やらせTMの発覚した都道府県
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世論調査(教育基本法や「改正」案を提示しないで行われた調査)はこちら
タウンミーティング、注目の論点は何か (リンク)
「国民との対話」と称して、教育委員会・学校関係者を職務命令で大量動員して座席に座らせ、「教育基本法改正」を望むやらせの発言に拍手していたとしたら由々しき事態である。これこそ、現行教育基本法10条が禁止している「不当な支配」そのものの姿ではないか。
タウンミーティング:実態は「官・官対話」 全国調査
毎日新聞が実施した政府主催のタウンミーティング(TM)に関する全国調査で、これまでに判明した「やらせ質問」などに加え、自治体が職員を大量動員して開いた「官・官対話」の実態も明らかになった。参加者が集まらず「会場を埋める」手段だったようだが、TMのうたい文句「国民との直接対話」は始まる前から形がい化していたことになる。次々に発覚する問題に、ある県の担当者は「組織的な『やらせ』をしたようで恐ろしい」と打ち明けた。
タウンミーティングは小泉政権の公約として全国で開かれた。まず都道府県を一巡。この段階では特定テーマは設けず、その後「地域再生」「市町村合併」「教育改革」などをテーマに開かれるようになった。やらせ質問などが起き始めたのはテーマ設定以降で、回を重ねるうちに熱が冷め出席者動員も行われるようになったようだ。
今回明らかになった県職員を大量動員した青森市での「地域再生」TMは04年6月の開催だ。今年7月に「道州制」をテーマに開かれた大阪市でのTMでは、府の担当者が内閣府から「他県で参加者が公務員ばかりだったタウンミーティングがある。今回は民間人を集めてほしい」と要請があったという。青森のケースの約1年後のこと。担当者は経済団体に声をかけた。
これまでの政府や毎日新聞の調査で浮き彫りになったのは、「国民と閣僚との直接対話」という体面を保ちながら、多くのケースで実際には作為があったいうことだ。
政府が質問案を作成し、下請けの自治体が質問者や参加者集めに奔走する−−。そんな構図に、青森県教委の担当者は「国の指示で断れなかった。加担してしまい申し訳ない気持ちだ」と複雑な心境を吐露した。奈良県橿原市で01年7月に開いたTMの実行委メンバーの一人は「地元の基盤のないところで開こうとした地域で問題が起きているのではないか。(小泉政権)終盤では(自治体が)人集めに苦労していたと思う」と話した。
TMでは最近、質問者への「謝礼金」支払いも判明するなど、内閣府があらゆる手だてを講じて「成功」を演出しようとした跡が見て取れる。青森市のケースは開催自体が自己目的化していたとも言え、無理のしわ寄せを地方が追わされた格好だった。【谷川貴史、渡辺創】
毎日新聞 2006年11月18日 3:00
タウンミーティング:青森で県職員大量動員も 全国調査
政府が主催したタウンミーティング(TM)で「やらせ質問」などが発覚したのを受け、毎日新聞は13〜17日、全174回のTMについて全国調査を実施した。その結果、青森県内で開かれた4回すべてで公務員が大量動員され、特に04年6月の「地域再生」をテーマにしたTM(青森市)では参加者の約3分の1に当たる約70人が県職員だったことが分かった。さらに同県八戸市で今年9月に開かれたTMでは、動員した校長らに県教委が4000円程度の「出張旅費」を出していたことも判明。このほか、内閣府や文部科学省が自治体を通じて質問者の人選依頼を行ったケースは少なくとも13件あった。
青森県関係者によると、04年6月の「地域再生」をテーマにしたTM開催にあたり、同県は内閣府から同年5月「応募が少ないので、県から参加者を出してほしい」と要請を受け、県政策調整課が取りまとめる形で約70人が出席した。当日の参加者206人のうち3分の1が県職員だった計算で、「小泉内閣の閣僚と国民との直接対話」をうたったTMの一部は、実は「官・官対話」だったことになる。
