新教科書検定 充実した内容をどう生かすか
教科書の内容は、これまでよりはるかに充実する。あとは子どもが消化不良を起こさないよう、しっかり身に着けさせることが課題となろう。
文部科学省が、来春から小学校で使う新しい教科書の検定を終え、結果を公表した。
学ぶ内容を大幅に増やした新学習指導要領に基づくもので、教科書のページ数は、学習内容を大きく減らした2000年度検定時の教科書よりも、平均で4割以上増えた。「ゆとり教育」からの転換が鮮明になっている。
国際的な学力調査で日本の子どもの学力低下が示され、ゆとり教育の弊害が明らかな以上、学習する量を増やすのは当然だろう。
厚くなる教科書の中でも、算数と理科が顕著だ。いずれも7割近くページ数が増えている。
算数では、現行の指導要領で削除されていた「台形の面積の求め方」が、5年生で復活した。
農産物の収穫量のデータを読み取る問題、米国の自由の女神の高さや、ロシアのバイカル湖の面積を求めさせる問題など、社会科と連動した要素も入っている。
理科では、サッカー選手の連続写真を使って体の動く仕組みを学ばせようとする内容もある。
日常生活に関連づけ、子どもが興味を持てるような工夫を凝らしている点は評価できよう。
各教科に共通するのは、習った内容を定着させるため、繰り返し学習させる手法が数多く取り入れられていることだ。
教科書の冒頭に、下の学年で学んだ内容を要約しておいたり、単元ごとの練習問題を増やしたりする例が目立っている。
問題は、こういった教科書を教員がどう使いこなすかである。
すべて教えようとすれば、児童の学習能力を超え、「詰め込み」に逆戻りしかねない。取捨選択して、理解度を把握しながら授業を進める力量が求められる。
文科省は4月以降、教員の養成、研修の抜本的な見直しに向けて、議論を本格化させる。これまでの方法を検証し、じっくり検討してもらいたい。
文科省や教育委員会による環境整備も重要だ。新指導要領が全面実施されれば授業時間も増え、平日の授業は今より過密になる。
学校は週5日制が原則だが、例外として、東京都教委は授業を公開して保護者や住民に参観してもらうことなどを条件に、土曜日の授業を認めた。
教育行政には、学校現場を支援する施策の実施が求められる。
讀賣新聞 2010年3月31日
政治活動制限 教員特例法に罰則検討 首相、北教組問題受け
鳩山由紀夫首相は3日の参院予算委員会で、北教組幹部らが逮捕された民主党の小林千代美衆院議員(道5区)陣営の政治資金規正法違反事件に関連し、教員の政治活動を制限した教育公務員特例法について「罰則規定も含めて真剣に検討したい」と述べ、刑事罰の定めがない同法の改正を検討する意向を表明した。
改正時期については「参院選までに何ができるか検討したい」と述べ、今国会で改正するかどうかは明言を避けた。小林氏の進退については「事実関係を把握する必要がある。出処進退は本人の意思の問題だ」と重ねて強調した。自民党の義家弘介氏への答弁。
教育公務員特例法は公立学校教職員の政治的中立性を保つため、国家公務員と同様、寄付金を求める行為などの選挙運動を禁じているが、同法18条2項では政治活動をしても刑事罰を受けないと定めており、自民党は同項の削除を求めている。
質疑で義家氏は、北教組の地方支部が組合活動の一環として、勤務時間中に学校職場から送ったとされるファクスのコピーを提示。勤務中に教職員の組合活動が行われている疑いがあると追及した。
これに対して川端達夫文部科学相は「本日、道教委に事実関係の問い合わせをした」と答弁し、調査に乗り出したことを明らかにした。また「法令違反は許されない」と述べ、地方公務員法の職務専念義務違反に当たらないかどうか、厳正に対処する考えを示した。
参院予算委ではこのほか、亀井静香金融・郵政改革担当相が、永住外国人への地方選挙権付与法案が国会に提出された場合、「連立は一挙に解消される」と述べ、与党内の推進派をけん制した。
北海道新聞 2010年3月4日
子ども手当財源 論戦乏しき予算の象徴だ
去年は「100年に一度の不況」で、今年は「二番底」の懸念が強調された。
