2009年5月


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指導カルテ 自主的判断で見直しを

 一人の保護者が投じた一石が、学校関係者に大きな波紋を広げている。

 県内の公立学校で作成されている「子ども理解のための指導・支援カルテ」について、多くの市町村が、廃止を含む見直しを検討する考えであることが、本紙のアンケートで分かった。 

 カルテは家庭環境や友人関係、問題行動など児童・生徒の個人情報を記録したものである。

 個人情報保護条例に基づいてカルテの開示を要求した西原町の保護者が、事実と異なる記載を見つけ、町教育委員会に削除を求めた。それが事の発端だ。

 町教委は削除の必要はないと判断したが、同町の情報公開および個人情報保護審査会は、カルテが条例の趣旨に反するとして保護者の不服申し立てを認めた。

 カルテに盛り込まれた情報の中には、人に知られたくないマイナスの情報も少なくない。なぜ、このような個人情報が、学校の中で引き継がれてきたのか。

 カルテの作成は2003年7月、北谷町で少年グループによる中学2年生殺害遺棄事件が明るみにでた直後に、県教育委員会が対応策として打ち出したものだ。

 事件以降、各地域で「子どもの居場所づくり」の取り組みが始まった。

 カルテは、家庭や地域社会との関わりを重視する立場から、家庭環境や交友関係などにも触れ、問題行動などの情報を共有することを目的に作成された。そこに大きな落とし穴があった、といえる。

 県教育庁は03年の制度導入時に、学校現場に対し、学校以外の関係機関への情報提供に際しては児童・生徒のプライバシーに配慮し、慎重を期すよう求めている。 

 個人情報に関わるデリケートな問題を含んでいることを県は認識していた。しかし、市町村教委にそのあたりの事情を説明し、周知徹底を図ったとは言い難い。

 県も市町村も独自の個人情報保護条例をもっている。カルテの作成・運用にあたって、条例に抵触するかどうかを検討するのは当然だ。だが、本紙のアンケートによると、個人情報保護条例との関連を検討したのは6市町村。条例に基づいて首長に届け出たのは2市町だけである。

 事件発生を契機に県教委が緊急の対応策として打ち出したカルテは、子どもの個人情報保護が十分になされないまま運用されていたのである。

 問題が表面化したことを受けて西原町は、カルテの廃棄を決めた。糸満市と南風原町も廃止の方向で検討しているという。見直しの動きが広がっていることを歓迎したい。

 個人情報保護条例に照らして、カルテの様式や内容に問題はないのかどうか。適切な指導のためにカルテはどうしても必要なものなのか。導入のいきさつも踏まえながら、すべての市町村が作成・運用の実態を検証し、問題点を洗い出してもらいたい。

 県の顔色を伺うのではなく、子どもに目を向けた、子どものための、主体的な教育行政が必要だ。

沖縄タイムス 2009年5月31日

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博士課程の定員縮小を 国立大に大学院再編促す 文科省要請へ

 修了者の就職難などが指摘されている大学院の博士課程について、文部科学省は全国の国立大学に定員の縮小を要請する。大学間での院統合も含めた組織再編を促す。今後、定員・組織を見直す大学を財政支援する仕組みを整え、自主的な取り組みを後押しする。

 国立大大学院の入学定員は合わせて五万七千人で、うち博士課程が一万四千人。文科省は長年、学部から大学院に教育研究の重点を移す政策を継続してきたが、博士課程では就職への不安などから定員割れが相次いでおり、軌道修正を決めた。

 有識者で構成する国立大学法人評価委員会(野依良治委員長)はこの方針を大筋で了承。同省が近く大臣名の書面で要請し、各大学が六月中に素案をまとめる二〇一〇年度からの中期目標に反映させる。

 要請書案が定員、組織の見直し対象として挙げたのは、大学院博士課程以外に、少子化で需要の先細りが見込まれる教員養成系学部、各大学が既に定員縮小の検討を始めた法科大学院。ほかの学部などでも必要に応じ見直すよう求めている。

 大学自治の観点から、一律の縮小を押し付けるのではなく、大学側がそれぞれの特色や学生の充足状況を考慮して自ら決断することが前提。文科省は、見直しに応じる大学に資金を厚めに配分する仕組みを検討する。

 八十六ある国立大は〇四年度の法人化に際し、教育・研究水準、業務運営について六年間の中期目標を策定。期限が切れる本年度は、二期目の目標を立てる。ただ、現行目標は抽象的で、達成できたか評価しづらいとの批判がある。同省は目標に数値や達成時期を盛り込むことも求める。

時事通信 2009年5月31日

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スポーツ庁 誰のための「役所」なのか

 役所をつくれば競技力が上がって、金メダルが量産されるということなのか。

 スポーツ庁の新設などを提言した政府の教育再生懇談会の第四次報告の中身が明らかになった。ほかにスポーツ基本法の制定や国際大会の招致に向けた国の積極的な取り組みなどが盛り込まれている。

 スポーツ行政の主たる所管は文部科学省だが、障害者スポーツなどは厚生労働省が受け持っている。新庁構想はこれらを一元化し、国策としてスポーツに取り組もうというものだ。

 「する」「見る」「支える」。老若男女、健常者も障害者も誰もが同じようにスポーツを楽しむ。そのために縦割り行政を廃し、スポーツ文化を醸成していく。そんな理念を持った役所なら大いに歓迎したい。

 しかし、報告を見る限り、どうもそうではないらしい。休廃部が相次ぐ企業スポーツや子どもの体力低下を指摘したうえで、国際大会などでの成績に触れ「わが国の国力に見合ったものからはほど遠い」と低迷を嘆いている。

 これでは「メダル至上主義」を声高に叫んでいるのと同じだ。教育を考える懇談会の報告とは思えない。エリート育成のために役所がつくられるとしたら本末転倒である。再生懇のいうスポーツ庁の危うさがここにある。

 確かに国際大会や海外での日本人選手の活躍には胸が躍る。子どもたちに夢を与える存在でもある。だが、それを「国力」と結び付けて語っては、スポーツの本質を見誤ることになる。

 健全な心と体をはぐくむ。それがスポーツの原点だ。最近、本県の中学生のフットサル大会で、次の試合を有利にするため、わざと自分のゴールにけり込んで負けた試合が問題となった。

 学校現場にも「勝ちさえすれば」という風潮が入り込んでいるようにも見える。報告が勝利至上主義を助長するものにならないか心配だ。再生懇にはもっと本質的な論議を深め、その中からスポーツ行政のあるべき姿を示してほしかった。

 国会でも超党派の「スポーツ議員連盟」が、新庁創設を盛り込んだスポーツ基本法の制定を目指している。再生懇の報告を追い風に、六月半ばまでには法案としてまとめ、今国会に提出する方針という。

 各地にサッカーのJリーグチームができ、野球やバスケットボールの独立リーグが誕生している。日本のスポーツ界は学校、企業中心から少しずつ姿を変え始めている。

 この過渡期に国も私たちもスポーツに対して、どう向き合っていけばいいのか真剣に考える必要がある。拙速な論議の中で生まれた「スポーツ庁」では禍根を残すことになりかねない。

新潟日報 2009年5月31日

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貧困・格差なくし誰もが学べる権利を  京都府立高教組

 京都府立高等学校教職員組合(原田久委員長)は30日、京都市左京区の京都教育文化センターで第64回定期大会を開き、貧困と格差を是正し誰もが学べる権利の確立を目指すなどの09年度運動方針を採択しました。

 運動方針では、○高校・大学の学費無償化の実現○「道徳教育」の強要や競争と詰め込みの新学習指導要領を許さず人格の完成をめざす権利としての教育を進める○賃金カットと一体の成績主義賃金や教員免許更新制を許さない○パワハラ・管理主義と長時間過密労働の改善―などを目指します。

 原田委員長は、例年にない新採教員の組合加入は組合の運動が必要とされているからであり、京丹後市の高校募集定員増は父母や地域の人たちとともに団結してたたかった成果だとのべ、「貧困と格差拡大を許さない組合活動をいっそう発展させるとともに、総選挙で平和憲法を日々の暮らし、教育に取り入れ、国民本位の政治を実現させよう」とあいさつしました。

 来賓としてあいさつした日本共産党の山内佳子府議は、「京丹後市での高校募集定員増実現で子どもらが『無理だと思ったことでも動けば変わる』と運動成果の確信をもつことができた。今後も一緒にがんばりましょう」と呼びかけました。

                                  ◇

 大会で選出された役員は次の通り。
 ○執行委員長=原田久○副執行委員長=永崎靖彦、佐野幸良(以上再)○書記長=馬場勝幸(新)。

京都民報web 2009年5月31日

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教育再生懇 所得格差を埋める教育投資を

 家庭の所得格差が、子どもの受けられる教育の質や量の違いにつながらないよう、国は必要な投資をすべきだ――。

 政府の教育再生懇談会の第4次報告の要点は、ここにある。もっともな指摘だろう。

 報告は、他の先進国に比べて幼児教育と高等教育への公的支出が少ない点を重視し、その私費負担の大きさは「看過できない水準にまで至っている」としている。

 人格形成のスタートにあたる幼児教育の充実に、異論を挟む人はいないだろう。

 内閣府などの調査では、希望する人数の子どもを持つことに消極的な理由として、多くの人が経済的な負担を挙げている。

 このため、報告は、幼児教育無償化の早期実現を目指しつつ、当面、幼稚園に子どもを通わせる親への補助など市町村の施策を国が支援するよう求めている。家計の負担を減らすことは、少子化対策にもつながるだろう。

 一方、4年制大学への進学率は約50%に上るが、実際には親の経済力によって大きな差がある。年収400万円以下だと約30%、1000万円超であれば約60%と、2倍もの開きが出ている。