大量動員は同県で開かれた他の3回でも行われ、01年6月の青森市でのTMでは参加者190人のうち県が取りまとめた自治体職員が25人、02年7月の弘前市でのTMでは222人のうち県職員が41人を占めた。「やらせ質問」問題の発端となった今年9月の八戸市での「教育改革」TMでも、参加者401人のうち241人が同市教委やPTA関係など動員された人たちだった。
04年6月のTMに出席した県職員は、毎日新聞の取材に「国のイベントへの参加者が少ないと、地方自治体は国から皮肉を言われる。県職員でTMが埋め尽くされたわけではなく、問題はないと思った」と話した。
また、八戸市のTMでは、動員された人のうち同県上北郡内の県立高の校長1人が約4700円、教員1人が約3700円の出張旅費を県教委から受け取っていた。この校長は17日、毎日新聞の取材に旅費の受領を認め「研修との位置付けだった」と説明した。同県政策調整課は「研修に当たると判断できれば、TMでも旅費支出はありえる。八戸市のTM以外の3回でも支出された可能性はある」と話している。
内閣府や文科省からの人選依頼は既に判明している教育改革に関する5回のTMと、北海道内での3回のTM以外にも、▽前橋市(03年9月)▽富山市(01年10月)▽大津市(06年7月)▽和歌山市(01年11月)▽長崎市(04年5月)−−の5回で新たに判明した。
前橋市の「市町村合併」をテーマにしたTMでは、内閣府が群馬県に「何も質問が出ないと困る。呼び水として発言してくれる人をお願いしたい」と要請。同県は近隣自治体との合併構想を推進していた同県沼田市長に出席を頼み、発言してもらっていた。【村松洋、平元英治】
毎日新聞 2006年11月18日 3:00
タウンミーティング謝礼支払い、01年度から…内閣府
政府主催のタウンミーティングで発言者に謝礼を支払っていた問題で、内閣府調査委員会の林芳正委員長(内閣府副大臣)は17日の記者会見で、謝礼の支払いはタウンミーティングが始まった2001年度から行われていた可能性が高いことを明らかにした。
これまでの調査で02〜04年度まで25回のタウンミーティングで65人に謝礼が支払われたことが確認されているが、対象者はさらに増える見通しとなった。
内閣府によると、01年度のタウンミーティングの運営を外部委託した際の契約書類に「参加者への謝金、交通費等の支払い事務代行」との記載が見つかった。
ただ、領収書の提出を求めない契約だったため、人数や金額は確認できていないという。
讀賣新聞 11月17日 23:38
やらせ質問「行き過ぎた行為」=タウンミーティング経費は20億円弱−政府答弁書
政府は17日午前の閣議で、2001年に始まったタウンミーティングにかかった経費がこれまでに総額19億9094万円に上るとした答弁書を決定した。「やらせ質問」に関しては「特定の方に発言案として文書を示した一部運営上の行き過ぎた行為で、今後は一切行わない」と強調した上で、「新しい透明な運営方法を早急に確立したい」としている。民主党の小宮山泰子衆院議員の質問主意書に答えた。
時事通信 2006年11月17日
やらせ「謝礼金」、全タウンミーティングで調査へ
政府主催のタウンミーティングでの「やらせ質問」問題の実態解明に向け、有識者を交えた内閣府の「タウンミーティング調査委員会」(委員長・林芳正副大臣)の初会合が、15日午前、内閣府で開かれた。
会合で、内閣府側は、発言を依頼した相手に謝礼を支払ったケースの有無について、「以前は冒頭発言者としてあらかじめ決めた方に謝礼を支払ったことはある」と認めた。
これを受け、調査委では、小泉内閣で行われた174回の全タウンミーティグについて、謝礼金支払いの有無をはじめ、質問者の推薦依頼や質問希望者の発言趣旨の事前調査、質問案の事前提示などが行われたかどうかを確認するため、開催に関係した他省庁や地方自治体からも資料提出を求める方針を決めた。