日本経済が大地震並みの衝撃を受けたのは間違いない。そして、最悪期は脱したが、まだ万全でないことも確かだ。
鳩山政権は言う。日本経済が再び失速する「二番底」を回避するため政府・日銀は一瞬たりとも気を抜けない。政府は切れ目なき財政出動で景気を支えるべきだ。そのため予算の早期成立は絶対だ。
麻生前政権も同じ論理だった。つまりは日本経済を「人質」にして政府予算案を丸のみするよう国会に求めたわけだ。
2010年度政府予算案が衆院で可決され、直ちに参院に送付された。憲法の規定によって、予算案は参院が議決しない場合でも参院送付後30日で自然成立する。予算の年度内成立が確定した。
しかし、こうしたやり方が本当に国民にとっていいのか。かえって国会の活力を低下させているのではないか。
09年度政府予算の一般会計歳出総額は最終的に100兆円を超え、10年度予算案でも約92兆円の大盤振る舞いだ。
一方、税収は09年度が36兆円台、10年度は37兆円台と1985年度の約38兆円にも及ばない水準である。このため、新規国債が大増発される。2009年度は約53兆円、10年度も約44兆円を見込む。
未曾有の経済危機だから仕方ないと言うのだろう。しかし、政府の予算案に盛り込まれたすべてが日本経済再生のために効果的な働きをするのか疑わしい。
麻生前政権のときにも注文した。財源には限りがある。本当に必要か、効果が期待できる政策か、本来は国会の論戦を通じて厳しくチェックし、場合によっては一部見直されてもいいはずだ。政府が万能などということはあり得ない。
特に今回は政権交代後の初の予算編成だった。鳩山政権は総選挙で約束した政策を実現するため、かなり無理もした。その象徴が「子ども手当」である。
義務教育終了年限まで1人月額2万6千円を支給し、費用は国が負担することとし約5兆6千億円を見込んでいた。
その財源は無駄な事業の見直しで生み出すはずだったが、行政刷新会議の事業仕分けでも約2兆円にとどまった。
そこで、10年度は既存の児童手当に上乗せするかたちで半額の1人月額1万3千円にして、とりあえず始めるという。
きちんとした財源もないまま見切り発車する。それも問題だが、なぜ月額2万6千円なのか、どれくらいの効果があるのかなど、制度自体に対し、野党だけでなく、連立与党にも疑問の声がある。
財務省の見通しでは国と地方の長期債務残高は10年度末で約862兆円と国内総生産(GDP)の1・8倍に膨れる。そんななか、どうやって財政再建を進めるのか。これも先送りされた課題だ。
だが、国会で突き詰めた議論があったとの印象は乏しい。鳩山政権は国民に痛みを求めることに消極的だ。国会が真価を発揮しないと財政危機が深化する。
西日本新聞 2010年3月3日
朝鮮学校の無償化 憲法上の制約あるのでは
高校の実質無償化の対象から朝鮮学校を除外するよう求める意見が政府内で根強いのは、国交がないために教育内容を十分確認できず、高校に相当する各種学校かどうか判断できない懸念があるからだろう。憲法89条は「公の支配」を受けない教育などの事業に税金を充ててはならないと定めている。朝鮮学校が「公の支配」下にあるとは言い難く、国民の税金で就学支援を行うのは、憲法上問題があるのではないか。
国会で審議入りした高校授業料無償化法案は、朝鮮学校を含む各種学校について、対象範囲を「高校の課程に類する課程を置くもの」と規定し、文科省が対象の線引きを行う方向である。無償化の対象とするなら、少なくとも朝鮮学校がどのようなカリキュラムで、どういった内容の教育を行っているのかを調査・公表し、学習指導要領に準拠していることを証明する必要がある。朝鮮学校側は文科省の監督・指導を受け入れ、「公の支配」下にあることを自ら示さねばなるまい。
鳩山政権では、拉致問題担当の中井洽国家公安委員長が北朝鮮による日本人拉致問題や核実験に対する制裁措置の実施を理由に朝鮮学校を無償化の対象から除くよう求めた。北朝鮮が資金援助し、金日成・金正日政権への忠誠心をはぐくむ教育を行ってきたとされる朝鮮学校に、日本の税金を投入するのは、国民感情に反するという主張である。
