2009年3月


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国立大法人評価 教育研究の質向上につなげよ

 大学に対する評価は、質の向上に役立つものでなければなるまい。

 文部科学省の国立大学法人評価委員会が、86の国立大学法人に対する評価結果を公表した。評価する項目や基準を検証し、見直していく必要がある。

 国立大学は2004年度に法人化したのに伴い、教育・研究の質や業務運営、財務内容について、6年間の中期目標とそれを達成するための中期計画を立てて、評価を受ける仕組みになった。

 目標の達成度が5段階で評価され、結果は国から配分される運営費交付金の一部に反映される。今回は、07年度まで4年間の暫定的な評価結果である。6年間を終えた時点で、残る2年間と合わせて結果が確定する。

 各大学とも、大半の項目は「おおむね良好」という真ん中以上だった。一部に「不十分」もあったが、最低の「重大な改善事項がある」という指摘はなかった。

 始まったばかりとはいえ、評価にあたった関係者からは「評価が甘かった」との声が聞かれる。

 目標の設定や計画の認可には文科省も関与するが、実質的には大学の立てた目標と計画が評価の基になっている。目標が低ければ達成度は高くなり、目標が高すぎれば達成度は低くなりかねない。

 国立大学は私立大学と異なり、公的機関として高等教育を受ける機会を提供する使命や、地域に貢献する役割も持つ。こうした面での業績について、今回の結果はどう判断したのかわかりづらい。

 まもなく10年度から始まる次の中期目標を決める時期になる。

 大学をめぐっては、世界的な教育・研究拠点、地域貢献など、機能別に分化させていくべきではないかという議論が活発だ。

 評価結果をどの程度、運営費交付金の配分に反映させるのか早急に決定すると同時に、こういった大学ごとの役割を踏まえた目標設定や評価も大切だろう。

 この評価とは別に、国公私立大学は、外部の機関から7年以内に1回、第三者評価を受けることが義務づけられている。こちらは、外部機関の基準で判断する。

 今回の国立大学法人に対する教育・研究面の評価は、実際には評価委の要請で大学評価・学位授与機構が担当した。第三者評価も同機構が行うケースは多い。違いが見えにくい。

 膨大な準備が必要となる大学側の「評価疲れ」が指摘される。二つの評価をもっと整理し、大学側の負担を減らす工夫も重要だ。

讀賣新聞 2009年3月31日

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法科大学院9校が「不適合」 認証評価、6校が異議

 法科大学院の認証評価機関「大学基準協会」は30日、2008年度に実施した14校の評価結果を公表。基準を満たしていないとして9校を「不適合」とし、5校を「適合」とした。

 9校は大阪学院大、神奈川大、関西大、関東学院大、甲南大、東北学院大、日本大、白鴎大、名城大。うち大阪学院大、関東学院大、日大を除く6校が協会に「事実誤認がある」などとして異議を申し立てた。

 結果によると、9校の大半に厳格な成績評価がされていないと指摘。関東学院大などは科目の履修が、法律基本科目に偏っていると判断された。

 広島修道大と南山大など適合5校のうち駿河台大、中京大、桐蔭横浜大の3校に対し、司法試験対策とみられる授業などの中止や改善を勧告、この点について報告を求めた。

 法科大学院をめぐっては、新司法試験の合格率低迷や定員割れなどから、試験対策に力を入れざるを得ない背景があるとみられるが、協会は「専門知識と幅広い教養を持った法曹を養成するという原点に基づいて評価をした」としている。

 認証評価は質確保のため義務付けられ、結果は文部科学省に報告される。

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低評価の大学、不満の声 国立大の評価結果公表

 26日に公表された、文部科学省の国立大学法人評価委員会による評価結果で、教育内容などに「不十分」「水準を下回る」と評定された各大学から不満の声が出ている。結果は、大学の財政基盤となる国からの運営費交付金の額に反映されるだけに、評価委に意見申し立てをした大学は22に上った。(杉本潔、葉山梢、編集委員・山上浩二郎)

    ◇

 香川大は、医学系研究科が教育方法、学業の成果、進路・就職の状況の3項目で「期待される水準を下回る」とされた。評価の根拠となる資料が足りなかったからだという。角田直人副学長は「訪問調査の時、資料を要求してくれれば対応したのに、要求がなかった」と憤る。

 意見申し立ての場で不足資料を出そうとしたが、許されなかったという。「国家試験の合格率は常にベストテンに入るレベルで、自己評価では問題はないと考えている」と強調した。

 三重大は業務運営で「達成状況が不十分」とされた。「外国人教員を増やす」という目標が未達成だったことと、07年度の大学院博士課程が定員の90%に満たなかったことが理由だ。

 豊田長康学長によると、33の目標のうち達成できなかったのは、外国人教員数のみという。「達成率は97%なのに不十分とは納得いかない」と意見申し立てをしたが却下された。大学院の定員は08年度は93%となり、外国人教員も09年度に6人採用するという。「全体の予算削減のため傾斜配分するのは格差拡大にならないか心配だ。しゃくし定規のやり方は逆効果ではないか」と指摘する。

 福岡教育大も申し立てをしたが却下された。

 業務運営と自己点検・評価等の項目で「不十分」だった。業務運営の面では、外国人と女性の教職員数を増やす目標を立てた。女性教職員は順調に増えて全体の3割近くになったが、外国人は増えなかった。女性の増加分が十分に評価結果に反映されなかったことには納得がいかない。担当者は「高い目標を設定すると、どうしても達成が難しくなる」と話した。

 財務内容が「不十分」とされたのは鳴門教育大(徳島県)だ。判断項目として外部研究資金などを増やすことが盛り込まれている。同大は、科学研究費補助金を40件に増やすことを目指した。しかし、実際は04年度こそ44件だったが07年度は33件にとどまった。これが響いたという。担当者は「目標設定の時、数字を書くことに議論はあった。結果的にクリアしなかったので仕方ない」と話した。

 東京大と京都大はどうだったか。

 東大は社会連携・国際交流等について「達成状況が非常に優れている」とされた半面、「その他の業務運営」については「不十分」だった。付属農場で使用禁止の農薬を使っていた問題や大学院入試での問題漏洩(ろうえい)が影響した。高橋宏志副学長は「再発防止策の実行を進めるとともに信頼の回復に努めたい」という。一方で「中期目標は社会に対する約束であり、その達成状況を反映して資源(運営費交付金)の配分がなされるのは当然のこと」としている。

