2009年6月


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育児休業法改正 仕事と両立 企業も汗を

 少子化がこのまま続けば今世紀末には人口が半減する。大正ごろの水準だ。経済力が落ち、年金や介護保険などの仕組みも成り立たなくなろう。手遅れになる前に対策を講じなければならない。

 その一つが、子育てをしながら働き続けられる職場づくりだ。仕事と両立しやすくするための義務を企業に課す育児・介護休業法の改正案が衆参両院とも全会一致で可決され、成立した。

 3歳未満の子を持つ社員を対象に1日6時間程度の「短時間勤務制度」導入を義務付ける。社員が望めば残業も免除する。まだ2〜3割の企業しか取り入れていないこうした制度を一気に増やす狙いだ。就学前の子が2人以上いれば「子の看護休暇」を年5日から10日に増やすことも盛り込んだ。

 これまで企業は、託児施設の設置など、いくつかの選択肢から一つ取り入れればよかった。もちろんこれでは不十分だった。実際、第1子の出産を機に67%の女性が仕事を辞めている。何とかして、という母親の切実な声にやっと政治が動いたといえよう。

 父親にとってのメリットも加えた。妻が専業主婦の場合、今は育休取得を申し出ても、企業は拒否することもできる。企業の4分の3が持っているこの「拒否規定」は禁止することにした。

 男性の約3割は育休を取りたいと考えている。しかし1・56%しか取得できていない。「夫も育休」の流れを起こしたい。

 こうした規定に違反した企業は指導や勧告に従わなければ名前を公表される。大きな縛りになるに違いない。

 ただ残された課題もある。今回の対象にならなかったパートや派遣などの非正規労働者だ。正社員と同様の待遇実現も急がねばならない。休業前の賃金の50%とした「育児休業給付」の支給水準引き上げも検討すべきだろう。

 気になるのは経済状況だ。不況が深刻化した昨秋以降「育休切り」が増えた。育休取得や妊娠を報告すると解雇をほのめかされたり、パートや契約社員への格下げを打診されたり…。そんな相談が中国地方の各労働局で相次いでいる。規模の小さな企業に多い。

 政府が、中小・零細企業を支援する仕組みを設ける必要がある。ワークシェアリングや、補充要員を複数の会社でカバーするなど働き方に知恵を絞りたい。

 「育休切り」のような職場復帰をめぐるトラブルを防ぐため、育休期間などを明記した書類の写しを必ず渡すよう省令を改正することを決めたのも前進だ。与野党合意による成果といえる。

 職場では「育休によってしわ寄せが及ぶ」と思う同僚がいるかもしれない。しかし、子どもを産み育てやすい環境づくりは、長い目で見れば、自分たち、ひいては日本全体のためにもなる、という意識変革が必要ではなかろうか。育児の負担を今までのように家族、とりわけ母親に押しつけるのではなく、みんなで分かち合う社会を目指したい。

中国新聞 2009年6月30日

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携帯電話規制 石川県条例を一つのモデルに

 小中学生に携帯電話は本当に必要なのか。その問いに、一つの答えを出す条例改正が石川県で行われた。

 防災、防犯など特別な目的がある場合を除き、小中学生に携帯電話を持たせないよう、保護者に努力義務を課す全国初の条例である。

 さらに、18歳未満であるにもかかわらず、有害サイトへの接続制限(フィルタリング)サービスを利用しない場合は、保護者が理由を書いた書面を携帯電話会社に出すことも求めている。

 所持規制を努力義務とすることには、反対意見もあった。

 だが、罰則は付けず、小中学生の携帯電話問題に自治体を挙げて真剣に取り組む姿勢を示す常識的な内容と言えるのではないか。

 青少年の健全な成長をうたった有害サイト規制法の趣旨にも、沿うものだろう。

 石川県内では昨年、携帯電話のインターネット掲示板への書き込みをめぐり、高校1年生の男子生徒が同級生をバットで殴打する事件が起きた。これも条例改正の背景にある。

 ただ、それだけではない。

 同県野々市町(ののいちまち)では、6年前から小中学生に携帯電話を持たせない運動に取り組んできた。県内の小中学生の携帯保有率は、小学生の高学年で1割、中学生でも2割強と、全国的に見ても低い。

 携帯電話の問題点を多くの県民が認識していることが、条例改正を後押ししたと言ってもいい。

 しかし、すでに保有率が高くなってしまった都市部では、同じ規制は難しいだろう。一方で、福岡県芦屋町のように条例ではなく、小中学生に携帯電話を持たせないと宣言した自治体もある。

 地域の実情に合わせた方法を考えていくことが大切だ。

 携帯電話のネット掲示板への書き込みは、いじめや自殺の原因にもなっている。加えて、出会い系サイト規制法が昨年改正され、サイト運営者に届け出が義務づけられて以降、問題のある書き込みが一般サイトに移りつつある。

 大人社会が手をこまぬいているわけにはいかない。基本は、やはり家庭のしつけだ。

 日本PTA全国協議会の調査では、携帯電話を手放せない小学生が増えてきた。利用時間の長さや時間帯についてルールを設けず、子どもの自由にさせている家庭が多いからではないか。

 親子がしっかり対話を重ね、携帯電話を適切に利用するルールを作る努力が欠かせまい。

讀賣新聞 2009年6月30日

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児童ポルノ 法改正へ早期合意目指せ

 児童買春・ポルノ禁止法の改正案がやっと国会で審議入りした。改正案は児童ポルノの単純所持の規制をめぐって、与党案と民主党案が対立している。対応の遅れた日本は国際的な批判を浴びているだけに、早期成立への努力が望まれる。

 1999年に超党派の議員立法として成立し、その後一部改正された現行法は、販売や提供目的に限って所持を禁じている。単純所持の禁止は、捜査権乱用の恐れなどの問題があるため、法案に盛り込むのが見送られてきたからだ。

 しかし、主要8カ国(G8)の中で単純所持を禁止していないのはロシアと日本だけとなった。個人が集めた写真や画像が簡単に複製されネットで世界に拡散するようになると、被害を受けた子どもの苦しみは癒やされることがない。アニメ、ゲームにも規制がないため、日本は児童ポルノの「供給国」との指摘も出ているほどだ。

 このため、自民、公明両党は個人が趣味で児童ポルノの写真や映像を持つ単純所持について規制対象に追加する改正案を昨年6月に衆院に提出した。一方、民主党は単純所持の一律禁止は恣意(しい)的な捜査につながりかねないとして、児童ポルノを買ったり繰り返し取得した場合に適用する「取得罪」を盛り込んだ対案を今年3月に提出した。

 衆院法務委員会で行われた提案理由説明で、与党側は「国際的な潮流があり、禁止しないとわが国の信用にかかわる」と主張した。民主党は「性的搾取や虐待から児童を保護する本来の目的を逸脱し、法を乱用してはならない」と述べた。

 参考人質疑も行われ、日本ユニセフ協会大使のアグネス・チャンさんは、インターネット上に長く残る児童ポルノは「被害者の心をずたずたにする凶器だ」と、単純所持規制の必要性を訴えた。

 一方、上智大の田島泰彦教授は、与党案は表現の自由の観点などで過剰規制であり、捜査機関の「権限乱用が懸念される」として民主党案を支持した。

 双方の溝は深いようだが、性的虐待から子どもたちを守るという願いは同じだ。一致点を探るために与野党で議論を深め知恵を出し合ってほしい。

 国連児童基金(ユニセフ)などが昨年ブラジルで開いた国際会議では、児童ポルノサイトへのアクセスや閲覧行為も犯罪として法律で禁止するよう各国政府に提言した。国際社会は規制強化に動きだしている。日本も後れを取ってはなるまい。

山陽新聞 2009年6月29日

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家庭の教育費  未来への投資、国の力で

 教育は「人生前半の社会保障」である−。この一文に、政府の教育再生懇談会がまとめた第4次報告の基本的な考え方が凝縮されている。柱に据えたのは、家庭の教育費の負担軽減だ。

 全国学力テストなどで、就学援助を受けている子どもの割合が高い学校ほど平均正答率が低い傾向が確認されている。親の経済力が子どもの学力に影響を与えていることは明白だ。

 収入が比較的少ない若い世代にとって、幼稚園などの就学前教育を受けさせる経済的負担は小さくない。

 さらに大学に進めば、百万円単位の費用がかかる。標準的な世帯で子ども2人が同時に大学教育を受けた場合、税や公的年金などを除いた残りの3分の1を占めると、国も推計する。

 東京大・大学総合教育研究センターの小林雅之教授の言葉を借りれば、子の大学教育は「持ち家に次ぐ、人生で2番目に高い買い物」となる。

 なぜ、教育にこれほどお金がかかるのか。それは日本の公的投資の少なさを家庭の支出が補っているからだ。

 日本の国内総生産(GDP)に占める教育の公財政支出の割合は、経済協力開発機構(OECD)加盟の28カ国中、最下位である。教育費全体に対する私費負担の割合は3番目に高い。

 なのに、公的投資のお粗末さが問題視されなかったのは、国が子を思う親の頑張りに依存してきたからだ。

 日本世論調査会が昨年12月に実施した「暮らし向き」に関する調査によると、現在の暮らしについて「やや悪くなった」「悪くなった」と答えた人が60%近くを占める一方、節約する費目について「子どもの教育関連費」を挙げた人はわずか0・3%だった。

