3 13条の学校、家庭、地域社会の連携協力。現行法は個人の成長が中心。
4 12条の社会教育。2項のその他の社会教育施設に青少年施設が含まれることになる。

 教育振興基本計画の策定にあたっては、教育の活動の成果はすぐには見えないことに留意してほしい。基本計画がわれわれの活動の参考になることを期待したい。

2.鹿野利春公述人
 政府案に賛成する理由
1 目的が明示されたこと
2 生涯学習の理念が規定されたこと
3 家庭教育の責任が規定されたこと
4 学校、家庭、地域社会の連携がはっきり書かれたこと
5 基本計画が書かれたこと

 追加してほしい2点
1 社会教育について施設だけではなくもっと踏み込んだ規定をしてほしい
2 変化する社会への対応は「不易」と矛盾するものではないこと

 今の子どもには「志」が欠けている。それは教師が目的を失っているからではないか。教師に生徒と向き合い時間を作ってほしい。人と時間を保障してほしい。

3.西原博史公述人
 政府案に強い懸念がある。
・権力分立の点からみると、法執行に指針を与え、行政に乱用されないようにするのが国会の責務であるが、間違った運営がされる恐れがある。第2条の教育の目標などは硬直的な運用がされる恐れがある。その点、民主党案は前文に規定しているので強制が弱くなっている。政府案には強烈な縛りがある。
・第2条の「国際社会の平和と発展に寄与する態度」はどのようにとればよいのか。イラク戦争に賛成か、反対かどちらか。現行法では正解のないものとして扱うことになっている。「人格の完成」とは独立して考える人のことである。これが政府案では覆される。政府案では、2条の目標を達成することで人格の完成となる構造である。
・政府案は、教育内容を政府の意向に従わせるものである。文科省が正しい国の愛し方を定義することになる。首相が変わると学習指導要領が変わり、歴史観が変わることになる。これでよいのか。
・このようにならないようにする予防措置が必要。十分な審議が必要。
・一人ひとりが考えを持つのか、政府の指導者が決めた意思を国民が持たされるのかである。

4.広田照幸
 もっと議論、検討されるべきことが残されている。
1 青少年の現状認識
 日本は、外国に比べると非行、いじめはましな方である。統計からみると今は人を殺さない社会になっている。メディアの報道があふれるようになっているのである。今の子どもは大人になると規範が身につく、それまでに時間がかかるだけである。10代の子どもの状況に大人がいらだっているのである。
2 教育現場はよくなるのか
 きゅうくつで面白くない学校になる。生徒は2条で態度がチェックされる。いじめ、非行は減らない。
3 政府案に欠けているもの
・未来社会像の欠如 政府案はグローバル化に一国主義で対応しようとするものであるが、今は東アジア共同体という考えで対応しようとしている。
・IT化への対応
・学ぶ権利の保障が明記されていない
・条件整備の観点が薄い
・・・未だ審議は尽くされていない。
・・・現行の教育基本法を改めて選び直す道もある。現行法の規定は、あっさりとしていて柔軟で汎用性が高い。

5.出口治男
・日弁連は9月15日に「教育基本法改正法案についての意見書」を発表した。これは理事会で1名のみの反対で承認されたもので画期的なことであった。そのポイントは「現行教育基本法の立憲主義的性格」「現行法10条「改正」の問題」「精神的自由が侵される危険」である。
 9月21日の東京地裁の判決(日の丸・君が代予防訴訟)は意見書の論理構造と同じである。
 世論調査でも、今の国会にかかわらず議論をすべきが多数で、東大の研究所の調査でも多くの校長が批判的である。改正については十分な議論が必要で、拙速な議論をしてはいけない。日弁連の国会に調査会をという意見と世論は一致している。
 子どもや親の悩みを国会議員の方に聞いてもらいたい。特別委員会ではもっともっと議論して結論を出してほしい。

(質疑)
 西原、広田公述人は民主党の推薦で出席されましたが、質疑では民主党案への問題も指摘されました。
 松下、鹿野公述人は政府案に賛成の立場から意見を述べられましたが、それぞれの現場の問題は具体的に伝わってきましたが、それがどうして「改正」と結びつくかはよくわかりませんでした。慎重審議を求める3人の意見は具体的でわかりやすかった。
11月12日(午前)
教基法特別委員会
T 議論全体の要旨

1 「愛国心」問題、「宗教的情操」問題、「不当な支配」の意味の問題
2 学習指導要領の法的性質について
3 「指導力不足教員」について。
4 教育と地方分権について。特に教育における国の責任について。

U 審議の中で結論的に主張された点

1 「愛国心」問題、「宗教的情操」問題については、目新しいものがなかった。一
方で「不当な支配」の意味については、「特定勢力が教育に影響を及ぼした事案に
は、東京都の国旗国家の問題、旭川の学力テストを「不当な支配」と称して不当な介
入をした事案がある」と、伊吹は答弁していた。

2 学習指導要領について、それを国会承認すべきではないかとの民主党・松原仁や
藤村修の発言に、伊吹は賛意を示していた。

3 「指導力不足教員」の統計上の人数が、実感から離れているとの印象が民主党・
前原から示され、「指導力不足教員」の摘発の工夫が述べられた。その一環として、
教育現場に人事権を下ろすべきとの主張が前原からなされた。

4 教育と地方分権について。“教育行政において地方が国のいうことを聞かない場
合”を想定した問答で、伊吹は「私は、ある程度の国としてお願いしたことを地方が
実行されない場合は、それを担保できる権限は文科省にゆだねてもらいたいと思って
いる」と答弁した。その中で民主党・藤村修から「国が行なう、国や地方公共団体が
行なう教育の行政、教育課程の編成、教育の予算の問題などであって、ここからはみ
出る部分が教育の場合大きい。で、現場でになうのは教員であると認めていかないと
ならない。いい先生を元気にまじめに働けるよう環境整備すべきと思うが、いかが
か?」との質問に対して、伊吹は「自然が人間が持っている権限もやはり、憲法とい
う最高法規に規定されている。ですから藤村委員のいったようなことを教育関係の法
律に包含できてはいない現状があるが、憲法という大きな法律の下で人間の持ってい
る全ての権利は認められていると考えるのが近代国家法体系の基本だと、我々は大学
で教えられた」と自身の憲法観(学習された憲法理論?)・教育行政観を述べた。こ
れは「国家がすべからく統治するための法規範としての憲法観」とでも述べられよう
か。

5 上記の藤村の質問に関わって、「教育権」という言葉の意味が確定されないまま
用いられていた。多くの時間で「教育権」は「国の教育行政権」(「権限」と「権
利」が、あいまいなまま用いられていた)「国と地方の教育行政の配分」という意味
で用いられている感を得た。藤村が「教育を受けるものの権利」の意味と明らかにし
ようとした箇所もあったが、この意味での用法は、伊吹からは聞かれなかった。ま
た、「教師の責務」について伊吹から「国権の最高機関である国会にあるというのが
当然のことである。国会で決まった法律によって権限が分与されている。分与されて
いる権限の行き着く先が、学校の教師である。学校の教師に自然発生的に教える権限
があるのではなくて、権限の分与された範囲において権限を有するというのが、法理
上の規定だ」との答弁があった。

6 「教育行政に民意が反映されていない」ことについて、伊吹から「我々国会議員
は自信を持つべきだ。国会審議を経た法律で法体系に基づいて学習指導要領を作って
いる。今度教育振興基本計画が設けられ、国会に報告されることになっている。この
審議は国会の判断に委ねられるのだが、民意が一切反映されていないということはな
い」との発言があり、民主党案=教育行政権限の首長部局への移動を批判していた。

V 各論者ごとの議論の主旨

■松原仁(民主党・無所属クラブ)

<教基法改正の理由>
松原 なぜ教基法を改正するのか。

伊吹文科相 社会が変化した中で「豊かさの中での精神の貧困」が起こったため。

<愛国心教育について>

松原 なぜこれを教基法改正案に書かないのか。愛国心の教育は必要ではないのか?

伊吹 愛国心の定義による。国といわれるものは文化の営みと統治機構がある。後者
を愛しなさいと教えるのは問題があるだろう。

松原 この条項を「愛国心」と読んでいのか? YES、NOで答えてほしい

伊吹 (自民議員?からの不規則発言で「YES、YES」と促されるのに対して)いえ、
それは私が答えるのです。そのように読みたいのであればそのように読んでいただい
て結構です

松原 改正案2条5項によって、どのように教育・学習指導要領は変化するのか?

伊吹、法が通らないとなんともいえない。ただし法案が通ればこれに基づいて教育を
行なうことになる。例えば蒙古襲来のとき日本はどう動いたのか、黒船が来たとき日
本はどう動いたのか、日本の建築はどういう特徴を持っているのか…等を考えて学習
指導要領を変えていくことになる。

<「宗教的情操」について>

松原 宗教的情操について、明確に語られていない。それはなぜか?

伊吹 日本は宗教観が諸外国に比べて特徴的(結婚式は境界で、葬式はお寺で…
等)。宗教の持つ特徴は国際理解のため教える必要があるが、「情操」となると教義
に踏み込まなきゃならない。

松原 子どものモラル低下は、暴力マンガなどの蔓延等が影響している。宗教的情操
が教育の場で必要という意見はたくさんあるが、なぜ、改正案では入れないのか?

伊吹 一般論として、宗教を大事にするべきとの意見は賛同できる。ただ「情操」を
入れなかったのは、特定の宗教を持っている教師が特定の教義を教えてはならないと
の意味である

松原 宗教的情操教育は、政府案では否定しているのか?

伊吹 定義意味合いの問題だ。教義的意味合いが含まれることもあるので、憲法上の
制約からはずしたのだ

藤村修(民主党) 我々は「感性」といっている。情操と感性は、似ているが後者のほ
うが大きな概念である。子どもに生死観等について踏み込んで教える必要があると
思っているから、この条項を入れた。

松原 宗教的情操は必要ですよね

伊吹 一般論として宗教的情操は必要です。これを受けて、学校教育法や指導要領を
受け、教師の能力があれば、この大事なものを学校教育の場で実現可能です。

松原 下村は、どうだ?

下村 松原とは議連等で一緒に活動しているので、共通の考えを持っているものと思
う。現行法でも宗教の大切さを謳っている。国際関係の緊密化、複雑化のもとで、宗
教に対する知識・理解を深めるという目的で改正案を出している。宗教は多義的であ
る。特定宗派を離れて教えることは難しいことに鑑み「情操」という言葉を使っていな
い。しかし、道徳を中心に宇宙の神秘や人間を超えたものへの畏敬の念を指導するこ
とは大事である。広い意味での宗教的情操や感性は教えること可能である。

松原 サッチャー教育改革について研究して、学校を見に行ったことがある。そこで
は瞑想の時間があった。そこまでやったら宗教教育になるのか? そのガイドライン
を示してもらわないと現場が困る。作るべきだ。このような時間が宗教教育といわれ
ないと、どこに宗教教育があるのか、となってしまう。

伊吹 改正案15条は宗教の尊重を挙げている。日本は宗教が多様。それを踏まえて
ガイドラインを作成するのは難しい。宗教の一般的な尊重については学習指導要領を
通じて可能である。教師の能力に期待する。

<「不当な支配」について>

松原 不当な支配について(16条)。改正案の「教育は」は「教育行政は」と明示
的にしたほうがいいのではないか?なぜそうしないのか?

伊吹 先生のようなご意見もある。ただし、中立性、そのときに政権をになっている
政党、地方議会の知事推薦党派、それらから教育は中立であるべきという意味だ。

松原 これではわからない。「不当な支配」とはどういううものが想起されているの
か?

田中局長 国民全体を代表しないような団体、個人が学習指導要領に則らないような
働きかけをしてくることだ。(具体的にという松原の追質問に)私たちにとっては、
法令に則った毅然とした教育が必要だとして指導している。(法令に基づかない教育
とは?との質問に)学習指導要領んに則らなきゃならない中、特定の課題しか教えな
い、特定の課題を教えないというものである。

伊吹 教育は国憲の最高機関によって議決した法令に則って行われるべきであって、
特定勢力が教育に影響を及ぼした事案には、東京都の国旗国家の問題、旭川の学力テ
ストを「不当な支配」と称して不当な介入をした事案がある。

松原 学習指導要領は国会承認をするべきではないか?

伊吹 法理論的には、これは学校教育法による政令に基づいているので、法令であ
る。これを国会の議決にすべきかどうかは、立法政策論上のまた別の問題だ

松原 国と地方との関係について。その相互の関係が分からない。学テへの不参加自
治体が出てきたと起動するのか? 教員の資質について。学校教師になるには単なる
k就職ではなく、国民を育てるとの宣誓をさせるべきではないか? 能力も努力も違
う。のに「待遇の適正」と書いてある。能力のあるなしによって待遇差があるとのこ
とか?

伊吹 人材確保法の運用によるが、改正案が通れば先生のいうとおりになる。民主党
にはいろんな立場の人がある。先生の意見は私のに近い。先生に意見を民主党に一本
化してほしい

■前原誠司(民主党・無所属クラブ)

<「指導力不足教員」問題などについて>

 教基法の見直しは必要かもしれないが、法や制度によって一朝一夕で教育現場の問
題が解決するわけではない。運動論の重要性・現場の重要性から質問させてもらいた
い。

 教師の評価について。教師の教える力についいて。「指導力不足教員」は1800
名分の1とされている。これは実態に沿った数なのか?

銭谷初頭中等局長 指導力不足教員は校長から教委に報告されている。平成17年度は
506人。この制度の運用によって指導力向上を期待している。

伊吹 保守主義は制度よりも制度を動かす根幹に人をすえる考え方だ。「指導力不足
教員」の認定数はちょっと少ないのではないか、という印象を持つ。

前原 「指導力不足」の基準は誰が作り、運用するのか? 現場感覚によれば180
0分の1というのは少ない。学校レベルで指導力不足を洗い出す仕組みを考えるべき
ではないか。教員免許更新制は効果をあげうるのか?

伊吹 制度を動かすのは人である。制度よりもどのように人を作るかが問題なのだ。
民主党も松原提案(宣誓をすべき)をうけいれるのか? そうであれば、国会として
「宣誓を作るんだ」という所からスタートすれば髄分よくなると思う。

前原 中教審答申では不足だとの答弁と聞いた。潜在的な「指導力不足教員」を浮か
び上がらせ、指導するにはどうしていけばいいか?

伊吹 教育長の指導力や地域の対応で随分違う。現行の文科省の権限の範囲で言え
ば、これら事例を知らせる必要がある。予算、人事権、法令の執行権を持っていると
ころに「やる気」が生まれる。改正案が通ったあとは、教育行政のあり方について議
論してもらいたい。

藤村 教員養成が重要、教員の採用について、点数至上主義ではないような採用がさ
れるべき、教員研修も大事だ。「全体の奉仕者」という意味で、宣誓という方法も検
討されていい。

前原 教育委員会のありかたについて。これがうまく機能してなかったことが明らか
である。この不機能の故「いじめはゼロだった」などの報告があがってくる。普通の
市町村は人事権を持っていない。教育委員長はかなり「お飾り」的になっている。こ
れは状況認識としてどうか?

伊吹 膨大な事務局を持っている、それを使いこなせているか。また、事務局が教員
で成り立っている。よって所属する組織をかわいがっる傾向がある。

前原 学校運営評議会について。これが広がりつつある。成功モデルを広めていく必
要がある。この制度のメリットは、教師、評議員、保護者が入っていること。教師の
評価が議論を通じて可能である。教委による教員評価より、この制度を使うことによ
る評価の方が優れている。そしてこの制度に参加する親について、自分の子育てにつ
いていい勉強になるとの声がある。受け皿を作って親の意識が変わっていく。最後に
2007年に大量退職があるが、学校運営評議会に退職者に入ってもらえればいいと
思う。先生の評価は、ひいては人事権を含めて、学校運営評議会の具申にかけるよう
な制度にしていけばいいのでは?