 文部科学省の推計では、標準世帯で、子ども2人がともに大学生の場合、その費用は家計の3分の1を占める、という。

 別の調査では、幼稚園から大学卒業までの教育費は、すべて国公立でも約900万円、一貫して私立だと約2300万円に上る。

 奨学金や大学独自の授業料減免などの制度もあるが、それでも断念せざるをえない若者がいる。親が低所得のため進学をあきらめざるをえず、学習意欲にも影響が出る、と指摘する専門家もいる。

 所得格差が教育格差に、それが所得格差につながる、という連鎖を防がねばならない。

 高等教育への公的支出を充実させ、意欲や能力のある者が進学したり研究に専念したりできる環境を整える。それは、資源の乏しい日本が、技術立国として存在感を発揮していくうえで不可欠な人材の育成にもつながるはずだ。

 幼児教育と高等教育を結ぶ小中高校という初等中等教育が、重要なことは言うまでもない。

 報告が、塾に通わなくても確かな学力を身につけられるよう、保護者から信頼される公教育の確立を掲げているのは当然だろう。

 教育費のあり方については、文科省の懇談会でも有識者による検討が始まった。今回の報告も参考に、議論を深めてもらいたい。

讀賣新聞 2009年5月29日

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政策を総動員して成長軌道に回帰する − 2009年度総会決議 −

2009年5月28日
(社)日本経済団体連合会

今、世界は未曾有の危機に直面している。国際的な金融システム不安はいまだ収束する様相を見せず、世界中のあらゆる地域で実体経済に深刻な影響を及ぼしている。各国ともに過去に類例をみない大規模な経済対策を矢継ぎ早に打ち出し、国際的な連携を通じた金融の機能強化・安定化策も採られているが、いまだに立ち直りへ明確な道筋はみえない。

日本もまた、世界不況という荒波の直撃を受けている。雇用への不安に加えて、急速な少子化・高齢化、深刻な財政赤字、そして社会保障制度に対する不信とが相俟って、国民は将来への展望を失いかけている。

かかる難局に怯むことなく、こういう時こそ前例に囚われず、将来を見据えた大胆な経済政策を速やかに実行するとともに、不退転の決意で経済社会の構造改革を推進しなければならない。待ち受ける道は険しいが、日本の潜在力を引き出し、希望の国を造り上げるべきである。

経済界は持続可能で活力ある経済社会を目指し、総力を結集して以下の諸課題に取り組む。この国の再生に向け、各界各層の協力を得つつ、われわれは改革の先頭に立つ覚悟である。


1.当面の困難を克服する
(1) 日本版ニューディールを推進して成長力強化に資する国家的プロジェクトを迅速に実施し、需要を喚起する
(2) 経済の底割れを回避するための危機管理として経済社会のセーフティネットを充実強化する
(3) 政労使の一致協力した取り組みにより雇用の安定と創出を図る
(4) 国際金融市場の機能強化・安定化と東京市場の活性化を図る
(5) 規制改革・民間開放を徹底する
(6) 政策を軸にした政党支援を通じて、政治改革の実現を働きかける
2.成長の糧となる堅固な基盤を整備する
(1) 実効ある少子化対策に取り組むとともに、世界に先駆けて少子化・高齢化・人口減少社会にも対応した成長モデルの確立を目指す
(2) 持続可能な社会保障制度を確立し、消費税を含む税制抜本改革と財政健全化を一体的に進める
(3) 法人税制や経済法制の見直し、国際標準化政策などを戦略的に推進するともに、規制緩和等を通じて対日直接投資の促進を図る
(4) 人材育成や教育の充実、有能な外国人材の活用、産学官連携を通じてイノベーションを加速化し、産業競争力強化を図るとともに、新規事業や起業を促進する
(5) 総合的な交通インフラなどの社会資本を効率的かつ戦略的に整備するとともに、積極的な観光振興を通じて地域経済の活性化につなげる
(6) 知的財産政策を推進して、国際競争力を強化する
(7) 戦略的な資源外交でエネルギーの安全保障を図る
(8) 農業の活性化・競争力強化等に取り組み、食料の安定供給確保を図る
(9) ICT、宇宙・海洋、医療などの先端的分野の科学技術開発と利活用を推進する
(10) ODA等を通じた機動的な国際協力の推進や経済連携協定の拡大・深化を図るとともに、WTOドーハラウンド交渉の早期妥結によって断固として保護主義を回避する
3.希望の国を目指して前進する
(1) 自立した地域経済の確立を図って東京一極集中を是正するとともに、道州制の推進を図る
(2) 電子行政・電子社会を実現し、共通コードの導入等の効率的な行財政システムを構築する
(3) 低炭素社会の実現に向けて、革新的な環境・エネルギー技術の開発・普及を促進するとともに、公平で実効ある地球温暖化防止の枠組みを構築する
(4) 東アジア経済統合の推進と域内の有効需要創造に資する戦略的な国際協力を展開する
(5) 全員参加型・多文化共生型社会の構築、快適な住環境づくり、働き方の多様性や仕事と生活の調和を推進する
(6) 企業倫理の確立、社会的責任の遂行に全力を傾注する

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大学院大学法案 今国会での成立を図れ

 沖縄科学技術大学院大学学園法案が、ようやく審議入りする。衆院沖縄北方問題対策特別委員会は法案審議のため27日に現地を視察し、28日に趣旨説明を行う予定だ。

 民主党の方針が定まらず、法案審議に入れない状態が続いていただけに、県内関係者はほっと胸をなで下ろしているに違いない。集中審議で問題点を洗い出し、今国会成立を図ってもらいたい。

 民主党が問題にしているのは、将来の財政支援に対する政府の姿勢である。

 法案は国の財政支援について、経費の「2分の1以内」を補助するとうたっている。ただし、付則の中に、開学から10年間は2分の1を超える補助も可能なことが盛り込まれている。

 「2分の1」の補助率設定が何を根拠にしているのか。それが妥当かどうか、が審議すべき第一の論点だ。

 第二に、10年が経過して以降の財政支援がどうなるかである。法案はそこまでは具体的に触れていない。

 「外部資金の充実」が計画通り進まず、自立的経営に支障が生じた場合、巨額の運営資金をどのように確保していくのか。

 「世界最高水準の教育研究」を開学の基本理念として掲げている以上、その中身を維持するためには、恒久的な、手厚い支援が必要だ。財政支援の「手厚さ」がプロジェクト成功の鍵である。

 民主党も大学院大学の重要性については認めている。財政支援問題で与野党が歩み寄ることができれば今国会での法案成立は可能なはずだ。

 法案によると、沖縄科学技術大学院大学は、既存の大学と比べかなり特異だ。

 設置形態が、国立大学法人や学校法人と異なる「特別な学校法人」となっているのもその一つ。国立大学法人と比べ国の制約が少なく、自主的で柔軟な学校運営が可能だという。

 もう一つの特徴は、法律の目的として、「世界の科学技術の発展」と同時に「沖縄の自立的発展」が明記されていることだ。世界最高水準の大学院大学設置は、現行制度では制約が多く、難しい―そこで、二つの目的を結びつける着想が生まれたのである。

 このような性格付けは、沖縄振興の観点からの補助金支出を可能にする仕組み、だともいえる。

 「沖縄の自立的発展」を目的にしている以上、法律の中に地域社会との連携や地元の意見反映を盛り込んだのは当然である。

 ただ、気になる点もある。

 先細りする沖縄振興予算の限られたパイの中で、必要な他分野の予算が、しわ寄せをうけるのではないか、との懸念だ。

 本来、世界最高水準の自然科学系の大学院大学設置は、国家プロジェクトと位置づけ科学技術振興予算などを活用して推進すべき性格のものである。

 沖縄科学技術大学院大学が科学技術による地域振興の成功例になることを願っているが、県内自治体に過重な財政負担を求めることがあってはならない。

沖縄タイムス 2009年5月27日

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形態は特別な学校法人 民主党県連、大学院大学法案で方針

 民主党県連(喜納昌吉代表)は25日、役員会を開き、沖縄科学技術大学院大学学園法案への対応について協議した。学校運営の形態について、原案通りの「特別な学校法人」がふさわしいと結論付けた。その場合の条件として、国による運営経費の補助を「2分の1以内」と規定している条文の修正も併せて要求する。

 県連は、党の作業班で指摘されていた「国立大学」よりも「特別な学校法人」の方が運営の柔軟性と国際性を確保できると判断。既に「特別な学校法人」として運営されている放送大学では、補助の上限を「2分の1」とする規定がないことに着目。これに倣って補助の上限や期限を撤廃することで、国による安定的な財政支援を担保する狙いがある。

 県連は、この最終方針を26日に開催される党の作業班に提出する。党本部は地元の意向を重視する考えを伝えており、県連方針をたたき台に党内の議論が整理される可能性が高い。

 このほか、県連方針は(1)沖縄に世界最高水準の研究・教育機関を設置する目的を盛り込む(2)理事長および理事は、大学院大学の運営に必要な能力を有する者を配置(3)地域における課題を取り扱う協議体を設置し、大学と地元の相互理解を促す―を明記した。

 その上で、運営補助の根拠などについて「2012年以後の沖縄振興計画の延長論議とは一切関連しない」とくぎを刺した。

琉球新報 2009年5月26日

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信州大、免許更新講習にNIE大会

 新聞を教材として活用するNIE(Newspaper in Education=教育に新聞を)の実践を報告する全国大会が7月30〜31日に長野市で開かれるが、地元の信州大学は、現役教員を対象にした教員免許更新の講習に、この大会への参加を組み入れる。学校の教育素材としての新聞の価値を、改めて教員に考えてもらおうという取り組みだ。

 大会は長野県民文化会館を主会場に30日午後1時に開会。1日目は、各地でNIEを実践する教員や地元紙の担当者らが「NIE、身近に引きよせるために」というテーマでパネルディスカッションする。2日目の31日は、地元の学校の教員が取り組むNIEの公開授業、教員による実践発表や入門のためのワークショップ、朝日新聞社のNIE担当者らによる特別分科会などがある。