 「無理する家計」(小林教授)が子の進学機会を何とか維持していた。

 しかし、それも限界にある。未曾有の金融危機で家庭の経済力格差は拡大し、「無理」がきかなくなってきた。

 このままでは親の経済力が子どもの学力に直結し、高学歴を得た子どもが経済力を持つという再生産が固定化しかねない。逆のパターンも同様だ。

 こんな現状から、第4次報告は幼児教育の無償化や、小・中学生に対する就学援助の充実、奨学金の拡充や給付型支援制度の創設などを求めた。

 就学援助を受ける子どもの数は年々増加している。しかし、財政の厳しい自治体では支給できる所得の認定基準が引き下げられ、政令指定都市の間では既に数百万円の差がついている。

 次代を担う子どもたちの教育は未来への投資である。政府は報告に沿った施策の具体化を目指すべきだ。

 資源の乏しい日本が世界で生きていくには、国民一人一人の知識や技能を高める必要がある。まもなく総選挙もある。教育投資とその財源について、各党が知恵を競ってもらいたい。

京都新聞 2009年6月25日

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学校耐震化「『人災』防止のためにも急げ」

 地震は規模や発生場所などによって大小さまざまな被害をもたらすから怖い。加えて、いつ、どこで起きるか予知できないから、なおさら怖い。

 家屋など建造物の倒壊や損壊などによる人的被害を最小限に抑えるには、耐震診断に基づき適切な補強・改修工事といった耐震化を推進することが不可欠である。

 子供たちの学びやである学校は地域の防災拠点ともなるだけに、大規模な地震や風水害などにも十分耐え得る強度が求められる。

 ところが、「学校施設は本当に安全なのか」という疑問を抱かざるを得ないような数値が公表された。全国の公立小中学校の校舎や体育館のうち、震度6強程度の大規模地震で倒壊する危険性が高い建物は4月1日現在で7309棟に上ることが、文部科学省の調査で分かった。

 施設全体の12万4976棟のうち、耐震化率は67.0%で前年度に比べ4.7ポイント改善したが、依然として33.0%に当たる4万1206棟は耐震性が不十分なのに補強されていないか、耐震診断さえ行われていなかった。

 未改修などで耐震性が担保されていない建物が全国でいまだ3割超もあるという実態に驚くとともに、それにもまして暗たんとさせられたのは本県の公立小中学校の耐震診断実施率が79.4%にとどまり、全国平均の95.7%を大きく下回って最下位に甘んじたことである。診断結果を公表しない自治体があるのも腑(ふ)に落ちない。

 本県では、震度6強程度で倒壊する危険性が高い建物は高校なども含め38校の50棟で、前年度に比べ13棟増加した。全国最下位の耐震診断実施率は今年度中に95.0%まで改善されると見込まれてはいるが、児童生徒が一日の大半を過ごす学校に危険校舎などが現存するという事態は見過ごせない。

 耐震診断を鋭意進めて、適切な補強・改修工事などの耐震化を急ぐ必要があるが、なかなか進まない要因の一つに自治体の厳しい財政事情がある。

 本格的な耐震診断は1棟当たり数百万円も要するとされ、補強や改修工事にはさらに費用がかさむことから、なかなか耐震化が進まなかった。

 しかし地震防災対策特別措置法改正で耐震診断が義務付けられ、補助金が増えたことで、診断結果を判定する第三者機関の「県建築物耐震診断・改修判定委員会」に自治体側からの判定依頼が殺到し、耐震化の早期着工の妨げとなっているのが現状という。

 だが、事は人命にかかわる問題である。日本はいつ、どこで大規模地震があっても不思議ではない。大地震で校舎や体育館が倒壊・損壊して多数の犠牲者を出した昨年5月の中国・四川大地震は記憶に新しい。

 地震を「人災」にしないためにも、各自治体は鋭意耐震化を急ぐべきだ。

陸奥新報 2009年6月24日

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奨学金 確実に回収し制度の充実を

 厳しい経済情勢の中で奨学金を支えとする学生も多いことだろう。

 教育の機会均等を保障し、有為な人材を育てる上でも、奨学金制度は欠かせない。健全な奨学金制度を維持し発展させるため、貸与した奨学金を確実に回収するのは当然のことである。

 独立行政法人の日本学生支援機構は、返済滞納者についての情報を個人信用情報機関に登録することなどを決め、回収の強化に乗り出している。

 進学率の上昇や学費値上げを背景に奨学金の利用者は年々増え、大学院生の4割、大学生の3割を占める。年間約9500億円の事業費は、返還金のほか国の一般会計予算や財政融資資金などでまかなわれている。

 この奨学金のうち、返済期日を3か月以上過ぎて延滞されているリスク管理債権は2253億円に上り、10年間で倍増した。

 未収率は、特殊法人だった日本育英会が日本学生支援機構に再編されて以降改善されつつあるが、それでも約20%もある。政府の行政改革推進本部は効果的な回収方法の検討を求めていた。

 個人信用情報機関への情報提供は、多重債務防止のためとされているが、滞納者が失業している場合など、より困難な状況に追い込まれると懸念する声もある。

 しかし、病気や失業、生活保護受給などの事情があり、本人から申請があった場合は、奨学金返還は一時猶予される。

 日本学生支援機構は、こうした制度について、丁寧に説明していく必要がある。

 滞納が増えた背景には、窓口となる大学が奨学生に対して返済を十分に働きかけてこなかったこともある。滞納率の高い大学については、改善が進まない場合、文部科学省が校名を公表することも必要だろう。

 滞納者には早い段階から督促することや、住所不明者に対する調査を徹底することが肝要だ。

 日本学生支援機構の奨学金は貸与制で、返還免除は特に優れた業績を残した大学院生など例外的なケースに限られる。

 しかし、アメリカやヨーロッパでは、返還の必要のない給付型奨学金を受けている学生も多い。

 教育費の在り方を考える文科省の有識者懇談会は、奨学生を増やすことなどを近くまとめる報告書に盛り込む方針だ。

 返還免除制度の拡充や、給付型奨学金制度の導入についても、さらに検討していくべきだろう。

讀賣新聞 2009年6月22日

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チェンジ!少子化 生活重視の職場風土に改めよう

 育児・介護休業法の改正案が衆院を通過した。参院での審議を経て今国会で成立する見通しだ。3歳未満の子どもを持つ親が短時間勤務や残業免除を受けられるようにし、夫婦で育児休業を取得した場合2カ月長く休めるなどが内容だ。

 経済状況は厳しく企業には負担かもしれない。だが少子化が続けば社会全体で労働力が不足し消費も低迷する。個々の企業にとっても優秀な社員がやめれば、競争力の低下につながる。仕事と育児の両立支援は長い目で見て企業のためでもある。

両立支援は人事戦略

 昨年末から都道府県の労働局で、妊娠・出産を理由にした解雇などに関する相談が増えている。2007年度の1711件に対して08年度は2030件に達した。不況の厳しさを表す数字ではあろうが、こうした行為は法律で禁じられている。

 両立支援は単なる福利・厚生ではなく企業の競争力を高める人事戦略でもあるとすれば、やむにやまれぬ経営状況はあるにしても、業務の見直しなどで効率化を図り、支援することが重要である。

 政府は03年に次世代育成支援対策推進法を制定し、従業員が301人以上の企業に行動計画の策定を義務付けた。11年度からは101人以上の企業も対象になる。

 大手企業では育児休業はもちろん、短時間勤務や看護休暇、フレックスタイム、在宅勤務、社内保育所など多様な支援策を打ち出している。だが支援策が実際に使われているかといえば、そうともいえない。厚生労働省の調べでは、第1子出産後も働き続けている女性は4割に満たず、この割合は過去20年ほとんど変わっていない。

 労働時間は短くなっているとはいえ正社員では年間2000時間近い。有給休暇取得率も5割以下だ。30代男性の5人に1人は週60時間以上働いている。長時間残業が当然の職場では制度はあっても取得できる雰囲気はない。職場に長くいることをよしとするような風土を改めることも大切だ。

 中堅、中小企業では支援制度がない職場も多く、法律が認める育児休業すら取りにくいとの声がある。

 その中でも、秋田県の精密プレス加工のカミテのように、従業員30人全員を多能工にし子育て中の社員の突然の休みなどに備えたり、広島県の食品加工機械メーカー、サタケのように社員の体験談を載せたポスターなどを社内に掲示し、男性の育休取得促進に取り組んで話題になった企業もある。

 規模の小さな会社の場合、大企業のように多様な支援策は無理だが、従業員の要望を聞き、できるところから取り組むことにより、きめ細かい対応が可能であろう。

 キャリアを積んだ優秀な人材が退職すれば企業にとって損失だ。斬新な企画やアイデアが企業の競争力を左右する時代になっている。多様な人材を活用し、その多様な力を引き出して業務に生かそうという動きが広がっている。