伊吹 学校運営評議会に対し、その評価は先生と同じ。ただし、人口変動があるとこ
ろではこの制度がうまくいくかどうか。いい制度だとは思うが。また、人事権を持
つ、学校運営の理事会的な役割を持つ場合、どのような人が入ってくるかが問題にな
る。大所高所からの監査的役割と地域と学校の連帯の中心にあるという役割は評価す


高井美穂(民主党) 教委に権限を集約するのではなく、現場に権限を移して、地域
活性化と教育力の向上を目指すべきである。

前原 大都市のほうが進んでいて、地方の方が「地域ボス」支配に、学校評議会制度
はなっていくのではないか?地方分権一括法で地方分権が進んだ。なにを文献すべき
かは諸問題ではあるが、人事権を現場に下ろす必要があるのではないか?

伊吹 教師の人事は、学校間移動である。学校の中で現場対応をする校長には厳しい
のではないか?

前原 学校長は「どういう人がほしい」という具申できるような、そういう権限が必
要ではないか?

伊吹 人の還流、やり取り、言い方悪いが「根回し」的なものは既にある。ただ、こ
れが高ずると派閥のようになっていく。

前原 教育格差に対応するためには、公教育の充実が必要である。実質に週6日制で
学校運営しているところがあり、京都にはそういうところがある。これをどう評価す
るか?

伊吹 ゆとり教育は不完全に、不幸に使われたとの観がある。ゆとり教育の運用につ
いて考えるべきである。週5日制について、これで学力が落ちたといえるのか。OECD
の学力調査で世界1のフィランドは、週五日制だ。制度としてこれを変えるのは難し
い。

■藤村修(民主党・無所属クラブ)

<教基法制定過程について>

藤村修(民主党) 制定過程について。土肥委員との答弁で「教基法の方が先、憲法
があと」との答弁があった。しかし制定趣旨は憲法が確定し、教基法が生まれたの
だ。これを確認したい。

伊吹 「憲法改正をする前に教基法をかえるのは本末転倒だ」との意見が多々寄せら
れる中、それに乗ってはならないという背景があり、このように応えた。

藤村 教育基本法は日本国憲法の精神を体して作られているのであって、決して大日
本帝国憲法や教育勅語の精神を体しているものではないとのことははっきりさせてお
くべきでは?

伊吹 法律の成立過程は、野田佳彦との議論で法理論的にきっちり整理していただい
たので、それを否定するものではないと申し上げた。これが全てだ。

<憲法改正と教基法改正の関係、教育における国と地方の権限のあり方について>

藤村 自民党憲法草案について。学問の自由が「何人も」になっている。これは評価
したい。民主党も「学ぶ権利」については「何人も」となっている。草案の立法趣旨
について意見を。

伊吹 日本国の教育基本法だから、日本国についてのことを書いている。憲法草案が
通ったら、在日の方たちの学問の自由を保障するとの主旨だ。

藤村 現行基本法下において、家庭・学校・地元教育委員会・都道府県教育委員会・
文科省という中で教育に関する責任のたらいまわしが行なわれているようだ。これの
整理が、政府改正案によってどう変化するのか?

伊吹 教基法改正がなれば、国権の最高機関である立法府が、国と地方自治体の間で
分担して教育行政を担うということを認めるということだ。これについて予算、人事
権、法律の執行権をどう肉付けていくか(が課題だ)。今のまま(=現行法のま
ま?)では、民主党も主張しているが、責任の所在が不明確である。

藤村 民主党案では教育の最終責任は国にあるとはっきりさせてある。内容・財政措
置、これら教育体系についての行政責任を国が治めるという主旨である。教育内容の
スタンダード設定について、これは民意の反映がみられない。学習指導要領は国会決
議事項にすべきとの意見に私も賛成だ。未履修・いじめ問題についても国は市町村教
育委員会に踏み込むことができない「靴の上から掻いている」ようだと大臣は言って
いた。伊吹大臣は文科省が持っていた「改善措置命令」、これは地方分権のときはず
してしまったと残念そうにいっていた。これを国が取り戻して権限を握るという主旨
なのか、それとも権限についてはバランスを考え、今と変える必要はないと考えてい
るのか?

伊吹 改正案が通ったあとで考えるべきことだ。民主党案は、地方分権を言うが、も
し地方がいうことを聞かない場合、文部科学大臣にどういう担保があるのか。私は、
ある程度の国としてお願いしたことを地方が実行されない場合は、それを担保できる
権限は文科省にゆだねてもらいたいと思っている。

藤村 法規範性がある学習指導要領に反しているのは、正常な事態ではない。これは
きちんと国が指導できる、と思っている。伊吹大臣はこの案件(未履修問題)につい
て是正措置要求まで含めるべきとの考えか?

伊吹 旧地教行法では、文部大臣に措置要求の発動権限が規定されてあった。「教育
の本来の目的達成の阻害を認めるとき」との条項があった。しかし「地方分権一括
法」で措置要求権は廃止され、一般規定の中に(教育関係条項も?)あって、地方自
治事務なのだ。すると、現在の法律の下で(国から地方への)要求権はあっても、要
求に応えない場合の担保権が国にはない。それをはっきりしてもらいたいというのが
私の希望だ。

藤村 法律で定めている要求を地方が応えない場合は、裁判所が判断する事柄だ。次
に、教育委員会の役割は今後も変わらないとの趣旨か?

伊吹 政府としてある程度の変更をしなくてはならない可能性を否定するものではな
い。藤村は「法律で定めている要求を地方が応えない」ことはないといっているが、
未履修問題については既にいくつかの県で発覚していた。それを受け東京に教育委員
会の責任者をよんで「今後こういうことのないように」と要求した。しかしこんなこ
とがおこっている。このことをとめる権限は、民主党案や自民・公明党案ということ
はおいておいて、日本の法が守られ、公正な行政が行なわれるとの観点から、お互い
の法案にこだわらず考えてもらいたい

藤村 10月20日の文部科学委員会での大臣答弁がある。法律によると、文科省は
基本方針を決めて、都道府県・政令指定都市の教委に助言・指導を行なう。そして都
道府県・政令指定都市の教委はこれを受けて、政令市を除く教委に助言・指導を行な
う。そして市町村の教委は小中学校の設置と管理を行なう。設置された学校で校長が
管理権を持ちながら、教諭は児童の教育をつかさどる…これは法律のそっけない説明
ではありますが…とある。これは今後も変わらないということか?

伊吹 大きな流れは変わらないとご理解いただいていいと思う。都道府県と市町村の
教委の関係・権限の配分、予算がその背後に伴ってくるが、人事権は都道府県教委が
持知、学校の設置は市町村教委がやっている。市町村の教員にするとどちらに向いて
仕事をするのか(難しいだろう)。この件については法案が通ったら民主党と相談し
ていく事案だと思う。

藤村 今回の法改正で学校現場はどう変わるのか? かわらないのか?

伊吹 法の運用面を変えていかざるを得ない。同時に、学校をどう監視・監査・監督
していくかは、公教育である以上は必要になる。履修漏れが起きないような体制を作
る必要がある。学校評議会や内部評価、外部評価等が方法としてある。教育委員会が
どの程度関与するかということもおこってくると思う。

藤村 学校現場が、学校評議会等による自律した運営は、むしろ今後広がっていくべ
きというお考えですね。うなずいてらっしゃるので、そのように受け止めます。われ
われ(民主党案)はそこを「学校理事会」という形ではっきりさせている。学校の運
営責任をになうという構想だ。この点は共通に理解できるところだと思う。首長に権
限をどう配分するかが相違点だろう。

伊吹 首長への権限については民主案と意見が異なる。また学校評議会という点で賛
同の意見を持つが、学校を運営する学校理事会、人事権を持たせるなどは、公教育の
場合、特定政党・団体の人や地域ボスがPTAの中に入り込んできたり、いろいろ現場
で起こってきている。これを考えると学校理事会の構想には疑問がある。

藤村 国立大学法人化について。伊吹大臣は賛成ではないとの意見か。

伊吹 そもそもの反対ではない。下手な運用をするとマイナス面が生まれてくると思
う。あまりにも国民の税金が正確に使われていない状況下、法人化によるマイナスよ
りも、国民の税を規範意識なく使うマイナスの方がより多い場合は、独立行政法人に
せざるを得なかったのだと思う。

藤村 義務教育国庫負担制度について。国負担が3分の1になった。これについて伊
吹大臣の考え方は? 2分の1にしたほうがいいとの考えか?

伊吹 3分の1にしたほうがよかったのかなぁとの感想は持っている。ただし、地方
が規範意識を持って運用してくれるのであれば叶うであろうが、そうでない以上は、
状況は難しい。

藤村 将来は2分の1に戻ることも視野に入れていると理解した。

藤村 首長へ教育に関する権限をわたすことについて。教育委員会では、公選制なら
まだしも、現行制度では民意の反映に限界がある。民意の反映のために首長に権限に
渡すべきといった。確かに問題ある主張が出た場合も想定しうるが、それは議会が
チェックできる。加えて、教委を発展的解消して教育監査委員会(オンブズマン的
に)を設けようと、民主党はしているのだ。これは説明的答弁だ。ところで大臣は
「教育権」という言葉を使った。これには「教育権論争」という過去がある。これを
どう考えているのか?

伊吹 藤村委員は、旭川学テ最高裁判決に現れるの「教育権」論争について議論して
いると思う。私が「教育権」というのは、民主党は、都道府県教育委員会の権限を首
長に移すといっているのだから、それを「教育権」といっている。教育の意見が民意
を反映していないとの意見については、我々国会議員は自信を持つべきだ。国会審議
を経た法律で法体系に基づいて学習指導要領を作っている。今度教育振興基本計画が
設けられ、国会に報告されることになっている。この審議は国会の判断に委ねられる
のだが、民意が一切反映されていないということはない。

藤村 地元の教育現場の近い所で、民意が反映されるべきと考えている。家庭・地
域・学校という場での民意が反映されるべき仕組みを考えるべきだ。

伊吹 しかし、我が国は議会制民主主義で成り立っている。首長は大統領制的に選ば
れている。藤村委員の意味での民意は、地方議会でやるべきでは。

<「教育権」の用語を巡って。引き続き、国と地方の教育の権限のあり方について>

藤村 公選制でない地方教委での限界がある。だから首長部局で民意を反映すべきと
いっているのだ。「教育権」という言葉を、上述のような意味で大臣が使ったことに
違和感がある。この言葉は「教育を受ける側の権利」という意味だ。教育について大
きな権限をになうのは教員だ。だから教員の資質の向上等が言われている。ただ、教
員が勝手なことを教えてもらっては困る。よって教育課程を編成する権限が校長にあ
り、それを監督・指導するのが教委の権限だ。大臣は教育の一番大事な権限はどこが
持つべきだと考えるのか。また、権限をどのように分担すべきか。

伊吹 国権の最高機関である国会にあるというのが当然のことである。国会で決まっ
た法律によって権限が分与されている。分与されている権限の行き着く先が、学校の
教師である。学校の教師に自然発生的に教える権限があるのではなくて、権限の分与
された範囲において権限を有するというのが、法理上の規定だ。

藤村 教育は、もちろん法律でできる部分はあるが、法律でできない「広義の教育
力」というものがある。国会が決める教育の案件は全部ではなく、一部だ。国が行な
う、国や地方公共団体が行なう教育の行政、教育課程の編成、教育の予算の問題など
であって、ここからはみ出る部分が教育の場合大きい。で、現場でになうのは教員で
あると認めていかないとならない。いい先生を元気にまじめに働けるよう環境整備す
べきと思うが、いかがか?

伊吹 自然が人間が持っている権限もやはり、憲法という最高法規に規定されてい
る。ですから藤村委員のいったようなことを教育関係の法律に包含できてはいない現
状があるが、憲法という大きな法律の下で人間の持っている全ての権利は認められて
いると考えるのが近代国家法体系の基本だと、我々は大学で教えられた。

藤村 「国民教育論か国家教育論か」という論争がかつてあった。私はくだらない論
争だと思っている。子どもが立派に育っていくことが目的であって、これは雲の上の
話だ。ただし旭川学テ最高裁判決でひとつの基準が示された。両極ではなくそれなり
のバランスを絵を取ったところにあるとした判旨を支持したい。ただ、このバランス
を今度の法案は崩すのか、両極のどっちかに寄せるのか。

伊吹 バランスを崩すとは、国の方にということですか、地方の方にということです
か?(藤村の表情を伺う様子が伊吹に見られるが、仔細は不明)。今の状況の判断を
すると、大きく揺れることはないと思う。民主党案はむしろ大きく(地方の方に)揺
れると思うが。

藤村 民主党案は(国と地方の)両方に整備されていくと受け取ってもらいたい。学
校選択制やコミュニティスクールと教育権は何か関係あるのか?学校を選ぶという意
味では親の教育権・子どもの教育権という意味だ。選ぶということが教育権を充実さ
せているのか?

伊吹 これはおのおのの立場によって違ってくると思う。学校を選ぶというのも親の
教育権ということかもしれません。平等に同じ教育を受けるというのも教育権という
のかもしれない。どこまでが憲法や教基法に書かれた趣旨において許容されるかとい
う、最終的にはここの判断に委ねられることではないか。

藤村 地方分権と教育権については、昨今の流れから「地方にできることは地方で」
となっている。先の教育権の両極の中のバランスといいましたが、地方分権の流れの
中ではより地方にということにならないか?

伊吹 安倍首相は教育の再生を最重点政策に掲げ、基礎学力と規範意識をすべての児
童に保障するために努力するといっている。「すべて」ということになると、全ての
児童・生徒を見ているのは、国ではないか。民主党案でも教育権の最終的な権限は国
にあると明記している。この意味を、各法律で具体化していることによって、私と近
いことを考えているかもしれない。

藤村 国の権限や責任ははっきりさせたほうがいい。今まで曖昧であったことを反省
すべきだ。教育委員会の公選制が外れてこれまでずーっと来ていた。今回の未履修問
題でも、教育課程の編成においては高校の校長と教育委員会の両方に責任があると。
ではどっちに重いのかについてはよくわからないし判断できない。我々はその状況
を、権限を学校と国とに両寄せしている。政府案とは随分違う。

伊吹 民主案は都道府県知事にどういう権限があるのか。はっきりさせてほしい。未
履修の問題であれば、国が教育内容の基準を決定している。教員給与の3分の1を国
が負担している。こうした中で国が決めていた基準どおり学校長がカリキュラムを編
成しなかった場合、その是正責任は民主党案の場合、都道府県知事にあるのか国にあ
るのか。しかし国は基準を決めている。確かに「措置要求件」はあるけれども、地方
自治事務になっている。現状を踏まえ国はどういう権限を持って、国のいうとおりに
させるのかが(民主案では)よくわからない。また、知事がどういう役割を果たすの
かよくわからない。

藤村 民主は地教行法の検討に入った。参考にしたい。
11月10日(午後)
衆議院教特法特別委員会


質問者
市村浩一郎(民主)
笠井 亮(共産)
保坂展人(社民)
糸川正晃(国民)
T議論全体の要旨
・未履修問題、タウンミーティング問題、いじめ自殺問題について事実調査をし、責任の所在を明らかにしてから、教育基本法改正について審議すべき。
・政府案2条(特に愛国心)が、学校教育、社会教育、家庭教育でどのように具体化されるのか?

U各委員の質問と議論の要旨
○市村浩一郎(民主党・無所属クラブ)13時1分〜  30分
 <質問の要点>
@ 愛国心の条項が現場でどのように具体化されるか?
A 教育内容に関わる権限の所在はどこにあるか?