就学支援金は私学の場合、学校法人などの学校設置者に直接支払われるため、国家公安委員長が神経をとがらすのも無理はない。朝鮮学校は、朝鮮総連の強い影響下にあって、北朝鮮が運営資金の一部を援助しているとされている。税金を投入すれば間接的に北朝鮮を助けることになる、と考えるのは当然だろう。
朝鮮学校側は、無償化除外は「民族差別」などと反発している。だが、本気で適用を受けたいなら、自らカリキュラムを開示してはどうか。文科省から問題点が指摘されたら、手直しすればよい。支援金は欲しいが、「公の支配」はいやというのでは虫が良すぎる。
北國新聞 2010年3月2日
北教組問題で道教委に調査指示 文科相 公務員法違反の有無
川端達夫文部科学相は2日の衆院予算委員会で、北教組幹部らが逮捕された小林千代美衆院議員(道5区)陣営の政治資金規正法違反事件に関連し、教員の政治活動を制限する教育公務員特例法違反の有無について、道教委と札幌市教委に調査を指示したことを明らかにした。
川端氏は「道教委と札幌市教委に、現場の教員が法令違反に当たるようなことにかかわっているかどうか調べるよう要請している」と述べ、事件について「子どもたちに与える影響は非常に大きい。遺憾だ。教職にある公務員は厳しく政治的中立と法令順守を求められている」と指摘した。
川端氏はこれに先立つ記者会見で、教育公務員特例法に罰則を設けることについては「慎重に検討する」と述べるにとどめた。
鳩山由紀夫首相は衆院予算委で、事件について「大変遺憾に感じている。このようなことが起きない状況をいかにつくるかが、わたしどもに課せられた課題だ」と述べた。
北海道新聞 2010年3月2日
図書購入費 未来のために予算化を
子どもたちの活字離れ、読書離れの風潮を食い止めるため、官民挙げての活動が繰り広げられるなか、文部科学省の調査で残念な数字が明らかになった。
公立小中学校の図書購入費だ。2009年度に国が必要と認めて算定し、市町村に対する地方交付税として図書購入費に充てた約214億円のうち、各自治体が実際に予算計上した総額は約164億円で、予算化率は約77%にとどまった。20%以上が図書の購入には使われなかったことになる。ここ数年、同様の傾向にある。
京都府全体では図書購入費約3億9315万円のうち、予算化されたのは約74%の2億9132万円。滋賀県では2億5825万円のうち、約60%の1億5406万円だった。
図書購入費の財源は、使途を限定されない地方交付税だから、最終的には自治体の判断に任されている。景気低迷が長引くなか、財政難を抱える自治体が他の用途に費やしたとみられる。北海道や青森県など厳しい経済状況にあえぐ自治体で、低い予算化率が目立つのも、そうした事情といえる。
自治体が景気・雇用対策など喫緊の課題に優先的に取り組むのは否定できないが、一方で学校図書館の充実も絶えず心に掛けてもらいたい。
学校図書館は、子どもたちが本に親しみ、読書の楽しさを知る上で重要な役割を持つ。文科省の調査では、07年度末時点で、各校の蔵書数の目安となる国の「学校図書館図書標準」を達成しているのは全国の小学校で45・2%、中学校では39・4%にすぎない。改善の余地は、まだまだ大きい。
光明もある。国は07年度から「新学校図書館図書整備5か年計画」を進めている。「一斉読書」などの時間を設ける小中学校は数多い。地域のボランティアらによる本の読み聞かせなども盛んだ。
全国学校図書館協議会などの調査によると昨年、子どもたちの1カ月間の平均読書冊数は小学生で8・6冊。中学生で3・7冊だった。10年前に比べ、小学生で1・0冊、中学生で2・0冊増えた。
亀岡市の図書館ボランティアの会「本の種をまく人の会」の藤田慶子代表は「保護者間で読書に対する理解が進み、子どもたちの読書活動を支える機運が盛り上がりつつある」と話す。
今、子どもたちを「本好き」にする好機ともいえる。
今年は「国民読書年」だ。読書は言語力や表現力、想像力を育て、豊かな人生を送る一助ともなる。新しい本が増えれば、子どもたちは一層、心躍らせるに違いない。「未来への投資」のために、学校図書館の充実は肝要だ。図書購入費の予算化率向上など、自治体からの追い風を吹かせたい。
京都新聞 2010年3月1日