 信州大は、大会閉会後の31日午後2時から「たかが新聞 されど新聞」というテーマで2時間の講習を実施する。大会に参加した上で受講し、試験で認定されれば、計30時間以上受けることが必要な免許更新講習のうち、6時間を受講したことと認められる。

 講習を担当する信州大の小山茂喜准教授は「NIEに関心を持ちながらもかかわりが薄かったような先生に、ぜひ最先端の事例を知ってもらいたい。教員免許更新にもつながる絶好の機会です」と話す。

 大会の参加費は2千円で、詳しくは日本新聞教育文化財団のホームページ(http://www.nie.jp/confe/details2009‐1.html)へ。信州大の講習は4千円で定員100人。締め切りは今月31日で、定員に満たなければ追加募集もある。申し込みは、信州大教員免許更新支援センターのホームページ(http://kmksc.shinshu‐u.ac.jp/)から。(星賀亨弘)

朝日新聞 2009年5月25日

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日本の宇宙開発―技術は軍より民で磨け

 軍事にばかり目が向いていると、日本の宇宙開発は先細りになりかねない。麻生首相を本部長とする政府の宇宙開発戦略本部が初めてまとめた宇宙基本計画案を見ると、改めてこんな懸念を抱く。

 計画案は、アジアの防災に貢献する陸や海の観測、気象観測など五つの利用分野と、宇宙科学や有人活動など四つの研究開発分野を挙げ、今後10年を視野において5年間で進める計画を掲げている。今月末に正式決定される。

 安全保障はその利用分野の一つだ。昨年5月にできた宇宙基本法で道が開かれた。早期警戒衛星の研究開発が盛り込まれているのが目を引く。

 この衛星はミサイル防衛システム用だ。高熱の物体が放つ赤外線によってミサイルの発射を知る。技術的な難しさに加え、解析システムの開発なども合わせると費用は巨額になり、導入には消極的な意見が少なくなかった。

 しかし、北朝鮮が4月に行ったミサイルの発射実験をきっかけに、自前の衛星を持つべきだという声が与党内で一気に盛り上がった。

 導入するかどうかは、年末に予定される防衛計画大綱見直しの際などに議論される。その必要性や費用はもちろん、日本が宇宙の軍事利用に本格的に乗り出すことで国際的な緊張を高めないか、十分に考える必要がある。安定した官需を求める宇宙産業の事情に引っ張られて先走ってはならない。

 計画案は、宇宙技術は使い方次第で民生にも軍事目的にも使える「デュアルユース」の考え方を持ち出し、安全保障への利用を広げようとしている。たとえば、早期警戒衛星の技術は森林火災の探知にも役立つというのだ。

 たしかに偵察衛星も地球観測衛星も基本技術は同じだ。それなら企業間の競争がある民生部門でこそ技術を磨くべきだ。米国の商業衛星は数十センチのものを見分けることができ、日本の情報収集衛星の能力を上回っている。

 防衛関連の技術は割高になり、その秘密主義は技術の発達を妨げる。

 安全保障の名の下に採算を度外視した計画が増えれば、民生部門にしわ寄せが及ぶ恐れもある。計画が遅れて費用が大幅に増え、その意義が薄らいでいるGXロケットも、安全保障目的で開発が正当化されようとしている。

 日本の宇宙開発を育てるためにすそ野を広げる必要があることは、計画案でもうたわれている。そのためにも、開かれた環境で進めることが重要だ。

 宇宙開発には国際的に大きくとらえる視点も欠かせない。宇宙は、各国が独自の技術やアイデアをもって競い合い、協力しながら未知に挑む舞台だ。そこに日本ならではの技術力をどう生かし、どう世界に貢献するのか。

 日本の飛躍につながる、そんな戦略を示す基本計画であってほしい。

朝日新聞 2009年5月25日

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科学技術振興 超大型加速器への「夢」

 東北というよりも、日本の夢が話題を集めている。

 壮大な夢だ。宇宙の始まりとなるビッグバンを再現しようとする施設である。

 本県の一関市千厩町・大東町から奥州市江刺区にかけての北上高地の地下を利用して国際的な実験施設となる超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」研究所を誘致する構想である。

 花こう岩の地下深くに長さ約50キロの直線型加速器を建設。光速に近い電子と陽電子を衝突させ、物質生成の謎を明らかにする実験という。

 科学知識に乏しい人間にとってはちんぷんかんぷんだ。分かりやすく説明できないのがもどかしいが、昨年ノーベル物理学賞を日本人がトリプル受賞した米在住の南部陽一郎博士と小林誠、益川敏英両博士の「小林・益川理論」を精査する国際計画である。

 計画の概要について政府は公式発表していないが、建設費は約八千億円と想定。つくば学園都市の高エネルギー加速器研究機構の規模からみると、千人以上の各国研究者が常駐する場となる。

 旗振り役は文科相当時に先端加速器科学技術推進協議会を立ち上げた河村建夫官房長官。「日本として本格的に取り組む時期が来た」と基礎科学支援の強化を表明。近く、関係省庁の局長級による横断的な組織をつくる予定だ。

 今後のスケジュールは二〇一二年までに詳細な設計を終えて一三年以降、アジア、欧州、北米の候補地から最終候補地を選定、二〇年ごろの完成を目指す。専門家によると、国際熱核融合実験炉(ITER)の建設地がフランスで決着しており、日本と米国の争いになりそうだ。

 国内では北上高地のほかに佐賀、福岡両県の脊振(せふり)山地などの候補地が挙がっている。本県は当初予算に調査事業費八百万円を計上。地表踏査による断層調査などを行う。

 先月下旬、仙台市で達増知事や東北大の井上明久総長、東北経済連の幕田圭一会長らが出席、産学官連携の東北加速器基礎科学研究会を発足させた。六月二日には東北大でシンポジウムを開催するなど、誘致に向けた本格的な普及啓発活動を展開する。

 国家プロジェクトだけに、地元自治体の期待も大きい。本県を含めて東北全体で誘致運動を盛り上げたい。

 達増知事は「実現に向けてILCの意義を国民に理解してもらうのが大事だ」と述べている。景気低迷の産業活動にあって、科学技術の基礎研究に取り組む意義は大きい。人材育成面にもつながる。

 政府は早急に誘致に向けて支援体制を構築すべきだ。本年度の科学技術関連の研究開発予算は前年度に比べて28%増の二十八億円を計上したが、ILC誘致の組織づくりとともに誘致準備の予算枠を拡充したい。

 世界同時不況の中では長期的な成長戦略が求められる。ことにも、資源に恵まれないわが国にとって「科学技術立国」の視点に立った取り組みが欠かせない。

宮沢徳雄(2009.5.24)

岩手日報 2009年5月24日

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法人化「ゆとりない」67%…全国大学高専教職員組合アンケート

 大学に法人格を与えて自律的な運営を促す国立大や公立大の法人化の影響について、国公立大教員らの54%が、研究教育費の削減で必要な研究教育が行えないと感じていることが全国大学高専教職員組合のアンケートでわかった。

 教員の人件費や教育研究経費などとして国が国立大に支出する運営費交付金は2004年度の法人化以降、毎年1%ずつ削減。公立大法人の多くも自治体からの交付金が減っている。アンケートは昨年5〜10月に行い、66の国公立大などの教員5659人が回答した。

 法人化後の研究教育費と、研究教育への影響について「少し減ったが、支障はない」は19%、「大きな変化はない」が16%。法人化の問題点(複数回答)としては67%が「評価作業や会議で、ゆとりがない」、55%が「基礎的、基盤的な経費の削減」、41%が「過度の競争的経費導入、多忙化による教員の連帯意識の希薄化」を挙げた。

讀賣新聞 2009年5月24日

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宇宙基本計画 平和貢献の構想を示せ

 宇宙開発利用に関する政府の今後5年間の取り組みを定める「宇宙基本計画」が、今月中に政府の宇宙開発戦略本部で決定する。弾道ミサイル発射を検知する早期警戒衛星のセンサーの研究推進や、現在3基ある情報収集衛星を4基に拡充することなどが盛り込まれている。

 日本の宇宙開発の根底にあった平和利用の原則は、昨年5月施行の宇宙基本法施行によって大きくハードルを下げられた。論議が尽くされたとは言い難い中で、防衛目的の宇宙利用が認められた。ただし、基本法にも計画案にも「平和主義の理念にのっとり」との言葉が盛り込まれている。空文化させぬよう、計画の決定、実行には慎重な論議が必要だ。

 種子島宇宙センター(南種子町)でのH2Aロケット打ち上げ連続成功や「かぐや」による月のハイビジョン撮影などで、日本は高い技術力を示してきた。ところが、国として総合的戦略を定めた計画はこれまでなく、目標を体系化して宇宙政策を総合的に構築した意義は大きい。

 従来の研究開発主導から、「利用」を主眼とした宇宙開発への転換を打ち出したのは、時代の要請だ。気象衛星や通信衛星を使った災害援助や環境保護など、需要はますます高まる。宇宙から得られるデータや技術をこれまで以上に日常生活に生かそうという考えは理解できる。

 一方で、「人類社会の発展」「国際協力」「環境への配慮」など6つの基本理念は広範囲すぎて、総花的な印象が強い。「わが国らしい宇宙開発利用の推進」を方針に掲げるが、日本らしさは伝わってこない。

 2020年までに二足歩行ロボットによる月面探査を目指すのは、日本の得意な技術を生かすアイデアだろう。しかし、中国やインドが有人探査を計画する中で、日本がロボットでどんな成果を上げようとしているのか、具体像は見えない。