<@についての議論の要旨>
(市村)
・いわゆる「愛国心」について民主党案では前文、政府案では目的(2条)に書かれているが、これは現場でどのように具体化されるか?
・国のために死ぬのが愛国心というような昭和初期の状況の再現を懸念する世論もあるが?
(伊吹文科大臣)
・伝統と文化をはぐくんできた国と郷土を愛すると書かれている。この伝統と文化がどういうプロセスではぐくまれてきたかについて学ぶ中で(例えば、歴史を主導してきた人について学ぶ中で)「愛する態度」を養う。
・国民の営みの一部が国家統治。国家統治を愛する態度を避けた表現になっている。
(市村)
・教えるべき伝統・文化、生活規範とは何か?
(伊吹)
・現行法は、権利・自由など普遍的なことについて書かれているのは良い。しかし、日本特有のルールがない。大和民族は、法を超えた暗黙の了解事項でもって社会をコントロールしており、それが国を愛する態度の前段にある思想。

<Aについての議論の要旨>
(市村)
・学ぶべき内容についての責任と権限を現場・地域(教師、親、住民)へ託すべきでは?
(伊吹)
・その通りで、カリキュラムの編成権、卒業認定権は学校長にある。しかし、最終的な責任は国にあり、その責任を担保するための権限が国に付与されるべき。例えば学習指導要領。民主党案でも国が最終的に責任を持つと書いてある
(市村)
・財政的には国が最終責任を持つ。もう少し教育にお金をかけるべき。

○ 笠井亮(日本共産党) 13時 31分〜  32分
<質問の要点>
 タウンミーティングでの「やらせ質問」は、文科省が主導して内閣府が実行したという構造ではないか。事実関係をしっかり調査して責任の所在を明らかにするべきではないか?教育基本法を改正する資格があるのかが問われている。教育基本法改正法案を撤回すべきではないか?

<議論の要旨>
(笠井)
・タウンミーティングでの質問書は、文科省が作成したのか?
(伊吹)
・教育基本法の質問が無かったから、内閣府へ質問項目案を出した。
(笠井)
・やってはいけないこと、まさに規範意識が無い。他の件についても文科省が主導し関与した?
(伊吹)
・文科省から内閣府へ取り次いだ。内閣府に聞いてください。
(笠井)
・文科省が主導し、内閣府が実行したという構図。どの局の誰が指示を出したのか調査したのか?
・担当した内閣府の職員は文科省の出向者?
(田中生涯学習局局長)
・文部科学省の生涯学習局総務課広報室長。具体名の明言は避ける。
(山本官房長)
・内閣府タウンミーティング担当主査
・文科省の出向者です。

(笠井)
・大分の場合と同様に八戸にも、発言趣旨・発言者の一覧があるのか?リストの提出を理事会に求める。
・文科省内ではどのレベルで「やらせ質問」が承認されていたのか?文科大臣は知っていたのでは?想定問答の答弁があったのでは?事実関係を調べて責任の所在を明らかにするべき。

○ 保坂展人(社会民主党・市民連合) 14時03分〜  29分
<質問の要点>
@ いじめ自殺がゼロという調査結果の再調査を指示しているか?
A 八戸のタウンミーティングでは、参加者の選別が行われたのでは?
B 法案2条の目標は、家庭(10条)や社会(13条)にどのようにかかるのか?

<@についての議論の要旨>
(保坂)
・いじめ自殺がゼロという調査結果の再調査について、現在発覚している以外のものも含めて調査するのか?
(伊吹)
・全てを調査できているかは断言できない。ただ、項目を増やして調査表を変える。

<Aについての議論の要旨>
(保坂)
・応募者全員が参加できたというが、私の友人は5人申し込み、内4人が募集から漏れた。事実の再調査をしてください。
・学校関係者が多いのでは?具体的な人数は?
・教基法の改正賛成の人ばかりに発言を依頼しているのはなぜ?

(塩崎内閣官房長官)
・再調査します。
(山本官房長)
・学校関係者は279人います。再確認します。
(保坂)
・「官」が教基法改正の賛成の意見を作り、それを「民」が言うのはあべこべ。
(塩崎官房長官)
・タウンミーティングに誤りがあったことは率直に認める。今までの会についても調査し、新しいタウンミーティングのあり方を考える。
(保坂)
・タウンミーティングの問題を決着してから、教基法改正を審議すべき。

<Bについての議論>
(保坂)
・2条は、家庭教育、社会教育、生涯教育にどのようにかかる?
(伊吹)
・家庭教育=心の問題には立ち入らない。どういう支援をするのかは、改正されれば議論される事。
(保坂)
・社会教育法はどのように改正するつもり?
・2条の目標を実現するような事になるのか?
(伊吹)
・心の問題に関わる法改正をするつもりはない。
(保坂)
・教基法改正を審議している今、事務方で検討している関連法の改正内容について明らかにするべき。

○ 糸川正晃(国民新党・無所属の会) 14時32分〜 29分
<質問の要点>
・小・中学校での「必須逃れ問題」の事実調査をしてから、教基法改正について審議すべきでは?

<議論の要旨>
(糸川)
・愛媛県、香川県等で明らかになった小・中学校での「必須逃れ」の事実調査をすべきでは?
(伊吹)
・3月に卒業を控える高校の未履修問題の解決を優先する。調査はするが、限られたマンパワーの中で、順を追ってやらなければならない。
(糸川)
・人間形成に必要な授業時間数が定められている。その大事な時期についての実態調査は速やかにされるべき。
・いつから調査するのか明らかにするべき。
(伊吹)
・糸川委員が質問趣意書で求めているのは、問題校の個別調査ではなく、中学1万1千校、小学2万3千校の全校を悉皆調査。それには大変時間がかかる。
・11月下旬には中学校の悉皆調査を開始する。
(糸川)
・教育行政に何か問題が起こっているのかもしれないのだから、少なくとも今明らかになっている個別の問題校を示して議論すべき。
・教基本法の採決について報道されているが、調査結果を待ってから採決しないと、教育基本法についての責任を取れないのでは。調査結果を待ってから採決について議論すべき。
11月10日(午前)
衆議院教基法特別委員会

松本大輔(民主)
田嶋 要(民主)
川内博史(民主)
タウンミーティング問題と未履修問題
<タウンミーティング>
官房長官も、文相も現場の行き過ぎとして、組織ぐるみを否定していた。林内閣府副大臣は、組織としてやられていればこんな問題は起こらなかったのに、担当職員が単独でやってしまったために起こってしまったと説明。

文科省の職員は質問項目を送っただけで、その他の指示は内閣府の担当者が付け加えたというように答弁していた。文科省から内閣府に出向している職員が関与しているようであったが、文相としては、内閣府に出向している者は、内閣府の職員であって、文科省に責任はないように発言していた。また、事前の相談で、教基法関係の質問がないようだと言われたから、文科省の担当職員がアドバイス
しただけだと繰り返していた。

教基法のタウンミーティングが8回行われた内の5回、つまり、1回目の岐阜、2回目の松山、4回目の和歌山、5回目の別府、8回目の八戸でやらせがおこなわれたことを認めた。タウンミーティングの開催費用が平均で961万円。(何
に使っているのか知りたいところ)

文相はタウンミーティングをやり直す気はないと明言。議員会館を取り巻いて反対を叫んでいる人、特定の組合、一部の新聞の論調などを挙げて、何を民意と見るかは、国会議員が判断すべきだと述べていた。

<未履修問題>
4年前の高等教育局の調査で16%程度が未履修であったことについて、文相は、高等教育局から初中局へ連絡すべきであったのにしていなかったとしているが高等教育局の官僚自身もよく見ていなかったようであった。文相は、調査の対
象は33000人くらいで、1学年だと9千人程度にすぎず、全体の100万人以上のほんの一部に過ぎないことと、調査対象が私立に偏っていることから、全体を表していないと判断したと述べていた。ただ、大学は私立の方が多いに決まっている
し、サンプル数が足りないと言えるのかどうか疑問。

教育課程課長は、平成13.7.10から16.6.30まで広島県教育長であった。平成13年8月に広島県立高校で未履修が明らかになり、全高校を調査して、14校が出てきて、是正指導を行い、校長への処分と補習の実施をしている。文科省は、平成14年1月に初中局所管事項説明会、6月に新課程説明会、11月に各教科等の会議などで、学習指導要領に従うように、未履修問題を挙げて指導したので、調査まで
はしなかった。

銭谷局長は、未履修問題が明らかになる10月24日までは、全くの想定外であったと述べた。
11月9日
衆議院教特法特別委員会

参考人意見陳述
教育再生会議座長代理・資生堂相談役 池田守男
品川区教育長 若月秀夫
法政大学教授 尾木直樹
ICU教授 藤田英典

質問
町村信孝(自民)
西 博義(公明)
高井美穂(民主)
塩川鉄也(共産)
阿部知子(社民)
糸川正晃(国民)
9日は午前9時より参考人質問がおこなわれ、池田守男(教育再生会議座長代理、株式会社資生堂相談役)、若月秀夫(品川区教育委員会教育長)、尾木直樹(教育評論家、法政大学教授)、藤田英典(国際基督教大学教授)の4氏からの意見陳述と質疑が行われた。池田、若月両参考人からは政府案に対して賛成の立場から、尾木、藤田両参考人は反対の立場からの意見陳述であった。改正賛成の2名とも現行法を評価するのであるが、その上で、改正案との連続性を述べる。しかし、現行法と改正案との間には、法原理的には大きな転換があって順接的に結びつけることはできない。

池田参考人:教育基本法が戦後大きな役割を果たしてきたという積極的な評価をするが、時代が変化し、さらに日本人の精神性が失われてきている。心豊かに生きるためには大きな改革が必要である。教育改革、再生が喫緊の課題。教基法改正は当然であり必要である。社会状況に照らし、重視すべきことは「公共の精神」である。多くの人々の中で、自然の中で生かされている。このことが公共の精神につながる。「公共の精神」が出発点。政府案はこれを高く称揚していることには意義がある。伝統と文化の尊重は国際社会の中で意義がある。郷里、祖国を愛することは人間として当然のこと。家庭教育、地域社会等との連携が盛り込まれていることは評価できる。その欠如が現在の問題の原因の一つとなっている。

若月参考人:政府案を支持する立場で意見を述べる。これまでの基本法で培われたものを継続している。その上で現在の課題を視野に納めており、時代に合っている。とくに第2条で目標を定めており、現場からみると大事なことを指摘してもらった。戦後教育の中で、児童生徒中心主義が現場教師の自信を失わせることが多々ある。子どもの主体性を重視することによって現場で誤った実践が行われた。

尾木参考人:「態度」を評価することについて、教育に評価を入れることは必ずしも否定すべきではないが、問題は、評価が自己目的化すること、評価するものが評価されていないという実態があることなどにある。競争は全体のボトムアップのために行われるべきであって、順位を付けるため、あるいは数値それ自体が目的化することは問題である。振興計画で行われる目標設定にはこの問題が含まれている。学力テストも、成績の悪い子どもを参加させない、不登校の子どもには連絡すらしないなどといったことが起こっている。いじめについて、子どもの権利委員会の政府に対する2度にわたる勧告を紹介しつつ、「競争」によってこの異常さがますます強化されると指摘した。

藤田参考人:数値目標を定めた競争をやめたフィンランドの例を挙げながら、目標設定の問題を指摘。

質疑で印象的だったのは、町村委員(前文科相)は、やはり「戦後60年間教育基本法のもとで教育を行ってきたが、その結果、今日のような状況になっている。だから教基法を変えなければならない」そのことをとくに藤田参考人に対して「ご理解いただきたい」とまで述べていた。教基法のもとで、教基法に従ってどんな教育が行われてきたのかの実証がなく、あいかわらずの主張であった。また、そろそろ「80時間も審議し、繰り返しの質問も多くある」「出口を考えないといけない」との発言も聞かれた。

町村委員は、若月教育長に対して、自分が大臣の時に品川区で学校選択制を導入してくれたことに敬意を表していたが、意見陳述に見られる「子ども」観、子どもの権利条約に対する無理解と言うよりも敵意を持っていることも丸ごと評価しているようにも思える。
11月6日(午後)(2)
衆議院教特法特別委員会
西村委員は、政府案第4条、第9条、第10条、第16条の各条文について、それぞれ意味内容を質問した。

【第4条】
○西村委員 第2項で障害のある者を特別に抜き出しているのはなぜか。「能力に応ずる能力」と「能力に応じた教育」ではニュアンスが違うのではないか。
○田中政府参考人 第1項では障碍の有無による差別も許されないと介している。第2項は地方公共団体が積極的な支援を講ずるべき旨を規定している。
「能力に応じた教育」としたのは近年の立法例にならったためであり、現行法の規定と意味は同じである。その教育を受けるに必要な能力を有しているという意味である。
○西村委員 「その障害に応じ」とはどういう意味か。この文言をとって、単に「障害のある者が十分な教育を受けられるよう」でもよいのではないか。
○田中政府参考人 障碍の状況に応じて特別な支援が必要であるかどうかは異なる。それぞれきめ細かな配慮をするという意味で、この言葉を使った。

【第9条】
○西村委員 現行法第6条の「全体の奉仕者であって」というフレーズを私は愛している。憲法にも「全体の奉仕者としての公務員」という規定がある。政府案第9条では削除されている。憲法との関係はどうなっているのか。私学の教員にも適用されるのか。
○田中政府参考人 教員の規定には公務員を想起させる文言は削除しているが、学校教員の職務は変わるものではない。
○西村委員 第2項の「養成」と「研修」は今回新たに加わった。教特法で決められているものをなぜわざわざ追加したのか。
○田中政府参考人 教特法は公立学校の教育にのみ適用している。私立学校の教員にも適用できるようにした。
○西村委員 現行法で何が達成されてきたかがきちんと検証されないままに、いろいろなものが盛り込まれようとしている。「崇高な」は何を意味するのか。
○田中政府参考人 教員に対する国民の期待をふまえて規定した。
○西村委員 現行法の第6条には社会の要請が反映されていないということか。
○田中政府参考人 強調させてもらった。
○西村委員 いわゆる修飾語であるというという答弁か。修飾語でいくらきれいなことを言っても、それが達成に向かっていく環境を整えていかなければ意味がない。多くの教員は自己の崇高な使命を自覚していると思う。だから早くから来て授業の準備をし、子どもの対応に走り回っている。政府案の第9条はそういう教員の皆さんにとって大変厳しいものになるのではないかと懸念している。いま燃え尽きそうになっている方々に対してどういう影響を与えることになるのか。
○田中政府参考人 多忙観や疾病を持っている教員には対応しなければならない。それと同時に、思いが伝わらない教員にも研修の機会が与えられなければならない。
○伊吹文科大臣 教員にもいろいろある。全員が「崇高な使命」を自覚しているなら、なぜ9万人近くの未履修の生徒を排出させるのか。立派な先生が書いてもらった下で仕事をしているという誇りがいっそう大きくなると思う。過労になるならそこは考えないといけない。憲法に崇高なことが書いてあるからと言って、そのようにしている日本人が少ないからいまのようなことが起こるのではないか。
○西村委員 過労にならない条件を整えるのは国の重要な責務である。いまの答弁は大変驚いた。