 女性にとって一度職場を離れると好条件での再就職は難しい。就業を中断することで失う利益は生涯で2億円以上との試算もあり、晩婚・晩産化の要因の一つになっている。

 職場を生活重視に変えるポイントは3つある。まずトップの指導力、次いで管理職の意識改革、第3に男性の働き方だ。

父親の育児参加を促せ

 経営者は本気で仕事と生活の調和(ワークライフバランス)の実現を掲げる必要がある。労働の成果は単に時間の長さで測れなくなっている。ニッセイ基礎研究所の調査では人材育成と仕事・育児の両立支援に取り組む企業は、そうでない企業より1人当たり経常利益が高かった。

 ただしトップがいくら旗を振っても現場の管理職が変わらなくては実効性は上がらない。多くの女性が出産後も仕事を続け、生き生きと働いて業績を上げている職場の管理職を評価するなどの後押しも必要だ。

 両立支援というととかく既婚女性の問題と考えがちだが、大切なのが子供の父親への支援だ。

 日本の男性の家事・育児時間は先進国で際立って短い。6歳未満の子どもを持つ父親の場合、米国やドイツが1日3時間以上なのに日本は1時間だ。厚労省の調査では夫の休日の家事・育児時間が長いほど第2子以降が誕生する割合が高い。8時間以上の夫はゼロの夫の3倍だ。

 全社で「残業なしの日」や在宅勤務推進に取り組む企業もでている。核家族が増え、共働きに限らず専業主婦家庭でも夫の育児参加は母親の肉体的、精神的負担を軽くする。出生率を上げるには男性の働き方がカギを握っているともいえる。

日本経済新聞 2009年6月22日

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学校耐震化 まだまだ意識が足りない

 徐々に前に進んではいるが、まだまだ努力が足りないと言わざるを得ない。文部科学省は、今年4月1日時点での学校施設の耐震化状況を公表した。

 進んだのは確かだ。全国の公立小中学校には校舎と体育館が合わせて約12万5千棟ある。このうち、8万3770棟が1981年に改正された現行の耐震基準を満たしており、耐震化率は67・0%だった。昨年から4・7ポイント増え、50%にも届かなかった5年前の2004年からは20ポイント近くアップしたことになる。

 昨年5月の中国・四川大地震では、校舎の倒壊、崩壊が相次いだ。これを受けて、政府は地震防災対策特別措置法を改正し、耐震化工事の国庫補助率を引き上げるなどして、市町村の負担を約3割から約1割に軽減した。今回、その効果が少しは表れたということだろう。

 しかし、学校は子どもが日中の大半を過ごす場所であり、建物の安全性は何物にも替え難い。この程度の改善で、とても気を緩めるわけにはいかない。(1)耐震診断で耐震性が不十分と分かったが未改修の約3万8千棟(2)耐震診断すらされていない約3200棟−の計4万1206棟は、なお耐震性が危ういのだ。

 文科省によると、その約4万棟のうち、震度6強以上の地震で倒壊する危険性が高く緊急に耐震改修工事が必要な建物が7309棟に上るという。

 九州に目を転じると、取り組みのばらつきが際立つ。7県の耐震化率は60・8%にとどまり、全国平均を上回るのは宮崎県(75・0%)と佐賀県(67・7%)の2県だけだ。長崎県は昨年より7・6ポイント伸びたとはいえ、半分以下の46・6%で、依然、全国最低が続いている。

 緊急に耐震改修が必要な校舎や体育館は、福岡県の275棟を筆頭に計911棟あり、全国の1割強を占める。

 さらに気掛かりなのは、法改正で、学校設置者の自治体には1981年以前に建った古い建物の耐震診断と結果の公表が義務付けられたが、九州でもそれに従わない自治体が少なくないことだ。

 そうしたなか、鹿児島県は全国で初めて耐震診断の実施率100%を達成した。耐震化率は61・2%だが、自治体は診断結果をすべて公表している。情報を住民に開示したからには耐震化を急がねばならない。その意思表示だろう。「不安をあおる」などとして、診断はおろか、診断結果の公表に及び腰の自治体があるだけに、その姿勢は評価したい。

 負担は減ったとはいえ、学校耐震化には財源が要る。それは理解できるが、自治体に欠かせないのは「子どもを守る」という意識だ。災害時には、学校は住民の避難場所の役割も果たす。そういった総合的な防災対策の一環でもある。

 文科省は、本年度補正予算も含めて緊急に耐震化が必要な建物をゼロにする財政措置を講じているという。待ったなしの覚悟で取り組みを求めたい。

西日本新聞 2009年6月22日

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児童ポルノ 与野党で法案の一本化を急げ

児童買春・児童ポルノ禁止法改正案の国会審議が遅れている。

 児童ポルノを私的に利用する「単純所持」禁止を盛り込んだ自民、公明の与党案は、昨年6月の提出以来、実質的な審議はなく、今国会には民主党案も提出された。

 両案は、子供たちを性的虐待から守るための規制強化では一致しており、大きな隔たりはない。法案を一本化するなどして、早期の成立を図るべきだ。

 現行法は、児童ポルノを他人に有償無償を含め提供する目的で所持することなどを禁じている。

 単純所持禁止は、10年前の法制定の際にも検討されたが、個人の嗜好(しこう)やプライバシーの侵害につながるなどとして見送られた。

 しかし、インターネットの普及で児童ポルノの拡散は急速に進んでいる。単純所持が禁止されていない場合、警察がパソコンを押収しても、児童ポルノ提供者を摘発するのは難しい場合が多い。

 主要8か国(G8)で単純所持を禁止していないのは、日本とロシアだけだ。日本が単純所持を容認していることが、国際捜査協力の支障となっている。

 与党案は、児童ポルノを「みだりに」所持することを禁止し、「性的好奇心を満たす目的」で所持した場合に限り罰則を設けた。

 民主党案は、代金を払うか、繰り返して取得することを禁じた取得罪を設け、与党案の単純所持罪より重い罰則を設けた。

 一致点を見いだすことは、それほど難しくないはずだ。

 児童ポルノの規制を進めていくためには、ネット事業者など民間団体の協力も欠かせない。

 警察庁は、プロバイダーが違法なサイトへの接続を遮断する「ブロッキング」制度の導入に向け、ネット事業者らと児童ポルノ流通防止協議会を発足させた。今後、技術面などの検討が行われる。

 児童ポルノに類したマンガやアニメなどについても、欧米では規制する国が増えている。

 最近は、少女らをレイプして妊娠・中絶させる過程を疑似体験する日本製パソコンゲームソフトが国際的に出回り、英国議会などで批判された。

 この問題を受けて業界団体は、性暴力を扱うゲームソフトの製造販売を禁止することを決めた。

 児童ポルノのゲームなどに対する規制も、与党案は今後の検討課題として盛り込んでいる。「表現の自由」とのかねあいもあるが、児童保護の観点から積極的に議論すべきだ。

讀賣新聞 2009年6月21日

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教員確保策 こんな競争は歓迎したい

 東京都教育委員会が、教員採用試験にあたって地方の教委と提携を進めるなど、意欲的な試みを進めている。授業が面白い、指導力のある先生が増えることは公教育再生のカギで、全国規模での工夫を歓迎したい。

 東京や大阪など大都市圏はいま「団塊の世代」教員の退職期にあたり、新規採用数が増え、人材確保が大きな課題となっている。小学校教員を例にとると、昨年の競争率は東京で2・5倍など、首都圏は軒並み3倍を切り、質の確保に懸念がでているという。

 一方、地方では東北、九州などで10倍を超える県は珍しくない。団塊の世代の退職者が少なく、民間企業も限られていることもあって、教職は狭き門だ。

 教員採用試験は都道府県などで別々に行われている。都教委などは地方で試験会場を設け、優秀な学生の獲得に懸命だ。

 都教委の新たな採用策は、地方の教委と協定を結んで試験問題を一部共通化し、地元の1次試験に漏れた学生でも、都教委の2次試験を受けられるようにするものだ。来年夏の採用試験から導入を目指しているという。

 地方の高倍率の1次試験で、わずかな点差で落とされた学生の中には、教員として十分な資質をもつ学生も少なくない。人材確保策として有効といえる。

 「教員争奪戦」という言葉も生まれている。大都市圏への人材の一極集中を危惧(きぐ)する意見もあろうが、都教委は採用後に東京で一定期間経験を積んだ後、地元に帰れる制度も検討するという。実現すれば人材交流など、教員の育成面でメリットは大きいはずだ。

 良い先生を増やす方法は、採用だけにとどまらない。教員養成も大学だけに任せず、教職を目指す若者を対象に、自治体独自の実践的な「師範塾」などを開いて育成する教委もある。

 また優秀な教員を特別に「スーパー教師」などに認定し、待遇面も含め評価する制度を導入する教委もでてきている。教職につく魅力を高める努力が必要である。

 大分の教員採用汚職事件が発覚して1年がたつ。各教委は試験の透明化を進めたが、力のある教員の育成にはまだ改善の余地が大きい。今年度から教員免許更新制も始まった。10年ごとに講習を受け指導力向上を図るねらいだ。国も各教委も、競い合って優秀な教員を育ててもらいたい。