讀賣新聞 2006年11月15日 11:50
<やらせ質問>「協力者」に謝礼金5千円 内閣府が予算化
教育改革タウンミーティングの「やらせ質問」問題で、内閣府が運営を委託した広告代理店と結んだ契約に「協力者謝礼金5000円」が予算化されていることが、14日の衆院教育基本法特別委員会の審議で明らかになった。保坂展人氏が契約書を示して追及、内閣府は関連は認めなかったが、再度調査する考えを示した。
毎日新聞 2006年11月14日 22:50
やらせ質問、文科省調査公表は先送り
伊吹文部科学相は14日の閣議後の記者会見で、8回の教育改革タウンミーティング(TM)のうち5回のTMで「やらせ質問」があった問題をめぐる同省の調査について「TM関係の調査は、塩崎官房長官のところですべてとりまとめる。それに先んじて文科省がいろんなことをやるわけにはいかない」と述べ、結果の公表を先送りする考えを示した。
政府は小泉政権下で実施された計174回のTMすべてに関して調査を進める方針。それが終わるまで文科省分の調査結果の公表を先送りするのは、教育基本法改正案の審議に影響を与えたくないとの判断もあるとみられる。
朝日新聞 2006年11月14日 11:26
調査委、15日に初会合=「やらせ質問」で、林副大臣ら−政府
政府は14日、タウンミーティングの「やらせ質問」問題を受けて、林芳正内閣府副大臣をトップに民間有識者を交えた調査委員会を内閣府に設置すると発表した。15日に初会合を開く。既にやらせ質問が発覚した教育改革のテーマを含め、小泉内閣の全174回分について、やらせ質問の有無など実態を調べた上で、新たな運営方法を検討する。
メンバーは林副大臣のほか川上和久明治学院大教授(政治心理学)、国広正弁護士(内閣府法令順守対応室法令顧問)、郷原信郎桐蔭横浜大法科大学院教授、世耕弘成首相補佐官の5人。
時事通信 2006年11月14日 18::24
質問依頼新たに2件 道内タウンミーティング 6月札幌、8月稚内
政府主催のタウンミーティング(対話集会)で参加者の「やらせ質問」が判明した問題で、今年五月に札幌市内で開かれた「再チャレンジタウンミーティング」に加え、六月に札幌で開かれた「農政改革と国際農業交渉タウンミーティング」と、八月に稚内市で開かれた「道州制タウンミーティング」でも、道が内閣府の依頼に基づき、事前に発言候補者を内閣府に推薦し、その候補者が司会者の指名を受けて発言していたことが十一日、分かった。
今年道内で開かれたタウンミーティングは三回で、そのすべてで内閣府が事前に発言候補者を準備していたことになる。
関係者によると、内閣府は道に対し、「農政改革」や「道州制」というテーマに沿った質問者を推薦するように求め、道は候補者を一人に絞り、内閣府に推薦していた。
道内ではタウンミーティングが二○○一年以降九回開かれている。昨年以前の六回でも道が内閣府に発言候補者を推薦していたかどうかについて道は「確認中だが、なかったようだ」としている。
北海道新聞 2006年11月12日
札幌でも発言依頼 「再チャレンジ」テーマ5月21日 道が事前に内容確認
政府主催のタウンミーティングで参加者の「やらせ質問」が判明した問題で、札幌市内で今年五月二十一日に開催し、安倍晋三首相が当時の官房長官として出席した「再チャレンジタウンミーティング」で、内閣府から照会を受けた道が事前に発言候補者を推薦し、当日この候補者が司会者の指名を受けて発言していたことが十日、明らかになった。
道やこの発言者は北海道新聞の取材に対し、内閣府や道が事前に発言内容まで作成する「やらせ」は否定しているが、当時は安倍氏が、再チャレンジを事実上、自民党総裁選の目玉政策に掲げて出馬準備を進めていた時期だけに、発言が出るよう事前に準備が行われたことは波紋を広げそうだ。
関係者の話によると、道は内閣府から再チャレンジのテーマにふさわしい発言者を推薦するよう求められた。道は目星をつけた候補者一人と接触して発言する意思があることを確認し、発言したい内容も聞いた。