【第10条】
○西村委員 現行法第7条の「その他社会において行われる教育は国、地方公共団体その他によって奨励されなければならない」とは何がどう異なるのか。
○田中政府参考人 少子化により家庭教育の重要性が言われる中、独立した条項とした。
奨励するだけでなく、家庭教育を支援するために積極的な施策を講ずることにした。
○西村委員 現行法ではなぜいけないのか。「第一義的責任を有する」の意味するところは何か。
○田中政府参考人 家庭は教育の原点であって、マナー、倫理観、自立的精神を養うなどすべての教育の出発点である。
○西村委員 子どもの権利条約にも規定がある。第5条には、国が親の指導する権利を大切にしなければならないと書かれている。
それでは、「家庭教育の自主性を尊重しつつ」とはどの範囲までカバーするのか。親の教育する権利を保障することの意味は、宗教観や世界観にかかわる価値のほか、学校教育にも参加していけることを含まなければならないと考えるがどうか。
○田中政府参考人 国や地方公共団体は支援事業をしなければならないことを定めている。家庭教育の内容を定めたものではない。
○西村委員 第1項、かりに少年非行やニートが発生したときに、親の責任に帰することになるのか。
○田中政府参考人 家庭の責務でもある。
○西村委員 親の第一義的責任の履行を可能にするような経済的その他の援助義務があることを国の責務だと規定すべきではないか。
○伊吹文科大臣 施策の範囲がどこまでかは教育基本法に書くことではない。施策として予算措置としてどこまでやるか、たとえば労働基準法などをどうするか、成立後に文科大臣としてつとめることがらである。
○西村委員 親の第一義的責任が規定されているから聞いている。

【第16条】
○西村委員 第16条第1項、「他の法律」とはどの法律を指すのか。かりに強行採決などによって成立した法律であってもその「法律の定めるところにより」教育を行うことになるのか。
○田中政府参考人 「他の法律」とは、学校教育法、私立学校法、文科省設置法、社会教育法、図書館法、生涯学習振興整備法などがある。
○伊吹文科大臣 強行採決とは何か定義しなければならない。国会は国会法、議事規則、慣例により動いている。
○西村委員 定義して再質問したい。

※法案の逐条審議は委員会が本来行うべき審議内容であり、質問時間をフルに用いてこのような質問を行った西村委員の姿勢は評価できる。

一連の質疑を通じて、政府案第4条における「能力に応じて」という文言は現行法の「能力に応じる」と何ら意味が変わらないこと、現行法第6条の「全体の奉仕者」という文言が削除されたことは、私立学校の教員にも「養成」と「研修」を課すことを意図したものであること、など重要な政府見解を引き出した。

政府案は、教員、学習者、家庭にさまざまな責務を課す一方、それを実現することができるような条件整備についての条項は教育基本法には一切盛り込まず、すべて他の法律により規定するという「立法政策上の判断」を行うという答弁に終始した。政府案が成立しても何ら教育現実が改善される保証はなく、政府にはさじ加減を行う権限だけが与えられるという法案の問題は明確である。

第9条に関する質疑中、伊吹文科大臣が「憲法に崇高なことが書いてあるからと言って、そのようにしている日本人が少ないからいまのようなことが起こるのではないか」と発言したことは、憲法は国民の側から公権力に縛りをかけるものであるという立憲主義のイロハをわきまえない問題発言である。

与党が、議会における多数をたのみに十分な審議をせずとも成立させた法律であっても「法律の定めるところ」であれば「不当な支配」にあたらないのか。西村委員が強行採決の定義をした上で再質問したいと述べたことに期待したい。
11月6日(午後)(1)
衆議院教特法特別委員会

野田佳彦(民主)
武正公一(民主)
西村智奈美(民主)
石井郁子(共産)
重野正安(社民)
(教育基本法「改正」情報センター)

改正法案に関して野田委員が提示した論点は二つ

一つ目は、子どものいじめ自殺や「未履修」問題など教育における重大な問題の実態把握や原因の分析を経てからでなければ、それらについての処方の根本方針となる教育基本法改正論議はできないのではないか、という点。

これに対して、伊吹文科大臣は、いま起こっていることはある程度制度にかかっていることだが、多くはその任に当たる人の規範意識にかかっている。教育基本法が通れば、別途法律によってやる問題である、と答弁した。

野田委員の示した論点のもう一つは、11月1日の土井委員の質問中、「憲法が定まってから教育基本法ができた」と発言したことに対して、伊吹文科大臣が施行日を基準にして「逆だ」と答えたことの撤回を求めたいというもの。

これに対して、伊吹委員は、法理論としては法律の施行により国民との関係において権利義務が発生するのだから、施行日を基準に「生まれた日」を論じることはおかしくないという自説に固執した。その理由は、野党委員から、憲法ができていないのに教育基本法の審議をするのはおかしいという質問が次々出てくるからだ、ということが野田委員との意見の応酬の中で明らかにされた。

武正委員の質問には改正法案に関するものは含まれていなかった。
武正委員は、全国のいじめによる自殺件数がゼロという報告が上がってきていることについて、これがおかしいと思うのであれば、地方自治法第245条の4第1項を行使して地方自治体に勧告・助言すべきだとの意見を述べた。この質問のねらいは、教育委員会の任意設置につながるような答弁を文科大臣から引き出すだはないかと思われた。これに対して、伊吹文科大臣は同規定による勧告が発動された例は一度もなく、運用はきわめて慎重でなければならないと述べた。

武正委員はまた、スクールカウンセラーやキャリアコンサルタントの養成・配置に関する施策についての質問をしながら、民主党案やかつて提案したガイダンス・カウンセラー法案の優位性をアピールした。

※民主党委員は質問時間が十分あるのだから、改正法案の意味内容についてもっと質問してもらいたい(少なくとも質問時間の半分以上)。

石井議員は、「未履修」問題について、島根県を例に、教育委員会だけでなく政府の責任を追及した。分校を入れて公立高校43校中19校が「必修逃れ」をしている島根県では、県教委高校教育課長のポストが文科省の出向ポストとして固定している。文科省も事態を黙認してきたのではないか。

これに対して、伊吹文科大臣は、「私は騙されていたふりをしたのかも知れないと述べた。県によって事情が違う。文科省から行った人間は現場の経験がないから学校で何が起きているのかわからない。だが、把握していたのかもわかりません。率直に言って。しかし、把握していなかったかもしれない。それは県によってさまざまだと思う」と述べ、「未履修」問題で文部省が教育委員会とグルだった可能性があることを示唆した。このことについて、石井委員は、特別委員会に事実関係の報告を求めた。

石井委員はまた、山谷首相補佐官がブレア政権同様の子育て法の必要を説いていること、下村補佐官が「母親は働かずに子育てを」と発言したことなど、いずれも問題だとした。また、文科省「教育基本法改正推進本部幹事会」が教育基本法改正案の成立後のスケジュールを立てていることについて質問したが、伊吹文科大臣は文書の出所が不明だと言い逃れて答弁を拒否した。

重野委員は、文科省のバウチャー制度導入に関する研究会の結論はいつ出るのか質問した。伊吹文科大臣は導入には法改正が必要であり、来年3月までに決着がつくとは全く考えていない、と答えた。重野委員はまた、バウチャー制度は再生会議でも検討課題とされているが、内閣府と文科省の結論が違ったらどうするのかと尋ねた。塩崎官房長官は、かりにバウチャーについて違った提言が出ても、文科省において検討してもらう、と述べた。

このほか、重野委員は学校統廃合により平成17年度だけでも小中合わせて385校、在籍していた子ども22541人が影響を受けたことを挙げ、影響が非常に大きいこと、統廃合による通学距離の伸びについても、バスや車で1時間かけて通う例があるなど過大であると指摘した。これに対して伊吹文科大臣は、通学時間は短い方がよいが、小規模校の設置にどこまで税金を支出すべきか、受任の範囲はどこまでかということを考量しながら決めるべきだと答えた。
11月6日(午前)
衆議院教特法特別委員会

質問者
井脇ノブ子(自民)
坂口 力(公明)
古本伸一郎(民主)

答弁者
笠浩 史(民主)
藤村 修(民主)
伊吹文明(文部科学大臣)
高市早苗( 少子化・男女共同参画担当大臣)
【井脇ノブ子(自由民主党)−いつもピンクのブレザーで質問者の後ろに写っている人−質疑】

1.民主党案批判に終始。時間の浪費の感。

2.政府案第6条には、「法律に定める学校は、公の性質を有するものであって、国、地方公共団体及び法律に定める法人のみが、これを設置することができる。」とあるのに対し民主党案には学校設置主体の規定がないことを批判。民主党提案者は、民主党案第9条にあるように「多様な教育の機会の確保及び整備」=「多様な選択肢」「健全なを競争原理」の実現を目指し学校設置主体の限定規定を設けていないとした。

3.民主党案は外国籍の子どもも「学ぶ権利」の主体としながら(第2〜4条)、「教育を受けさせる義務」は「国民」にしか課していない(7条1項)、どういうことか?

4.民主党案17条2項は、「すべての児童及び生徒は、文化的素養を醸成し、他者との対話、交流及び協働を促進する基礎となる国語力を身につけるための適切かつ最善な教育の機会を得られるよう奨励されるものとする」としているが、「奨励」で良いのか?「国語力」は「徹底」されるべきではないか?

5.民主党は、「憲法を改正してから教育基本法を改正すべき」というが、自ら教育基本法改正案を提案しており、主張に矛盾がある。

6.教員免許更新制は10年ではなく、3年一括りで6年とすべき。

【坂口力(公明党)質疑】

1.これまた、「●●時間審議しました!」という“消化試合”的な質疑。19分の質疑時間であったにも拘わらず、最後は、高市早苗・少子化・男女共同参画担当大臣に、「何か一言、何でも結構ですから」と“質問(?)”する始末。

2.ただ、「戦後教育の果たした役割には、評価すべき点もある。足らざるを足すために基本法改正が必要なのだ」という点に、与党・公明党の独自色を出そうとした感じであった。

【古本伸一郎(民主党・無所属クラブ)質疑】

1.質疑内容:「いじめ」→「道徳」「規範意識」を「学習指導要領」「指導要録」に入れ→評価・卒業時にチェックすべきという主張のようでした。4.の伊吹文明・文部科学大臣答弁も、政府案の「根底にあるもの」(安倍内閣の極右的性格)を露見させたものと思いました。

2.「いじめ」の文言を「学習指導要領」「指導要録」(「道徳」ないし「行動の記録」欄の評価)に入れ、評価も含め、卒業も含め、チェックすべきではないか?

⇒伊吹文明・文部科学大臣:我が意を得たりと、「よくぞ聞いて下さいました」、「阿部首相が所信表明で述べた『全ての子どもに基礎学力と“規範意識”を持たせる』ためには、“基準”と“検証”が必要なのだ!」、それを国に持たせるべきか、首長に持たせるべきかになるが、イズムを持つ首長に持たせるのに反対だ。

3.教育行組織の在り方(民主案:国の責任+首長(←監査委員会的なもの)+学校理事会⇔与党案)をめぐり議論。

4.古本伸一郎(民主党・無所属クラブ)は、「年長者を敬う」「教師を敬う」など「道徳」を観点とした学習指導要領および指導要録の見直しを主張。

⇒伊吹文明・文部科学大臣:「規範意識」「道徳」には、@一人一人の人生観・価値観で異なるもの、A各国共通のもの(現行・教育基本法で書かれている)、B改正案に色濃く書かれている日本独自のもの(「ビンテージのような文化の結晶」)がある。法案が通ったら、Bを盛り込むよう学習指導要領を書き直さなければならない。

5.委員長に「中央公聴会」開催を要求し、「理事会で検討」とされました。
11月2日
衆議院教基法特別委員会

松本剛明(民主)
岩國哲人(民主)
11月2日(木)の教育基本法特別委員会は、10時から12時10分まで開かれた。質問者は、松本剛明(民主)および岩國哲人(民主)の2名。

かなりの時間を「履修漏れ」の問題に費やした。「50時間」の根拠は70時間のおよそ3分の2で、通常病気などで欠席したとしてもこれくらい出席していれば単位認定される、ということと説明されたが、「50時間の3分の2でいいことになるのか?」との質問には、70時間が基本であって校長の裁量で判断されるべきもの、と明確な回答は避けていた。

現行教育基本法と憲法との制定順序については、松本委員の質問に答えて、伊吹文科相は、憲法より教育基本法が先に作られたとの認識をあらためて繰り返し、国民に向かっては施行されて初めて効力を持つからと説明をしていた。質問の趣旨は、現行法と現行教基法との関係ではなく、改正案と現行憲法、改正案と「新憲法」との関係であるから、全く回答になっていない。それどころか、「憲法も教育基本法も占領下で作られた」と押しつけ論まで飛び出し、その下で教基法がつくられたのであるから、「明治憲法と教基法との関係」が改正案と新憲法の関係でも成り立つという論理で説明された。しかし、制定過程を見ていけば、この論理が成り立たないのは明らかであり、明治憲法と教基法との間に法的整合性があったのか否かから出発するのであるならばともかく、現行憲法との関係ではなく、新憲法との関係を問うこの立憲主義の無理解がより一層明確になったと言って良い。

岩國委員は、地方分権型民主党案とはややスタンスを異にし、直ちに教育を地方に、ということには、とくに地域格差、財政問題を前提にすると賛成できないとの立場であった。民主党案についての党内での綻びが現れた形となった。また民主党案について「日本」を「にほん」と呼ぶのか「にっぽん」と呼ぶのかについて後者であるとの回答が議案提案者からあった。

最後に、6日に審議を行うこと、8日に地方公聴会(宮城、栃木、三重、愛知)を行うため委員を派遣すること等について承認された。

現在進行形の諸問題をこの委員会で取り上げ、その結果、それに時間が費やされ、審議が伸びればいいのだが、逆に、法案についての具体的、逐条的審議の回避になっていくのではないかと懸念される。
11月1日(午後
衆議院教基法特別委員会

福田昭夫(民主)
土肥隆一(民主)
末松隆一(民主)
糸川正晃(国民)
菅野哲雄(社民)
石井郁子(共産)
T審議の主な論点
1、教基法改正の必要性について
2、憲法改正があれば教基法改正もあるのか?について
3、宗教教育について
4、教育の最終的な決定権の所在について
5、「能力に応じて」を「能力に応じた」に改正する理由について
6、タウンミーティングの世論誘導を内閣府がやった疑惑について
7、学力テストと学校選択制とが結びついた場合想定される事態について(足立区を例に)

U審議の中で結論的に主張された点

1、「家庭教育」や「社会教育」条項の必要性について。いじめ問題に関わらせながら、その「早期発見」のため学校の役割が期待されている、そのために改正案に「家庭教育」や「社会教育」条項を入れたとの説明が伊吹文科相からなされた。

2、自民党と民主党には理念を同じくすることが多いとの発言が、今日も伊吹から聞かれた。

3、「将来憲法改正があれば教基法も改正されるのか?」との疑問に対して、伊吹から「改正された憲法と今回提案している理念法としての教基法の内容がたがうことがあれば当然変えなくてはならない。ただ、(両者が)たがうことは多分ないと私は思う。」との発言があった。

4、宗教と教育について、伊吹から、文化的行事や客観的事実の伝授は問題ないが、信者を増やそうとする行為・自己の信仰を信じさせようという行為は問題であるとの見解が示された。

5、教育の最終的責任の所在について、伊吹から「日本国にある、だから国と地方で適切な役割分担をすると法案で書いている」との見解が示された。

6、現行法3条「能力に応じて」が改正案4条で「能力に応じた」になっている点について、文部官僚から両者の意味はいっしょであること、伊吹からは「責任者である私が教育の機会均等と差別を記述したものではないということを明言いたします」との発言があった。

7、タウンミーティングでの参加者意見について、内閣府が質問要項を作成して関係者に事前配布していた問題について。その文書の作成を、内閣府官僚が認めた。またこの案件の調査を実施することを、塩崎内閣官房長官は明言した。

8、学力テストと学校選択制とが結びついた場合想定される事態について、教育の機会均等に重大な影響を及ぼしかねないことを伊吹は認めた。

U各論者ごとの議論の主旨

■福田昭夫(民主党・無所属クラブ)
<教育改革が必要なわけ>
伊吹文科相:経済成長をもたらした効果がある。ただし社会が大きく変化した。なによりも冷戦がなくなり、富が飛躍的に増え、家族でしてきたことがお金を出せば、税を出せばできるようになっていること。価値観の多様化で家族のあり方が代わってきたこと、世界の中で日本が果たす役割が、日本人としてのアイデンティティを持ってしっかりと行動しなければならないほど日本は大きい国となり、欠くべからざるほど大きくなったこと。これを踏まえると今までの教基法では、やや閉塞感がある。民主党も同じ現状認識で対案を出したのではないか。

塩崎官房長官:安倍首相の教育改革の必要性認識は、伊吹大臣と認識は変わらない。日本社会でうまくいってない状況を踏まえ、「美しい国」を構成する日本人をつくるため、教育を重視し、狭い意味での教育を超えた問題を審議するため教育再生会議をつくった、と安倍首相は考えていると思う。

<教育の諸問題に対応するため、教基法改正の必要はあるのか?>
伊吹:教基法を必ずしも変えなくてはならないわけではない。現行法でも規範意識を持ってしっかり行動すればいい。ただ、総理も私も、現行教基法を変えて、基本適法性を変えて(家庭教育・社会教育を入れ、規範意識を確認ていくことを入れて)、国会で認めて行く必要。教基法を変えていかないと統一的に政策運営がしづらいと思う。

福田:ではなぜ教育再生会議を設置したのか?

