教育関係者の声



「現場追いつけぬ」85% 東大の公立小中校長調査

「ゆとり教育」の見直しなど、政治主導で目まぐるしく提案される教育改革について、全国の公立小中学校の校長を対象に聞いたところ、回答者の85%が「速すぎて現場がついていけない」と感じていることが21日、東大の基礎学力研究開発センターの調査で分かった。

教育基本法改正案には66%が反対。「教育問題を政治化しすぎ」も67%に達した。教育改革を最重要課題とする安倍晋三首相が教育再生会議を始動させる中、格差拡大の懸念も大きく、現場に強い抵抗感があることが鮮明になった。

調査は同センターが7、8月に全国の公立小中学校の3分の1にあたる1万800校の校長を対象に実施。約4800校の回答(一部は教頭らが回答)を得た。

「教育改革が速すぎて現場がついていけないと考えるか」との質問に「強く思う」と答えたのは30%、「思う」は55%で、「思わない」「全く思わない」の計15%を大きく上回った。「教育改革は、学校が直面する問題に対応していない」と答えたのも79%と圧倒的多数だった。

中教審が教員の質確保のために導入を答申した教員免許の更新制は再生会議でも重要テーマの一つ。だが、これに賛成する校長は41%止まりで、59%が後ろ向きだった。

学校選択制については「学校活性化に役立つ」との回答が62%ある一方で、「一部で教員の士気が低下する」(73%)「学校の無意味なレッテル付けが生じる」(88%)「学校間格差が拡大」(89%)と、マイナス面を心配する声が多かった。

安倍首相らが再三口にする「学力低下」。だが20年前と比較して子どもの学力が「下がった」とする校長は47%で「変わらない」「上がった」の計53%を下回った。

一方、大多数の校長が心配を強めているのが将来の教育格差の問題。「子ども間の学力格差が広がる」とした回答が88%を占めたほか、「地域間」(84%)、「公立・私立間」(77%)といずれも格差の拡大を予測している。

北海道新聞 2006年10月21日

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教育基本法の堅持こそ重要 東京の元校長ら61氏 アピールに賛同

教育基本法「改正」反対の連名アピールを呼びかけた東京都の公立学校の校長・教頭経験者の代表が二十八日、都内で記者会見し、同アピールに賛同の輪が広がり、現在、茂木俊彦元都立大学総長を含む、六十一人が賛同人に名を連ねていることを明らかにしました。

アピールは、「いま子どもと教育の困難を打開するために必要なのは、教育基本法の『改正』ではなく、現行の教育基本法にもとづく教育行政の徹底による、教育条件の充実と、学校現場の教育の自由の保障ではないでしょうか」と訴えます。

呼びかけ人代表の鈴木淳氏(野津田高校元校長)によると、教基法「改正」を憂慮する三十数人が今月上旬に学習会を開き、改めて現行教基法の堅持が何よりも重要と考えたことからアピールを作成し、約四百人の元管理職にアピールを送付しました。

久留米高校元校長の渡部謙一氏は「現役の校長たちに会うと、ため息ばかり。校長の権限や裁量がまったくなく、強制・命令・管理の教育で疲弊状態にある現場の先生たちを励ましたいという実感からアピールを考えた」と述べました。

鈴木氏は、教基法が「改正」されれば、東京都の教育支配が、「法」の名のもとに全国に広がるとの憂慮を示し、賛同者が一定集まった段階で、現役の管理職にもアピールを送付する意向だと語りました。

しんぶん赤旗 2006年9月29日

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中教審への提言(2004年12月22日) 初等中等教育に関する提言

中央教育審議会
会長 鳥居 泰彦 殿
初等中等教育分科会会長   木村 孟 殿

初等中等教育に関する提言

(社)日本物理学会 (社)応用物理学会 日本物理教育学会
会長 和達 三樹 会長 榊 裕之 会長 霜田 光一

 現行学習指導要領(1998年公示,高校は1999年公示)では,学校週5日制と「総合的な学習の時間」の導入のために,十分な検討なしに学習内容が削減され,教科の学習時間も大幅に削減されました。その後,2002年に公表された「学びのすすめ」によって基礎・基本の重視が謳われ,2003年の学習指導要領部分改定によって発展的学習の可能性が開かれました。しかし,残念ながら学習指導要領の示す学習内容が系統的になっていないために,これらが生かされておらず,さらに,教える内容を重視しない指導法が奨励されていることと相俟って,学校教育全体の土台が危機にさらされています。この状態を深刻に受け止め,物理学の教育・研究に責任を持つわれわれ物理関係3学会は,共同で具体的な提言を行うことに致しました。

