新自由主義教育改革・教育格差社会


“貧困層”割合 先進国で2番目 OECD 対日経済報告 教育水準の低下懸念 親の格差 子を直撃
貧困率 日本、先進国で2位 OECD報告 格差拡大を懸念
「貧困層」比率先進国2位 OECDの対日審査報告

授業料滞納で卒業“延期” 法的根拠なく 今春県立高校
高校奨学金希望者が当初定員を1000人上回る
平均退学者数1・34人 私立高、経済的理由で
就学援助 人生の出発点を整えよう
授業料滞納 累積1億円…大阪府立高 不況で急増 来年度から徴収厳格化 給与差し押さえも


“貧困層”割合 先進国で2番目 OECD 対日経済報告 教育水準の低下懸念 親の格差 子を直撃

経済協力開発機構(OECD)が「日本の相対的貧困層の割合は先進国では米国に次いで2番目」と指摘した。二十日に発表された対日経済審査報告書の記述だが、低所得世帯の子どもたちの教育水準低下を危惧(きぐ)する異例の指摘も。OECD報告書の衝撃とは−。

経済審査報告書は先進国など三十カ国が加盟するOECDがほぼ毎年、メンバー国の経済状況や問題点の分析をまとめた「外に映ったその国の経済像」。

今回の対日版では、二〇〇〇年の「相対的貧困層」(税などを除いた可処分所得が中央値の半分に満たないケース)の割合が13・5%と、米国に次いで二番目という現状を紹介。全六章のうち、一章を格差社会に割き、原因として非正社員の増大などを挙げた。さらに対策として、非正社員への社会保険の適用拡大、低所得世帯への財政支援の強化などを提案している。

この報告書について、神戸大元教授で「暮らしと経済研究室」を主宰する山家悠紀夫氏は「OECDには日本の官僚も派遣されており、日本政府の見解とまるで異なった報告書の指摘に驚いている。OECDの中でも、日本を含めた米英的な規制緩和路線とは対照的に、社会の安定と景気回復を同時に望む北欧や欧州大陸的な考え方もあり、彼らの視点が反映されたのかもしれない」と語る。

格差社会拡大の指摘については「ジニ係数(所得分配の不平等さを示す指標)や国税庁の発表データをみてもその通りだ。人数もその割合も増している。小泉政権は『痛みの伴う』構造改革を掲げたが、昨今の企業の景気回復は輸出によるもの。構造改革が景気にプラスになったというわけではなく、家計の取り分の減少が企業の取り分になったと理解できる」とみる。

これに対し、嘉悦大の佐野陽子名誉学長(労働経済学)は「OECDの指摘には少し意外感がある」と話す。「格差といっても、資産所得などが計算されているのか。フリーター、ニートでも親が食べさせているケースが多く、それをそのまま格差と評価していいものか」と疑問を挟む。

「格差そのものが悪いというより、格差の固定化が問題。格差の間に流動性があるのか否か、精査してみる必要があるだろう」

一方、気になるのはOECDのデータが小泉政権発足前の二〇〇〇年である点だ。東京学芸大の山田昌弘教授(家族社会学)は「格差拡大は九七年の金融危機から三年間で広まった。二〇〇〇年は『底抜けが止まった』時点なので、その後は拡大していない」と説明するが、山家氏は「生活保護の件数は一九九五年に八十八万人だったのが、現在は約百五十万人だ」と指摘し、拡大したとみている。

ただ、格差社会を深刻にみている点では山田氏も同じだ。「この十年間で顕在化した最大の問題は小さな子を持つ親の貧困や経済的不安定さだ。児童虐待の背景にも、周りとの経済落差がしばしば隠れている。父親に貧しくても安定した収入があり、周囲が平均して貧しかった一昔前は、子どもたちも希望を持てたが、現在は違う」と説明する。