産経新聞 2009年6月21日

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ひとり親世帯 苦しい生活救う支援策を

 県内の「ひとり親世帯」が増えている。調査では母子、父子世帯などのひとり親世帯数が3万7548世帯と過去最高となっている。

 母子世帯の84%、父子世帯も74%が暮らしが「苦しい」と訴えている。5年前の調査よりも厳しさを増している。困窮から脱却するための支援策を考えたい。

 母子世帯の月の世帯収入は「10万円未満」が2割、「10万〜15万円」が3割。離婚した夫からの養育費を「受けたことがない」が約8割と全国より2割も高い。

 苦しい生活の相談相手は「家族・親族」「友人」各3割に対し、福祉保健事務所、民生委員・児童委員、市町村役場は1%以下。支援策以前に、公的な相談機関の存在意義を疑わせる低い数字だ。

 県は母子家庭等就業事業などの支援策を県母子寡婦福祉連合会に委託しているが、「入会していない」「知らない」が半数だ。

 組織や制度は知られなければ利用も進まない。相談機関の認知と施策の情報発信を進めてほしい。

 気になるのは母子世帯の母親の健康状態で「病気がち」「通院中」「自宅療養」が2割に上ることだ。

 母親が病気になれば家庭の崩壊につながりかねない。行政は地域のネットワークで事情を把握し、早めに保護策を講じてほしい。

 就労形態を見ると母子世帯の5割近くが「パート・臨時職」と不安定な雇用も多い。「転職」の希望も母子世帯で3割に上る。

 就業支援事業に積極的に応募してほしい。しかし「資格・技術取得が困難な理由」として「学費の確保」「勉強中の生活費の確保」の比率が高い。ここでも経済力が足かせとなっている。

 自立促進講習会で「パソコン」の開催希望が多いものの、実際の受講は2・9%にとどまるなどミスマッチの解消も課題だ。

 行政への要望は「年金・手当の充実」「医療費助成の充実」「公営住宅への入居・家賃の減免」の期待が大きい。収入が少ない母子世帯にとって、生活費を補う支援を求める声は依然として強い。

 政府は今年4月から生活保護の母子加算を廃止し、県内でも毎月2万円程度が減額となった。生活の苦しい母子世帯には痛手だ。

 野党は4日、母子加算を復活させる生活保護法改正案を衆院に提出した。与党がこれにどう応じるか、国会の論戦を注目したい。

琉球新報 2009年6月21日

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学校の耐震化 十分な備えがあればこそ

 文部科学省は全国の公立小中学校の校舎や体育館約12万5千棟を対象にした4月1日現在の耐震調査結果を発表した。震度6強の地震で倒壊の危険性が高く、緊急の耐震改修が必要な建物は7309棟に上ることが分かった。

 昨年5月の中国・四川大地震では小中学校が倒壊し、多くの児童生徒が犠牲になった。学校は災害時に地域住民の避難場所としての役割もある。安全な場所でなければならない。

 耐震改修が進まないのは自治体の財政難が大きな理由だ。全国平均の耐震化率は67・0%で、前年より4・7ポイント改善したものの、耐震性が不十分で未改修の建物は全国に約3万8千棟、耐震診断すら行われていない建物はまだ3千棟余りある。

 四川大地震を受けて国は自治体が実施する耐震補強事業への国の補助率を2分の1から3分の2に引き上げた。さらに本年度は補正予算で「地域活性化・公共投資臨時交付金」が創設され、危険性の高い建物の補強工事では、自治体の負担も大幅に軽減された。

 耐震化率が最も高いのは神奈川93・4%、次いで宮城と静岡が90・1%で、将来大地震の危険が叫ばれたり、震災を経験した地域だ。一方、中四国地方は遅れが目立つ。岡山58・2%、広島50・6%、香川59・9%と、いずれも全国平均を下回っている。岡山県内では耐震化率がいまだに5割以下の市もあった。倒壊の危険のある建物は248棟を数える。

 過去に大きな地震の発生が少なかったことが影響しているのだろう。しかし、今世紀前半には、震度6以上といわれる東南海・南海地震の発生が予想されている。十分な備えさえあれば震災被害は小さくできる。対策を急がねばならない。

山陽新聞 2009年6月20日

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学校の耐震化 安全確保は待ったなし

 全国の公立小中学校のうち、震度6強の地震で倒壊の危険性が高い校舎や体育館は七千三百棟にのぼる。子供たちの学びやは地域の防災拠点でもある。自治体は待ったなしで耐震化の工事を進めよ。

 昨年五月の中国・四川大地震では、校舎倒壊などによって死亡したり、行方不明になった児童や生徒は五千人を超えた。遺族らは校舎の不十分な耐震設計や手抜き工事が原因だとして行政の責任を追及している。

 この地震を受けて、日本では法改正が行われ、公立小中学校などで耐震補強工事を行う場合、国庫補助率が二分の一から三分の二に引き上げられた。地方交付税も拡充され、自治体の実質的な負担は31%から13%に下がった。

 国は一定の措置を講じたといえる。それなのに文部科学省の調査では、全国の耐震化率は今年四月の時点で67・0%。前年度から5ポイントほどしか改善していない。

 耐震診断や工事が進まない要因の一つに自治体の厳しい財政状況がある。「景気対策にならないから」と後回しにしている自治体もあるようだが、子供の安全を考えれば最優先の政策ではないか。

 都道府県別の耐震化率では、神奈川、静岡、三重、愛知が高い一方、長崎、山口は五割に届いていない。この地域差は気になる。

 過去に大きな地震が発生していない地域では危機感が薄いようだが、日本はどこで大地震があっても不思議ではない。低いところほど急ぎ耐震化を進めるべきだ。

 法改正で自治体は耐震診断の実施と結果公表が義務付けられた。しかし、非公表の自治体が三百二十もあった。「住民の不安をあおるから」という言い分らしい。

 学校は子供の学習や生活の場だけではなく、災害が起きた際に地域住民が駆け込む避難所になる。安心して身を置ける場所かどうか住民は知っておきたい情報だ。

 住民の不安を解消するには、診断結果を公表し、問題があれば耐震化工事を進めるしかない。公表すると対応を迫られるというのが非公表の本音ではないのか。

 財政難で速やかに工事に入れないのであれば、危険性が高い校舎や体育館は使用禁止として、一時的に近隣の学校施設を共用させるといった対策はとれるはずだ。

 非公表のままで何もしないのは怠慢というほかない。地震自体は自然災害だが、危険性が高いのに放置された学校で子供が被害に遭ったなら「人災」といえよう。

中日新聞・東京新聞 2009年6月19日

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私大経営/危機招いた乱立と少子化

 尼崎市の聖トマス大学が、来年度から新入生を募集しないことを決めた。1年生が卒業するまで運営を続ける方針だが、このままでは「閉校」が避けられない。明石市の神戸ファッション造形大学も同じく募集をやめ、在校生が卒業後に閉校する。

 聖トマス大は1963年に英知大として開学し、一昨年に改称した。現在、人間文化共生学部の3学科と大学院合わせて五百数十人が学ぶ。突然の発表は、学生らに大きな衝撃を与えたに違いない。

 同大学は、学科改組などの対策を打ってきたが、9年前からの定員割れが止まらなかった。学生や保護者らへの説明会で、在校生の卒業までの運営を約束している。その責任を全うしてほしい。

 昨今、私立の大学や短大が経営に行き詰まったり、破(は)綻(たん)したりするケースが増えている。4年前には、山口県内の私大が深刻な定員割れで経営破綻した。4年制大学では初の民事再生法申請のケースである。

 最大の要因は18歳人口の減少だ。もはや進学希望者と募集定員総数がほぼ同じになる「大学全入時代」に入りつつある。

 私学団体の調査では昨年、4年制私大の半数近くが定員割れをきたした。大都市圏の大規模校はまだ定員の充足率が高いが、地方の小規模校ほど定員割れが深刻となり、二極化が強まっている。

 一方で、大学の新設ラッシュによる影響も大きい。ここ10年ほどのうちに百数十校もの私大が開学した。規制緩和で、国の認可基準が緩められた結果である。

 私大の創設や廃校は私学経営上の責任で行う判断ではある。だが、一般企業のように市場原理による自然淘(とう)汰(た)に任せるのは高等教育のあり方としては問題が多い。

 最近、政府の教育再生懇談会が大学認可の厳格化を求め、抑制機運も出てきた。少子化が進むことが分かっていながら、新設や定員増へ導いた国の責任は大きい。

 改革には経営統合という手段もある。西宮市の関西学院大が今春、姉妹校でもある聖和大を事実上吸収する形で合併した。4年制同士の経営統合は数十年ぶりだった。将来を見据え、幼児教育に実績のある聖和大を取り込んだ統合だろう。

 ただ、私大間には温度差があり、危機感に乏しい大学もある。私大の経営や改革は自力が原則であり、国が関与しにくい。

 文部科学省も“大学倒産時代”を想定はしている。可能な施策を模索し、積極的にかじ取りをすべきだ。

神戸新聞 2009年6月17日

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育休法改正へ 子育て支援の企業努力を

 共働き世帯が増え、働きながら子育てのできる環境整備が社会の大きな課題となっている。政府が提案している子どもを抱える従業員の短時間勤務制度を柱とする育児・介護休業法改正案が、衆院厚生労働委員会で与野党共同修正の上、全会一致で可決され、今国会で成立の見通しだ。