 計画案は子どもたちに宇宙の魅力を伝える施策として、種子島宇宙センターへの修学旅行や観光に言及している。次世代の人材育成のためにも、子どもたちが高度な最先端技術に触れる機会が増えることを期待したいが、安全保障分野での宇宙利用が増えれば、種子島の施設でも秘密主義が強まることが予想される。

 日本は宇宙の平和利用の原則を放棄したわけではない。防衛目的の利用は常に抑制を利かせて、平和的な国際貢献を主体とした日本独自の宇宙政策を構築すべきである。

南日本新聞 2009年5月23日

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改訂学習指導要領の先行実施

 小中学校の理科教育を考えてみた。

■理数の先行実施
 約40年ぶりに小中学校で教える内容が増えた改訂学習指導要領。この新学習指導要領が、4月から理科や算数・数学において先行実施されている。全面実施は11年(小)、12年(中)だが、国際学力調査等で理数の学力低下が目立つため繰り上げられた。

 新指導要領は「知識活用力」を重視している。特に、国内外の学力調査で科学的応用力が低下していることを受けて理科、算数・数学は時間増をし、力を入れている。

 科学立国で国の礎を築いてきた我が国。国際競争力の相対的低下で危機意識が高まる産業界。そんな中での児童生徒の理科離れである。

 授業時間や学習内容を増やした新指導要領。詰め込みで理科離れが進んでは元も子もない。十分に気を配した授業をしなければならない。

 理科の楽しさや深い理解を得る授業には「実験」「観察」が欠かせない。だが、近年この実験観察を行った授業が少ないとのこと。演示や図解で済ませることが多いようである。実験観察をするにしてもガラス製の器具を使わず、また、解剖などは避ける傾向にあるようだ。実験観察での事故を危惧してのことだ。事実、実験中の事故で起訴に追い込まれた教員も多い。

 だが、このようなことでは真理を探究したり、自然界の不思議さに興味関心を抱く児童生徒は育たないだろう。

■実験観察で充実した授業を
 教師の使命感が求められるが、そのためには実験観察を行いやすい環境を整える必要がある。科学技術振興機構の昨年度調査によると、授業から実験や観察を遠ざけているものに、「準備や片付けの時間不足」「設備備品不足」をあげている教員が多い。

 観察や実験を補助する理科支援員が配置されている学校が少ない。本県には1人もいないのではないか。教材費を自費で負担した教員は、小学校で5割前後、中学校で4人に3人。こんな状況ではどうしても易きに流れることになる。

 今年度、文科省は学校の実験器具整備のため、補助金を昨年度より大幅に増やし20億円にしたという。そういうお金が確実に学校に届くように市町村教育委員会は努めなければなるまい。

■免許状教科単位の改正も視野に

 理科離れを止める最良策は、小学校時からの自然界への「驚きと感動の知の探究」ではないだろうか。その役割は、やはりいつも身近にいる担任に負うところが大きい。

 小学校の理科教育は多くの学校が専科制をとっている。このことは裏を返せば担任から理科教育を遠ざけ、理科の苦手な教員をつくっていると言えなくもない。その結果、児童から、担任と一緒になって「驚きと感動の知の探究」を共に学び教わる機会を奪っていることにならないか。

 小学校の教員は普通、教育学部を出てくる。その教育学部の入試は、文系科目だけということもある。加えて、大学入学後の理科教育は必ずしも充実していない。そのような環境で教員になった者が、採用後、理科を得意にすることは難しい。教員免許状教科単位を見直すところに来ているように思える。

八重山毎日新聞 2009年5月23日

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全国学力テスト:「個別指導や授業改善に」 犬山市が独自検証の中間報告 /愛知

 ◇教員「直後に採点よかった」
 4月の全国学力テストに初参加した犬山市教委は20日、テストの有効性を独自に検証した結果の中間報告をまとめた。テスト直後に採点したことについて、教員の間では「テスト結果にもとづいて、すぐに個別指導や授業改善に生かせる。独自検証してよかった」と評価する意見が多かったという。市教委は8月末までに最終報告をまとめる。

 国の結果発表が秋になるため、市教委は「遅すぎて現場の改善に役立たない」としてテスト直後に独自に採点した。各学校でほぼ採点が終わり、教員らの意見を聞いて中間報告としてまとめた。

 報告によると、採点した教師は「基本的な問題ができていない」「読み取る力や表現力が弱い」などの学力上の課題を挙げた。子供の名前と顔を知っている教師が採点したため「個々の子供の習熟度を把握できた」との意見もあった。各校は採点結果を教師間で共有し、それぞれの子供への指導や授業の改善に役立てるという。

 教育委員からは「テストを受けた子供の意見も聞くべきだ」「指導方法の改善に生かしてもらいたい」などの意見が出ており、最終報告が出た段階で教育委員会で再度議論する。【花井武人】

毎日新聞 2009年5月21日

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国立大“交付金削減もう限界” 人員・研究費減で教員にストレス…党国会議員団調査

 「運営費交付金の削減がつづくのは大変苦しい。人文系学問が切り捨てられている」「これ以上削減がつづけば教育系大学から倒れていく」。石井郁子副委員長・衆院議員など日本共産党国会議員団がおこなっている大学実態調査で、学長との懇談の席上、大学運営に責任をおう立場からだされた切実な訴えです。

 国立大学が法人化されて五年たちました。「法人化前の公費投入額を十分に確保する」とした国会決議(〇三年五月)にもかかわらず、大学の基盤的経費である運営費交付金は毎年1%削減され、五年間で七百二十億円も減っています。

 今回、国会議員団が訪れた東京学芸大、東京外国語大、九州大、福岡教育大でも、教育・研究現場の深刻な実態が明らかになりました。その特徴を紹介します。

 その一つは、人件費削減によって教職員数が減少し、必要な授業を維持することさえ困難になっていることです。東京学芸大では、附属学校を除いて教員の一割にあたる三十人の教員が減り、その穴埋めに他の教員の授業負担を増やすとか、任期制の特任教員や非常勤講師で補っているといいます。教員定数をふやすなどとてもできません。鷲山恭彦学長は、「これだけ人員を減らす一方で成果をあげろというのは矛盾している」とのべ、国への批判を隠しませんでした。いずれの大学でも人員削減は限界にきています。

 もう一つは、教員一人あたりの研究費が減少し、その面でも困難がうまれていることです。東京外国語大では、一人あたり年間三十万円しかなく、その中から世界の雑誌など専門誌を購入すると残るのは半分です。これで授業に必要な経費や研究旅費などをすべて賄わねばなりません。新しいコンピューターも買えないといいます。

自由な研究不可能
 こうしたなかで、必要な研究費を確保するには、国などの審査によって配分される「競争的資金」の獲得に挑戦しなければなりません。大学院の専攻ごとに数億円規模で配分される大型の研究資金(「グローバルCOE」など)や、研究者ごとに配分される科学研究費補助金などがあります。

 しかし、グローバルCOEは国公私立三十数大学に重点配分されるだけであり、科学研究費補助金も申請数に対して採択されるのは二十三%(〇八年度)にしかなりません。教育系大学の場合は、こうした資金をうける機会は少ないのが実態です。

 しかも、競争的資金の申請作業のために教員が多くの時間を割かれ、授業負担の増加などと合わせて、ゆとりをもった自由な研究ができないといいます。東京外国語大の亀山郁夫学長は、「教員に大変なストレスをうんでいる。プロジェクトにおわれるのでなく、じっくりと教育研究にとりくめないといけない」と、強く訴えました。

 いずれの学長の発言からも伝わってくるのは、それぞれの大学が果たしている役割への誇りであり、これを守ろうとする使命感です。教育系大学は地方の教育界にすぐれた人材を送り出す責任をおっています。外国語大学は世界の多様な言語や文化についての教育・研究をつうじて、社会の進歩に寄与しています。国立大学がこうした役割をひきつづきはたすために、予算削減のなかでぎりぎりの努力を強いられているのです。

大本に「構造改革」
 石井議員は、四月八日の衆院文部科学委員会で質問にたち、これまでの調査で明らかになった実態や学長の切実な訴えなどを紹介しながら、政府に運営費交付金の1%削減の中止を求めました。しかし、塩谷立文部科学大臣は「今の状況あるいは御指摘を踏まえて検討していきたい」と答弁するにとどまりました。

 運営費交付金の削減で国立大学が陥っている深刻な実態を社会に告発し、その大本にある「構造改革」路線からの転換を求める世論と運動をさらにひろげることが必要になっています。(改正 充 党学術・文化委員会事務局次長)

しんぶん赤旗 2009年5月18日

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広がる教育格差 安全網を張り巡らさねば

 長引く不況のあおりを受けて家計が苦しくなり、進学を断念したり、中退したりするケースが後を絶たない。「仕方がない」と見過ごしていいのだろうか。

 二〇〇八年度に経済的理由で私立高校を中退した生徒は、一校当たり一・六三人に上ることが全国私立学校教職員組合連合の調査で分かった。過去最悪だった〇七年度の一・七四人に次ぐ高さだ。

 一方、「あしなが育英会」が昨年末に実施したアンケートによると、父親を亡くした高校三年生のうち、就職希望者の四割が経済的に苦しくて、大学進学をあきらめていた。今後も不況が続けば、こうした生徒がさらに増える可能性は高い。

 大量解雇の波は、派遣やパートなど非正規労働者だけでなく、正規社員にまで及んでいる。賃金カットはもはや当たり前だ。勤め先の倒産やリストラで、親の収入が途絶えれば、教育費の負担に耐えきれなくもなろう。

 通信制なども含め、高校進学率は約98%だ。いまや中学生のほぼ全員が高校に入学する。友達が進級していくのに、自分だけが授業料を払えず、学校に通えなくなってしまっては、将来の夢や希望が打ち砕かれる思いだろう。