塩崎:これは教基法改正を念頭に入れながら、教育について知恵を出していただいて、教基法の理念をもとに具体的な政策提言・総理へのアドバイスをしてもらう会議である

<教基法を見直す理由は?>
塩崎:国際社会の中で日本の役割が変わってきている(防衛「省」構想など)。社会の規範力の低下もある。そのために教基法改正が必要である。

福田:文科省は「教育改革」のために教育振興基本計画を策定することに主軸があったのでは? 教基法改正は傍論であったのでは? 文科省調査によると、教基法を知っている人は少ないし、教基法改正の状況ををよく知っている人も少ない。教基法の改正は慎重に、という世論がある(これは近年増えている)。PR不足があるのではないか? 市川昭午によって教基法見直し論は(1)押し付け論、(2)法定不備・規定不備論、(3)規範欠落論(教育勅語にあった道徳)、(4)時代対応論、(5)憲法改正を前提にした歴史的見直し論の五つある。文科省の改正理由はなにか?

伊吹:国会議員が国会法を、憲法を逐一知らないように、教育法が逐一知られていないのはある意味当然。教基法について世論がいきわたってないというのは仕方ないし、そういう人に教基法を変えたらいいかどうかと質問するのは、知らない以上、このような質問はどうかと思う。私は「現状対応論」。これからの子どもとこの国とのための教基法をつくりたい。

<教育の本質とは?>
伊吹:教育とは人間にさまざま働きかけをして、能力(知的・品性と言うか、正確的なものを)社会的に高めることである

塩崎:(安倍の教育観は?に応えて)安倍に聞くのがいちばんである。子ども達のいい点を引き出して大きくして社会に羽ばたいてもらうというのが教育の原点になると私は考えている。

福田:わたしは、教育の本質は自己教育=セルフ・エデュケーション。その能力をつけさせるための教育再生が必要ではと考えている。そういった意味での教育再生が必要では。

<国づくりについて>
福田:地方分権・自己責任・自己決定が求められる社会ではどういった教育が求められるのか?

塩崎:安倍は「規律・規範力」と総裁選の公約でいっていた。これに基づいた社会での責任を果たせる人を育てるのが大切ではないか。

<自己責任型の国つくりと個人像について>
福田:市場・社会制度が自己責任型に代わっている(社会福祉ででも)。こういう意味が地方分権に込められた場合、これに堪えられる個人をつくらなきゃならない。かつ相互扶助型の個人をつくらなくてはならない、さもないと国が持たないと思うが、どうか?

福田:(二宮尊徳を引きながら)自立と協力は不易・真理の価値観だ。文科省も参考にしてほしい。

伊吹:これには賛成。ただし、「もたれあい」になってはいけない。そのための自助努力・自己責任、その上でお互い支えあっていく共生なのだ。この感覚が衰えていっているのが日本社会の最大の問題では?

<「ゆとり」教育について>
福田:これは大失敗だったのではないか? 授業時間を減らしたため、現場ではゆとりがなくなった(学校行事等にしわ寄せが行っている)。これを認めて教育再生の対策が必要なのではないか?

伊吹:必ずしもそうはいえない。現場で「ゆとり」でどういうことが行なわれているのか。ゆとり教育の「やり方」を考えていかなくてはならない。

福田:総時間数削減については?

伊吹:最低限の基礎学力と規範意識が身についてなければ意味がない。来年「全国統一学テ」で「ゆとり」教育がどういうことになっているのか評定するので、それを見て考えるべき。

福田:夏休み等の長期休暇を減らせば、授業日数の問題が打開できるのでは? こういったことをできるようにするためには学校の主体性を保障すべき。学力は塾にいっている子が多いので落ちてないと思う。基礎学力の確保対策は?

伊吹:グローバル化した中での読み書き能力や規範力がそれになると思う。

福田:市民としての力=社会の基礎知識、科学の基礎記式を教えるような教科書をつくるべきだ

<いじめ対策と心の教育→「改正」案の「家庭教育」・「社会教育」条項の必要性>
福田:今後どうやっていくのか?

伊吹:実社会でも政界でもいじめはある(議場、少々笑)。いじめをできるだけ早く見つける必要がある。家族(父母や祖父母)が話しやすい関係ではなくなり、地域社会で子どもをくるむ意味で十分ではないため、学校にこの責任が掛かっている。いじめの兆候を見つけることに尽きると思う。家庭教育・社会教育が改正案に設けられているのは、この趣旨だ。

<「教員の質の向上」について>
福田:現在の教員の質の向上はさることながら、幼児教育や義務教育教員の養成は専門教育が求められると思う。

伊吹:総論は賛成。民主党は(教育問題について)いろんな意見があるようだから、党内調整をして、一緒に提案していこうではないか。

<幼保育一元化・幼児教育の無償化いついて>
福田:幼稚園も保育園も管轄庁の文科相への一本化が必要では?(認定子ども園ではそのばしのぎでは?)

<まとめに>
教育改革は、教基法を変えなきゃならないのか? 拙速に教基法を決めるのはよくないのでは?

■土肥隆一(民主党・無所属クラブ)

<勉強をする意味「なぜ人を殺してはいけないのか」の意味は?>
土肥:勉強をする意味を子どもが喪失している。「なぜ人を殺してはいけないのか」についても抽象的。「ポストモダン」の認識状況がありながら、一義的なことがいえない状況がいま社会にある。生活実態・子ども達の生活意識も子どもに密着した理解=子どものことを考えなくては通じない社会になったったのが、私のポストモダン理論である。またポストモダンは「コピー」が増え、なにが本物かを問わない社会で、権力の構造が変わった社会である。これは統制が意味をなさず、人間の内面を必要としない社会で、強制的に人間を管理すべきという利便性のみを追求する社会になる。多様な生を保証するする社会
この状況を踏まえると、教員免許更新性や教員の専門教育をするなど、普通のやり方では教育の状況は再生しないだろう。多様な生の保証はなく、動物化した支配が現在行なわれている。このような状況を踏まえて質問をする。

伊吹:価値観の多様化によりコントロールの聞かない社会になっているという前提にたって、「なにやっても仕方ない」というのであれば、先生(=土肥)の代議士に選ばれている意味はなくなる。ポストモダンはひとつの認識として、私たちは日本なら日本の文化の中で、私たちが祖先の営みの中から大切に作り上げてきたものので「ポストモダン」を食い止めたいから私たちは議論をしているのだ、政治があるのだ。

土肥:文化や伝統は法定できるのか? 法に入れたとしても意味をなさないのでは? 最低限の踏み外してはならないところをまとめるのが教基法になるのではないか? 民主案も政府案も内相をもっと詰めるべきではないか?

伊吹:私たちはポストモダン理論は取ってないので、見解が違うという以外ない。

土肥:悩みも情報も子どもの中にあるのだから、その視線に立った対策が必要なのであって、トップダウンで臨むべきではない。核保有国が増え「終末」的状況を想起する中での教育を考えてしまう。

土肥:どんな法も憲法に逆らってはならない。憲法を変えようとしている中で教基法を変えようという理由は?

伊吹:教基法は憲法以前にできている。事実認識が問題である。憲法議論がなければ教基法改正が出来ないというのであれば、それは民主党も同じであろう。

土肥:将来憲法改正があれば、教基法改正もあるのか?

伊吹:どの政権がどう野党と協議したかによって変わっていくが、改正された憲法と今回提案している理念法としての教基法の内容がたがうことがあれば当然変えなくてはならない。ただ、(両者が)たがうことは多分ないと私は思う。(改正教基法は)基本的普遍的事実を記述する、理念を記述するのだから、政府案・民主党案は違ってくることはないと思う。

■末松義規(民主党・無所属クラブ)

<宗教教育について>
末松:特定の宗教教育をしていけないと現行法は言っている。ただし特定宗教を学ぶ権利を過大に狭めると、宗教について語れない人材が育つのでは?

伊吹:宗教の学習はすべきものの、各々の心のあり方について、特定宗教を布教する活動は国公立は憲法の規定によって禁止されている。

末松:「布教」の入らない中で宗教の問題を扱うことは可能か?

伊吹:宗教は人生にどういう役割を果たすか、歴史的にどういう役割を果たしてきたのか。日本の歴史の中でどう仏教は関わったのか…はなんら問題はないと思う。2条で一般論と規定している情操の中には宗教は入らないと私は思う。

末松:学校が死生観を扱うことについて。

伊吹:教師が自分の人生観や心のあり方として「自殺」について語ることは問題ない。ただし、自分は神道の教えでこう思っているから君も従ったほうがいいよ、というのはおかしいといっている。布教活動はいけないといっている。

末松:宗教の布教活動と宗教に関する客観的な説明との差は? 小坂前文科相は「教義を教えることは、慎重になされるべき」といっていたが

伊吹:キリスト教の教義はこうだということは構わないが、価値観や主観が入ってきたりするると問題があるから、小坂はそのときの状況によるべきといったのだろう。

末松:靖国神社はどういう意味を持ち、どういう教義を持っているのかと問われたとき、教師は生徒にどう応えるべきなのか。

伊吹:靖国の教義は浅学にして分からないが、これが招魂社という一種の組織であり、戦後、宗教法人になった、祭られている人はこういう人たちだ、などと話すことはなんら束縛は受けないと思う。

末松:「先生はなに今日を信じていますか?」と問われたとき「神社神道だ」と答え、その教義を話すことは問題なのか?

伊吹:信じている宗教を話すのは問題ないし、信仰の内容を答えてくださいといわれたときは、児童の心に自分の心を強制させる・入り込まないで教義を述べるのはいいことだと私は思う。

末松:学校の修学旅行で伊勢神宮等などに行く、神楽を体験するとなった場合、これは特定宗教に踏み込みすぎだと問題が指摘される可能性はありうる。これについてどう考えるか

伊吹:客観的に神道の中に神楽がある、それを見せることはいいと思うが強制はしてはいけないと思う。

末松:「宗教の行事に踏み入ってやることはダメだ」と以前聞いたが、これについて。

伊吹:宗教的行為・宗教の一部で神楽を見ることはいけないといっているが、(授業であっても)文化行事の中に位置づけて見るのは問題ないのでは。応える側の心の問題が焦点化されるべきで、状況に応じて慎重に判断すべき。

末松:布教と教義の説明の差を話してほしい。

伊吹:言葉で表現が難しいから、むしろ教えてほしい。(難しいから)慎重にやるべきといっている。(再度の質問に対して)布教は、自分の信教を他人に信じさせようとしていることである。自分の宗教を他人に信じさせようとしているかどうかの教師の心は、他人には見えない(から慎重にすべき)と申し上げている。

■糸川正晃(国民新党・無所属の会)

糸川:子どものころから憲法教育をする必要は?

伊吹:それは当然のことだ

糸川:「豊かな」社会に変化して、心が貧しくなった。そのため子が親を殺し、親が子を殺す状況が生まれた。こういう状況が教基法改正で改善するわけではないが、改正によってどのような人間育成をしようとしてかんがえているのか?

伊吹:豊かさの隙間を埋める人を作りたい。日本人としての品性持った人を育てたい。それをつねに育てていく日本人を育てたい。

糸川:教育の最終責任者は国にあると考えているのか?

伊吹:日本国にある、だから国と地方で適切な役割分担をすると法案で書いているのだ。

■菅野哲雄(社会民主党・市民連合)

菅野:未履修問題の責任に所在と、対処の方法について。

伊吹:学習指導要領どおり行われていないことには文科相に責任がある。被害者は全ての児童であるとの気持ちを大事に、文科相の権限の範囲で可能な都道府県の教育委員会、私学を管理している知事に意見求めたい

菅野:高校が「予備校化」しているもんだいについて。高校間競争が激しくなっていることと学習指導要領の関係のズレが根本の解決の道と思うが?

伊吹:しっかり授業を行なっている学校=正直者がバカを見ないような施策が必要である。しかし学生には何の責任もない。この二つのバランスを取って、現実的には未履修の人にはある程度の授業をとってもらって、それによって卒業の資格を与えないと現場を混乱する。しかし未履修の人に大幅な配慮をすると「俺達は何でこんなひどいな目にあうのだ?」という感情も起きる。

菅野:「日本の教育を考える10人委員会」によると、回答者の3分の2が学力格差が二極化しているとこたえている。そしてそれは親の収入から影響を受けているとこたえている。親の収入が進路や将来の収入を決めている状況について、大臣はどう考えているか?

伊吹:その状況が見られることは否定しない。しかしOECD調査によると、親の収入が子どもの進路に影響をいちばん及ぼしているとされるのはドイツである。同調査から、日本は比較的影響は小さいと出ている。これを踏まえて、上記状況は拳拳服膺していきたい。

菅野:現行法の「能力の応ずる」が、政府案第4条「その能力に応じた」と改正する意図、理由は?

田中生涯学習局長:近時の立法例に倣った。ので、両者はまったく同じ意味である。現在第3条は「与えられならないものであって」を改正案では「与えられなければならず」としているのも、現在の3条2項「就学困難なもの」「奨学の方法」の表記も、改正案の方では「就学が困難」「奨学の措置」と、最近の表記法にならっている。

菅野:何も代わらないのなら、「応ずる」でいいではないか? この修文は問題がある。憲法も「応じた」と過去形になっていない。なぜ「応ずる」ではダメなのか?はっきりさせてほしい。

田中:現在でも「能力に応ずる」というのは「公安法」(昭和25年)には書いてあるが、近年の平成17年の「独立行政法人住宅金融支援機構法」や昭和60年「労働者派遣事業の適正な運営確保及び派遣労働者の就業条件の整備等の法律」には「能力に応じた」と書いてある。近年「能力に応じた」という用語を使っている。意味は、現行法と改正案で同じである。

菅野:こう質問するのは政府が「格差教育」を推進しているように見えるからである。教育再生会議で学校選択制、教師免許更新制、教育バウチャーの発行が扱われている。また2007年からの全国学力テストの実施。これらは学校のランクに見合った予算措置、教員への能力給など、教育へ市場原理、競争原理を導入する手段と考えられている。この流れは「能力に応じた」と過去形にしたこととどう捉えているのか?