 京大は教育研究について、学業の成果で「期待される水準を下回る」とされた学部・研究科が七つ、進路・就職の状況でも四つ。江崎信芳副学長は「根拠を示したつもりだが、こういう結果になった以上、真摯(しんし)に受け止めて改善に努めたい。進路・就職では主に大学院で学位認定に時間がかかることが問題とされたので、学位への考え方を検討していきたい」と話した。

    ◇

 評価方法 法人化で各大学などに義務づけられた中期目標のうち、04〜07年度分について行われた。業務運営、財務内容など運営分野は、国立大学法人評価委員会が達成状況を、▽非常に優れている▽良好である▽おおむね良好である▽不十分である▽重大な改善事項がある、の5段階で評価。

 教育・研究分野は、大学評価・学位授与機構が、まず学部・研究科ごとに、期待される水準を、▽大きく上回る▽上回る▽水準にある▽下回る、の4段階で評価後、評価委が大学全体の達成状況を5段階で評定した。

 大学関係者の間では、「評価疲れ」という言葉が飛び交うほど、教職員が評価のための資料作成に追われる状態だという。

朝日新聞 2009年3月30日

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全国学力テスト 全自治体の参加を歓迎したい

 文部科学省の全国学力テストが、3年目でようやく「全国」の名にふさわしいものになる。

 2年連続で不参加だった愛知県犬山市の教育委員会が参加を決めた。

 これによって、今年4月のテストは、全自治体で実施される見通しだ。テスト参加を選挙で訴えた現市長が2006年末に当選し、今回、参加にこぎつけた。

 全国学力テストは小学6年生、中学3年生を対象に国語と算数・数学で行う。名実ともに全国調査になるからこそ継続し、結果を検証して、着実に学力向上へとつなげていかねばならない。

 4月のテストを受けるのは、昨年、初の全国体力テストの対象となった児童生徒たちである。両テストでは生活習慣調査も実施されており、双方を合わせて分析することが大切だ。

 来年は、小6時に受けた子どもが中3としてテストに臨む。

 どんな授業を受け、どういう学習に取り組んできた子どもが、学力を伸ばしたか。結果を比較し、教育施策や学習指導の改善に結びつけたい。それでこそ、学力テスト本来の目的にかなうだろう。

 文科省の実施要領では、関係機関へのテスト結果提供について、規制を強めている。

 だが、結果の公表に後ろ向きでは全国テストをいかせない。

 平均正答率などを公表すれば直ちに過度の競争や序列化につながると考えるのは、短絡的すぎる。学校運営に理解や協力を得なければならない保護者、地域住民を軽視してはいないか。

 2年連続で最下位だった沖縄県は、トップクラスだった秋田県と教員の交流に乗り出す。中学生が下位に低迷した高知県でも、「まず全国水準」を目標に、教育改革を進めている。

 都道府県別の結果公表がなければこうした動きはなかったろう。市町村別の結果も、小規模校などに配慮しつつ、もっと積極的に公表していくべきではないか。

 その際、各教委は正答率だけでなく、結果の分析内容や学力向上策も一緒に示す必要があろう。

 犬山市の参加・不参加問題は、教委のあり方も問いかけた。

 教委は教育の中立性を守るため首長から独立しているが、独善は許されない。保護者らの意向をもっと的確に把握する努力をすべきだったのではないか。

 教委のあり方については、政府の教育再生懇談会が第3次報告の提言後も、検討を続けている。しっかり議論してもらいたい。

讀賣新聞 2009年3月30日

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「君が代懲戒」都立教職員の処分取り消し請求棄却…東京地裁

 入学式や卒業式で国旗に向かって起立し、国歌斉唱しなかったことなどを理由に、東京都教育委員会の懲戒処分を受けた都立学校の教職員ら172人が、都に処分の取り消しなどを求めた訴訟の判決が26日、東京地裁であった。

 中西茂裁判長は「処分に違法性はない」と述べ、請求を棄却した。

 判決によると、都教委は2003年10月23日、教職員は式典で「日の丸」に向かって起立して「君が代」を斉唱し、その職務命令に従わない場合は責任を問われるとする通達を出した。

 しかし、原告はその後の式典で起立などをせず、171人が戒告、1人が減給の懲戒処分を受けた。

讀賣新聞 2009年3月26日

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七生養護事件判決 創意尊重してこそよい教育が

 東京都立七生(ななお)養護学校(現・七生特別支援学校)の性教育に対する一部の都議と都教育委員会の行為を違法とした東京地裁判決に対し、東京都は二十三日、控訴しました。本当に子どものことを考えるなら、都議も都教委も判決を真摯(しんし)に受けとめるべきです。

「不当な支配」許されない
 同校の性教育への攻撃は、二〇〇三年の都議会で民主党の都議が「過激性教育」と決めつけ、非難したことに始まります。二日後、自民・民主の三人の都議が学校を訪れ、「感覚がまひしている」などと養護教諭を詰問しました。

 これを受けて都教委は性教育の教材を没収、多数の教員を「厳重注意」にしました。指導計画が変えられ、苦労して積み重ねてきた性教育ができなくされました。

 判決は、都議らの訪問を「政治的主義、信条に基づく性教育への介入・干渉」だとし、当時の教育基本法一〇条一項の「不当な支配」に当たると明快に断じました。

 旧教育基本法一〇条一項は「教育は不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」としていました。これは戦前、教育が軍国主義によってゆがめられたことへの反省からきたものです。〇六年の改悪で「国民全体に対し直接に責任を負って」の部分は削除されましたが、政治的介入を許さないための「不当な支配…」の趣旨は生きています。

 七生養護学校の性教育の出発点は、生徒の間で性的な問題行動が起きたことでした。「子どもを性犯罪の被害者にも加害者にもしたくない」という切実な課題に直面した教師たちは、議論と試行錯誤を続け、知的障害のある子でも分かるように性器のついた人形なども準備して、保護者の理解も得ながら、実践を進めてきたのです。

 この点で注目すべきは、都教委が同校の教員を「厳重注意」にしたことへの地裁の判断です。判決は性教育について「創意工夫を重ねながら、実践が蓄積されて教授法が発展していくという面があり、適否を短期間で判定するのは容易ではない」と指摘。「いったん不適切であるとして制裁的扱いがされれば、教員を委縮させ、創意工夫による教育実践の開発がされなくなり、発展が阻害されることになりかねない」とのべました。