 不況で社会の格差がますます広がっている。教育の機会は誰にも公平に与えられるべきなのに、親の所得の多寡によって、それが拒まれるというのは望ましい社会といえない。

 困窮家庭の生徒を支援する教育の安全網は機能しているのだろうか。高校には授業料の減免制度があるが、対象となるのは生活保護世帯など、収入がかなり低い世帯に限られる。

 一層の条件緩和を求める保護者の声は強い。授業料以外の諸経費についても、公立高校の一年生の場合、年間二十万円ほどかかるとの指摘がある。決して軽い負担ではない。

 家計の苦しさを隠し学校に伝えていない事例も少なくない。家庭がどのような事情を抱えているのか、学校関係者は細やかに心を配ってほしい。

 教育は百年の計だ。だが、日本の国内総生産に占める教育への公的支出割合は、主要二十八カ国の中で最下位だ。これでは「教育再生」の掛け声が泣くのではないか。

 文部科学省は返済義務のない奨学金や学用品費などの支援ができないか、近く論議するという。検討より実行段階だろう。早急に結論を出すべきだ。支援があるかないかで、生徒の将来が大きく違ってくるからだ。

 教育費は国の将来への投資である。家庭や子どもたちにこのメッセージをしっかりと届けなければならない。教育の安全網を張り巡らせることを、その第一歩としたい。

新潟日報 2009年5月18日

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大学への予算配分に成果主義 財務省、研究実績など重

 財務省は、大学への予算配分の際、学生や教員数などの「規模優先」を改め、学生の学力向上や研究業績などの結果を重視する方向で検討に入った。学生の学力低下や定員割れ大学の急増への危機感から、成果主義の拡大を図る。大学の統廃合などの再編や定員の削減も求める方針だ。

 財務相の諮問機関の財政制度等審議会(西室泰三会長)に15日報告した。財政審も基本的に同意し、予算編成の方向を示す「建議」に盛り込まれる見通しだ。

 財務省によると、08年度は全国の私立大学の47%で定員割れが起きた。少子化の影響で、98年の8%、03年度の28%から急増している。

 また国公立大学を含め、推薦やAO入試が増えたこともあり、大学生の学力低下が指摘されている。35大学で調査したところ、国立大の6%、私立大の20%の学生の英語、国語、数学の基礎学力が中学生レベル以下だったという。

 財務省は今後、文部科学省や各大学に、入試のあり方の見直しのほか、大学数や入学定員を少子化に見合う規模に縮小するよう求める。また、大学や学部、研究ごとに厳格な目標を設定し、成果に応じた予算配分を目指す。「基礎的運営費」などすべての大学に交付してきた予算は比率を下げる考えだ。(山口博敬)

朝日新聞 2009年5月15日 23時35分

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財政制度審:国立大学法人評価「客観性に欠ける」

 財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は15日の会合で、国立大学法人の中期目標の実績評価について、「客観性に欠ける」として見直しを求めることで一致した。

 04年度に法人化された国立大学は、04〜09年度(第1期)の中期目標の実績評価を、10〜15年度(第2期)の運営費交付金の算定に反映させることになっている。

 しかし、04〜07年度評価では、4段階中最も低い「期待される水準を下回る」と見なされた大学は「教育水準」では全体の約2%、「研究水準」ではわずか1%だった。財務省は「もっとメリハリのある評価をすべきだ」と指摘している。【平地修】

毎日新聞 2009年5月15日 21時22分

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天皇陛下在位20年「11月12日臨時祝日に

 平沼赳夫元経済産業相は14日、日本会議国会議員懇談会会長として首相官邸を訪ね、麻生太郎首相と会談。天皇陛下在位20年を記念し、今年11月12日を臨時祝日とするよう要望した。11月12日は平成2年に「即位の礼」が行われた日で、政府は記念式典を予定している。超党派の「天皇陛下御即位二十年奉祝国会議員連盟」(会長・森喜朗元首相)が昨年10月、臨時祝日にする議員立法をまとめたが、民主党内の調整がつかず提出は見送られたままだ。会談で、平沼氏は、集団的自衛権の政府解釈見直し▽新教育基本法に基づいた道徳教育の強化▽靖国神社の参拝−を要望。首相は「日本会議の精神はよく分かっている。しっかり承った」と述べたという。会談には中川昭一元財務相、島村宜伸元農水相らが同席した。

産経新聞 2009年5月15日

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「日本の大学、さらに改革を」…OECDが報告書

 経済協力開発機構(OECD)が国際化、労働市場の変化などに対応するため、日本は大学改革をさらに進めるべきだとする報告書をまとめた。英リバプール大学のハワード・ニュービー副学長ら欧米の専門家5人が、文部科学省の資料や2006年5月の訪日調査をもとに執筆した。

 04年の国立大学の法人化に伴い、日本の高等教育はどう変わったか――。報告書は、この点に焦点を当てて現状を批判的に検討している。

 報告書はまず、大学の自立性は高まったが、定員や授業料、学部・学科の再編については、文科省がまだ実質的な権限を維持していると分析。特に文科省が標準額を設定して授業料を抑える現行の仕組みを批判して、自由化を提案した。

 その理由については、主要な国立大学には裕福な家庭の子弟が多く、卒業生の収入も多いと指摘。学科の違いや、教育にかかるコストを考慮して授業料を値上げすれば、大学は経営基盤を強化できるとしている。

 授業料の値上げを提案する一方で、報告書は日本の高等教育分野での公的支出割合の低さにも着目。高等教育から貧困層を排除しないよう、奨学金の仕組みを改め、卒業後の所得に応じて返済額を決める方法を示している。

 報告書によると、日本の高等教育費に占める学生本人や家族の負担割合は、OECD加盟国で最も高い60%(平均は17%)に達する。これとは対照的に、公的支出は加盟国平均が76%なのに、日本は韓国に次いで低い40%に過ぎない点が問題視された。

 こうした提言に対し、文科省国際企画室の氷見谷直紀室長は、「国立大には将来、国のために働く人材を養成するという側面がある。単純な受益者負担の考えはなじまない」と反論。従来通り、授業料の抑制で教育の機会均等を実現するべきだと主張している。

 世界の高等教育システムに詳しい熊本大学の大森不二雄教授は「海外では日本の大学の存在感が薄いのは事実。今回の報告書は、どうしたら世界の大学と肩を並べて競うような活力を得られるのか、考える手がかりになる」と話している。

 報告書の日本語版は年内に明石書店から出版される予定。

(滝田恭子)

讀賣新聞 2009年5月13日

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宇宙基本計画 軍事利用が心配になる

 日本が宇宙の軍事利用に本格参入する展開にならないか、不安が募る事態である。

 政府の宇宙開発戦略本部がこのほどまとめた「宇宙基本計画」の原案に、他国による弾道ミサイル発射を検知する早期警戒衛星のセンサーなど、安全保障分野での活用を目的とする研究が重要な柱として位置付けられた。

 原案は、昨年5月に成立した宇宙基本法に基づくもので、日本の宇宙利用に関する施策を示す。防衛ばかりでなく、天文学や気象、宇宙産業など、幅広い利用目的が盛られている。

 あれもこれもという総花的な内容で、予算の裏付けもなく、実現性が疑われる面も否めない。

 ただ、心配な問題がある。

 日本は1969年の国会決議で、宇宙利用は「平和目的に限る」とした。ところが中国やインドなどの新興国も含め、各国が宇宙開発にしのぎを削る時代となり、政府は方針を転換。宇宙基本法では専守防衛の範囲内で軍事利用を認めることにした。

 北朝鮮によるミサイル発射で、自民党内部に、北朝鮮に対する抑止力として軍事的な対抗手段を持つべきだとする声が高まっているときでもある。政府や政治家がこのような状況を利用し、平和目的よりも軍事利用を優先させる動きにならないか、注意が要る。

 同法に基づき、昨年夏に首相を本部長とする宇宙開発戦略本部を発足させ、宇宙基本計画の取りまとめ作業に入った。あまりにも性急な動きである。

 重大な方針転換にもかかわらず、宇宙基本法の実質的な審議時間はわずか4時間だった。軍事利用にどう歯止めをかけるかなど、突っ込んだ論議もないまま国会決議がなし崩しにされた。

 宇宙開発利用は、憲法の平和主義の理念にのっとる−。同法はこううたってはいるものの、自衛隊を海外に派遣した時のように、政府が都合よく解釈し、運用する心配がぬぐえない。実際、浜田靖一防衛相は警戒衛星の保有に前向きな姿勢を示している。

 民生用の衛星と違って、安全保障にかかわる衛星は国際入札の例外とされている。日本にも軍産複合体が出来上がったり、軍事技術の開発に民間の研究者が従事させられたりする懸念もある。

 宇宙基本計画は今月末にも戦略本部が正式に決定する見通しだ。拙速に事を進めるようでは国民の理解は得られない。計画がはらむ問題について、国会での議論をあらためて求める。

信濃毎日新聞 2009年5月13日

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高すぎる学費考えよう  京都府学連

 京都府学生自治会連合(府学連、福田耕委員長)は12日、京都市北区の佛教大学で新入大学生歓迎企画を行い、約50人が参加しました。細川孝龍谷大学教授と府学連が取り組んだ京都府議会への学費値下げを求める請願の紹介議員である日本共産党の山内佳子府議が、日本の高額な学費問題について講義しました。

 細川氏は日本の学校教育費の公財政支出はOECD(経済協力開発機構)各国平均の半分で家計の負担が多すぎると指摘。「お金がない者は学べないというのは、教育基本法第3条の『教育の機会均等』に違反する。大学進学を希望する人が進学できるようにするのは政治の責務だ」とのべました。

 山内議員は「日本の軍事費を教育費にまわせば学費を無償化にできる。学生であるみなさんの声をともに国会に届けましょう」と呼びかけました。

京都民報web 2009年5月12日

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教員免許、更新248人不認定 受講不足など大半

 教員の指導力向上を図る教員免許更新制の導入を円滑に進めるため大学などが2008年度に試行した「予備講習」で、受講した延べ4万5317人のうち248人が不認定とされたことが文部科学省の調査で分かった。