伊吹:参考人の説明の通り。深く考える必要はない。最近の立法例に倣っているわけでして、責任者である私が教育の機会均等と差別を記述したものではないということを明言いたしますからご理解ください。

■石井郁子(日本共産党)

石井:(昨日の高橋議員提出の文書について)。9/2、内閣府主催の「教育改革タウンミーティング八戸」で、現場に対して、教基法改正賛成の趣旨を答弁するよう発言依頼があった。その中の「タウンミーティングの質問のお願い」によると(校長宛に)「教基法は時代に対応すべく見直すべきだ」との意見、「教育の原点は家庭教育である…先ほどの大臣のご説明にあったとおり」と、わざわざ、大臣の説明は聞いてないにも拘らず「新しい教基法に新しく家庭教育の規定が追加されたことは、本当に大事なことであると思います」と書いてある。また、青森県の教育課から校長宛に「タウンミーティングに関わる依頼発言について」との文書で、別紙のようにご協力くださいとある。内閣府と文科省がこのような発言依頼を行なっていたことについて。これは「やらせ」ではないか。

内閣府土肥原官房政策審議官:タウンミーティングでの活発な意見を促すという目的で、地元や関係者の意見を踏まえて参加者の発言の参考となるような資料を作成すると、そういうような場合もある。地元の関係者にそういうような資料を提供する場合もある。結果としては幅広い自由な議論ができたと理解している。

石井:発言依頼をしたことを認めるのか、はっきりさせてほしい。このペーパーは、事実としてあるということを確認したということでよいのか?

内閣府土肥原官房政策審議官:FAX送信票もあり、すべてが内閣府が関与しているわけではない。参考資料を作成したのは内閣である。

石井:昨日の新聞報道だと改革が「心外だ、こういうことがないように」といっていたようだが、修正されたと私は受け止める。これは大変なもので、最後のページには発言に関しての注意事項まである。「セリフの棒読みは避けてください」とか、「お願いされてとか依頼されてとか言わないで下さい」とか「自分の意見を言っていると書いてください」とかある。(これは)大変な手のこんだ「やらせ」である。こういうタウンミーティングを平成15年から7回やっている。他のところでもこんなことがあったのではないか? また、「やらせ」行為は民主主義を否定することを政府がしていることになる。こういう世論誘導を教育基本法に関連してやっていることは重大な問題だ。徹底した調査を求め、報告を官房長官に求める。

塩崎:調査をして報告する。

石井:安倍首相が教育再生を掲げている。それと教基法案について関係を聞きたい。安倍首相は全国一斉の学力テスト、その結果の公表、学校選択制の全国的な拡大、また国家による学校評価のための監査官の配置、学校予算の傾斜配分がいわれている。その中で、全国一斉の学力テスト、その結果の公表、それが学校選択制への拡大とつながることによる公教育への影響について。通学区域制度は、現行教基法3条「教育の機会均等」によるものと理解していいか?

伊吹:通学の便などを考えて決められている。「安倍首相の…」との発言があったが、安倍が首相になる前に著したものをもとに述べていると思うが、総理になった以上、中から選んできっちりとやっていく必要がある。安倍総理が総理になる前に著した書物の中にあることを総理と倣えてすべてやるという前提は必ずしもご心配なることはないと思う。

石井:結果の公表と学校選択制がリンクされたとき、東京足立区に既に実例があるが、点数の格差による特定学校への応募人数の増加から、中学校入学で倍率が出ている。5年前から学校選択制を取り入れている足立区は、2004年から区独自の学力テストを実施して結果は公表、クラスの順位も公表されている。選択性が導入されて、学力テストの高い学校は募集が集中し、低い学校には募集が来ない状況がある。これは義務教育の段階で「勝ち組・負け組」が出てきているという実態ではないか。選別による序列が固定化していくのは容認できることか?

伊吹:義務教育段階で選別を行い学校に格差ができてくることは、安倍首相の言う「全ての児童に最低限の規範意識と学力を保障する」点から必ずしも適当ではない。しかし同時に、必ずしも適当ではないというマイナス面を受忍してでも、なおかつこういうことをやらねばならない現状があり、私は何度もいっているように、多くの納税者の負託にこたえられてない教育現場の状況を改善していければ、格差・差別化は行なわれない方がいいと私は思います。

石井:ここの区によると、テストの点数競争をすることにより過去問をやるなどで対策しているため、平均点はあがるが、子どもの個々の学力には必ずしも結びついていない。これが現場の実感である。これこそ深刻である。テストの結果で「がんばり具合」を4段階で分けると足立区は言っている。これは予算配分のためのようだ。学校間格差を、予算つけてやるわけだから更に進ませる。義務教育段階で、これでいいのか。

伊吹:基本的に、小学校の設置権者、人事権者、予算権者は文科省ではない、地方自治体の権限であるから(この足立区などの件について)口出しするのはいかががと思うが、来年度実施の全国学力テストは、学校に数値的な差をつけるためにやるわけではない。これは児童の学力御状況を全国的に調査して今後の学習指導要領を考えるためにやるのだ。文科省としては点数の公表を指導するつもりはない。義務教育に競争原理を入れる必要はないと思うが、入れざるを得ない学校の荒廃の現状も認識して、こういうことが(なにを指示しての発言か不明)どんどん進まないようにみんなで取り組む必要がある。

石井:官房長官に聞きたい。「教育再生会議」の議論とこの教基法改正案はどう関連づいているのか?

塩崎:教基法改正案と教育再生会議の関係は繰り返し述べたとおりで、教基法は大きな理念を60年ぶりに改めること、一方でまったなしの案件への対応について教育再生会議を設けている。

石井:質問趣旨は、政府の教育政策の中身(外部評価制度導入や学校選択制度など)がこの法案とどう関係するのか? そのためにこの法案は必要なほうあんなのかどうかを、私は聞きたい。次回聞きたい。
11月1日(午前)
衆議院教基法特別委員会

保利耕輔(無所属)
田島一成(民主)
【保利質問】
 午前はまず無所属の保利耕輔委員が質問に立った。先の国会では特別委員会の事実上最終日に質問を行っている。そのときは継続審議が決めっていたのでかなり本音の発言があったが、今回は慎重な発言が目立った。
(出だしはお礼から)
 保利委員はまず、(無所属でありながら)1時間の質問時間をもらったことへのお礼から入る。続いて伊吹文科相の説明が明瞭でわかりやすい、びっくりした、心から敬意を表すとエールを送る。
(美しい日本語を)
 最初の質問は、「美しい国」と日本語の乱れの問題。今の日本語は崩れかかっているのではないか、英語だけではなく日本民族として美しい日本語、国語を大事にしてほしいと発言。日本語に日本の歴史、伝統、文化を象徴させようとする意図からと思われる。
(与党協議の内容)
 つづいて、与党教基法改正検討会の座長を務めた立場から与党協議会の論議の様子を発言。
 検討会ではまず4つの原則をきめた。(これは2006年4月13日の与党協議会最終報告にある次の4点)
@教育基本法の改正法案は、議員立法ではなく、政府提出法案であること
A改正方式については、一部改正ではなく、全部改正によること
B教育基本法は、教育の基本的な理念を示すものであって、具体的な内容については他の法令に委ねること
C簡潔明瞭で、格調高い法律を目指すこと

 @については、政府が責任を持って内容をチェックするためである。
 Aは、現行法には、大学、生涯教育、私学の規定などがない。大きな骨格をなすことを入れるためには一部改正ではできない。また現行法では、「朕は、帝国議会・・・枢密院・・・」という昭和天皇の「公布文」がついている。この文は古い、おもしろくないという意見が出た。全部改正にすれば新たな「公布文」に改めることができる。
 B関連法律は33本ある。改正に伴い33本の法律を改正する必要がでてくる。理念法だから骨格だけ示すことにした。
 そのほか、「国」の概念から統治機構をはずしたこと、「宗教的情操」は盛り込まないことにしたこと、「不当な支配」については検討の結果残したこと、などを紹介。マスコミは愛国心についてのみ報道し、他のことは報道しないと批判。
→以上の発言は、与党協議の内容が明らかではない、議事録を公開せよなどとの批判に対応し、一応の「情報公開」を行ったものである。注目すべき新たな論点はない。アリバイづくりの発言であった。

(改正案は子どもを戦場に送るものか)
 次に改正案は、子どもを戦場に送るものである、戦争をする国にするものだという批判に対し、文科相の見解を求めた。伊吹文科相は、「国を愛する・・・」の「国」は伝統的な文化、規範、日本人に特有なものといった「国民のいとなみ」であると答弁、改正案は慎重な配慮をしている、児童の資質を高めるものであり、戦争促進法などではないと答弁。
→今日の議論ではだれも「戦争促進法」などと発言していないのに文科相はこのように発言。子どもを戦場に送る法か、と問われてハイと応える人はいない。憲法改正、学習指導要領の記述、つくる会の授業などをみれば「戦争促進法」であることは否定できないであろう。

(現行学習指導要領との関係)
 保利委員は、改正案が成立すると改正教基法と学習指導要領が矛盾する点が出てくるかと質問。
 文科省の銭谷氏が、「今の改正案と学習指導要領は軌を一にするもので矛盾はない」「提案されている法案と全く一致する」と答弁。
 保利委員は、愛国心教育などの具体的な指導例を学習指導要領で示せとも発言。伊吹文科相も具体例を示すと答弁。
→以上の質疑で、今の学習指導要領が現行教育基本法の趣旨にあわないものであることが明確になった。教基法を改正しても指導要領を変えないのであれば、それは学校教育には何の影響も与えないことになる。文科省役人が変える必要がないと答弁し、保利委員もそれに異議を唱えなかった。それでは何のために改正するのか。また現行法と改正案では内容に大きな違いがある。改正案の内容を先取りしているのであれば指導要領は現行教基法の趣旨、精神をないがしろにしていることになる。文科省が教基法の精神を大事にしてこなかったことの証拠である。
 また学習指導要領に具体的な指導例を示せということは指導要領の性格からしても問題である。

(義務教育について)
 保利委員は、義務教育9年の規定をはずしたのは義務教育弾力化のためだと力説。9年を6と3にわけるのは非効率だとする。保利委員は義務教育学校=9年制の学校を提唱。そして昔の旧制中学校は良かったと述べ、5年制の高等専門学校がよいと発言。
→保利委員は、先の国会では、中等教育という概念自体を否定しようとしていた。今日はそのような発言はせず、概念自体は尊重しつつ、それが中学校と高校に分かれている問題を指摘。先の国会では、大学進学者用の高校と職業教育を行う5年制の学校に分離させる提案を行っていたが、今回はその持論を封印。高専をほめることに限定した。

【田島質問】
(高校未履修問題)
 民主党の田島一成委員は高校の未履修問題から質問。
 伊吹文科相は調査結果を発表。
 国立高校 15校  未履修なし
 公立  4045校  314校
 私立  1348校(うち2校は未回答) 226校
  以上540校
 3年生
 国立 2826人   なし
 公立 812767  50827
 私立 346332(うち2校は未回答) 32916
  合計 83743人

 未履修単位数
 70単位以内  61352
 70−140 17837
 140以上  4554

(教育改革のあり方・・東大基礎学力研調査結果)
 田島委員は小中学校の校長のアンケート結果をもとに現場の声をどう受け止めるか質問。
 伊吹文科相は、世論調査は質問によって異なる結果になる、校長は高校未履修問題の責任者、他の一般の人を対象とした調査では8割の人が義務教育改革は必要と応えていると答弁。さらに校長は、現行法のもとでの改革について行けないと回答しているのではないかとも答弁。「現場の声も大切だが、納税者の声に応えるのが大切」と力説。
→世論調査については都合の悪い結果には目を閉じ、さらに責任を教育基本法に押しつけるという暴論を述べている。「現場」と「世論」を対立させようとする考えも明確に。

(家庭教育のあり方)
 田島委員は家庭教育を重視する発言。伊吹文科相も家庭の復権、地域社会の復権が大切だが、もとに戻すのに100年かかると発言。
 田島委員は、高校には道徳の時間がない。親の自覚を促す指導が必要。家庭教育の学習指導要領をつくることが考えられないかと質問。これに対して、伊吹文科相は、家庭は法律で縛るものではないと答弁。
→この部分では田島委員の問題発言が目につく。家庭教育に法律および行政を関与させようとする発想で、これは文科相にたしなめられた結果に。文科相の「家庭は法律で縛るべきではない」という発言は重要。第2条の目標は家庭教育を縛ることが出来ないことになる。

 田島委員は最後に教育委員会のあり方を質問して終わった。
→田島委員の発言は勉強不足が目立つ。思いつきで国会質問をしてはいけない。文科相の方が2枚も3枚も役者が上だった。
10月31日(午後)
衆議院教基法特別委員会

西村智奈美(民主)
松本大輔(民主)
横山北斗(民主)
高橋千鶴子(共産)
保坂展人(社民)
1 31日の午後は、この緩急に浮上した必修科目未履修問題、教育予算の確保問題、格差問題を教基法改正と絡めて、果たして政府法案と民主党案のいずれが、これらの問題の解決に貢献するのか、ということが争点となったほか、法案の文言の意味を具体的に明らかにしようとする質問(7条の大学条項、8条の私学条項、9条の教員条項)、そして、イギリスをモデルとすることが適切なのかどうかを質す質問がなされていた。

2 政府の答弁は“新自由主義”的

政府答弁、特に伊吹文科大臣の答弁についての特徴を指摘するならば、それが実に「新自由主義的」だということである。

新自由主義は、人間を競争に追い込めば何かが良くなる、というまったく論証されていない前提に基づいていること、そして、実際に良くならなければ「競争のさせ方が十分ではない」と主張し続けることに特徴がある。裏を返して言えば、新自由主義推進者は、自分たちが依拠している前提を自己批判的に検証することなく、うまく行かないことの理由をすべて他人に転嫁するところにその最大の特徴がある。

伊吹文科大臣は、「目標を作って、競争して切磋琢磨しなければ、効率化とか努力とかは人間社会では生じない」(高橋委員への答弁)と述べていた。未履修問題の原因が、03年以降の学校5日制の導入、授業時数の減少、高校間競争の行政による組織にあるのではないかと野党に追及されると、「それだけが問題ではない」「問題の原因を明らかにすることは難しい」と答弁しておきながら、自らの主張する「規範意識の欠落」(政府が押し付けたルールを守らない教委、校長、教師はモラルが欠落しているということ)については、それが原因であると断言していた(銭谷政府委員も同じことを言っていた)。

これでは、文科省が次から次へと繰り出す、無秩序な「指導」「学習指導要領の改訂」「特色ある学校づくり」などに振り回されてきた、地方教育行政関係者も、学校管理職も、そして、子どもに直に接し、矛盾を一番感じざるを得ない教師もたまったものではない。「私たちの規範意識が欠落しているということ?じゃあ、あなたたちはまともなルールを作ってきたの?作らなくても良いルールを作って押し付けたのは一体誰なの?」。そんな声が聞こえてきそうである。かつて富士通の社長が、成果主義給与を導入してもなお、業績が上がるどころか悪化して行ったのを、「社員が悪い」といった趣旨の発言をして、ますます社員の士気を失わせた光景を思い出すのは私だけではないだろう。

また、伊吹文科大臣は、野党が提示するデータについては「もっと細かく分析したい」と言い、あるいは、OECDデータの引用を「松本大輔事務所作成って書いてある」(松本議員に対して)と頓珍漢な応答をしていた。野党に対しては、説明の不十分さを論拠なく指摘しておきながら、文科省による緻密なデータ解釈に基づく緻密な議論を展開することはしない。政府の説明責任をどう考えているのだろうか?