 成立すれば3歳未満の子どもを持つ従業員に対して、1日6時間程度の短時間勤務制度の導入を企業に義務付け、残業の免除が制度化される。

 出産後は元の職場に復帰し、就業時間に配慮をしてもらうことが安心な子育てにつながる。とりわけ共働き世帯にとっては、働きながらの子育てへの大きな支援となりそうだ。

 その意味で短時間勤務制と残業免除を大いに歓迎したいが、企業にとって義務化への対応は容易ではないようだ。

 厚労省の2007年調査では、従業員の育児のために短時間勤務制などを導入している企業は5割弱にとどまり、大規模企業ほど導入率は高い。中小規模の企業にとって短時間制導入には社員の勤務体制のやりくりなどの工夫や努力が求められよう。

 改正案ではこのほか、両親がともに育児休暇を取得する場合の期間が、これまで子どもが1歳までとされていたのが1歳2カ月まで延長された。

 改正案はこれらの改善を企業に求め、違反企業に対しては都道府県の労働局が是正を指導・勧告し、従わなければ企業名を公表する厳しい措置も盛り込まれている。

 改正案の諸施策を円滑に実施していくためには企業に対する罰則だけでなく、負担を受け入れる企業への助成策なども拡充していく必要があるだろう。

 今回の法改正では、育児休業の取得を理由に解雇される“育休切り”や降格などの不利益取り扱いが不況下で急増していることへの対応も注目された。

 民主党などは、育休中や職場復帰後の待遇を企業が書面に明記することを義務付ける修正を求めたが見送られた。それでも省令の改正により、育休の期間を明記した書面のコピーを従業員に渡すことなどトラブル回避の改善策が図られた。

 不況を理由に不当な“育休切り”は許されない。労働行政機関の厳しい監視が必要だ。

琉球新報 2009年6月14日

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憲法審査会規程 参院も衆院に続き制定へ動け

 法律で設置を決めた機関を休眠状態のまま放置しておく。そんな国会の不作為の解消へ、やっと一歩が踏み出された。

 憲法改正手続きを定めた国民投票法の成立に伴い設置された衆院憲法審査会の規程が、11日の衆院本会議で可決、制定された。

 憲法審査会は、委員数や表決方法など審査会の運営ルールを定める規程が制定されず、2年近くも宙に浮いていた。

 民主党など野党は、「国民投票法は強行採決だった。与党は反省も謝罪もしていない」などと、規程の制定を拒み続けてきた。この日も、野党は反対した。

 だが、国民投票法は、十分に審議時間をかけ、民主党の主張も大幅に取り入れて成立したものだ。民主党の批判は説得力がない。

 民主党の場合、憲法論議をすれば党内に亀裂が生じる。「護憲」を掲げる社民党との選挙協力にもひびが入る。そうした懸念から、今回も反対したというのが実情ではないか。

 憲法審査会は、憲法について幅広く調査をしたり、憲法改正原案を審査したりする国会の常設機関である。

 各党は衆院審査会規程に従い、速やかに委員を選任し、いつでも審査を開始できるよう態勢を整えてもらいたい。

 憲法審査会は、国民投票法施行までの3年間、憲法改正原案の審査、提出はできないことになっている。このため、施行までは憲法調査に専念し、問題の整理にあたるわけだが、すでに約2年間をむだに過ごしてしまった。

 国民投票の権利を満18歳以上としたことに伴い、満20歳以上である選挙権年齢の引き下げなどについて検討し、法施行の来年5月までに法的措置を講じるとされている。議論を急ぐ必要があろう。

 一方、参院側は依然として、サボタージュを続けている。参院民主党は、参院憲法審査会の規程を作らないことは「法律違反」という批判をどう受け止めるのか。

 国民投票法が2007年、参院で成立した際には、18項目の付帯決議がなされた。

 その中には「憲法審査会では3年間、憲法調査会報告書で指摘された課題等について十分な調査を行う」とある。民主党は当時、付帯決議には賛成している。

 改憲論者の鳩山民主党代表は、記者会見で「憲法は当然、大いに議論すべきだ」と表明した。

 民主党は、その言行を一致させなければならない。

讀賣新聞 2009年6月12日

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日本の科学力 その土台が崩壊する危機に

 科学立国・日本の土台が崩れかけている。

 政府がまとめた2009年版科学技術白書。

 昨年、ノーベル賞を4人が受賞したことは過去の遺産−、そう痛感させられる現状が白書から浮き彫りになる。

 かつて、優秀な人材は「末は博士か大臣か」とうたわれたが、近年は博士になっても職がなく、当然のことながら、研究者を目指す若者が減っている。

 帰国後の就職もままならないから海外に研究修行にも行けない。

 外国の学生、研究者にとっても日本は魅力に乏しく、腰を据えてくれないという。

■基礎研究の人材不足■

 政府は「科学技術創造立国」を掲げ、1995年に科学技術基本法を作り、5年ごとに科学技術基本計画を立てて、巨額の投資を行ってきた。

 投入額は第1期が17兆6千億円、第2期が18兆8000億円。

 現在の第3期は来年度までで25兆円が目標となっている。

 3期合わせて総額は60兆円を超える。

 だが、投資が巨額の割には効果を疑問視する声がある。

 科学技術白書によると、研究者たちの間で科学技術低下への懸念が広がっているという。

 水準の目安となる論文引用度は欧米に水をあけられたままだ。

 第一線の研究者に聞くと、特に基礎研究を担う人材の不足を嘆く声が多いという。

 大学の理工系学部への志願者数は長期的な減少傾向が続いているし、博士課程に進む人も2003年度を頂点に減り続けている。

■捨てたい効率一辺倒■

 この危機から脱却するためにはどうしたらいいか。

 まず、義務教育段階の理数科教育をしっかり検証しなければならない。

 そして、子どもたちの好奇心をかき立て、考える力を伸ばすカリキュラムにすることだ。

 文部科学省は理数系教員を養成したり、理科の授業で観察や実験を支援する人を配置したりと手は打っているが、まだ十分とはいえない。

 教育現場には、熱意ある教師たちの努力で作られた、優れたカリキュラムが埋もれているという。

 学習指導要領の縛りを外し、そうしたカリキュラムを普及させれば授業に対する子どもたちの姿勢も違ったものになるだろう。

 自由な研究を促し、発想力を育てるために効率一辺倒の考え方を捨てなければならない。

 国立大の運営基盤である運営費交付金などを削るのをやめ、大学の資金で自由な研究ができる余地を確保すべきだ。

 特に人材不足が叫ばれる基礎研究の分野は「科学のための科学」である。

 効率性、即効性を求められると存続さえ難しいことを知るべきである。

宮ア日日新聞 2009年6月11日

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夜間中学 学びの喜びを支えたい

 自主夜間中学が、道内各地で次々に開校している。戦後の混乱や家庭の事情などで、学校に通えなかった人たちが学ぶ。

 生徒は70歳以上のお年寄りが多い。「勤労奉仕や子守で十分に学べなかった」「畑仕事をしなければならなくて、小学5年生までしか学校に行けなかった」−。学びを中断した事情に、戦争や貧困が影を落とす。

 困難を抱えながらも「字を覚えて、孫に手紙を書きたい」「割り算ができるようになりたい」と熱心に教室に足を運ぶ。

 学びを再開させるのに年齢は関係ない。苦難の人生を歩んだ末に、なお基本的な知識を身につけたいと学ぶ姿は光り輝いている。

 先生役はボランティアだ。運営はどこも厳しい。国や道、市町村には学ぶ喜びを守り、育てるための十分な支援策を求めたい。

 夜間中学は戦後、空襲で焼け出された子供たちを対象として夜間に授業を行ったのが始まりとされる。

 管理や競争にとらわれずに学ぶ個性豊かな人々を描いた山田洋次監督の映画「学校」で、その存在を知った人も多いのではないだろうか。

 道内では1990年に自主夜間中学「札幌遠友塾」が開校した。お年寄りばかりでなく、不登校だった若者が学び直す場にもなっており、これまでに400人近い卒業生を送り出している。

 昨春は旭川で「旭川遠友塾」が開校。今春は函館、釧路でも自主夜間中学が活動を始めた。

 全国には東京、大阪など8都府県に35校の公立夜間中学があるが、北海道には1校もない。

 道内関係者は、各地に広がってきた自主夜間中学のセンター校の役割を持つ公立夜間中学を札幌に開設するよう求めている。

 日本弁護士連合会は、公立夜間中学の増設や自主夜間中学への援助を求める意見書を国に提出している。

 学齢期に学ぶ機会を失った人たちの教育を受ける権利を保障するためにも、道や札幌市は、早急に公立夜間中学の設置を検討すべきだろう。

 札幌遠友塾は、以前は市民会館の会議室などで授業をしてきたが、今春から市立向陵中学の教室を借りて授業ができるようになった。

 一歩前進といえる。真剣に学ぶ多様な経歴の人たちを身近に知ることは、中学生たちにとってもかけがえのない体験となるはずだ。

 札幌以外の市でも地元中学の教室を使えるようにしてほしい。

 夜間中学の取り組みは、人間が生涯かけて学ぶことの意義を教えてくれる。地域社会もその活動を温かく見守り、支えたい。

北海道新聞 2009年6月9日

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全国学力テスト 「公表」求める声にこたえよ

 政府の規制改革会議が行った全国学力テストの学校別結果公表に関する調査で、保護者の7割近くが「公表すべきだ」と答えた。保護者がわが子の学力を正しく把握し、問題に対処したいと願うのは当然のことであり、私たちも積極的に公表することによって学校現場に奮起を促し、学力指導の改善に役立てるよう主張してきた。学校と家庭が問題意識を共有し、学力向上の機運を高めるために全国学力テストをもっと有効に活用したい。