OECDの報告書も低所得世帯の教育問題を指摘しているが、山田氏も緊急に必要な施策をこう説く。

「不安定な経済状態で子どもを育てている親の就職支援。これが急務だ」

中日新聞・夕刊 2006年7月24日


貧困率 日本、先進国で2位 OECD報告 格差拡大を懸念

経済協力開発機構(OECD)は二十日、日本経済の現状を分析した「対日経済審査報告書」を発表した。相対的貧困層の割合は先進国で二番目とし「不平等の度合いが増している」と指摘。格差拡大は、所得が低い世帯の子どもたちの教育水準低下などを招く恐れがあると懸念を表明した。

ゼロ金利解除後の金融政策にも言及し、デフレに逆戻りするのを避けるためにも、追加利上げは慎重に判断するよう求めた。主要国の日本経済に対する考え方を示す同報告書は、構造改革への抵抗を強めかねない格差拡大を防ぐよう警告している。

報告書は全六章のうち一章を格差問題にあて、初めてこの問題に本格的に言及。日本の可処分所得の分布を分析した結果、中央値に比べ、所得が半分未満の「相対的貧困層」の割合が、二〇〇〇年には13・5%と、OECD加盟国の中で米国に次いで二番目に高かった。その理由として、景気低迷で正社員が減り、賃金が安いパートなどの非正社員が増えたことを挙げた。

同時に「貧困を固定化しないためにも、所得が低い世帯の子どもが質の高い教育を受けられるようにすることが重要」と強調。(1)非正社員への社会保険の適用拡大(2)低所得世帯への財政支援の強化−などを提言した。政府関係者は「所得格差は現在も拡大しており、国民の格差問題に対する関心の高まりが報告書にも反映しているのだろう」と話している。

報告書は、今回の景気拡大は戦後最長になると予想。「物価上昇率が十分プラスになるまで、さらなる利上げを行うべきではない」とした。

中日新聞・夕刊 2006年7月20日


「貧困層」比率先進国2位 OECDの対日審査報告

記者会見するOECDのグリア事務総長=20日午前、東京・内幸町の日本記者クラブ

経済協力開発機構(OECD)は20日、日本経済の現状を分析した「対日経済審査報告書」を発表した。相対的貧困層の割合は先進国で2番目とし、「不平等の度合いが増している」と指摘。格差拡大は、所得が低い世帯の子どもたちの教育水準低下などを招く恐れがあると懸念を表明した。

ゼロ金利解除後の金融政策にも言及し、デフレに逆戻りするのを避けるためにも、追加利上げは慎重に判断するよう求めた。主要国の日本経済に対する考え方を示す同報告書は、構造改革への抵抗を強めかねない格差拡大を防ぐよう警告しており、経済政策をめぐる国内の議論にも影響を与えそうだ。

共同通信 2006年7月20日


授業料滞納で卒業“延期” 法的根拠なく 今春県立高校

今年3月(2005年度)に県立高校を卒業した生徒のうち、授業料滞納を理由に卒業が先延ばしにされ、卒業式に出席できなかった生徒が一人いたことが、3日開かれた県議会6月定例会の一般質問で明らかになった。授業料滞納を理由に、県立高校
側が生徒の卒業を先延ばしにできる法的な根拠はなく、教育関係者からは「経済的理由で仲間と卒業できなかった生徒は悲しかっただろう」と気遣う声も上がっている。

前田政明氏(共産)の質問に、仲宗根用英県教育長は「家庭訪問などもし、再三納付を促したが、理解を得られず、やむをえず指導の一環として行った」と述べた。

県教委によると、生徒は2、3月の授業料2カ月分を滞納していた。学校側は支払い猶予願いを提出するように指導していたが、卒業式には間に合わず、猶予願いは提出されなかったという。

学校側は授業料が支払われた後、生徒に学校で、他の生徒と同様の3月31日付の卒業証書を交付した。

仲宗根県教育長は琉球新報の取材に対し「生徒には学校施設の使用料を支払う義務があり、義務を果たしてもらうことは社会的常識として身に付けてもらうことが必要」と教育的指導であることを強調。「教育長と言えど、学校長の判断で適切に指導をしたと言っていることに対して、行き過ぎがあったかどうかの判断はできない」と話した。