 教員がそれぞれの学校の子どもの実態に応じて創意工夫してこそよりよい教育ができます。判決が示したように自由な実践を保障してこそ教育活動が発展します。

 東京都の教育行政はこの逆です。とくに石原都知事になって以来、都教委は現場の自由を奪う暴挙を繰り返しています。「日の丸・君が代」の強制による卒業式・入学式の画一化、職員会議での挙手・採決の禁止など、その例は枚挙にいとまがありません。

子どもの成長を第一に
 地裁判決は、都議らの「不当な支配」から教員を保護する義務が都教委にあったとのべました。現実には、都教委が特定の政治勢力と結びついて現場の自由を奪っているのです。都教委はその姿勢を、大本から改めるべきです。

 各地で行政などによる教育への介入が広がっているだけに、今回の判決は全国的意義があります。控訴に抗議し、判決を力に憲法に基づき子どもの成長第一に、教育の自由を守り発展させましょう。

しんぶん赤旗 2009年3月26日

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サンデーらいぶらりぃ:斎藤 貴男・評『学校教育と愛国心』藤田昌士・著

◆その強制は常に戦争とセットで

◇『学校教育と愛国心 戦前・戦後の「愛国心」教育の軌跡』藤田昌士・著(学習の友社/税込2520 円)

 小中学校の新しい学習指導要領が四月から一部先行実施される。「愛国心」の涵養と「道徳」教育の充実が特に強調されるのは、2006年暮れの国会で強行採決された“改正”教育基本法が求めているからだ。

 この間には初めての「教育振興基本計画」が策定され、道徳副教材『心のノート』の改定版も登場した。学校現場では競争原理が徹底される一方で、子どもたちの心に「愛国心」や「道徳」を刷り込む“教育”が着々と進められていく。

「愛国心の何が悪い。自然な感情ではないか」の反発が聞こえてきそうだ。本書を読むとわかる。専門の学識が戦前以来の「愛国心」教育の軌跡を追っている。

 明治初期に編まれ始めた欧米の倫理書や教訓書を元にした翻訳修身教科書は、自由に発行・採択されていた。高まりゆく自由民権運動に言論統制で応じた政府は、教科書の検定制度を導入し、修身では儒教を強調。さらには教育勅語を発布して、教育を国民をして服従させる訓練と同じものにしていった。

 この流れはアジア太平洋戦争で頂点に達した。占領軍によって民主主義が標榜された戦後もまた、朝鮮戦争の勃発などと連動しつつ、「愛国心」教育への動きが浮上。紆余(うよ)曲折を経て、日米“同盟”の強化、いや一体化が急がれた近年、冒頭に述べたような現実がついに導かれたというわけだ。

 なるほど人々が普通に考える「愛国心」は、自然の発露かもしれない。ただし、これに権力的かつ恣意的な操作が加えられている点が決定的に問題なのだと、著者は指摘している。

「愛国心」の強制は常に戦争とのセットで現れる。断じて許してはならない。

<サンデー毎日 2009年4月5日号より>

毎日新聞 2009年3月25日

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小学校での英語 ヘルプの声は出ないか

 小学五、六年生の英語学習が二〇〇九年度から一部の学校でスタートする。現場が抱える不安は小さくない。教える側が「ヘルプ ミー」とならないよう、各教委は支援体制を整えておきたい。

 小学校高学年での英語学習は新しい学習指導要領に盛り込まれた。授業時間は週一時限(標準四十五分)。全面実施は一一年度からだが、一部の学校では前倒しして来月から始める。

 文部科学省によると、〇七年度の時点で97%の小学校が何らかの英語活動に取り組んでいた。下地があるから前倒しで行っても支障は少ないと判断したようだ。

 しかし、旺文社が昨年夏に全国の小学校を対象に行った英語活動アンケートでは「導入がスムーズに進むと思うか」の質問に53%が「不安が残る」と答えている。

 英語を総合学習で扱うのと、必修として教えるのでは指導内容や方法は大きく異なってくる。小学校で教壇に立っている先生の多くは英語を教える訓練を受けていない。不安を抱くのは当然だ。

 新要領は「あいさつ」「家庭での生活」などのコミュニケーションを体験させると例示するにとどまる。これでは現場の不安は解消されない。そこで文科省は教材「英語ノート」を作った。

 六年生用ノートには「Please help me.」「I want to be a teacher.」などの文が並ぶ。出てくる単語は小五で百三十、小六で百五十程度だ。

 学ぶ事柄を会話に主眼を置いているからイラストが多い。教師向け指導資料も作られた。授業では付属CDを併用し、外国語指導助手も用いるという。

 教具をそろえ、助手がいても、授業を計画、進行するのは教師の仕事だ。現実には現場が手探り状態で進めることになりそうだ。

 不安を少しでも払拭(ふっしょく)するために、各教育委員会は何らかの手だてを講じているのだろうか。

 中学校の英語教師に協力してもらうのは対応策の一つではないか。会話を中心に教える小学校英語を直接触れる機会になり、中学での指導経験も生かしてもらえるだろう。

 子供が中学に入って英語が嫌いになったり、ついていけなくなる「中一ギャップ」に解決の糸口が見つかるかもしれない。英語教育は小中連携を進めるべきだ。

 教える側が自信のなさを隠しながら授業をしても、子供は先生の不安を感じ取るにちがいない。

中日新聞・東京新聞 2009年3月24日

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教職大学院、制度に課題

 上越教育大の院生がスクリーンを使い、この1年の実習の成果を発表した。協力校の先生からも質問が出た

 学校のリーダーとなる先生を育てるため、教職大学院ができて1年になる。院生は現職教員や学部新卒者。従来の研究型の大学院と違い、事例や実践を通した授業に力を入れる。しかし、院生が確保できるかどうかは、先生を送り出す側の教育委員会が握り、院を修了しても給料や採用の優遇もない。今後、制度設計が改善されなければ、効果が上がらない可能性もある。

◆実践重視 現場で指導

 静岡県伊東市の小学校で教えていた土屋和広さん(36)は、東京学芸大学の教職大学院に通った。「不登校やいじめ問題への対応、国語の教え方の改善の手がかりを得たい」と思っていた。

 1年のコースで、実習と事例研究、理論を学び、指導方法や課題が見えてきたという。

 いじめであれば、発生前に手を打つことの大切さを知った。そのために子どもたちの自己肯定感をふだんから高める工夫を研究した。「以前は子どもが騒いでいたら、『何やってんだ』と怒っていたが、今後はまず話を聞くなど、接し方が大きく変わると思う」。4月、土屋さんは学校に戻る。