 国際的な学力比較調査などで、日本の児童生徒の学力低下が著しい。全国学力テストが約40年ぶりに復活したのは、「ゆとり教育」の反省に立ち、子どもたちの切磋琢磨を促し、学力向上につなげるためである。テスト結果を分析して、教委や学校が真剣に教え方を工夫し、学校教育の改善に一歩踏み出すことが重要なのである。

 保護者へのアンケートと同時期に実施した全国の市区教育委員会への調査では、9割近くが「公表すべきでない」と回答した。保護者の思いとはまったく逆の結果である。これは市町村や学校の自主的公表以外を認めない文科省の方針に配慮しての回答だろう。

 だが、試験結果の公表が「学校間の序列化や過度の競争を招く」という文科省の主張は空疎で、説得力に乏しい。高校進学の際、受験可能な高校は事実上、成績によって決まる。高校段階では、学校間の序列化が当たり前になっているのはやむを得ないが、小中学校の序列化は大いに問題があると言いたいのなら、小中学校の段階で、学校別に大きな学力差がないかを知るリトマス紙として、全国学力テストを活用すればよい。そうした事実があったとしたら、保護者と学校、教委が危機感を共有し、成績の引き上げに一丸となって取り組んでほしいのである。

 公表せずに、「序列化」の事実を隠し通すことの方がよっぽど問題であり、児童生徒や保護者のためにならない。「多大な公費が投入されているのに、それに見合う情報が国民に開示されていない」とする規制改革会議の指摘はもっともである。文科省は積極開示の方向へかじを切るべきだ。

北國新聞 2009年6月9日

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教員免許更新制 実効挙げる仕組み構築を

 一生有効だった教員免許が、本年度から10年間の期限付きとなった。教員免許更新制が導入されたためだ。

 10年ごとに講習を受け、認定されなければ免許は失効する。教員の身分にかかわる制度だ。制度運用に携わる関係機関は公平公正に留意しながら、ぜひ実効が挙がるものにしなければならない。

 教員免許更新制は当初、指導力不足教員や不祥事を起こし処分される不適格教員を排除する脈絡で論議された。

 2000年、森喜朗首相(当時)が主宰した教育改革国民会議が最終報告で「免許更新制の検討」を打ち出した。その後、安倍晋三元首相が首相就任前に「ダメ教師には辞めていただく」と自書で断じたのも記憶に新しい。そこには、教員不信があったといっていいだろう。

 しかし、今回導入された免許更新制は趣旨が違う。不適格教員などに対しては指導改善研修を義務付けるなど、別の方法で対処することになっている。

 教員を見る社会の目は依然厳しく、教員不信が消えたわけではないが、新制度の狙いは、時代の変化に対応した教員の資質向上にあり、教員が「最新の知識技能」を身に付けるのが主眼である。このことを理解しておく必要がある。

 更新制は国公私立を問わず原則、幼稚園から高校までの、非常勤講師を含めたすべての教員が対象となる。10年の免許期限が切れる前の2年間に、必修領域と選択領域の講習を合わせて計30時間受けることが課せられ、講習ごとに終了認定試験を受けなければならない。

 当面は更新時期を35、45、55歳と年齢で区切ることにしており、初年度は2011年3月末時点でこの年齢に達する教員約10万人が対象となっている。

 文部科学省は教職課程がある大学や教育関係財団など491の機関に講習実施を認可した。九州も認可機関は50を超え、講習によっては現在も受講教員を募集中だ。どこで受講してもよく、各機関は夏休みなどに講習を予定している。

 制度の目的からして、まず問われるのは講習の内容や質だ。子どもを取り巻く環境は複雑化し、いじめや学校裏サイト問題、あるいは地域との連携など教育課題は格段に広がった。理数教科や英語などを中心に指導内容も増えている。

 用意した講習がそうした時代の要請に十分応えているか、各大学などは点検を怠らず、充実に努めてもらいたい。

 修了認定の公平さも欠かせない。講習機関で認定基準に差があってはなるまい。文科省は修了認定も含め検証し、講習全般に責任を持たねばならない。

 都道府県教委が実施している10年経験者研修と今回の10年ごとの講習との整合性を、どう図るかも課題だ。教員の負担を減らす意味からも早急に検討に入り、将来は一本化を目指すべきだろう。

 教員が「講習を受けてよかった」と実感できる免許更新制でありたい。

西日本新聞 2009年6月9日

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高校選択 大阪府が調査 定員比率見直し検討

 ■私学助成削減→授業料値上げ→公立校に殺到

 大阪府の橋下徹知事が、府内の高校入試での「公立7−私立3」という定員比率取り決めの廃止を訴えていることを受け、府が高校生を対象に、学校選択に関する初の動向調査を計画していることが9日、分かった。今春の入試では、例年「全入状態」だった一部の公立高に受験生が殺到するなどし、「府による私学助成削減の影響で受験生が公立へ流れた」との見方も根強い。知事は公立枠拡大に前向きで、調査でこうした動きが裏づけられれば、定員枠拡大を打ち出す可能性もある。

 調査結果を参考に、府教育委員会や私学・大学課などは今夏中にも、公私定員比率見直しの素案を作成。府政運営の最高意思決定機関「戦略本部会議」での議論を経て橋下知事が判断を示すとみられる。早ければ平成23年春の入試から新方式へ移行する。

 今回の調査は今春の入試を受験した高校1年生らが対象で、全員参加型か抽出型かといった点は未定。志望校を決めるときに重視した要素などを尋ね、進路選択に関する受験生のニーズや動向を浮き彫りにすることを目指す。府の担当者は「公私比率の見直し論議を進めるうえで客観的な根拠は不可欠と考えた」と話している。

 橋下知事が打ち出した財政再建策に伴い、府は昨年8月から私立高への補助金を10%削減。府公立中学校長会が今年1月に実施した卒業見込み者対象の調査によると、府内の私立高を専願する生徒の割合は前年度同期比1・66ポイント減の15・69%に落ち込み、過去最低となった。

 実際に今春の入試では「私立離れ」の傾向が顕著に表れ、ここ数年ほぼ定員割れの状態が続いていた公立高夜間課程の2次試験(実施校19)で計167人が不合格になるなどの事態を招いた。長引く不況に加え、助成が削減され多くの私立高が授業料を値上げしたことが影響しているとみられ、府教委は急遽、“行き場”を失った生徒たちのために4月に補欠募集を行うという異例の措置を講じた。

 橋下知事は今月5日の定例会見でこの問題に触れ「(私学の)経営者サイドが決めた7対3という枠ではなく、ユーザーである生徒の側に立った制度設計が必要」と主張。「僕の根底には(高校進学希望者を)公立で全部受け入れたいという気持ちがある」と公立枠拡大に前向きな姿勢を示している。

【用語解説】高校入試での公私定員比率取り決め

 公立と私立が協調して生徒を受け入れることを目的に、大阪府では昭和60年ごろに始まり、平成10年度入試以降ほぼ7対3で推移している。今春の入試では、府教育委員会と私学側の協議の結果、公立で4万4480人、私立で1万9100人を受け入れる計画を立てた。大阪府のほか、東京都や神奈川県でも取り決めが行われている。

産経新聞 2009年6月9日 15時37分

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宇宙基本計画 軍事の拡大を懸念する

 宇宙の軍事利用の拡大につながらないか。危惧(きぐ)を抱かざるを得ない。

 政府の宇宙開発戦略本部(本部長・麻生太郎首相)が決めた宇宙基本計画だ。

 基本計画は昨年成立した宇宙基本法に基づく初の国家戦略である。従来、研究に力点を置いてきた日本の宇宙政策を利用重視に転換しようと打ち出したのが特徴だ。

 具体策として5年間に官民で最大2兆5千億円を投じ、34基の人工衛星を打ち上げる目標を明示した。

 アジアで災害が発生した際には衛星による観測情報を各国に提供するという。宇宙の平和利用を前進させる施策は歓迎したい。

 衛星やロケットの開発事業は産業としてすそ野が広い。国内産業の振興を促すことも目指している。

 懸念されるのは、安全保障分野での宇宙利用計画である。基本法は国是である「専守防衛」の条件の下で、宇宙の軍事利用に道を開いた。しかし、基本計画ではそこが強調されすぎてはいないか。

 目を引くのは、ミサイル発射を探知するセンサーの研究推進が盛り込まれたことだ。

 センサーはミサイル防衛(MD)システムを強化する早期警戒衛星に不可欠な装置である。研究推進は衛星導入の足がかりとなるものだ。

 北朝鮮による4月のミサイル発射問題では、日本は米国の警戒衛星から情報を入手した。与党内には以前から自前の衛星を持つべきだとの声があり、その後の核実験実施でさらに勢いづいている。