高教組の松田寛委員長は「授業料滞納で卒業を先延ばしにするのはショックなことだ。確かに、経済力があるにもかかわらず滞納する人もいると聞くが、もし経済的理由なら、3年間頑張ったにもかかわらず仲間と卒業できなかった生徒は悲しかっただろう」と同情。

学校長の判断に対し「高教組と沖縄県教職員共済会は奨学金を県内の高校に提供している。経済的理由ならそれを活用してもよかったのでは」と話した。

仲宗根教育長はまた、一般質問で、授業料滞納で出席停止となった県立高校生徒は2005年度は448人(04年度は569人)で、授業料滞納を理由に退学した生徒はいなかったことなども明らかにした。

琉球新報 2006年7月4日

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高校奨学金希望者が当初定員を1000人上回る

県教育委員会の「高等学校奨学金」を利用する高校生が急増している問題で、二〇〇六年度の申請でも希望者が殺到して当初定員約三千三百人より千人ほど上回っていることが、二十八日までに分かった。かつてない大幅増で「格差社会」の反映からか低所得層からの申請が増えているという。県教委は緊急措置として同年度の定員枠を拡大する方向で検討を進める一方で、今後は金融機関への業務委託など抜本的な制度改革に乗り出す方針だ。

貸し付け型奨学金(無利子)は月額で公立二万円、私立四万円。希望者殺到で〇六年度の当初予算額(約十一億円)だけでは対応できない状況になっており、当初定員オーバー分については財政難の中で奨学金事業費をどの程度まで確保できるかについて詰めの協議を進めている。

県教委は「生徒らの不安感をあおりたくないため、拡大枠がまだ決まっていない現段階では応募者数の公表は控えたい」としている。希望者殺到の理由については「中でも所得の低い世帯の生徒からの申請が増えており、所得格差による『二極化』が進んでいると推測される」と分析。ただ、「限られた予算を青天井に増やすこともできない」とし、制度の抜本的な見直しを検討する。

金融機関への業務委託については埼玉県が〇七年四月から全国初の導入を目指している。利子分は県が負担した上で、金融機関の専門性を生かした安定した貸し付けや、支店網による回収業務の円滑化などが期待される。ほかに特別会計化も検討されている。

二十八日の県議会六月定例会の一般質問でもこの問題が取り上げられ、渡辺均氏(公明、相模原市)は「本年度は不採用者が大量に出るのは必至だ。一方で、〇四年度の返還率は54%にとどまっており、抜本的な制度改革が必要だ」と指摘。引地孝一県教育長は「民間委託や特別会計化に伴うメリット、デメリットを検証するなどして、さまざまな角度から思い切った見直しをしていきたい」と答えた。

神奈川新聞 2006年6月29日

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平均退学者数1・34人 私立高、経済的理由で

保護者のリストラや収入減など経済的理由で2005年度中に私立高校を退学した生徒は1校当たりの平均が1・34人となり、前年度の1・59人に比べ改善したことが2日、全国私立学校教職員組合連合の調査で分かった。

同連合は「景気回復や自治体の補助が広まったことが背景にあるが、退学などの理由として保護者の死亡が増えており、依然、経済的に困難な家庭もある」としている。

調査は3月末に実施、組合員のいる28都道府県の212校(生徒数約18万人)の教職員が回答した。

調査によると、経済的理由で退学した生徒は285人。授業料滞納者は1389人で、1校当たりでは6・55人だった。

共同通信 2006年6月2日

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沖縄タイムス社説 2006年5月26日
就学援助 人生の出発点を整えよう

県内の小中学校で給食費や文房具代などの就学援助を受ける子どもが増えている。

今年一月現在、その数は一万九千九百七十人にのぼり、全児童・生徒の13・2%に当たる。二〇〇四年度の全国平均が12・8%というから、子どもの教育をめぐる条件は厳しい。