 上越教育大学(新潟県上越市)の教職大学院生が今月10日、2〜3人のグループに分かれ、1年の成果を発表した。院生が実習した連携協力校の教員や市教委関係者も多数訪れた。

 ある院生3人のチームは異学年学習をテーマに週2日、小学校で行った。最初の2カ月は学校行事に参加し、授業を補助した。子どもと信頼関係をつくるためだ。その後、高学年と低学年が入り交じったさまざまな授業を10回以上試みた。効果として、子どもが学習に向かう姿勢が積極的になる、悩みや喜びが異年齢の子どもに共有できる、教師も普段と異なる組み合わせで互いに刺激になったという。

 同大の場合、教員のテーマに合わせて院生のチームをつくる。そして地元教委の協力で、チームごとに協力校・施設で実習する。「現場では現職の院生が、新卒の若い院生の指導係としても機能している」と担当教授は話す。

 実習に工夫をこらす大学も少なくない。福井大学は「出前方式」だ。院生が現職なら学校に勤務したまま、大学教員が2人一組で現場に出向き指導する。

 授業の改善や生徒指導、学校経営などを大学側の担当者が指導するが、結果は大学に持ち帰り、反省点や課題を洗い出し、指導を深める。大学側の担当教員は「現職のリーダー的な先生は現場を離れにくい。大学から出て行き、地域に根ざす手法が求められている」と話した。

◆現職教員の確保難題

 08年に学生を受け入れた教職大学院は19校。総定員706人に対して院生は631人で、定員割れの大学も少なくない。

 最も定員割れが激しかったのは愛知教育大学だ。「入試が既設大学院の後になったことや、愛知県の採用試験が他県より入りやすかったため」と説明する。学部新卒者が採用試験に受かれば、そのまま就職し、大学院を素通りしてしまう。

 一方で、文科省は、大学院に進んだ新卒者が修了時100%採用試験に合格するよう非公式に求めている。大学の担当者は「合格しなかった新卒者に2年後、全員合格を求めるのは難しい。それが前提だと、そもそも新卒者の受け入れに慎重にならざるをえない」と打ち明ける。

 現職教員の院生の確保にも問題はある。大学院に通うため、休職する場合もあるが、多くは地元教委からの派遣に頼る。岡山県教委は現職10人を派遣した。授業料は本人負担だが、給料は支給。ただ派遣にともない、代わりの先生が必要になるため、予算に直結する。「今後も続くかどうかは予算のこともある」と県教委幹部は言う。

 また、東京都のように、実習などの教育内容にも注文を出し、大学側と協定を結ぶケースもある。ただ、ある大学教員は「学力テストの点数を上げるなど教委側の要求を何でも受け入れると大学の自立性の問題とかかわる。逆に意向を尊重しないと教員派遣に影響が出るかもしれない」と心配している。(編集委員・山上浩二郎)

 《解説》 教職大学院は制度設計上、あいまいな点を残したまま、スタートした。

 まず、政府による予算の投入がほとんどなく発足した点だ。大学教員が増えなかったため、既存大学院の教員を回すことしかできなかった。財政難とはいえ、個人の奮闘努力に頼る教育は、いずれ、質の低下を招く恐れがある。

 教職大学院は、高度な職業人の養成の場でもある。しかし、豊富な知識を得、実践を積んでも、給与体系は一般の教員と変わらない。また採用試験を受けるにしても、東京都などで1次免除などの優遇策はあるものの、多くは他の受験生と同じ扱いだ。大学院に進んでもメリットに乏しく、きちんとした制度になっていない。

 教育目的もあいまいだ。「管理職・教育庁の行政職の養成」なのか、「現職への教科指導、学級経営の研修」なのか、はっきりしない。また、教育委員会から、無条件で受け入れるようになってしまえば、教委や学校の幹部登用などへの受け皿になりかねない。

 日本は、教職課程を学べば、教員免許が取れる。ただ、だれでも教員になるわけでなく、質の担保は採用試験が担っているとも言える。ところが、教員に指導方法を学ばせるため塾へ派遣したり、免許がなくても学校で教えたりする「先生」も現れた。学校の教員より、免許をもたない先生の評価がいいとなれば、教員免許そのものの意義自体が問われる。

 教職大学院の実践例は悪くはない。しかし、土台ともいえる教員の専門性についての合意や、教員養成全体の仕組みも合わせて考え直さなければ、有効に機能しないだろう。

     ◇

 〈教職大学院〉 法科大学院などと同じ専門職大学院の一つ。専任教員の4割以上が元校長などの実務家で、修了に必要な45単位のうち、10単位以上を小中学校などの「連携協力校」での実習にあてる。2年が標準だが、1年や3年以上も可能。08年度の19校に加えて、09年度から5校が開設する。今月、教育内容などの大学運営を評価する評価機構が発足した。

朝日新聞 2009年3月24日

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全国学力テスト:犬山市初参加へ 市長と教育長が対立−−市教委の説明不足 /愛知

 4月の全国学力テストに初参加することになった犬山市では、参加派の田中志典市長と不参加派の瀬見井久教育長が激しく対立してきた。これまでの経過を振り返る。

 瀬見井教育長は、前市長の石田芳弘氏と二人三脚で教育改革を進め、少人数学級などを全国に先駆けて実施した。石田前市長から田中市長になって様相は一変した。田中市長は「市民は参加を望んでいる」として参加に向けた準備を進めた。

 最初に手掛けたのは教育委員の増員だった。保護者代表として、参加派とみられるPTA会長が加わった。その後も不参加派委員を参加派に入れ替える一方、瀬見井教育長を「独善的」と批判した。教育長も「教育行政は市教委の専決事項」と譲らなかった。

 参加への方向転換は田中市長の「作戦勝ち」に見えるが市教委の側にも問題があった。保護者への説明が不足しており、上(市教委)から下(学校、保護者)へというやり方では、学校の理解を得られたとしても保護者の心はつかめなかったと言えそうだ。対立にうんざりしている市民も多いとみられ、「これからは話し合いで進めて」との声も出ている。【花井武人】

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 ◆全国学力テスト参加までの経過◆

06年12月 田中志典市長が初当選し、市教委の不参加方針を批判

07年 1月 市教委が「不参加」を正式決定

    4月 第1回テスト実施。犬山市の小中学校は平常授業

08年 4月 教育委員1人の増員条例を可決

       第2回テスト実施(犬山市不参加)