3 未履修問題

西村委員の質問は、“未履修問題の原因がきちんと把握できなければ、何をどう改革すれば良いのかわかるわけがない。文教科学委員会でまずは集中審議をすべきだ”、という実にまともな内容であった。政府案では未履修問題がどのように解決されるのかとの質問に対して、「改正後、法改正をして、政令を作って、学習指導要領を改正して」対応すると伊吹文科大臣は答弁していた。政府案のどの条項が教育行政の何をどのように変え、教育に対してどのようなインパクトを与えるのか、このことを説明しなければ議論は始まらない。

4 教育財政確保問題

また、西村委員は、政府法案のどこに格差是正に必要な教育財政を確保する規定があるのか、という趣旨の質問をしていた。伊吹文科大臣の答弁は「教育の機会均等が保障されているかどうかは最終的には司法が判断すること。」との回答をしていた。積極的に社会権を実現する義務が国にはあり、立法府はそのために立法活動をしなければならない、という日本国憲法の要請を無視したこの発言には驚かされた。この点、西村議員が「立法府としての意思を示すべきだ」と述べたのは適切であった。
 さらに、西村委員は、「昨日文科省のレクを受けて、計画の中身はまったく白紙ということだった」との発言をした上で、政府法案には、科学技術基本法にある財政確保条項に匹敵する規定が無いことを指摘していた。伊吹文科大臣は、この指摘に対して、予算は政府が作り、国会で審議してもらうと回答するに留まっていた。政府法案には、教育予算確保条項が不在であることがはっきりした。
 松本委員は、NPOのあしなが募金からの要望書を取り上げ、奨学金母子世帯の直面する教育費を巡る困難をデータに基づいて取り上げ、あわせて、高等教育の無償化問題も取り上げていた。伊吹文科大臣は、高等教育費の公私負担割合に関して家庭負担割合が日本では60%にのぼるというOECDデータを見せられても、何のデータかわからず、「松本大輔事務所作成って書いてあるでしょ。よほどしっかり根拠を示していただかないと…えらい誤解を生んでしまいますよ!」と声を荒げていた。この有名なデータを知らずに文科大臣をやっていることの方が「えらい」ことだ。
 
5 7、8、9条の逐条的、逐語的ツメ

前国会では、国民新党の糸川委員がしていた逐条的な質問を、民主党が始めた。横山委員が、7条、8条、9条についてそれを行った。

政府案大学条項にある“社会貢献”を取り上げて、社会貢献に研究教育を収斂させ、あるいは、学問の自由を制限することになるのではないか、との趣旨の質問をしていた。息吹文科大臣は、“教育研究の結果として社会に貢献する”という現行学校教育法の趣旨と同じだ、と答弁していた。そうであれば、改正案にこのような文言を入れる必要はない。学校教育方の大学の目的規定も改正しないと明言すべきであった。興味深かったのは、伊吹文科大臣自身は、基礎研究がおろそかになるとのおそれから国立大学の独法化に反対していたと答弁していたことであった。そして独法化の目的を「非効率的な運営」の是正に求めていたことであった。無駄遣いをしないのは当たり前のことなのだが、それだけのために独法化をしたのだとすれば、目的と手段との釣り合いがあまりに取れない。

また、8条に私学振興に政府が努める義務が規定されていることの意味についても、私学振興をするといった答弁しか帰ってこなかった。

さらに、免許更新制度が、9条のどこから導かれるのか、との質問には、9条2項を読み上げるだけで法案中の根拠となる文言を指摘できず、結局、「納税者の負担に対する効果をあらわさなければならない」ことを根拠として示していた。免許更新制度も、改正法案からは直接導き出せないことがはっきりしてしまった。

6 タウンミーティング問題

今日の質疑で最も緊張感があったのは、政府の開催した教育改革タウンミーティングに関連して、青森県の教育委員会が、校長にある特定の質問をするように依頼し、しかも、内閣府から「棒読みにならないように」との指示を受けたと記してある文書を、高橋委員が提出したときであった。ここで審議がストップし、結局、事前に資料が提出されていなかったことを根拠に、質問はストップし、資料の扱いを理事会で協議することになった。今後の展開が期待される。

7 イギリスをモデルとすることの適否

保坂委員は、イギリスをモデルとすることの是非に質問を集中させていた。安倍総理の著書『美しい国へ』において、問題のある子どもの家庭を24時間監視すると言うイギリスの施策を紹介していることを取り上げ、同種の施策が政府法案13条(地域における関係者の協力義務)によって正当化されるのではないか、と質していた。塩崎官房長官は「そこまでやるつもりはない」と答弁していた。問題は、やるつもりがあるかないかではなく、改正法案においてそこまでやることが許されているのか、禁止されているのかどうかである。それを正当化する条項を持ちながら、政府の裁量でやることもやらないこともあるとの回答では、“法案”審議にはならない。

8 まとめにかえて

今日の審議を見ていて、法案審議の入り口に野党が政府を引き入れようとしているのに対して、政府は、伊吹文科大臣を先頭に、あれやこれや言を弄するものの、結局は、“いやだ、いやだ”と駄々をこねているように見えた。

未履修問題は、政府法案の立法事実、すなわち、何を目的とし、そのためにいかなる手段を用意し、目的がどれほど実現することになるのか、という問題を検証する上での、格好の素材となっている。この素材を生かしきるためには、学習指導要領が実施された03年度以降の、未履修の拡大についてのデータが不可欠であるし、それを集中的に検討することも不可欠である。

また、条項ごとの立法者意思の確定も、ようやく始まったに過ぎない。前国会での糸川議員の質問に対する政府の応答は、各条の趣旨、あるいは、それに関連する近年の施策を略述したに過ぎず、各文言がそれぞれ何を意味し、政府にどのような権限を与え、その限界がどこにあるのかの説明も不可欠である。

政府は、いつまでも駄々をこねていないで、早く法案審議の入り口に立ち、徹底審議に応じるべきである。そうしなければ、国民の政府の文教政策全体に対する信頼が損なわれるだけだと、実感した。
10月31日(午前)
衆議院教基法特別委員会

質問者
稲田朋美(自民)
斉藤鉄夫(公明)
北神圭朗(民主)
T審議の主な論点

1.教育内容の最終的な決定権の所在(政府案16条、民主党案18条)

2.生涯学習(政府案3条、民主党案12条)と社会教育(政府案7条、民主党案12条)の概念上の違いと法案上の条項の関係

3.教育改革の意思決定のあり方(教育基本法改正法案の審議と教育再生会議)

4.教育財政のあり方(民主党案19条、20条)

U審議の中で結論的に主張された点

1.稲田朋美委員(自民)は、占領期の日本弱体化政策のひとつとして教基法が制定されたと指摘し、教育基本法の正当性を疑問視した。また、現行法10条の「不当な支配」が、一部の教員勢力によりゆがんで解釈された結果、戦後教育行政の混乱を招いたという。政府案16条では、「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの」との文言が挿入されており、国民の代表機関である国会の制定する法に基づく教育が、政治的に中立であり、「不当な支配」は排されることになると主張した。

2.与党の委員(稲田朋美委員(自民)、斉藤鉄夫委員(公明))は、政府案・民主党案の共通点(@日本の伝統・文化の尊重、規範・道徳の必要性、A教育内容に関する最終責任は国にある(学習指導要領の法的拘束性)、B生涯学習は、社会教育、学校教育、家庭教育を包含する概念である事)を指摘し、法案の早期成立を主張した。

3.民主党委員(北神圭朗委員(民主))は政府案と民主党案の相違点(@教育委員会の廃止、A財政条項の規定)や、教育再生会議が法案と同内容のテーマを議論している点を指摘し、慎重な審議(教育再生会議の結論を待つ)の必要性を主張した。

U各論点における議論の主旨

1.教育内容の最終的な決定権の所在

<稲田委員>
教育基本法は、戦後占領期の日本弱体化政策の中で生まれた。戦後レジームから脱却し、日本らしさをとりもどす必要がある。
現行法10条の「不当な支配」の制定理由は、教育の普遍性、政治的中立性の確保にある。ところが、その「不当な支配」が、一部教員に歪曲され現場が混乱している。学習指導要領の法的拘束性を考えれば、東京都教育委員会が、国旗掲揚・国歌斉唱の通達を出すのは当然。教員が、それに従うのは職務上の義務ではないのか?

<井吹文科大臣>・<藤村委員(民主)>
学習指導要領は、学校教育法に根拠を持つ法の一部であり、これに従うのが当然。

<稲田委員>
政府案16条により、国会で制定された法律に基づく教育には正当性があると言える。教員は教委の命令に従うことになり、現場の混乱は解消する。
民主党案は、前文に公共の精神、伝統、文化の尊重について書かれている。基本的に政府案と同じ方向性の法案。
民主党案(特に2条と7条の関係から)では、誰に教育内容の最終的な責任があるのか?また、首長のイデオロギーに地方の教育が左右されるのでは?

<藤村委員>
学校理事会が教育内容を決定し、首長も責任を持ち、最終的な責任は国がもつ。学習指導要領には、法的拘束性がある。教育監査委員会を設置して首長を牽制する。

2.生涯学習(政府案3条、民主党案12条)と社会教育(政府案7条、民主党案12条)の概念上の違いと法案上の条項の関係

<斉藤委員>
政府案では、教育の基本的な理念として3条で生涯学習について規定している。7条の社会教育は、学校教育、家庭教育等と同様に、生涯学習の中のひとつであるという関係。民主党案では、12条で生涯学習と社会教育の概念が混同されているのでは?

<高井委員(民主)>
生涯学習は、社会教育を包摂する。民主党案では2条でそれを示している。

<斉藤委員>
政府案と民主党は基本理念で一致しており、法案の早期成立が望ましい。

3.教育改革の意思決定のあり方(教育基本法改正法案の審議と教育再生会議)

<北神委員>
中教審と教育再生会議の関係は?

<井吹文科大臣>
中教審は、国家行政組織法に基づいており、教育再生会議は首相の諮問機関。つまり、再生会議はアドバイザリーボード。

<北神委員>
教育再生会議と教育基本法案審議では、同内容のことが議論されている。再生会議の結論を待つべきでは?

<井吹文科大臣><塩崎官房長官>
教育基本法は基本理念を審議。再生会議では、待った無しの問題について議論をする必要がある。仮に、再生会議で改正後の教育基本法にそぐわない結論が出ても、それはあくまでアドバイザリーボードの意見で、賢明な首相はそれを採用することはない。

4.教育財政のあり方(民主党案19条、20条)

<北神委員>
教育財政支出に関して。格差の問題、機会均等の保障をどう考えるか?

<伊吹文科大臣>
義務教育については、平等であるべき。高等教育については、中卒、高卒で働いている労働者もおり、国民的合意形成の点で引き続き検討が必要。

<北神委員>
教育機関に対する公金支出の額を他国に倣って対GDP費で算出しては?また、「骨太の方針2006」で文教予算の削減が明記されているが、その点についてどう考えるか?

<伊吹文科大臣>
文科大臣としては、文教予算を増額したいが、国務大臣としては、負担と給付のバランスも考える。

<塩崎官房長官>
メリハリ、効果的な予算措置が必要。

<北神委員>
歳出・歳入改革だけでは、財政再建は無理で経済成長が必要。そのためにも、将来への投資として教育予算の増額(私学助成、奨学金、教員給与)が必要。民主党案に財政条項が、規定されている。地方分権の推進、特別会計の削減等、さまざまな方法で教育予算の増額は実現できる。時の政権に教育財政を振り回されないように、教育基本法へ財政条項を規定すべき。(T・S)
10月30日(午後)
衆議院教基法特別委員会(2)

質問者
志位和夫(共産)
保坂展人(社民)
糸川正晃(国民)
志位委員(共産)は、文科省作成が「学校におけるいじめ問題に関する基本的認識のポイント」において、いじめはどの子にも起こりうることと認識すべき、いじめが多いか少ないかではなく、学校の対応@早期発見、A教師集団が協力し合って対処すべき、といっていることを引きながら、こうした正しい方針も、いじめの件数を数値目標化する学校・教員評価によってできなくなるのではないか、と政府の姿勢の誤りを追求した。これに対して、伊吹文科大臣は、教師が規範意識をもっていないから隠蔽しているという面もある。仕事は目標を立ててやっていかないといけない。目標を立てていじめを減らすことまで否定するのは本末転倒だと、反論した。

志位委員はまた、いじめが起きるのは子どもたちが強いストレスにさらされているためではないかと述べ、日本の小中学生は諸外国に比べて2倍程度と抑うつ傾向が高いという調査結果があることを示した。ストレスといじめの関係について問われた安倍首相は、ストレスとの関係については専門的議論を待つしかない、と答弁した。監視者は、教育再生会議にそうした専門家がいるのか疑問である。また、ゆとり教育の問題を指摘する識者もいる、高い学力と規範意識を身につけさせたい、などと問題をすりかえる答弁を行った。

保坂委員(社民)は、いじめ問題のほか、外国人の未就学児童問題をとりあげ、特に日系ブラジル人の未就学が多いことを指摘、ブラジル人学校が各種学校にも認められていない状況に起因するのではないか、と質問した。これに対して伊吹文科大臣は、実態は把握しているが、未就学の問題は経済的な問題なのか、語学力の問題なのかわからないと責任逃れをした。

保坂委員はまた、「愛国心条項」(政府案第2条)は教育のすべてにかかわるのか、と質問した。安倍首相は、義務教育だけにかかるものではないと答えた。保坂委員が、すべて包括しているのであれば、家庭や生涯学習に愛国心条項もかかることになるが、それでよいのか、とたたみかけると、伊吹文科大臣は、学校教育以外の領域でも、我が国の自然・文化を尊ぶ気持ちを養うために事実関係を適確に教えるということだと述べた。

糸川委員(国民)の質問に対する答弁のなかで、伊吹文科大臣は、法律を越える規範の意識をもつ教育をすすめたい。現行法はどこへもっていっても恥ずかしくない。だが、日本には日本特有の規範があることを日本社会に生きていく人には教えないといけない、と立法事実が存在しないことを認め、立憲主義を否定する見解をくりかえした。安倍首相は、高校の未履修問題について、学校が事実をきちんと報告しなかった、隠蔽の体質という問題だと、現場に責任を転嫁した。(M・S)
10月30日(午後)
衆議院教基法特別委員会(1)

質問者
鳩山由紀夫(民主)
野田佳彦(民主)
笠 浩史(民主)
牧 義夫(民主)

午後、民主党から質問に立った4人の委員は、大きく、(1)審議・改正の手続き、(2)この間の教育問題への対応の不手際、(3)政府案の問題点に関する質問を行い、政府答弁に対して何度か民主案の優位性を強調した(テレビ中継の日だったためもあろう)。

(1)審議・改正の手続きについては、鳩山委員は、伊吹文科大臣が就任直後、記者に対して「90時間あれば十分」と発言したことに触れ、大臣の発言として不適切であるとして謝罪を求めた。これに対して、伊吹文科大臣は、この程度のボリュームの法案であればという一般論を述べたつもりだったが、教育基本法の審議時間についての発言だという印象をもたれたとすればまことに遺憾なこと、と苦しい答弁をした。

鳩山委員はまた、前国会で小泉前首相が教育基本法改正案について数十年もつものである必要があると述べたが、小坂文科大臣は憲法が改正されたらまた改正すればよいと述べ、見解の不一致があったことを指摘した。これに対して安倍総理は、自民党の憲法草案と教基法改正案とは矛盾しないと答えた。伊吹文科大臣は、政府案にも憲法の精神に則りとある。民主党も法案を出している。憲法改正まで待てないという意識は共有されているのではないか、と答弁した。これらに対して、鳩山委員は、民主案は、前文の「新たな精神」の部分で憲法改正をにらんでいると述べた。