 不認定のうち212人は欠席による受講時間不足や認定試験を欠席したことなどが理由。試験を受けたが不合格となったのは36人で全体の0.08%だった。

日本経済新聞 2009年5月11日

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子供の貧困 無関心な大人の責任

 生活に困窮する子供たちが増えている。貧困は、学びの場や医療、自立できる就職の機会など当たり前の権利を子供たちから奪う。少子化対策にも、貧困問題への目配りが足りなかった。

 生徒の四分の三がアルバイトをしている高校がある。ほとんどが生活の困窮からで、自身のアルバイト料で授業料を払う生徒もいるという。あしなが育英会が実施した今春高校を卒業した母子家庭遺児の調査では、就職希望者の四割が生活苦から進学を断念した。

 小中学生にも給食で日々の命をつないでいたり、生活困窮から学ぶ意欲をなくす子供もいる。

 貧困率は、国民の手取り所得の中央値の半分未満しか世帯に所得がない人の比率だ。こうした世帯で暮らす子供の貧困率は内閣府によると、一九八四年の10・09%から二〇〇二年には15・02%に上昇。経済協力開発機構(OECD)加盟国平均を上回る。

 背景には、ひとり親家庭の増加に加え、雇用情勢の悪化で父親が失業した二人親家庭、両親とも非正規で働く家庭増がある。

 子供たちには、親の困窮がそのまま影響する。進学断念や中退で教育を受ける機会を失う。低学歴だと好条件の就職は難しく「貧困の世代間連鎖」に陥りやすい。十分な医療も受けにくくなる。低所得から仕事を掛け持ちする親も多く、親子で過ごす時間もない。

 欧米各国は、税控除や社会保障給付などの政策で貧困率を下げているが、日本は逆だ。所得から税金などを引き、児童手当などの社会保障給付を足すと、子供の貧困率はOECDが〇八年に調査した二十四カ国中、唯一日本だけが12・4%から13・7%へ増えている。子供たちにセーフティーネットが働いていないといえる。

 これまで「総中流意識」から子供の貧困には無関心ではなかったか。少子化対策や雇用対策もこの問題に取り組んできたとはいいがたい。むしろ母子世帯への児童扶養手当は減らされ、生活保護の母子加算も廃止されるなど支援は薄くなっている。就労支援策も「就労に結び付かない」と現場から不満が上がっている。

 内閣府の「生活困難を抱える男女に関する検討会」は三月の中間とりまとめで、貧困対策を政府に求めた。子供たちは、社会の将来を担う宝ものだ。最低限の衣食住だけでなく「家族で笑い合える生活」を子供たちが送れるよう、早急に対策に取り組むべきだ。

中日新聞・東京新聞 2009年5月11日

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法科大学院 定員削減を改革に生かせ

 4回目を迎える新司法試験が13日から始まるが、それを前に、全国の法科大学院74校の大半が、2010年度から11年度にかけて入学定員の削減を考えていることが明らかになった。

 中央教育審議会の法科大学院特別委員会が先月、定員の削減などを強く求める最終報告をまとめたばかりだ。

 新司法試験の受験資格は原則、法科大学院の修了生にしか与えられない。その資格の「質」が不十分だという声に対する1つの回答であろう。司法改革を支える法科大学院制度は、04年の創設から5年で大きな転機を迎えたといえる。

 実社会で活躍する多様な法曹(裁判官、検察官、弁護士)を養成する。そうした法科大学院の理念を実現するためには、改善をためらってはいられない。各大学院は自主改革を急ぐべきだ。

 大学院修了生の7-8割と想定されていた新司法試験の合格率は、目算が外れている。初年だった06年の48%(合格者1009人)から減り続け、08年は33%(同2065人)にまで落ち込んだ。政府は合格者を10年までに年3000人程度に引き上げることを目指しているが、達成は難しい状況となっている。

 こうしたなかで、法科大学院協会の調べに対し、41校が定員を削減すると答えた。検討中も入れると、削減数は1000人程度になり、現行5765人の総定員は約2割少なくなる見通しだ。

 定員が300人の東京大や200人の京都大は10年度、それぞれ2割減らすと公表した。九州・沖縄では、すでに福岡大が本年度から50人の定員を4割減らしており、定員100人の九州大など残り6校も削減を具体化するとみられる。

 定員を絞り込むのは合格率向上をにらんだ員数合わせの側面もあるが、身を削る各校の姿勢は評価したい。

 ただ、定員削減が改革の目的ではない。定員減で学生の質を確保するとともに、教育の質を良くする必要がある。

 定員割れの大学院が半数を超える。一方で、新司法試験の合格率の低さが社会人を含めた法学未修者を遠のかせ、幅広い人材が集まらない。こうした悪循環を絶つには、どうすべきか。各大学院が真剣に向き合うべきは、この点だ。

 これまで、04年春に開校した法科大学院68校のすべてが認証評価機関から評価を受け、約3分の1に当たる22校が「不適合」と認定された。専任教員が足りない、厳格な成績評価がされていない、履修科目が偏っているなど、教育環境が未整備の大学院が少なくない。早急に改善を図るべきである。

 地域に根差す弁護士を養成するには、九州を含めて地方の大学院の存在が大きい。各校が連携して教育課程を共同で実施することも、もっと考えていい。

 中教審の最終報告は定員に見合った教育体制の充実も求めており、定員削減を改革に生かす視点が大事だ。

西日本新聞 2009年5月11日

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宇宙基本計画 平和利用原則は忘れるな

 政府の宇宙開発戦略本部の専門調査会が、宇宙開発利用の国家戦略となる「宇宙基本計画」の原案をまとめた。意見公募(パブリックコメント)を踏まえて今月末に正式決定するという。

 昨年成立した宇宙基本法に基づき、日本の宇宙政策の基本方針を従来の「研究開発中心」から、宇宙で得た情報の「利用重視」へと転換するものだ。

 地球環境観測や気象観測、資源探査、通信など宇宙開発に伴う先端技術や情報の利用は、産業や科学の分野だけでなく社会や日常生活の面でも、年々重要性を増している。

 高度の性能をもつ衛星による情報収集は、地球規模で広がる環境汚染や環境破壊、災害、テロなどの防止に役立ち、国際貢献にもつながる。

 その意味で「利用重視」を国の戦略として明確に打ち出すことに異論はない。宇宙利用による技術開発や宇宙ビジネスの国際競争力強化は、技術立国を目指す日本が取るべき方向でもある。

 基本計画原案では、10年先を見通したうえで2013年までの5年間の取り組みとして、環境・気象観測、宇宙太陽光発電、有人宇宙活動など9分野で具体的な開発利用計画を掲げている。

 いずれも有用な計画ではあろうが、多様で多岐にわたる計画すべてを5年間で実行するには、技術面だけでなく財政的な裏付けも欠かせない。

 計画どおり実施するとすれば、5年で34基の衛星打ち上げが必要で、関連予算は現行の宇宙開発関連予算の2倍以上に膨らむという。

 厳しい財政状況を考えると、有用性や効果を吟味して実施の優先順位を付けざるを得まい。基本計画の正式決定までに調整が必要な課題だろう。

 これとは別に、宇宙の開発利用で留意しておかなければならないのは、基本計画で推進する9分野に安全保障分野への利用強化が盛り込まれたことだ。

 宇宙基本法施行によって、非軍事目的に限定してきた日本の宇宙利用も「防衛目的」の利用が法的に可能になった。

 それを受けて、計画には現在3基の情報収集衛星を4基に増やすことや、弾道ミサイル発射を探知する早期警戒衛星のセンサー研究が盛り込まれている。

 早期警戒衛星を保有するかどうかは防衛当局の判断に委ねるとしているが、基本法施行で「非軍事原則のたが」が外れたいま、「防衛目的」が拡大解釈され、防衛政策の大原則である「専守防衛」を逸脱する危うさがつきまとう。

 基本法の第一条に宇宙開発は「憲法の平和主義の理念」を踏まえると明記したのは、「防衛目的」の拡大に歯止めをかけるためと解すべきだろう。

 宇宙利用計画も「原則は平和利用」という基本法の精神に沿うものでなければならない。「防衛目的」という名の軍事利用には極力抑制的であるべきだ。

西日本新聞 2009年5月9日

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私立高生の苦境 教育無策が「貧困」を招く 

 せめて子どもには、良質な勉学の機会を与えたい。そう願わない親はいないだろう。

 現実は厳しさを増している。昨年夏以来の経済危機が高校、中でも私立高の現場に暗い影を落としている。

 全国私立学校教職員組合連合(全国私教連)がまとめた2008年度末の学費滞納・中退調査(315校)。経済的理由による中退者は過去最多となる513人で、1校当たり1.63人に上ることが分かった。
 3カ月以上学費を滞納している生徒がいる学校が3分の2を占め、1校当たりでは約6人に。解雇や倒産など保護者の失業による収入減が目立つ。

 高校は義務教育ではないから機会均等の理念は徹底されなくてもよい、との理屈は当然、成り立つ。あるいは、学費が安い公立高を選択すべきだったとの議論も可能だろう。
 だが、08年の全国の高校進学率は97.8%。東北でも山形県の99.0%を筆頭に、事実上「全入時代」に突入している。特色ある学校経営で長年、地域の中等教育の一翼を担ってきた私立の重要性も無視できない。

 私教連の調査で気になるのは、学費未納者への卒業時の対応だ。146校が納入されるまで卒業証書を渡していないと回答。うち81校は卒業式にも出席させていない。
 多感な思春期、晴れの門出をくじく残酷さを考えれば「何もそこまでしなくても」と言いたくなる。