道はこの結果を基に内閣府に発言者として推薦。発言者は当日の会合で最初に指名を受け、若者の就職を支援する取り組みを安倍氏に促したが、北海道新聞の取材に対して「(内閣府や道から)『こういう質問をしてほしい』と依頼されることはなかった」と話している。
首相は十日夜、この問題で記者団の質問に対して「私は報告を受けていない。いずれにせよすべてのタウンミーティングについて調査するよう指示している」と述べた。また内閣府のタウンミーティング室は北海道新聞の取材に対して「全体を含めて事実関係を調査中」としている。
北海道新聞 2006年11月11日
タウンミーティングで、県教委職員自らがやらせ質問…別府
教育改革に関するタウンミーティングの「やらせ質問」問題で、2004年11月に大分県別府市で開かれた際、大分県教委の職員4人が一般県民を装い、発言していたことが分かった。10日公表した県教委は「参加者や県民をだますようなことをして申し訳ない」と陳謝した。
県教委によると、開催日の5日ほど前、内閣府から「文部科学省との協議が整った」として〈1〉義務教育の国庫負担〈2〉キャリア教育〈3〉教育基本法〈4〉学校・家庭・地域の連携――の4項目の質問書がファクスで送られてきた。
担当の企画調整室は「やらせ」と判断、「外部に頼むと迷惑をかける」として、義務教育課の男性職員4人に質問書を渡し発言を依頼した。当日、4人は離れた席に座り、質問書に沿った発言をした。内閣府側には県教委の職員が発言することを事前に伝えたという。
同室の小野嘉久室長は「当時の担当者が『国に従わざるを得ない』と考え、やむを得ず職員に頼んだようだ」としている。
讀賣新聞 2006年11月11日
鳴潮
「やらせ」と聞いて、まず頭に浮かぶのはテレビ番組だ。絶対にしてはならないその「やらせ」を文部科学省までやっていたというから驚いた
「国民との対話」を目的に今年九月、青森県八戸市で行われた教育改革タウンミーティング。しかも、「教育の憲法」といわれる教育基本法改正案への賛成発言を参加者に依頼していたというのだから、開いた口がふさがらない
いきさつはこうだ。文科省が「時代に対応すべく、教育基本法を見直すべきだと思います」などの発言案を作り、タウンミーティング事務局の内閣府に送付。内閣府は青森県教育庁に発言者の確保を依頼し、実際に二人が発言した
内閣府は「自分の意見を言っている、という感じで」とまで要請していたというから、完全な「やらせ」である。しかも、過去八回の教育改革タウンミーティングのうち五回まで「やらせ」があったという
与党が今国会での可決を目指す教育基本法改正案は、”愛国心“を求めるなど、戦前回帰的な文言を盛り込んだ内容だ。全国公立小中学校の校長の66%が反対という調査結果もある
「やらせ」質問が発覚して、当時、官房長官だった安倍晋三首相の監督責任問題も浮上してきた。戦前の軍国主義教育への反省から生まれた教育基本法を変えるよりも、文科省の「やらせ」体質を改める方が先決だ。
徳島新聞 2006年11月11日
4質問、国からファクス 大分、やらせ詳細を公表
大分県教育委員会は10日、同県別府市で2004年11月に開催された教育改革タウンミーティングで、内閣府から「やらせ質問」を指示された経緯の詳細を公表した。事前に内閣府がファクスで送ってきた文書に基づき、県教委の若手職員4人が義務教育費の国庫負担やキャリア教育など4つの質問をしたという。
県教委によると、開催の数日前、内閣府の担当者から「文部科学省とも十分な擦り合わせをしています。用意した項目を質問してください」と電話があり、質問4項目がファクスで届いた。
県教委トップの教育長を含め、内部で対応を協議した結果「国には従わざるを得ない」と判断。4人の職員に質問を頼み、どの質問を誰がするかということと、会場での4人の座席位置を内閣府に報告した。他の参加者から不自然に思われないよう、4人はばらばらに着席したという。