   12月 市情報公開条例を改正し、小規模校のテスト結果を非開示に

       丹羽俊夫教育委員長の解任動議可決

09年 1月 丹羽委員長が解任を拒否(その後、解任を凍結し、復帰)

    3月 第3回テストへの参加を決定

毎日新聞 2009年3月24日

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次官、犬山の学テ参加を歓迎=文科省

 愛知県犬山市教委が全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)への初参加を決めたことについて、文部科学省の銭谷真美事務次官は23日の記者会見で「学年全員を対象とした調査として企画しており、すべての公立学校に参加してもらえるのは望ましいこと」と歓迎した。
 全国学力テストは4月21日に再開3回目の試験が実施される。文科省は全国の市町村教委や私立小中学校の参加状況を取りまとめているが、現時点で不参加を表明している教委はない。(了)

時事通信 2009年3月24日

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「混乱は時間の無駄」 学力テストに振り回された子供、親

 一転、参加へ−。文部科学省の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)について、2年連続の不参加から2009年度の参加を決めた23日の愛知県犬山市教育委員会臨時会。小中学校の全学年を対象にした少人数授業の導入など、前市長と教育長の「二人三脚」で進められた独自の教育理念の転換は、テスト実施が4月21日に迫る中、当事者の児童・生徒や保護者たちが政治に振り回される結末となった。

 午前10時、犬山市図書館で開会し、丹羽俊夫委員長が「議論は尽くされたので採決に入りたい」と発言、すぐに記名投票に移った。丹羽委員長が参加4、不参加2と結果を読み上げ、閉会するまでわずか10分少々だった。

 終了後、瀬見井久市教育長には落胆の色が浮かんだようにも見えた。記者らの質問に「全国で唯一、学力テストを拒否した犬山での議論が一石を投じたことは間違いない」と言い切った。

 参加派の田中志典市長は「教育委員の判断が私の考え方と一致した結果」と淡々とした表情。「就任以降、教育委員にさまざまな立場の人をバランス良く入れることを念頭に人事にあたってきた。それぞれの立場で良い議論ができたのではないか」と強調した。

 採決で参加票を投じたとみられる委員の1人は「テストを受けることで犬山のこれまでの教育が良かったことを証明できるのではないか」と述べた。

 児童の父親の1人は「学力テストで何かが変わるとは思えず、ゴタゴタで浪費した時間が無駄だった。市長にも、教育長にも、ほかにやらなければならないことはあったはずだ」と冷ややか。ある母親は「子どもの学力を気にする親はたくさんいるが、自分は点数主義に振り回されたくない」。別の父親は「参加することで教師や犬山の教育の質が向上するのならよいのではないか」ととらえた。

 犬山市の教育改革は石田芳弘前市長と瀬見井教育長が進め、学力テストの拒否は教育理念の延長線だった。潮目が変わったのは、石田氏の辞任を受けた06年12月の市長選。テスト参加を掲げた田中志典市長が初当選し、市長と教育長の対立は、抜き差しならない状態になっていた。

東京新聞 2009年3月24日

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犬山市が学力テスト参加 市教委、記名投票で決定

 文部科学省が小学6年と中学3年生を対象に実施した全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)で、全国の自治体で唯一、2年連続不参加だった愛知県犬山市教育委員会は23日、臨時会を開き、4月に予定されている2009年度の同テストへの参加を賛成多数で決定した。09年度の学力テストには全国の公立校すべてが参加する見通しとなった。

 会議では討論は行わず、6人の委員による記名投票で採決があり、「参加」が4票、「不参加」は2票だった。

 全国学力テストについては、参加を主張する田中志典市長と、不参加を牽引(けんいん)してきた瀬見井久市教育長が激しく対立。同市教委は昨年度、2月の定例会では反対3、賛成2で学力テスト不参加を決めたが、それ以降、田中市長は委員を増員したり、任期満了の際に委員を入れ替えたりして、自分の意向に沿う参加派の勢力を反対派と逆転させた。

 学力テスト参加決定を受けて、瀬見井教育長は「結果はさまざまな考え方の帰結として尊重する。参加によって、これまでの犬山独自の教育改革が影響を受けることはない」と語った。

 田中市長は「いい形で結論が出た。参加を望む意見も多く寄せられており、これで市民の声に応えることができた」と述べた。

中日新聞 2009年3月23日夕刊

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全国学力テスト:愛知・犬山市、参加 市教委が決議

 全国学力テストに自治体で唯一、2年連続で参加していない愛知県犬山市の教育委員会は23日、臨時教育委員会を開き、4月21日に実施される学力テストに初めて参加することを決めた。今春の学力テストに不参加を表明した自治体は出ておらず、3年目で初めて全自治体が参加して実施される見通しとなった。

 テスト結果の開示問題については、委員の中でも意見が分かれている。【花井武人】

毎日新聞 2009年3月23日

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愛知県犬山市が学力テストに参加 公立学校すべて出揃う

 全国学力テストに唯一不参加だった愛知県犬山市で23日、臨時教育委員会が開かれ、4月21日実施の今年のテスト参加が委員の賛成多数で決まった。

 これで、文部科学省が目標としてきた公立学校すべての参加が初めて実現する。

 委員会には委員全員の6人が出席、委員長を含む6人による記名投票が行われ、参加4票、不参加2票だった。

 同市は少人数学級や2学期制、独自の副読本の製作などの教育改革を続け、「全国学力テストは格差や過度の競争を招き、学び合って育つ犬山の教育と相いれない」として2007、08年のテストには参加していなかった。

 しかし、参加を主張してきた田中志典市長が、参加に否定的な委員を肯定的な委員に交代させるなどし、参加の可能性が高まっていた。昨年12月からの市教委の会議では、「参加によって、改革を積み重ねてきた犬山の教育が損なわれる」などの根強い反対意見もあったが、「犬山の教育に自信があるなら、一度参加して検証すべきだ」などの賛成派の主張が広がりを見せ、4度にわたる市教委の会議を経て決着した。

讀賣新聞 2009年3月23日

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教委、全国学力テストに初参加へ=犬山市

 愛知県犬山市教育委員会は23日、文部科学省が実施する2009年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)に参加することを決めた。同日の市教委臨時会合で教育委員6人が採決した結果、参加が4人となり、不参加の2人を上回った。田中志典市長は記者会見し、「犬山が取り組んできた教育を検証するいいチャンスが生まれた」と述べた。