 他方、経営面でシビアな環境に置かれている私立学校にとって未納は死活問題であると同時に、他の生徒の手前、示しがつかないということでもある。
 問題は学校側の対応にあるのではない。08年末の全国の私立高1218校の授業料滞納者割合は約2.7%で、3月末時点の約0.9%から約3倍に上昇した。教育を受ける権利を揺るがすような家計の貧困が、急速に拡大しているのだ。

 宮城県が私立高生を対象に実施している授業料減免制度にも08年度、前年比187人多い1841人の申請があった。事業費4億1200万円は過去最高額。うち、国からの補助金は1900万円にすぎない。
 この制度は保護者の所得に応じて三段階の減免割合が設定されているが、申請のうち約8割が「全額補助」だった。

 減免はあくまで授業料が対象だから、学校によっては月額2万-3万円ほどになる施設費などの負担も生活困窮世帯には重くのしかかる。
 国は経済危機対策の一環として、修学困難な学生・生徒に対する授業料の減免や奨学金事業に充てるため、都道府県に本年度から3年間で500億円の基金を創設することを決定した。

 05年国内総生産(GDP)に占める日本の公的教育支出額の割合は3.4%。経済協力開発機構(OECD)の中で統計がある28カ国中、最低だった。教育の機会均等をめぐる貧困。それは保護者の所得水準などではなく、政府の無策に起因していると見るべきだろう。

河北新報 2009年5月8日

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奨学金滞納 後輩のためにも返さねば

 不況が深刻の度を増している。将来の夢を抱いて大学などに進んだ新入生も、授業料や日々の生活費などに頭を巡らして胸を痛めているのではないか。

 そうした事態の助けになる1つが奨学金だが、一方で、借りた奨学金を返さない滞納者の増加が問題となっている。厳しい時だからこそ、返済能力がありながら「借り得」を決め込んでいる不届き者がいれば、なおさら許されない。

 国の奨学金制度は貸与制で、高専や大学、大学院などの学生が対象だ。無利子、有利子の2種類がある。事業は2004年、日本育英会から独立行政法人の日本学生支援機構が引き継いだが、旧育英会時代から年々拡充しており、いまでは大学生に限ると30%近くの約80万人が、この奨学金の世話になっている。

 ところが、07年度の未返還額は660億円に上る。これは、同じ07年度に貸与した奨学金総額の8%に相当する。さらに、3カ月以上滞納して貸し倒れの可能性がある延滞債権が20万人分、2253億円になるという。

 元奨学生が卒業後に返す金は次の奨学金の原資となる。このため、支援機構は11年度までに延滞債権の半減を目指して滞納対策の強化に乗りだした。どこの世界でも「借りたら返す」のがルールであり、後輩のためにも、返済義務を果たすよう強く求めるのは当然だろう。

 対策の1つが、金融機関でつくる個人信用情報機関に滞納者情報を通報する制度の導入だ。本年度から、新入生やすでに貸与を受けている在学生から同意書を取り、これを条件に貸与を始めた。

 卒業後に返済が滞らなければ通報はないが、滞納が長期化すれば通報され、銀行ローンやクレジットカードの利用が難しくなる。そうならないよう、返済に努めてもらうのが狙いである。「そこまでするのか」と反発もあるが、もともと20年以内の返済を前提に貸与される奨学金だ。病気や失業などで返済が苦しければ猶予制度もある。滞納者への一定の規制強化は仕方ないのではないか。

 このほか、支払い督促申し立てなど法的措置に入る時期を、従来の滞納「1年以上」から「9カ月以上」に短縮するなど、回収策も強めるという。

 いずれも昨年の有識者会議の提言を実施に移したものだ。提言には滞納率の高い大学名の公表もあったが、卒業生の滞納と大学の責任とは直接は結び付かず、慎重な検討が要るだろう。ただ、大学は奨学金の申請窓口であり、返還義務の周知徹底など協力すべきことは多い。

 同時に、奨学金事業の一層の充実も訴えたい。景気悪化が子どもの進路選択に影響を及ぼしているといわれる。政府は追加経済対策の中に無利子奨学金を受ける学生の微増などを盛り込んだが、真正面から取り組むべきだ。返済不要の給付奨学金の創設を真剣に考えていい。奨学金の重要性はますます高まっている。

西日本新聞 2009年5月8日

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宇宙基本計画  平和利用原則忘れるな

 政府の宇宙開発戦略本部(本部長・麻生太郎首相)に設けた有識者らの専門調査会が、宇宙開発利用の国家戦略となる「宇宙基本計画」の原案をまとめた。

 昨年五月に成立した宇宙基本法に基づき、従来の技術開発中心から、宇宙で得たデータの利用重視へと基本方針を転換したのが特徴だ。

 気象観測をはじめ通信衛星を使った防災や災害援助、資源探査など、宇宙開発に伴う最先端技術の利用は年々、重要性を増している。その意味で、利用重視の戦略を国の宇宙政策として総合的、計画的に構築する意義は小さくない。

 だが課題も目立つ。十年先を見すえた五年間の取り組みとして、地球環境観測・気象衛星、宇宙科学、宇宙太陽光発電など九つの分野ごとに今後実施すべき施策を掲げているが、総花的な印象をぬぐえない。

 予算の裏付けが盛り込まれていないのも気になる。計画通りに実行すると現行予算の倍以上に膨らむことになるという。基本計画はパブリックコメント(意見公募)を踏まえ今月末に正式決定するが、それまでに財政当局とどう調整するか見通せない。

 とりわけ見過ごせないのは、計画の柱の一つとして、宇宙基本法施行で解禁された安全保障分野への活用強化が盛り込まれたことだ。

 弾道ミサイル発射を検知する早期警戒衛星のセンサーの研究推進を明記したほか、現在は三基ある情報収集衛星を五年以内に四基に拡充するとしている。

 平和目的に限るとした一九六九年の国会決議に基づいて、日本はこれまで宇宙利用の「非軍事原則」を貫いてきた。しかし自民、公明、民主の与野党共同提案で成立した宇宙基本法では、国際解釈に沿って「非侵略ならば平和利用」とみなし、専守防衛の範囲内での軍事的利用が可能としている。

 北朝鮮の核・ミサイル開発や、中国の軍事面の宇宙開発が進む中で、自前の衛星による情報収集能力などの強化を求める声が高まってきたことが背景にあろう。

 専守防衛の範囲内かどうかは政府判断に委ねられる。十分な情報開示に基づいた国会の審議とチェックが欠かせない。宇宙基本法をめぐる国会での実質的審議がわずか四時間しかなかっただけに、シビリアンコントロール(文民統制)の役割を果たせるか、真価が問われよう。

 宇宙開発技術の多目的利用は避けて通れないが、平和目的の大原則を通すことが大切だ。これまで積み上げてきた宇宙科学の実績を後退させてはなるまい。基本計画に、意見公募で寄せられる民意を最大限に反映させることも忘れないでもらいたい。

京都新聞 2009年5月6日

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こどもの日 学ぶ権利守ってあげたい

 きょうは「こどもの日」。すべての子どもたちの人格を重んじ、幸福を願う日である。

 「こどもの日」と言えば、薫風に泳ぐこいのぼりだ。以前と比べるとめっきり減ったようにも思えるが、見ていると元気に育ってほしいという親の願いが伝わってくる。無限の可能性を秘めている子どもたちの未来は、国の未来でもある。

 とはいえ、子どもたちの前にはさまざまな壁が立ちふさがる。経済の壁もその一つだ。景気の悪化に伴い、リストラで職を失う人などが急増。家庭の事情で高校中退を余儀なくされたり、進学をあきらめたりする生徒が増えている。早急に食い止めねばならない。

 二〇〇八年度に経済的理由で私立高校を中退した生徒は一校当たり一・六三人。過去最悪だった〇七年度の一・七四人に次ぐ高さだった。全国私立学校教職員組合連合が調査したもので、二十八都道府県の三百十五校が回答。中退者は過去最多の五百十三人、三カ月以上の学費滞納者も一校当たり五・九九人に上った。

 熊本県内の十四校も回答。中退者、学費滞納者が、いずれも全国平均を大きく上回ったのが気になる。

 こうした事情もあってか、熊本私立学校教職員組合連合(熊本私教連)は、私立中高生を対象に独自の奨学金制度を創設する準備を進めている。資金集めのため、四月下旬には熊本市で街頭募金も行った。今後も定期的に実施し、来年一月から奨学金貸与を始める予定だという。

 熊本私教連の〇七年度調査によれば、私立高の場合、保護者の年間負担額は公立高の五倍近く。生活困窮が中退や学費滞納に直結しやすいのもうなずける。

 県は本年度、授業料を減免した学校法人への補助制度を拡充。予算を約一千万円増額したが、さらに細やかな対応が必要だ。

 「貧困の連鎖を教育で断つ」との蒲島郁夫知事の意向を受け、県は生活保護世帯の子どもの大学進学を支援する制度も新設した。ただ、内容は食費など生活資金を貸し付けるもので、本年度の予算枠は二十人分。十分とは言い難い。貸し付け条件の緩和など制度拡充を図ってほしい。

 子どもには「学ぶ権利」がある。不況や家計困窮により、その権利がいとも簡単に奪われてしまってはいまいか。「学ぶ権利」が不況に脅かされるようでは、国の将来こそ危うい。きょうはそのことを、すべての大人が考える日としたい。

熊本日日新聞 2009年5月5日

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大学生の就職戦線 長期化防止へルール必要

 厳しさを増すほどに学生たちの焦りは募り、就職活動のスタート時期はおのずと早まる。「超氷河期」の就職戦線は長期の消耗戦を強いられる。

 就職活動がスタートする大学の3年生というのは、専門課程が始まり、いよいよ大学本来の教育が軌道に乗り始める時期でもある。短大生ともなれば、入学して半年もたたないうちに、就職戦線に立つことになる。