1. 理科の学習時間の回復
生徒の年齢や理解に応じた適時性と,基礎から順に知識を積み上げていく系統性をもって教育を行うためには,まず授業時間の回復が必要である。現在,我が国の初等中等教育において全授業時間に対する理科の時間の割合は,世界の多くの国々より低くなっている。科学技術創造立国をめざす我が国としては,主な先進国と肩を並べられる時間数まで,理科の時間を回復すべきである。
具体的には,小学校1,2年の理科の時間を復活すること,小学校の「総合的な学習の時間」を減らして3,4年の理科は年間105時間(週3時間)に,5,6年は140時間(週4時間)にすること,中学校は選択教科を廃止し,「総合的な学習の時間」を減らして,理科を各学年最低140時間にまで引き上げることを提案する。

2. 正しい科学的知識を教える理科教育
現行の学習指導要領が前提としている「科学的なものの見方や考え方」は,科学者の持っている認識とは大幅に異なっている。「小学校学習指導要領解説・理科編」(平成11年文部省発行)には,「自然の特性は,人間と無関係に自然の中に存在するのではなく,‥。自然の特性は人間の創造の産物であるという考え方…。」が述べられ,「児童が構築していく自然に対する感じ方や考え方も(科学的な)見方や考え方に含めてもよい。」と解説されて,学習内容より,生徒達が自由に意見を述べることに重点が置かれている。科学的に確立した知識と子供達の思いつきに同じ価値におくことは,教育の否定,科学の否定につながる。この教育方針がこれ以上進められると,現在の学力低下がさらに悪化することが懸念される。
科学教育の目的は,人類が築き上げてきた科学的な知識や基本的な考え方を教え,教えられたことにもとづいて自ら考える能力を育成することにある。活発な意見が出るような授業はもとより大切であるが,正しい科学的知識の積み上げと両立していなければならない。理科の目標を,児童生徒が正しい知識をもとに着実に学習を進め,それを土台にして自分の考えを展開することができるように改めることを提案する。

3. 系統的知識の重視と科学的思考力の養成
現行の小学校・中学校の学習指導要領は,内容の3割削減を目標として,十分な検討のないまま,繰り返しを省いたり,生徒が理解しにくい項目を上の学校に先送りしたりしたために,学習内容の順序や配置が,教育的に見た系統性からほど遠くなっている。これでは,知識の切り売りになり,生徒にとって面白くないだけでなく,教えられたことに基づいて科学的思考をすることができず,応用や発展的学習も不可能である。学習内容を,子供の発達・成長に配慮した適当な重複をもって系統的に教えるものに改め,それに有機的につながる実験・観察のテーマを精選し,適切な学年に配置することを提案する。

4. 中学校における基本事項の復活
 義務教育段階に含まれる学習内容は,国民の科学リテラシーを形作る上で極めて重要である。現行学習指導要領では,生徒の理解が低いとして,イオン,浮力,水圧,比熱,仕事,遺伝など多くの項目が,全員が共通に学ぶ中学校から,選択者のみが学ぶ高校へ移された。これは,国民の科学リテラシーを著しく下げるおそれのある措置である。これらの項目の学習を適切な学年に戻すことを提案する。

5. 選択形式の見直し
小学校理科の課題選択,中学校の選択教科,高校理科の科目内選択項目や理科総合A・理科総合B・理科基礎に限る部分的選択必修などの選択形式は,積み上げの必要な理科にはなじまない。学んできた基礎・基本の中身が生徒によって異なると,上の学年の教育が成り立たない。学習指導要領の基準性が明確になった現在,これに矛盾する課題選択,選択教科,選択項目,部分的選択必修は廃止し,共通に学ぶべき内容を明確にすることを提案する。

6. 高等学校における全員必修の理科
 高校でもまず全員が必修の理科を学ぶようにすることが,国民の科学リテラシーの向上のために必須である。その学習を通じて個別の理科の特徴を知った後に,生徒達が複数の理科の個別科目を主体的に選択して学習する事が望ましい。現在の高等学校学習指導要領では,理科総合A・理科総合B・理科基礎(各2単位)の3科目の中から2単位以上を含む4単位が必修とされているが,これらの科目が個別の理科を学んでからでなければ学んでも効果が低いような内容で構成されていることと,選択必修であることのために,その後の個別の理科の学習の基礎とならず,高校3年間の理科の学習の効果を低いものにしている。理科を幅広く学習してほしいという社会や大学からの要請が高まる現在,抜本的な見直しによって,個別の理科の基礎と
なるように十分配慮した必修理科の導入を提案する。
 また,現行学習指導要領の枠組みの中での緊急措置として,選択の範囲を物理・化学・生物・地学・理科総合A・理科総合B・理科基礎の7科目に広げて,その中から最低2科目4単位を選択必修とするような部分改定を提案する。