ミーティングには312人が参加。大分県教委の小野嘉久企画調整室長は「(やらせ質問を)やらざるを得ないという認識だった。参加した人に誤解を与えたかもしれず、おわびしたい。(やらせを頼んだ)4人の職員にも申し訳なかった」と話している。
共同通信 2006年11月10日
八戸タウンミーティング 『やらせ質問』の舞台裏
今年九月に青森県八戸市で開かれた政府の「教育改革タウンミーティング」で、内閣府が同市教委などを通じて複数の出席予定者に、教育基本法に賛同する質問を依頼していたことが発覚した。同法改正は今臨時国会での審議が大詰めを迎えているが、法改正論議の裏で画策された“やらせ質問”はゆゆしき事態だ。参加者らの証言をもとに、“やらせ質問”の舞台裏を検証した。 (片山夏子、宮崎美紀子)
■教基法改正へ文科省が3案
「教育の原点は家庭教育だと思います」−。
九月二日に青森県八戸市で開かれたタウンミーティングで、PTA関係者が切り出した質問に、五十代の男性高校教諭は「(発言を頼まれたのは)この人か」と直感したという。
前日、県高教組(県高等学校・障害児学校教職員組合)から、内閣府が「質問項目案」を事前に示しているというメールを受け、このPTA関係者の質問の冒頭が三番目の質問案と酷似していたからだ。
質問は、「PTA関係の方を」と司会者が促した直後で、「会場では他にたくさん手があがっていた」。
また、男性教諭は質問案などを見て「ここまで国がやるのか」とがくぜんとした。三つの質問項目はすべて教育基本法改正に賛成で、「改正を一つのきっかけとして」「教育の原点はやはり家庭教育だと思います」などの部分に下線が引かれていたためだ。
別のPTA関係者の「やはり変えるべきところは時代に即した形で変えていくべきではないか」との発言にも後で質問項目案と類似した点に気付いたという。
一方、学校から参加を呼びかけられて出席したという中学校の女性教諭(49)も、違和感を覚えた一人だ。
会場からの質問は一人二分に限定されていたが、「文科相ら主催者など壇上からの回答は長々で、タウンミーティングと言いながら、意見交換ではなく、政府の宣伝の場のようだった」と指摘。さらに、「親の立場で学校から頼まれたり、政府から言われたりしたら断れない。教育が時の政府に利用されないために今の教育基本法があるのに、こんなやり方で現場の声をつくっていくのか。これが八戸だけのことであるはずがない」と憤る。
■『一から議論やり直せ』
青森県教職員組合の平戸富治執行副委員長も「これがやらせでなくて何なのか。国民の意見を聞くと言いながら、こんなやり方で改正を進めるのか。一から議論をやり直すべきだ」と怒る。
高教組の谷崎嘉治執行副委員長は、質問依頼者の一人が「結果として加担したことを悔やんでいる」と話していると聞き、「現場の教員からの連絡がなければ、問題は発覚しなかった。質問依頼者の座席の位置まで確認して、これを発言しろと言ったらやらせでしょう。これは氷山の一角」と語った。
こうした参加者や教育関係者の指摘に対し、行政側はどう答えるのか。
同県教委の白石司報道監は「主催する内閣府の依頼をそのまま伝えるのが私たちの役目だと思った。やらせという認識はない」と話す。
だが、八月二十四日、内閣府から市教委あてに、「文科省の希望で、あと三人、発言者を増やしたい。この三人については、発言内容を文科省から提示するので、その内容について発言してほしい」とのメールが届いていた。市教委の担当者は「論点整理してタウンミーティングを開きたいのだろうと、まず思った」と説明したうえで、具体的な質問内容が記載されていたことについて「ここまでお願いするのは、どうなのか」と疑問を感じたという。
■発言者“指名”10人中6人
また、「質問案を見せられた人も、自分の意見を述べてくれたと思っているが、『やらせ』と見られてしまい、発言した人にも申し訳ない。また、たくさんの人が手をあげてくれたが、(最初に質問依頼した四人を含む)計六人を指名することになってしまい、結果的に他の発言者の機会を少なくしてしまった」と認めている。