 就職活動が優先されるあまり、本来の学業にも支障が出ているようだ。もはや学業は隅に追いやられ、就職活動をするための進学という事態に陥っている。本末転倒と言わざるを得ない状況だ。抑止の新しいルールが要る。

 全国の大学などで組織する就職問題懇談会の2008年度の調査では、約6割の大学がゼミの日程などに支障が生じたという。早期化した就職活動は、大学教育の空洞化という弊害になって表れ、学生本人はもちろん、採用した企業、社会全体にとっても大きな損失であることは疑いようがない。

 危機感を深めた全国の大学の団体は昨年夏、経済団体などに「卒業年前の採用活動を慎む」よう要請した。

 就職協定復活を求める声も高まりつつある。2月の衆院予算委員会で、塩谷立文部科学相は「協定ができる状況を基本的につくりたいと思っている」と答弁した。文部科学省は企業や大学側の意見聴取を行うなど、就職内定時期などに関する大学と企業間の取り決めを明確化する方向で検討に入った。

 大学生の就職をめぐっては、これまでにも再三にわたって、協定の廃止、復活が繰り返されてきた経緯がある。

 直近では、「青田買い」の横行で、協定が形骸(けいがい)化し、1997年、廃止に追い込まれた。現在は、就職内定日は10月1日以降と定めた日本経団連の倫理憲章などが規範となっているが、早い企業は4年生になる前に「内々定」という形で学生を確保するなど、実効性に乏しいのが実情だ。

 かつて就職協定が有名無実化した背景には、バブル景気に人手不足で人材争奪戦が激化した事情がある。だが、状況は一変した。急激な景気変動による内定取り消し問題も、早期化が一つの要因になっている。

 企業側も大学側も「就職・採用活動の早期化と長期化は問題だ」と基本認識は一致してはいる。内々定を出した優秀な人材が、ほかの企業に流出しないようにつなぎ留める負担が軽減できるなど、企業側にも協定を結ぶメリットはある。

 実際に復活した場合の効果となると、過去の例から疑問視する声も根強いのも確かだ。しかし、就職活動早期化による弊害は看過できない状況に来ている。不毛な長期戦を改めるには、新たな協定を作ることがやはり必要だろう。

 その際、違反した企業名の公表など、何らかの罰則規定を盛り込むことも検討したい。これまで何度も廃止を繰り返した一因には、罰則がなかったことも関係しているのだから。

河北新報 2009年5月5日

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教員免許更新制 教育界活性化の契機に

 教員の免許更新制度が本年度から正式にスタートした。これまで無期限だった教員免許に10年という有効期間を設け、更新のための講習を課す制度だ。対象は幼稚園から高校まですべての校種の教員。資質向上などへ向け同制度が有効に機能するためにも、関係する各教育機関にはこれまで以上に緊密な連携と相互協力が求められよう。

 同制度の創設は、小渕内閣が設けた「教育改革国民会議」での議論が発端だった。その後、指導力不足教員や懲戒処分を受ける不適格教員の増加を背景に中教審が2006年に導入を答申。同年、安倍内閣が設置した「教育再生会議」でも議論され、07年に改正された教育職員免許法により本年度からの導入が決まった。

 文部科学省発行の「教員免許更新制の概要」によると、目的は定期的に最新の知識技能を身に付けることで「教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ることを目指す」としている。ただし、その注釈には「不適格教員の排除を目的としたものではありません」とあり、教育現場の不安を払拭(ふっしょく)するために国が腐心していることがうかがえる。

 更新されなければ免許は失効するため、同制度が教育現場に与える影響は当然ながら大きい。不当に利益を侵害される教員が生じないよう適切な制度運営は必須であり、制度初年の本年度は教員や教育委員会、それに免許更新講習を行う大学などが共通認識をもって臨むよう努めなければならない。

 制度が不適格教員の排除ではなく、資質アップなどに向け前向きに機能していく上で重要な位置を占めるのは、やはり更新講習の在り方である。

 教員は免許期限前2年間の更新期間に必修領域で12時間以上、選択領域で18時間以上の受講が義務付けられており、講習ごとの履修認定試験を受けることになっている。新たな教育問題にどう対処し、自身の専門性をいかに磨くのか。講習は教員としてのモチベーションを高める上で、一定の役割を果たすものでなければならない。

 更新講習の場となるのは文科省から委託を受けた全国の大学・法人で、本県では教員養成課程を持つ秋田大と県教委が実施する。同大が昨年6?8月に行った予備講習では、定員の6倍の約600人が申し込むなど制度に対する県内教員の関心は高く、こうした機運を講習充実へとつなげるべきだろう。

 秋田大は「実践的な内容を盛り込むなど魅力ある講座を提供したい」とし、学校現場との連携を深めて共同研究につなげることも効果の一つとみる。講師には国際教養大や県立大といった他大学や県の研究機関も加わるという。本県の更新講習は5日から始まる。制度を契機に校種を超えた人的交流が加速し、ひいては本県教育界が活性化することを期待したい。

秋田魁新報 2009年5月2日

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『体罰』最高裁判決 指導の在り方を考えよう

 蹴(け)って逃げた児童の胸ぐらを教師がつかみ、体を壁に押し当てて大きな声でしかった行為が「体罰」に当たるかどうか争われた訴訟の上告審判決で、最高裁は「許される教育的指導の範囲を逸脱せず、体罰には当たらない」と判断した。

 体罰があったと認定して自治体に賠償を命じた一、二審の判断を覆し、原告側の請求を棄却した。教師の具体的な行為が学校教育法で禁じる体罰に当たるかどうかを争った民事訴訟で示された初の最高裁判決だけに、今後も教育現場に少なからぬ影響を与えることになろう。

 最高裁まで争われたのは、2002年に熊本県天草市の小学校で起きた事案だ。休み時間中に廊下で友達とともに通りかかった女児を蹴り、さらに注意した臨時講師の男性教員の尻を2度蹴って逃げた小2の男児=当時(8つ)=を男性教員が追いかけて捕まえ、胸ぐらをつかんで壁に押しつけ、「もう、すんなよ」としかった。

 男児は男性教員から体罰を受けたことで心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したとして、市に約350万円の損害賠償を求めた。

 一、二審はいずれも「教育的指導の範囲を逸脱している」と体罰を認めたが、最高裁は男性教員の行為を「悪ふざけしないよう指導するためで、罰として肉体的な苦痛を与えるためではない」と判断した。

 文部科学省の調査によると、07年度に国公私立の小中高校が把握した児童生徒の暴力行為は小学生を中心に増え、前年度比18%増の5万2756件だ。うち教師への暴力は9%増の6959件だった。

 現場の教師らは「手を出せないと分かって仕掛けてくる」「小学生でもかなりの力で暴れる」と戸惑っているのが実情という。

 「注意しても言うことを聞かない子供にどう対処すればいいのか」「授業が成り立たない状況をいかに打開すべきか」といった悩みを抱える教育現場にとっては、最高裁判決は追い風≠ニなるかもしれない。

 一方で、指導する側の論理を重視したともいえる今回の判断が「教育的指導」を大義名分にした教師の愛のムチ≠誘発しないかといった懸念もぬぐいきれない。

 文科省によると、体罰を理由に教育委員会から懲戒、訓告、諭旨免職などの処分を受けた教職員は1993年度以降、年300-400人台で推移しており、児童生徒への体罰が後を絶たない現実があるからだ。

 子供のためには毅(き)然(ぜん)とした態度で臨まなければならない場合もあろうが、教師が手を上げては本末転倒だろう。最高裁判決を機に、教育現場だけでなく保護者や地域社会も一緒に子供の指導の在り方を考え直したいものだ。

陸奥新報 2009年5月1日

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大学院大学 国民が納得のいく論議を

 恩納村で建設が進められている大学院大学の2012年開学が瀬戸際に立たされている。政府が今国会に「沖縄科学技術大学院大学学園法案」を提出したものの、民主党が原案のままの成立に難色を示しているからだ。

 日程的には学長の絞り込み、法に盛り込まれる学校形態の確立後の措置などに各1年程度かかることが予想され、今国会での法成立がタイムリミットとされている。

 補正予算成立後の審議入りでは政府・与党、民主党とも一致している。双方が国民の納得を得られるよう論議を深めてほしい。

 原案は大学院大学を「特別の学校法人」と位置付けるほか、運営費などの全額補助に10年の制限を設けた。

 これに対し、民主党は「11年後の外部資金獲得の展望がなく、経営破綻(はたん)の恐れがある」と指摘、政府が継続的に支援できる「国立大学法人」への修正を求めている。

 大学院大学は「学術研究の府」である。研究は連綿と続く。単なるハコモノ造りの公共工事ではない。「将来に禍根を残すな」と安定経営のための担保を求める民主党の主張には一理ある。

 政府はポスト沖縄振興計画の目玉として01年6月に大学院大学構想を決定した。

 世界的な権威を招いて自然科学系の世界最高水準の研究を進め、沖縄をアジア・太平洋地域の先端研究の中核拠点とする構想だ。基地の重圧にあえぐ沖縄にとって、「知の集積」「世界への発信」を目指す平和的な構想に期待する声も少なくない。

 自民党は今国会での成立に向け積極的に取り組む意向をみせている。民主党の中に「駆け込み審議は拙速、今国会にこだわらない」とする向きもある中で、鳩山由紀夫幹事長は「邪魔するつもりはない。今国会に上げるべき」と発言、法案の一部修正などを視野に今国会での成立を図る考えを示している。

 当初、07年3月に予定されていた開学は大きくずれ込んでいる。

 ただ、拙速になってもいけない。懸念材料を抱えたまま、見切り発車のような形になっては開学の趣旨にも沿わないだろう。論議を尽くして指摘される課題をクリアし、確固たる運営のレールを敷くことが「世界最高水準」の看板にふさわしい学府づくりにつながる。

琉球新報 2009年5月1日


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