 同市教委はこれまで全国の公立校で唯一、2年連続で全国学力テストへの参加を見送っており、初の参加となる。同テストは4月21日に実施される。

 市教委はこれまで、全国学力テストへの参加が学校間の競争や序列化を招くなどと反発。07年度は教育委員5人全員が、08年度は3人が反対し、それぞれ不参加を決めていた。

 しかし、田中市長は06年12月、テスト参加を公約に掲げて初当選。同市長は、保護者の多くは参加に賛成の意向があるとみて、テスト不参加派の委員の任期満了に合わせ、参加派の委員を新たに任命するなど、布石を打っていた。

 参加に反対していた瀬見井久教育長は「結果については尊重する。犬山だけが(真剣に)議論し、国に重要な一石を投じたことは意義深い」と語った。(了)

時事通信 2009年3月23日

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小中一貫教育 垣根を除く改革にしたい

 義務教育の九年間を一体のものとして行う小中一貫教育が、姫路市で二〇〇九年度から始まる。兵庫県内で本格的に導入されるのは初めてである。

 小中一貫教育は、いま急速に広がっており、全国で千数百校にのぼる。先ごろ、横浜市が一二年度、大阪市も一一年度から全市での実施を明らかにした。東西の二大市で導入されれば、対象校が計九百以上も増えることになり、関心や影響もいっそう大きくなるに違いない。

 一貫教育は「六・三制」の教育課程にこだわらず、カリキュラムを弾力的に編成する方法である。これに基づいて、小中学校間の垣根を取り除くことを目指す。

 昨年、政府の教育再生会議が「義務教育課程の弾力化」を打ち出すなど、追い風は吹く。だが、一貫校はまだ法的な裏付けがなく、あくまで小中の連携にとどまる。

 取り組みは、数年前から教育特区や研究校として始まった。中でも注目されたのは、東京都品川区が〇六年度から踏み切った全域での導入だ。ただ、校舎・施設が一体化した一貫校はまだ少ない。

 連携の形は、小中学校が一対一、複数対一、複数対複数がある。九年間に区切りをつけないわけではない。緩やかに「四・三・二」に分けることが多いようだ。

 一貫教育の利点は、いろいろ指摘されてきた。その中で期待できるのは中学進学で起こりがちな不適応への対処である。

 中学へ進むと、とかく学習内容や学校生活の変化に適応できない生徒が少なくない。不登校やいじめを受けることもある。

 こうした心身ともに大きく変化する年代に起きる問題は、教育現場で「中一ギャップ」と呼ばれる。一貫教育なら教員の交流で生活指導が継続でき、学習も柔軟に配慮でき、対処しやすいだろう。

 先行してきた品川区で一定の成果は挙げているようだ。私学指向が強い首都圏で公立離れにある程度歯止めもかかった。

 一方、課題として、小中間の連携法の協議など教員の負担が増えて多忙になるとの指摘がある。推進するなら、なにより教職員の意識改革が求められる。まさに小中の協力で解消を目指す必要がある。

 姫路市では、まず市中心部で一校をモデルとしてスタートさせる。一〇年度以降、次第に全域へ拡大させていく方針だ。

 利点にばかり目を奪われず、課題をしっかり洗い出すことだ。やるからには義務教育改革の切り札の一つにしたい。

神戸新聞 2009年3月23日

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奨学金返済3カ月遅れ ブラックリスト化 学生に同意書強要 大学院生、「脅迫的だ」

 政府の方針を受けて、日本学生支援機構(旧日本育英会)は奨学金の返済を延滞した利用者を個人信用機関に通報する制度を二〇一〇年度に導入しようとしています。返還が三カ月遅れると“ブラックリスト”に載せられる制度です。ローンを組んだり、クレジットカードの利用が困難になります。同機構は、いま順次利用者に「同意書」を求めています。これに応じなければ奨学金が受けられないというやり方は「教育基本法が禁じる信条や経済的地位による差別にあたる」との声があがっています。(伊藤悠希)

 二〇〇九年度日本学生支援機構の奨学金ガイドには次のように記載されています。「奨学金の貸与を受けるには、個人信用情報の取扱いに関する同意書を提出しなければなりません」「同意書の提出をしなかった場合には奨学金の申込資格はありません」。前年度まではなかった記述です。

 「奨学金がないと大学には通えない。同意書を書くしかなかった」と話すのは京都の私立大学に通う一回生のAさん。両親は離婚し、父親と暮らしています。父親は病気で働けず、生活保護を受けています。高校生の時から無利子と有利子の奨学金を利用しています。「将来は不安。返せない人を切り捨てるようなことはしてほしくない」

 同意書に不安を感じ、提出しない人もいます。東京都内の大学院生Bさん(26)は「“同意書を提出しないのは返す意思がないとみなし、継続しない”というのは脅迫的なやり方です」と言います。Bさんは学部生のときから五年間利用しています。現在は博士課程一年。無利子で月十二万円利用しています。アルバイトと奨学金で学費と生活費を支えています。両親は定年退職しており、経済的に頼れません。

 同意書を提出するかどうかはそれぞれですが、AさんもBさんも奨学金延滞者のブラックリスト化に反対しています。

月16万円の生活では 奨学金滞納ブラックリスト化 卒業しても職なく
 政府や機構側は延滞者の増加を、個人信用情報機関への通報制度の導入の理由に上げています。しかし、延滞者の増加(七年で一・四倍)は奨学生が急増(七年で一・六倍)したことによるもので、単年度の返還率は94%、繰り上げ返済を含めれば100%を超えており、機構の業績悪化や奨学生のモラルの低下にあるわけではありません。

■1年契約

 しかも、奨学金の延滞理由は低所得が45・1%、無職・失業が23・5%となっています(表・〇六年度機構調査)。経済的な困難が圧倒的です。

 返済額が四百五十万円、毎月約二万円の返済が二十年続くというCさん(23)は一年契約で働いています。

 月収は十万円。ほかにアルバイトをして、月十六万円で生活しています。年金保険料、必要経費などを払い、奨学金を返済すると自由になるお金はわずかです。

 来年度は契約を更新できますが、次はわかりません。「返せる経済力がない人の場合、ブラックリストに載せたところで、返済ができないことに変わりはありません」

■異議あり
 ブラックリスト化に反対している「国民のための奨学金制度の拡充をめざし、無償教育をすすめる会」には、「同意書を提出しなければ奨学金の継続、貸与開始を認めないというのは強制であり、問題だ」「回収率改善の根本的解決策とはならないと思われる」などブラックリスト化反対の声が大学から寄せられています。