国民との意見交換の場であるはずが、実際は、国、地方の役所がシナリオを組んでいたことになるが、労働省(現厚労省)の元キャリア官僚である中野雅至・兵庫県立大学大学院助教授は「国の役人の意識を考えると、不思議でも何でもない」と言い切る。
「国は、直接住民の意識を吸い上げる気も経験もない。住民の意見は水面下で聞き、表舞台はシャンシャンで済まそうという根回し文化が強い。質問が出なかったり、想定外の発言が出て大臣に恥をかかせることを、国の役人は相当恐れる」と中野助教授。政治的な意図による用意周到な「やらせ」ではない、と見ている。
■棒読みしないで…指導
道路関係四公団民営化推進委員会の委員をつとめた拓殖大学の田中一昭教授は「いかにも役所のやりそうな話。『棒読みをしないでください』などと指導するのは明らかにやりすぎ。タウンミーティングそのものの意味を失わせる行為だ」とあきれる。
さらに「今は、こういうことがあれば、内部告発などで、すぐに外にばれるということを理解していない。昔のように、国から県や市へと、上から下へ命じればいいと思っている時代錯誤の文部科学行政をかいまみる思いだ。今回のタウンミーティングの問題は、いじめや必修逃れなど、教育行政の問題の根っこに、文科省の時代遅れの体質があることを、いみじくも表したのではないか」と批判する。
一方で、ある程度のストーリー作りは許容範囲と理解を示す声もある。明治学院大の川上和久教授(政治心理学)は「やり方はお粗末だが、教育基本法のようなデリケートな問題は、反対派の政治的アピールの場にならないように、バランスを配慮しておくことは、考えられる」と話す。
その上で「タウンミーティングの参加者が自由に意見を戦わせる場になっているのか、という本質的な問題がある。活発な意見交換が行われているのなら『やらせ』が入り込む余地はないはずだ」と指摘する。
二〇〇一年から始まったタウンミーティングは、これまで百七十回以上行われてきた。川上教授はマンネリ化を懸念する。内閣府の資料でも「可能な限り若者、女性、学生を。通常の主な参加者は40以上の男性が中心」という記述があり、“演出”に苦労していたことがうかがえる。
「今まで足を運んでいない人も、こういうテーマなら自分も意見を言わなきゃ、と思わせる努力が必要だ。地元自治体も、国の主催だから、という意識ではなく、例えば、そのテーマについて自分たちの町の現状はどうなのか広報紙で特集を組むなど、政策の認知ををはかり、啓発することを考えるべきだ」
■やらせ質問の経緯
内閣府は八月中旬、八戸市教育委員会と青森県教育庁を訪ね、対話のきっかけになる意見を述べる「依頼発言者」を事前に探すよう依頼。「依頼発言者」は、テーマの趣旨への賛成・反対は問わず、市教委への依頼文書でも「『さくら』ではないため、その発言を強制はせず」としていた。市教委は四人を探し、内閣府に伝えた。
ところが八月二十四日、内閣府は、文科省作成の発言案に沿って質問してくれる人を、新たに三人探すよう、市教委に依頼。文科省作成の三項目からなる質問項目案が、市教委に届いたのは、開催三日前の同三十日だった。
市教委は、市連合PTAを通じて、三項目のうち一項目目と三項目目に賛同する二人を見つけたが、あと一人(二項目目に賛同する人)が見つからず、県教委に協力を仰いだ。
同三十一日、内閣府が市教委へ「棒読みにならないように」「依頼されたことは言わないでほしい」等の注意点を発言者に伝えるように指示。
当日、市が依頼した二人は出席して発言、県が依頼した一人は欠席した。
<デスクメモ> 中央省庁の各種審議会などの議論をみれば、最初に答えありきを思わせる事例は少なくない。省益となる結論への誘導は官僚のお手のものだが、これだけ証拠が明白なやらせ行為は珍しい。ファクスでの現場のやりとりも稚拙だが、国家百年の計の改正論議でのやらせ質問はあまりにも非教育的で、情けない。 (吉)
東京新聞 2006年11月9日