笠委員は、民主案は時間稼ぎとか、反対のための対案ではない。もっとよいものを作っていこうというのであれば、一度両案をとりさげて、あらためて国会の調査会など開かれた場で議論することはどうか、ともちかけた。安倍首相は、与党で相当時間をかけて議論しており、自信をもって提出している。もとより委員会は国民の目の前で開かれた議論をしてきている、と答えた。伊吹文科大臣も、両案はそれぞれ最良と思うものを出しているので取り下げるべきではない、と述べた。

牧委員は、特別委員会に山谷首相補佐官・教育再生会議事務局長が出席しないことに抗議した。塩崎補佐官は、首相補佐官は政府の立場を説明するものではないので、出る必要はないというのが政府の認識だと答弁し、出席を拒否した。

(2)この間の教育問題への対応の不手際については、鳩山委員がいじめ問題についての調査時の対応、野田委員がいわゆる「履修漏れ」への対応の問題を指摘した。笠委員も含めた三人の委員は、こうした不手際と責任のなすり合いが続くことを防止するために、民主案にある学校への権限の委譲と国の最終責任の明記、教育委員会廃止と行政権を首長に一元化することなどが有効だと売り込んだ。

伊吹文科大臣は、民主案のようなやり方は政党政治の論理による教育支配が行われる危険があると指摘、教育委員会廃止論には反対だと答弁した。笠委員が総務大臣に見解を求めると、管総務大臣は、28次地方制度調査会において設置の選択制を導入すべきと答申されており、『骨太方針2006』においても特区の設置を早急に結論すべきとしている、と答えた。

野田委員は、いつから「履修漏れ」があったか調べ上げて報告するよう、文科大臣に求めた。

(3)政府案の問題点に関する質問としては、与党合意の結果の中途半端さを指摘し、本音では民主案に賛成する自民党議員が多いのではないかという質問が目立った。

牧委員は、『美しい国へ』の内容と政府案と合致しているのか疑問だと述べ、教育基本法を政府案のようにすれば『美しい国』が実現するというのはどこなのかと尋ねた。安倍首相は、現行法では『美しい国』が実現しないとまではいわないが、『美しい国』の骨格をなす概念と政府案は密接に関連していると答えた。伊吹文科大臣は、一国一文化という法に書かれざる伝統的規範のようなものを大切にしようとしていこうというのが『美しい国』の根本であることを理解してもらいたいと述べた。この答弁の直後に委員会室には拍手が鳴り響いた。

牧委員は、いじめや未履修の問題は教育基本法案についての本来的な議論ではないと述べたが、伊吹文科大臣は、関連させて質問する委員もいるので、意見は差し控えたいと答えるにとどまった。(M・S)
10月30日(午前)
衆議院教基法特別委員会

質問者
大島理森(自民)55分
鈴木恒夫(自民)25分
西博義(公明)40分
答弁
安倍晋三(内閣総理大臣)
伊吹文明(文部科学大臣)
民主党案に対する質問への答弁
鳩山由紀夫(民主)
笠 浩史(民主)
武正公一(民主)

0.【特に気になった点】

1.民主党の強い抵抗を封じ込めることが企図されていたと感じた
・鳩山由紀夫(民主党幹事長)の以下の発言をどう評価すべきか?
@「議論を徹底して行う必要はあるが、引き延ばしはしない」
A「公党間の『協議』ではなく、衆参両院に『調査会』設置を」
B「民主党案に賛成いただけるならば今国会(明日)に成立させても結構」

2.公明党の考え(V.【西博義(公明党)質疑】参照)と、自民党(与党案)は、相当に乖離しているのではないか?

3.「国を愛する」:「国」=「統治機構」ではないとしながら、「日本の伝統・文化」「脈々と引き継がれてきた法律を越える規範」等に含み込ませようとしているもの―「自尊心」「他者尊重」「共感」「思いやり」「いたわり合い」「責任の分かち持ち合い(シェアリング)」等は、ユネスコ「平和・人権・民主主義のための教育」、国連子どもの権利委員会「教育の目的に関する一般コメント」等にみられるように、日本固有のものではなく“グローバル・スタンダード”となっているにも拘わらず―の「復古性」・「偏狭なナショナリズム」・「日本会議・つくる会教科書に通ずる禍々(まがまが)しさ」が伏在していることを強く感じた。

4.いじめ・自殺(学校の隠蔽体質)、高校での単位未履修問題は、基本的には文科省の“指導”下で生じた問題であるにも拘わらず、「責任は学校・教育委員会にある」⇒「“正義の味方”“国民(生徒・父母)の味方”である文科省のチェックが必要不可欠」⇒「文科省チェックを十分に機能させるためには教育基本法の改正が必要である」、という「世論」操作(国鉄民営化の時に全く同様のマスコミ操作があった)、マッチ・ポンプ性を強く感じた。

T.【大島理森(自民党)質疑】

〔大島理森(自民党)〕
@いじめ自殺問題=「生命の尊さ」「生きることの意味」に関わる深刻な問題
A高校必修単位未履修問題=「未修者生徒も既修生徒も被害者」
文科省はどのように捉え、どのように対応するのか?

〔伊吹文明(文部科学大臣)〕
@家族・地域に救える者が少なくなっている。子どもを守ってやるべき教師や教育委員会が、主導(?)したり隠したりする傾向があることはゆゆしいことである。隠すことなく子どもを救ってやれるようにしなければならない。
A今日午後に審議における野党のご意見も伺い、また、内閣法制局ともつめて、(a)「正直者(履修者)が損をする」こと無いよう、(b)既に行われている推薦入試合格者の扱い、(c)〔当面の措置を行った後〕未履修で卒業した者の扱い等を、今週中を目途に、当面の措置を決めたい。

〔大島理森(自民党)〕
なぜ、いま、教育基本法を改正する必要があるのか?
@60年間における国民の思い、国の状況の変化
・人口、平均寿命、出生率、一世帯人数、高校進学率、GDP、
・「生きること」⇒「外部化」(家庭教育も「心」も「外部化」)
Aいま起こっている様々な問題→教育の根本を見直す必要性
・アメリカ・トルコより低い:「父親を尊敬しているか」「国を愛しているか」
B教育基本法制定当時、戦前の反省を強くもっていた反面、欠けていた点
・「自立」、「社会の形成者」=「公民」の育成の欠如
・基本法制定当時の文相・田中耕太郎:2つの原則
(a)「人格の完成」=「神に近づけること」
(b)「教育権の独立」
◎しかしその後(昭和35年頃、『教育基本法の理論』S36初版のことか?)が、「個人の尊重」を偏重し、「個人の社会化」=「公民の育成」、「家庭教育」の位置づけが弱かったと、認めている。

〔安倍晋三(内閣総理大臣)〕
@に関し:60年間の変化―モラル・学ぶ意欲・家庭の教育力・公の精神・地域のつながり、等の低下
⇒「品格ある日本」「志ある日本人」を育成するために21世紀にふさわしい教育基本法が必要

〔伊吹文明(文部科学大臣)〕
・「外部化」⇔制度や気持ちの変化とつながっている:同感である。
・教育基本法を改訂後、関連する法律・制令・通達・学習指導要領を改定し、「脈々と引き継がれてきた法律を越える規範」を取り戻したい。

〔鳩山由紀夫(民主党・無所属クラブ)〕
・今日的課題に応えるためには、「現場主義」を基本におかなければならない。
・物が豊かに→「教育の意義」・「親の権威」・「教師の権威」薄れ、「外部まかせ」になり、「心」の部分に危うい点が生じている。
・教育の原点は、家庭である。

〔大島理森(自民党)〕
・与党案と民主党案は基本認識が一致している。
・民主党が「より良いものを作っていこう」という姿勢であるなら、町村理事・中井理事等は、「協議」を行うべき。
・民主党は、「協議」を受けて立つつもりがあるのか否か?

〔鳩山由紀夫(民主党・無所属クラブ)〕
・「引き延ばし」は全く考えていない。
・より良いものにすることには、当然、協力。
・「教育の根本法」であるから、国民の理解を得ながら進める必要、時間をかけて進める必要がある。
・そのためには、公党間の協議よりも、衆参両院に「調査会」を作って進めるべき。

〔大島理森(自民党)〕
・本委員会を通じ、民主党案を含め国民の前で議論している。その議論を通じてシッカリした結論を出すことが立法府の国民に対する責任ではないか?

〔鳩山由紀夫(民主党・無所属クラブ)〕
・民主党案ならば、「いじめ」・未履修問題への対応可能である。民主党案に賛成いただけるならば今国会(明日)に成立させても結構。

〔大島理森(自民党)〕
・民主党案が最善と考えるのであれば、(直ちに)採決すべきだ。
・そうでない(直ちに採決すべきではない)ならば、(与党案への民主党案の)組み込みを行うべき。

U.【鈴木恒夫(自民党)質疑】

〔鈴木恒夫(自民党)〕
・自公で2時間×70回検討した(最後は「大島〔理森?〕塾」であったが)メンバーであるが、その時から「日本の美風」の欠如が「いじめ」・親殺し・子殺し・未履修問題等を生じさせていると考えるが。

〔安倍晋三(内閣総理大臣)〕

・「公共の精神」・「自立の精神」を回復し、また、「格差是正」のためにも、教育基本法を変えることこそ重要である。

〔鈴木恒夫(自民党)〕
・民主党は、「時間をかける必要がある」と言いつつ、「引き延ばしはしない」と言うが?

〔鳩山由紀夫(民主党・無所属クラブ)〕
 ・議論を徹底して行う必要はあるが、引き延ばしはしない。

〔鈴木恒夫(自民党)〕
・民主党案は、「前文」で「日本を愛する心を涵養し」としているが、民主党の支持母体である日教組(30万組合員)は、前文であろうが条文であろうが「愛国心教育は内心の自由を侵害する」ものであるとし、「教育基本法改悪阻止」の非常事態宣言を行っている。

〔鳩山由紀夫(民主党・無所属クラブ)〕
・民主党は民主党として、日教組は日教組として、それぞれの意見を持つのは当然のことである。

〔鈴木恒夫(自民党)〕
・日教組は、民主党案は、「政府案を潰すためのもの」と言っているが。

〔笠浩史(民主党・無所属クラブ)〕
・民主党案は、開かれた議論を経て作られたものである。

〔鈴木恒夫(自民党)〕
・民主党案では、「国は、普通教育の機会を保障し、その最終的な責任を有する」(7条)としながら、「地方公共団体が行う教育行政は、…その長が行わなければならない」(18条)としているが。

〔武正公一(民主党・無所属クラブ)〕
・民主党案は、国がやるべきことは国の責任で、地方自治体のことは地方自治体(=首長)の責任で、学校のことは学校(学校理事会)の責任で行われるべき、という考えだ。

〔鈴木恒夫(自民党)〕
・「人にやさしく、自分に強く」→「自己規律」「公共心」を育てるために、教育基本法の改正を。

〔安倍晋三(内閣総理大臣)〕
・「教育改革のために教育基本法改正が必要である」という認識は、民主党も共有している。
速やかに成立を!

V.【西博義(公明党)質疑】

〔西博義(公明党)〕
・一日も早く改正案の成立を!
・履修漏れ問題:責任の所在と対応策

〔伊吹文明(文部科学大臣)〕
・文科省も学習指導要領の公示主体として「結果責任の一端」を負っている。
・まず「火を消すこと」(@未履修の生徒が卒業できるようにすること、A「正直者が馬鹿をみる」ことが無いようにする)を行う。「火が消えた後に」、原因の検証を行う。

〔西博義(公明党)〕
・@卒業できないことがないよう、A補習等が過度の負担にならないよう、B校長等の責任は、それらの後で。

〔伊吹文明(文部科学大臣)〕
・@全生徒が被害者である、A補習は必要だが、加重負担にならないようする、B履修済生徒(“深掘り”していない生徒)が不利になる(「正直者が損をする」)ことのないようする、という点を踏まえ、内閣法制局と協議する。

〔西博義(公明党)〕
・受験至上主義は、子どもを馬鹿にし、子どもに歪みが出て当然、市町村教委の形骸化、現場の創意工夫を不可能にもしている、と言われる。
・公明党は、@「国家のための教育」ではなく「人間のための教育」、A現場を重視した教育、B社会に開かれた教育、の実現を目指している。

〔伊吹文明(文部科学大臣)〕
・受験万能、「受験マシーン」育成であってはならない。「人格の完成」⇒「自由」と「規律」、「権利」と「責任」の意識を育成する教育でなければならない。
・「現場重視」に関しては、異論無い・

〔西博義(公明党)〕
・トゥィンビーは、「学ぶということは人間性を高めること」といい、アウグスト・クスは、「子どもを知識の貯蔵庫」にしてはならず、音楽が流れる教室、机の並べ方、教師自身が自分の悩みなどを話せる(教室の雰囲気)などが大切であるといっている。

〔安倍晋三(内閣総理大臣)〕
・人格形成のためには、教室(どういう先生にであうか)・家庭・地域など現場の在り方が大切であると思う。人格をぶつけることも必要。そのためにも、教育基本法改正を急ぎ実現したい。

〔西博義(公明党)〕
・「国を愛する」の「国」には、統治機構は含まないこと、愛国心を通知票に記載しないことを再確認したい。

〔安倍晋三(内閣総理大臣)〕
・「統治機構を愛せ」とすることは、自由と民主主義の理念に反する。
・学校での評価は、生徒の内面に入り込むものではない。
・ただし、日本の伝統や文化を学習する態度は、評価する。

〔西博義(公明党)〕
・(学齢児童生徒の「居場所」として)「学校」以外の選択肢がない。外国籍の子・障害を持つ子などの居場所を保障するために学校教育法・地教行法などを見直す必要がある。

〔安倍晋三(内閣総理大臣)〕
・戦後60年の間に新たに生じた重要な課題と考える。「教育再生会議」でも検討して欲しい。

〔伊吹文明(文部科学大臣)〕
・学校現場、教育委員会においても対応をしているし、今後もして欲しい。

〔西博義(公明党)〕
・尾木直樹氏の本によれば、各種調査結果は実態と乖離しているとされるが。
・様々な問題に対応して行くには、教育委員会を残し充実・抜本的強化を図るべきと考えるが。

〔伊吹文明(文部科学大臣)〕
・(民主党案は教育委員会を無くしその権限を「首長」に移そうとしているが)、「首長」は「イズム」を持って選出される。教育が「イズム」で歪められる可能性がある。地方分権化法で教育長の承認制、文科省の是正要求権が無くなっているが、教育委員会の責任の明確化・強化が図られるべき。(H・K)
10月25日
衆議院教育基本法特別委員会


伊吹文明文科相
高井美穂(民主)
・10時開会まず理事の選任が行われる。

・続いて、政府提出の「教育基本法案」及び民主党提出の「日本国教育基本法案」を一括して審議することとし、両案の趣旨説明が行われた。

・伊吹文科相の趣旨説明は5月16日に当時の小坂文科相が行った趣旨説明と同じもの。言い回しが若干違っているだけ。

以下、相違点。「教育基本法の全部」が「教育の基本法の全部」とか「法律案」が「法案」に、「この法律」が「この法案」に、「創造性を培い」が「創造性を養い」など。

相違点は、小坂前文科相および伊吹文科相の読み間違いによるもので内容上の変更は全くなかった。

・民主党案は高井美穂議員が説明。5月24日に笠議員が行った説明と基本的に同じ。主な変更点は、出だしで「先の通常国会で憲法に準ずる法案として」日本国教育基本法案を提出した、と「憲法に準ずる法案」という言葉が入ったこと、つぎに、教育現場の問題を具体的に改善するための第一歩として、「基本的な考え方を示す」、「現行法を廃止して、新しい法案として」・・・という内容が入ったことである。

・趣旨説明が終わったところで、次回の日程が示され、11分で委員会は終了。

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