 通報制度は二〇〇六年七月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(骨太方針)二〇〇六」で出された奨学金の回収強化の具体化です。政府と機構側は通報制度に続いて、延滞者の高い大学名の公表、延滞九カ月で法的措置、有利子金利上限(3%)の撤廃などをねらっています。

 奨学金は大学生の三人に一人、大学院生の二人に一人が利用しています。無利子が三割に対し、有利子が七割となっています。

 奨学金は憲法と教育基本法の「教育を受ける権利」に基づいており、経済的な理由で学業をあきらめる若者をうまないためのものです。営利を目的に、返済能力のある人だけに融資する金融事業とは目的も貸し出す対象も全く異なります。

 「給付制の創設や無利子枠を拡充し、返済しやすい制度を国がつくってほしい」と利用者や機構の職員らは訴えています。

しんぶん赤旗 2009年3月22日

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道徳教育 心のノートで公徳心養え

 新年度から小中学校で新しい学習指導要領が先行実施され、道徳教育の充実が図られる。徳育は学力向上とともに公教育再生の要である。学校現場は指導法を工夫して取り組んでもらいたい。

 文部科学省は全小中学生に配布している道徳の副教材「心のノート」を改訂した。新指導要領を踏まえた一斉改訂だ。

 心のノートは、神戸の児童連続殺傷事件などをきっかけに、平成14年度から使われている。命の大切さなどの教育の重要性が指摘され、日常生活の場面を題材に考える内容だ。

 改訂版では「きまりを守る」といった規範意識や公共心の育成など、新指導要領で重視される項目が増えて充実した。また若者の勤労意欲低下など最近の課題にも対応し、「働くことのよさ」をテーマにしたページも加わった。

 日常のあいさつ、助け合いの大切さなどの心のノートでも取り上げられている徳目は、以前は家庭や地域の中で当たり前に教えられ、はぐくまれてきた。

 だが家庭のしつけがきちんと行われず、幼児期から集団生活に慣れない子供たちが増え、学校の道徳教育の重要性は増している。

 一方で、道徳教育は教師によって指導の差が大きい。一部教職員組合は心のノートを「使わない」ことを組合活動の成果とするあきれた例さえあった。

 学校現場には道徳教育を「押しつけ」などと嫌う風潮があるが、公徳心や正義などを毅然(きぜん)として教える教育が必要なときである。

 最近の意識調査で、子供の勉学意欲低下や将来を悲観的にみる若者など気になる結果が目立つ。東京都教育委員会のアンケートでは中高生は自分自身を好意的にとらえておらず、自尊感情が低いとの結果が出た。都教委が「自分が嫌いでは学習意欲もわいてこない」と懸念するのはもっともだ。

 都教委では、例えば失敗や間違いも大切な経験であることを教えるなど、子供が自信を持てるような指導に取り組むという。

 また大阪府教委は、独自の授業「志(こころざし)学」を府立高校に導入するなど、小中学校を含めて「将来について考える機会を設ける」という。

 道徳以外でも、自虐的な歴史教育など子供たちの誇りや夢をつぶすような授業がまだみられる。子供たちの意欲や活力を引き出す指導をしてほしい。

産経新聞 2009年3月22日

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県教委の新研修制度 「管理」が強すぎないか

 これまで、取得すれば終生有効だった教員の免許状が、今年4月から10年ごとの更新制に切り替わる。新採用も現職も、定められた期間に更新講習を受け、修了認定試験を通らなければ、継続して教壇に立てなくなる。

 更新講習は、主として教育系学部がある大学で実施されるが、本県では、それとは別に県教委が独自に「授業力向上研修」を開設。更新講習として文科省に認定申請する予定だ。自治体が講習を開設するのは、他に岐阜県教委と名古屋市教委しかないという。

 更新講習の組み立ては、多くを大学が担う情勢で、県教委が自ら実施主体となる取り組みは特筆に値する。

 文科省は、新制度の目的を「教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に最新の知識技能を身に付けることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ること」と規定した上で「不適格教員の排除が目的ではない」と断りを入れている。

 教員免許更新制は、不適格教員をいかに減らすかという議論の中で浮上してきた。こうした考え方には現場の反発が強く、わざわざ注釈を入れる必要があったのだろう。

 議論の発端は、小渕内閣当時の教育改革国民会議にさかのぼる。中教審は2002年の答申で、他の資格制度や公務員制度との比較で、教員に限って更新時に適格性を判断したり、新たな知識技能の修得を求める制度に慎重な姿勢を示している。

 この後、小泉政権下、中山成彬文科相の時代に「学力ショック」を背景として更新制をめぐる論議が再燃。安倍政権では、首相直属の教育再生会議が「不適格教員の排除」を声高に論じたが、中教審は慎重姿勢を崩さず、結局「資質向上」を主眼とする制度として07年、教育職員免許法が改正された。

 その経緯に照らせば、県教委が一手に講習も認定も行うことに、管理強化を懸念する声が上がるのも理由なしとはしない。対象者は、教育現場で多様な経験を積んでいる教師が大半。制度の趣旨は、大学などが用意する講習の中から、各自の課題認識に応じて選択受講するのが原則だ。

 県教委の研修は、県が任命する教師すべてに職務として受講を義務づけるもので、強制的な色彩が強い。3万円前後とされる受講料や交通費などの経費も公費負担となりそうだ。

 講習内容や認定試験は、県教委の方針にかなうものとなるだろう。ちなみに岐阜県や名古屋市の講習は、受講者の選択が基本。経費も自己負担という。厳密的には本県方式と異なり、個々の課題認識が反映される余地がある。

 さらには今回、私立校の教師や幼稚園教諭らは、県の研修の対象外。同じ教師を対象とする制度で、経費面からも不公平が否めない。

 現場に混乱の余地を残しては、制度の円滑なスタートは望めまい。教師の意欲をそがないよう、再検討を望む。

遠藤泉

岩手日報 2009年3月22日

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教員免許更新制 教育に費やす時間を奪っては

 教員免許が四月から、十年ごとの更新制に変わる。「戦後レジームからの脱却」を掲げ、教育基本法改正などの教育再生を推し進めた安倍晋三政権の遺産となる試みだ。

 背景には教員の資質向上を願う意識の高まりがある。更新制は定期的に最新の知識や技能を修得させるねらいで、それ自体に異存はない。

 学力低下の不安が広がる一方、授業や学級運営に問題のある指導力不足教員への関心は高い。教育行政としてなんらかの対応は当然だろう。

 ただし、安倍元首相や旧教育再生会議が「不適格教員の排除」を明言していたこともあり、教育現場には反発や不信感が根強い。その元首相が参院選で惨敗したため、教育再生は国民の信任を欠いたまま進む結果になった。