 しかし脅威を前面に出して、事を性急に進めるべきではない。

 もともとMD計画は多くの問題点をはらんでいる。技術、情報の共有は日米の軍事一体化を進め、憲法に抵触する恐れのある集団的自衛権につながりかねない。

 周辺国の警戒を招き、緊張を高める。軍拡競争は避けねばならない。

 衛星導入には数兆円規模の予算が必要とされ、費用対効果の面から政府内にすら慎重論がある。このため年末に決定する防衛計画大綱の改定作業の中で、導入の是非を時間をかけて議論することにしている。

 その結論が出る前に、衛星の「心臓部」である装置の研究推進を掲げるのは先走りすぎている。

 米国のオバマ政権は、軍事費の削減を目指してMD計画の縮小を打ち出した。日本もむしろ立ち止まって、冷静に見直すときである。

 宇宙技術はそもそも軍事、民生の両面を併せ持つ。しかし平和外交を掲げるからには、軍事面だけが突出することがあってはならない。

 夢を広げる宇宙政策はあくまで平和目的が大原則だ。

北海道新聞 2009年6月8日

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チェンジ!少子化、高齢者に偏る社会保障費を子供にも

 足元では少子化の流れが小康にある。昨年の合計特殊出生率は1.37と3年続けて上昇した。2007年までの景気拡大などが寄与したようだが、昨秋からの経済危機でこの基調を長続きさせるのは難しい。

 また人口構造の面では団塊ジュニア世代が30代後半に差しかかった。放っておけば出生率は再び低落傾向に逆戻りするとみておくべきだ。

場当たりでは効果出ず

 その低落を止め、反転させる道のりは険しい。政策面では保育分野の規制改革と予算の拡充が二本柱になる。国、地方自治体とも空前の借金を抱えているなかで財源をどう工面するか、知恵と工夫が試される。

 今年度の補正予算に少子化対策と銘打ったものがある。就学前3年間の子について、今年度にかぎって第1子にも3万6000円の特別手当を各家庭に出す。なぜ1年限定なのか。選挙を控えた与党側のばらまきといわれても反論は難しいだろう。

 昨秋の生活対策でつくった「安心こども基金」は、今補正で約1400億円積み増す。財源は国債発行頼みである。無駄なく有効に使うべきだ。株式会社が経営する保育所が公立保育所と対等に競い合うための助成金など使い道を工夫してほしい。

 元来、少子化に歯止めをかけるための予算を補正に計上するのは筋がとおらない。安定した財源を工面して社会保障制度の一環として給付すべきだ。場当たり的な予算の分捕りは費用対効果の面でも問題がある。少子化対策の財源確保について議論を深めてこなかった結果だろう。

 06年度の社会保障給付費は89兆円を突破した。これがどの世代に向かったか内訳をみると、高齢者関係費が69.8%、育児支援など児童・家庭関係費は4.0%だ。この比率はここ数年、ほぼ固定している。

 高齢者に手厚い社会保障の構造が見て取れる。年金や高齢者医療、介護保険を中心に運営してきたので当然といえるが、今後は少子化対策を第4の柱に据える必要がある。

 将来は消費税の増税分の一部を少子化対策にも安定的に振り向けるのが課題になろう。だがその前にまず、老若で70対4の配分を少し変えれば当面の安定財源につながる。

 3歳未満への児童手当を月1万円に倍増させたのは07年度だ。当時、予算編成でこれが見送られそうになった。財源難を唱える財務省だけでなく、ほかの社会保障予算を削られたくない厚生労働省も慎重だったためだ。最後は少子化対策担当相の粘りで実現したが、1100億円強の公費を算段するのでさえ難渋した。

 高齢人口が膨張しているうえに高齢層は一般に選挙での投票率が高いので、配分の固定を動かすのは政治的に簡単な話ではない。たとえば所得の高い高齢者への年金課税を強化するなど、どの部分が抑制可能なのか、議論を深めておくべきだ。

 道路や地方空港、各地のハコモノ建設など人口減時代にふさわしくない公共事業に費やすお金を少子化対策に回すことも必要だ。各省縦割りの予算編成に、一度決めると変えにくくなる「固定化のワナ」が潜んでいる。モノへの投資からひとへの投資へ、めりはりを利かせた予算編成に向け、政権の手腕が問われる。

 たとえばベビーシッターの料金を所得控除の対象にするなど新機軸を打ち出してはどうか。また政府と民主党の双方が導入の検討を始めた税額控除と給付金とを組み合わせた支援策を、より子育て世代の助けになるよう仕組むのも有効な手立てだ。

民主党は安定財源示せ

 民主党にも注文がある。中学卒業までの子供に月2万6000円を支給する方針だが、07年の参院選マニフェスト(政権公約)で総額4兆8000億円としていた財源をどう工面するのか。政府の無駄を削る、埋蔵金を掘り当てる、では説得力を欠く。財源確保の道筋を示すべきだ。

 住民に身近なところで行政サービスを提供している市区町村も腕の見せどころだ。狭くても安くて使い勝手のよい保育所を増やす、子供の医療費を助成する、子育て世代の雇用の場を広げるため企業誘致に力を注ぐ――。権限と資金を国から移せば、あとは首長のやる気しだいだ。

 住みよく子育てしやすい地域だという評判が広がれば、若い流入人口が増え、税収増につながる好循環が生まれる。子育てのしやすさを地域間で競う時代である。

 財源難のなかで予算配分を組み替えるには、国レベルでは首相、自治体では首長の指導力がいる。そのリード役は少子化担当相である。今、2人目を身ごもっている小渕優子担当相は9月末に出産予定という。夏に向け来年度の予算編成が始まる。身重での陣頭指揮は大変だろうが、存在感を発揮してほしい。

日本経済新聞 2009年6月7日

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学力テスト調査 不毛な論争を生むだけだ

 テスト結果を知りたいと思うのは受験者やその関係者なら皆同じはずだ。こんな分かり切ったことを聞く必要があったのか。

 政府の規制改革会議が行った全国学力テストの学校別結果公表に関する調査のことである。保護者の7割近くが「公表すべきだ」と答えた。当然の結果だろう。

 同時期に実施した全国の市区教育委員会への調査では86・7%が「公表すべきでない」と回答した。文部科学省は「いたずらに競争をあおる」として公表を控えるように求めている。市区教委の多くが「ノー」と答えるのは目に見えていた。

 それなのに規制改革会議があえて調査を行い、保護者と教委の見解の違いを際立たせたのには理由がある。この懸け離れた数字を文科省に突きつけて公表を迫るためだ。

 テスト結果の公表をめぐっては、大阪府の橋下徹知事ら一部の知事と教委が、情報開示で対立するなどの問題が起きている。

 規制改革会議は調査結果を受け「多大な公費が投入されているのに、それに見合う情報が国民に開示されていない」と文科省に注文を付けた。

 これでは保護者の声を盾にして、教育現場の混乱に拍車を掛けるのと同じではないか。恣意(しい)的な調査であると言わざるを得ない。

 全国学力テストは子どもの学力低下が指摘されたため、全国的な状況を把握する目的で2007年度に43年ぶりに復活した。国公立すべての小学6年生と中学3年生が対象で、国語と算数・数学が科目となる。

 毎年4月に行われ、その費用は50億円以上にも上る。規制改革会議がいう「多大な公費が投入され」は、その通りといっていい。だが、事は教育にかかわることである。「多額の公費」と「結果公表」を短絡的に結び付けていいはずがない。

 学力テストをめぐっては当初から、無用の競争を招くだけだと、その効果を疑う声が上がっていた。学力傾向を知るには抽出調査で十分だとする意見も有力である。

 全員参加テストが毎年必要なのか。50億円が有効に使われているのか。規制改革会議は、まずそこから論議を始めるべきであろう。「公表の是非」などは会議の本旨ではあるまい。

 調査をするなら学力テストそのものの是非を問うてほしかった。「公表の是非」では、不毛な論争を蒸し返すだけで終わってしまう。

 学力テストには保護者、学校、自治体とも不信、不満を抱いているのではないか。これ以上の混乱は避けねばならない。文科省は学力テストの在り方を根本から見直すべきだ。

新潟日報 2009年6月7日

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18歳成年 若い世代にも選挙権を

 米国に黒人で史上初のオバマ大統領が誕生して4カ月余り。イラクをはじめ対テロ戦争に疲れた国民に「変革」を訴えて登場したオバマ氏の勝利に大きく貢献したのはブログなどのインターネットを自在に使いこなす18歳から20代にかけての若い世代だったといわれる。

 日本でも選挙権年齢の引き下げが現実味を帯びてきた。 成人年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正を検討している政府の法制審議会(法相の諮問機関)は先月、「選挙権が18歳に引き下げられた場合は、特段の弊害がない限り、民法の成人年齢も18歳に引き下げるのが適当」とする最終報告の原案をまとめた。

 来月には最終報告を作成し、今秋に法相に答申する。引き下げについて賛否両論を併記した昨年12月の中間報告に比べ、引き下げ容認の方向性が打ち出されたことで、来年5月の国民投票法施行までに検討することになっている成人年齢引き下げが実現する可能性が出てきた。