県民所得の低さや、離婚率の高さ、不況の影響が背景にあることは容易に推測できるが、問題は親の所得によって、子どもが受ける教育の内容や機会に違いが生じていることだ。

経済力格差が学力格差となり、将来の所得格差につながる“負の連鎖”を考えると、就学援助の増加を単に受給者個人や教育現場の問題とほっておくわけにはいかない。

就学援助制度の活用で、子どもが落ち着いて勉強に取り組む環境が整うのであればいうことはない。受給率の急増は、むしろセーフティーネットがうまく機能しているということなのだろう。

しかし実際は就学援助だけでは足りず、低所得者層の負担は大きいという。世間体を気にして制度を活用しない保護者もいる。

深刻なのは、財政難を理由に自治体が支給要件を厳しくしようと動きだしていることだ。国庫補助が打ち切られたためではあるが、それではニーズに逆行する。義務教育の機会すら平等に与えられないのなら、公教育の役割そのものが問われよう。

援助を受けているばかりに、教室でいたたまれない思いをしている子がいないか、進学をあきらめたりしていないかも気になる。生活に追われる親は、子どもへの目配りも欠けがちで、その跳ね返りも心配だ。

教科の時間は削減されても、レベルはさほど落ちていない現行学習指導要領では、塾など学校外での勉強が成績に影響しやすい。だからこそ、就学援助を受けている子どもへのきめ細かな指導や配慮が求められる。

公平で公正な人生のスタートラインを用意するのが、私たち大人の役目だ。

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授業料滞納 累積1億円…大阪府立高 不況で急増 来年度から徴収厳格化 給与差し押さえも

大阪の府立高校の生徒や卒業生らの授業料滞納額が近年急増し、2002年度以降、累積1億円を突破していることがわかった。地方自治法上、債権の時効は5年。

高校側は社会人となった卒業生らにも督促を続け、最終的には大半の滞納者から徴収しているが、毎年260万〜120万円分の債権が消滅している。支払い能力があるのに督促に応じない「悪質なケース」(府教委)もあるといい、府教委は、給与の差し押さえを含む徴収制度を創設、来年度から厳しく運用する方針だ。

府教委によると、昨年度の授業料(14万4000円)の滞納額は約6528万円(890人分)。時効にかからない5年分の累積額は約1億1637万円(1521人分)とこれまでで最多で、東京都の約4700万円の2・5倍だった。

滞納者に対し、学校側は従来、在学当時から支払いを促してきたが、未納のまま、卒業、中退することもしばしば。こうしたケースでは事務職員らが文書や電話で督促、時には住所を訪ねて面談するなどしてきた。

しかし、景気低迷の影響もあって累積滞納額は増加の一途。1997年度は3879万円(753人分)だったが、02年度に初めて1億円を突破し、04年度は97年度の3倍に達した。

就職して支払い能力があると思えるのに納付しないケースなどもあり、府教委は対策を検討。給与の差し押さえは現在でも法的には可能だが、「府内では前例がなく、学校側に遠慮がある」(府教委)ことから選択肢の一つとして差し押さえまでの手順を明記した文書を作成、厳格に運用する案が浮上した。

授業料滞納を巡っては、広島県が04年12月、県立高校元生徒の給与を差し押さえたケースがある。

府教委は来年度、「全国で最もハードルが低い」とされる授業料減免基準の適用範囲を狭め、納付期限を入学後に設定していた入学料(5500円)も未納防止のため期限を入学前に変更する。学校現場では授業料減免基準を厳格化すると滞納者が増加するのでは、との懸念が出ていた。

府教委は「まじめな納付者との不公平感をなくさねばならない。逃げ得は許さない強い姿勢を示したい」としている。

高見茂・京都大大学院教授(教育行財政学)の話「減免対象でないのに授業料を払わないことは許されない。しかし、行政もただ強引に支払いを求めるのではなく、奨学金や分割払いの手法を十分に説明し、自主的に払ってもらえる努力をすべきだ」

讀賣新聞 2006年02月06日

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