7. 学習指導要領における「歯止め規定」の削除
教科書は教員や生徒が読んでわかる文章で書かれていなければならない。現行の理科の教科書のほとんどは,それを使う児童生徒が読んだときに理解できない構成になっている上に,論理的でない文章が多い。理科の教科書が論理的に書かれていれば,論理的な文章に子供たちがふれる機会が増大する。また,理科の授業で学ぶ内容が,教科書にわかりやすく系統的に書いてあれば,教員も教えるべき内容をはっきり理解でき,正しいことを生徒にわかるように説明することが可能になる。教科書の文章の見直しを著者や出版社が行う必要があるが,教科書の記述が論理的でなくなる要因は,「乾電池の数は2個まで」「月の動きについては、三日月や満月などの中から二つ」「(てこのはたらきについては)支点が力点と作用点の間にある
てこだけ」などの細かな制限(「歯止め規定」)を設けている学習指導要領の記述と、それを杓子定規にあてはめて書き換えをさせている教科書検定制度にある。この「歯止め規定」を全て削除することを提案する。

8. 教員へのサポート
 小学校の教員には大学の教育学部卒業者が多いが,現状の教育学部における教科教育の不十分さを考えると,理科の知識,特に実験に必要な技能や経験は十分と言えない。全ての教員が自信を持って望ましい理科教育を実行できるよう,十分なサポートが受けられる環境を整える必要がある。また,理科専科の教員を全ての小学校に配置する必要がある。その場合,専科教員が直接担当する授業の数を減らしてでも,他の教員に対するサポートを主な仕事とするべきである。我々物理関係3学会は,小学校教員や小学校に配置された理科専科の教員をサポートすることに協力する用意がある。

9. 観点別評価の見直し
 現在,意欲・関心・態度を重視する観点別評価を,絶対評価で行うことになっているために,教員の大切な時間が,客観的な意味があいまいなデータ集めと,そのデータの処理に浪費されている。特に中学校ではそれらが高校入試のための資料として使われるために,深刻な問題となっている。客観的な共通認識にならない意欲・関心・態度という観点で児童生徒の能力を数値化して絶対評価をすることには根本的な無理がある。原理的にできない数値化は廃止し,意欲・関心・態度は,生徒を励ますためのコメントを記述するときの観点にとどめることを提案する。

10. 授業準備や後片づけの時間の確保
 現行学習指導要領から,教員は専門の授業以外に「総合的な学習の時間」を受け持たなければならなくなった。また,最近,就学人口減少に伴う学校の小規模化のために,同一教員が受け持つ授業科目の種類や学年数が増加している。しかし,科目や学年の異なる授業にはそれぞれ準備の時間が必要であることが正当に認識されていないために,準備のための時間が確保されておらず,授業の質の低下をきたしている。実験等が重要な理科の場合,教材準備だけでなく後片づけの時間も必要なので,この問題はとりわけ深刻である。教員の

総担当時間を決める際には,担当科目や担当学年毎の授業の準備や後片づけの時間を含めて数えることを提案する。

11. 教員の自主的な研修の機会の保証
 1998年9月の中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」をうけた関連諸法律の改定以降,制度上は教育の地方分権や校長への権限委譲が進んだが,それがかえって現場の教員に対する規制の強化,管理的な仕事や報告書を形式的に整えるための時間の増加につながっている。このため,教員の自主的な研修の機会が奪われたり,授業研究や教材研究をするための時間がなくなっている。どのような能力も日々の研鑽を怠ると低下するものである。教育委員会や学校長は,学校教育本来の目的に立ち返って,自主的な研修の機会や授業・教材の研究の時間を保証すべきである。

12. 教育予算の増額
 我が国の教育への財政支出は,GDP比でOECD加盟国中最低のグループに属する。各国は教育を国家の最重要事業の一つとして十分な予算を投入している。しかし我が国では教育予算の貧困が続いたために,公立学校の教育力が支えてきた教育の特徴が失われつつある。早急に教育の基盤を支えるための幅広い支出が必要である。安易に教育財政の地方分権を行わず,義務教育の予算を国が保証しつつ,さらにその増額を図るべきである。

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