 18歳成年の議論が始まったのは一昨年5月、憲法改正の手続きを定めた国民投票法が成立したからだ。同法は投票権者を「日本国民で満18歳以上の者」と規定。施行までに民法の成人年齢や公職選挙法の投票権を見直すことを明記した。

 しかし成人年齢を引き下げる民法改正は、結婚や契約行為に親の同意が必要なことや、未成年者の飲酒や喫煙、公営ギャンブルを禁じる法律など幅広い影響を及ぼす。内閣官房のまとめでは、こうした年齢条項が見直しの対象となる法令は308本に上る。

 内閣府が昨年実施した世論調査では、18歳成人への民法改正について「経済的に親に依存している」「自分で責任がとれない」などの理由で7割近くが反対し、抵抗感が根強かった。

 成人年齢を引き下げれば親の同意がなくても契約ができるようになり、悪質商法被害が心配されるといった課題もある。同審議会が昨年末の中間報告で賛否両論を併記したのもこのためだった。

 一方で同審議会は原案の中で「若年者を国づくりの中心としていく強い決意を示し、若年者の自立を援助する施策の推進力となることが期待される」と強調した。

 日本の若者の政治や選挙への関心の低さはよく指摘される。理由の一つに選挙権年齢も挙げられるのではないか。

 国立国会図書館の調査では各国の選挙権は189カ国・地域のうち、欧米主要国や中国など9割近くが18歳を基準にしている。20歳は日本や台湾など7カ国にすぎない。

 少子高齢化社会が進み、年金や医療、介護などの社会保障費負担や財政赤字問題など、若い世代に将来担ってもらわなければならない政治課題は山積している。

 ならば、選挙権を若い世代に広げることは国の将来を考えるうえでも重要だ。民法など関係法令の改正論議に時間がかかるのなら、公選法の選挙権年齢に絞って議論する方法もある。

小笠原裕

岩手日報 2009年6月4日

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「歳出引き締め」後退、再建は消費増税頼み 財政審

 財務相の諮問機関の財政制度等審議会(財政審)は3日、10年度予算編成に向けた意見書を公表した。経済危機を受け、これまでの「引き締め路線」の軌道修正が目立つ。政府の経済財政諮問会議が着手した財政再建の新目標づくりも増税が前提。高齢化や格差拡大で社会保障費の抑制は難しくなり、将来の消費税アップは避けられないとの思いがちらついている。

     ◇

 「財政規律を確保できる形で考えてほしい」。財政審の西室泰三会長は、10年度の予算編成の基本的な考え方を示した意見書を与謝野財務相に手渡した後、記者会見でこう説明した。

 10年度予算は09年度予算よりも税収減が確実で、意見書は「公債依存度が大幅に上昇する見込みだ」との見通しを示した。「非効率な歳出の改革を先行すべきだ」(財務省幹部)との考えから、とりわけ医療と大学に重点を置き、具体的な問題を提起した。

 医療分野では、地域間や診療科目による医師の偏在を取り上げ、中央社会保険医療協議会(中医協)が決めている診療報酬の配分方法に一因がある、と指摘。10年度の改定で、開業医と勤務医の待遇差の是正などを求めた。

 大学予算については、国立大学法人に、横並び意識を捨てて研究や教育成果を評価した上で予算の配分を決める「成果主義」を強化することを促した。

 もっとも、一般会計の25%を占め、少子高齢化で膨らむ社会保障費については、昨年までの歳出抑制路線から大きくトーンダウン。前年の意見書には、自然増を毎年2200億円ずつ抑える数値目標が盛り込まれたが、今年は数値を明示していない。

 09年度予算で社会保障費の抑制目標は事実上崩壊し、経済危機対策では「安全・安心」が旗印となっている。西室会長は「具体的に言っていないのは、『骨太09』で示してほしいからだ」と諮問会議の判断にゲタを預けた。

「歳出引き締め」後退、再建は消費増税頼み 財政審(2/3ページ)
2009年6月4日5時3分
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 一方で意見書は、将来世代へのツケ回しを減らすため、歳入増の必要に言及。「安定財源の確保が一刻も早く求められている」とした。ただ、財源として有力視される消費増税については、具体的な言及を避け、従来の政府方針の紹介にとどまった。総選挙が近い現状を踏まえ、与野党の対立をあおって政局を揺さぶりかねないとの判断だが、財政の「お目付け役」としては物足りない中身だった。

     ◇

 財政再建の新たな目標の柱として、政府の経済財政諮問会議で議論が本格化したのが、債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率の抑制だ。日本は主要国の中でも比率が際立って高く、経済規模に見合った額に債務を抑える必要がある。

 これまでは、税収で借金返済を除く歳出をまかなう「基礎的財政収支の黒字化」を11年度に達成することが優先され、債務残高には焦点が当たっていなかった。だが、11年度の黒字化は不可能に。3日の諮問会議で内閣府が明らかにした試算では、黒字は20年代初めだ。赤字の間は債務は増え続け、長期金利が上昇すれば負担はさらに重くなる。

 同日の諮問会議で民間議員は、債務残高GDP比の引き下げを柱に、基礎的財政収支も改善させる新たな目標をつくるよう提言。与謝野経済財政相は会議後の会見で「フロー(収支)とストック(債務残高)の両方の目標を決めないと定かな結果をもたらさない」と述べた。

 新たな目標は、歳出削減と同時に10年代半ばまでに消費税増税を含む税制改革を行うことが前提だ。与謝野氏は会見で、増税は「(財政再建に)間接的には恩恵がある」と述べ、財政再建と切り離せなくなっている。
「歳出引き締め」後退、再建は消費増税頼み 財政審(3/3ページ)
2009年6月4日5時3分
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 民間議員は次回の会合で具体的な目標案を示す予定で、月末にまとめる経済財政改革の方針「骨太の方針09」に盛り込まれる。(山口博敬、橋本幸雄)

     ◇

■財政審の建議(意見書)の骨子

【総論】

・我が国財政は極めて危機的な状況

・15.4兆円を投じる「経済危機対策」は緊急避難で一時的な措置

・11年度までの基礎的財政収支黒字化の目標は達成困難

・債務残高の対国内総生産(GDP)比の安定的引き下げが不可欠

・10年度予算は税収減などから公債依存度が大幅に上昇する見込み

・10年度予算でも「骨太06」の歳出改革の方向性は維持

【社会保障】

・現在の社会保障給付は将来世代へのつけまわしに依存している。一刻も早く社会保障の安定財源を確保することが極めて重要

・診療報酬の配分見直し、医師の適正配置に早急に取り組む必要

・国民医療費確保の安定財源が必要。自己負担増も視野に

【その他】

・大学の過剰が学力低下の要因。大学の質の向上と量の抑制が急務

・温室効果ガスの排出量削減目標は、達成への道筋が描ける水準に設定し、財政措置は歳出改革と整合性がとれたものに

・農政改革では、農地集積を通じた農業経営体の規模拡大が必要

朝日新聞 2009年6月4日

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政府、宇宙基本計画を正式決定 首相が政府一体の推進指示

 政府の宇宙開発戦略本部(本部長・麻生太郎首相)は2日の会合で、宇宙開発を国家戦略として位置付ける初の宇宙基本計画を決定した。弾道ミサイルの発射を探知する早期警戒衛星のための研究推進を盛り込むなど、宇宙基本法施行で解禁された防衛目的の宇宙利用拡大を掲げた。

 決定に当たり、麻生首相は「先進国だけでなく、中国やインドも(宇宙開発に)本格参入し、競争が激化している。計画が絵に描いたもちに終わらないよう、政府一体となって取り組んでほしい」と指示した。

 予算の記述をめぐっては、自民党内で「5年間で政府予算の倍増を目指す」と、具体的な数値目標を盛り込む動きがあった。だが、財務当局が5年間の支出を確約するような形式に難色を示し、本文中での記載は見送られた。

 同計画は、昨年成立した宇宙基本法に基づき策定。10年後を見通した2013年度までの今後5年間の政策を、地球環境観測など9分野で詳しく記した。人工衛星の打ち上げは、現在のペースの2倍の、5年で34基としている。

共同通信 2009年6月2日

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授業料滞納1万5000人=大学生ら、08年度末−文科省

 大学、短大、高等専門学校の授業料を2008年度末時点で滞納していた学生は1万4662人に上ることが、文部科学省の調査で分かった。学生全体に占める割合は前年同期比0.2ポイント増の0.6%で、同省は「不景気の影響が出た。学校側は、学生が経済的理由で就学機会を失うことがないよう対応してほしい」と求めている。

 調査は、国公私立の大学、短大、高専について07、08年度末の状況を集計。全国1225校のうち1148校から回答があった。

 これによると、08年度中に経済的理由で中途退学した学生は7715人。約7割の学校では経済的支援に関する相談件数が増加した。

 学校側の対応としては、経済危機が深刻化した昨年9月以降、219校が奨学金制度を新設、拡大したり、授業料や入学料の猶予減免を新たに実施したりした。

 全国の私立高校を対象にした別の調査では、08年度末に授業料を滞納していた生徒は同0.1ポイント増の0.9%に当たる9067人だった。

 文科省は「09年度予算、補正予算に奨学金事業への支援などを盛り込んだ。これらの施策を活用し、きめ細かい対応をお願いしたい」としている。

時事通信 2009年6月2日


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