 こうした経緯もあわせて踏まえておきたい。期待どおり効果を得られるか、たえず検証することが不可欠だ。

 教員免許を更新するには必修と選択合わせて三十時間以上の講習が必要で、修了認定を受けなければ失効する。身分を保障して職務に打ち込めるようにしてきた終身免許制は、根本から変わる。

 上越教育大の佐久間亜紀准教授によれば、免許制の数少ない導入国である米国には、四年制大学を出ておらず免許をもたない教員が多く採用されている。一定の研修を受ければ更新されるという。

 厳格な免許制のもと、すでに研修も徹底した日本はおのずと事情が異なる。それだけに更新制には屋上屋を架す印象も抱く。逆に、本当に問題のある教員なら早急に改善や処分をするべきで、十年の更新期を待つまでもない。

 懸念されるのは、報告書や事務処理で忙殺され、残業や自宅への持ち帰り仕事が当たり前の教員から、本来の教育活動に費やす時間をますます奪わないかだ。それでなくとも授業時間増などで教員の負担は増すばかりだ。

 文部科学省が昨年まとめた教育振興基本計画は教員増について「定数のあり方を検討する」と述べるにとどまり、原案段階から後退した。

 学力向上には本来教員増こそ有効な手だてだが、そちらの展望は乏しいまま、辞めさせることもできる制度だけ始まるのはバランスを欠く。

 加えて、教員になるのを敬遠する人が出てくることも当然考えられよう。これらの弊害に目配りが必要だ。

 内面への影響も挙げられる。人事考課を気にして教員を萎縮(いしゅく)させ、自由な創意を妨げないかどうか。効率的に成果をあげようとすれば一人一人事情のちがう子どもにじっくり向き合うことも望めず、むしろ逆効果だろう。

 子どものためという原点を見失わず、よりよいあり方を探る努力を続けたい。

愛媛新聞 2009年3月22日

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教研集会拒否 偏見を助長した罪も重い

 昨年2月、日教組が東京で開いた教育研究全国集会(教研集会)で、全体集会の会場予約を取り消すなどしたグランドプリンスホテル新高輪の関係者が、旅館業法違反の疑いで書類送検された。

 送検されたのは、このホテルを経営するプリンスホテルの社長ら幹部4人で、警視庁は同時に、法人としてのプリンスホテルも書類送検した。

 この問題では、一方的な契約破棄で、恒例だった教研集会初日の全体集会が史上初めて中止に追い込まれた。ことは憲法で保障されている「集会の自由」や「言論の自由」にかかわる事態であり、決してゆるがせにはできない。

 プリンスホテル側は宴会場の集会使用拒否と併せ、教研集会参加者向けにいったん契約していた約190室の宿泊予約も取り消していた。今回の送検容疑は、その宿泊拒否に関してである。

 社長らは任意調べで、正当な理由なく違法に宿泊を拒否したことを認めているという。一方で、ホテル側は「日教組集会での宴会場利用を断った結果、宿泊も不要になると考えて宿泊も断った。宿泊を断ること自体を目的としていたわけではない」との談話を出した。

 奇妙な弁明である。百歩譲って、集会を拒み、宿泊だけは受け入れることもあり得たはずだ。しかし、ホテル側はまず集会拒否の判断があり、本意ではなかったが宿泊も拒否したというのだ。

 いずれにしろ、ホテル側が集会と宿泊を一体ととらえて契約を勝手に取り消した事実は消えない。もともと大手ホテルが一度結んだ契約をトップ判断でいとも簡単に破棄したことが異例であり、警視庁も見過ごせなかったのであろう。

 今回、さらに見逃せないのは、社長らが拒否の理由を「右翼の街宣活動が来ることで、ほかのホテル利用者や周辺住民に多大な迷惑がかかるため」と一貫して述べていることだ。東京地裁や東京高裁が日教組の仮処分申請を認め、会場を使用させるよう命じる決定を出しながら、最後まで従わなかった。それも「右翼による混乱の恐れ」を理由にだ。

 ここで思い起こすのは2003年11月、熊本県南小国町のホテル(廃業)がハンセン病療養所に入所する元患者たちの宿泊を拒否した事件である。「ほかの宿泊者に感染の恐れがある」が理由だった。熊本県が再三、元患者は治癒しており、医学的にも感染の可能性はあり得ないと説得しても、聞き入れなかった。

 ホテルの元社長らは旅館業法違反罪で罰金刑を受けた。ハンセン病への偏見の根深さとともに、宿泊拒否自体が偏見を助長した罪深さを忘れてはならない。

 今回の対応も同様だ。一部にしろ、日教組やその集会を偏見視する風潮がいまだにある。司法判断を無視した確信犯的な「拒否」は、結果的にその偏見を社会に広めたのではないか。そのこともプリンスホテルは重く反省すべきだろう。

西日本新聞 2009年3月22日

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【金曜討論】学力テスト 梶田叡一氏、寺田典城氏

梶田叡一・兵庫教育大学長 4月21日に実施が迫った「全国学力テスト」の成績公表をめぐり、「都道府県が市町村別成績を公表すべきではない」とする文部科学省と、「教育改善のため必要」とする知事らとの間で対立が起きている。「過度の競争」や「序列化」を招くかどうかが見解を分けている。昨年12月に文科省の実施要領に反して市町村別成績を公表した秋田県の寺田典城知事と、実施要領順守を求める梶田叡一中教審副会長が賛否を展開した。



 ■梶田叡一氏 公表には社会の成熟必要

 −−なぜ成績公表を制限すべきだと考えるのか

 「本来は、できる限り多くのデータを公表しなくてはならない。子供や教育改善に不利にならないことなら、すべて公表すべきだ。学力テストの目的は2つ。子供の学力や学習状況の実態を調べて、各自治体が教育環境整備の判断材料にすること。そして、子供一人一人への指導の手がかりにすること。データを公表しないわけではなく、全体の分布から、各自治体や学校が自分の位置を確認できるようにしている。いらぬ固有名詞は出さないというだけだ」

 −−その理由は

 「昭和30年代の学力テストの苦い思いがある。残念にも結果が教育の改善に使われず、順位付けに終わってしまった。今回も、成績の悪かった市町村や学校が教育改革に乗り出そうとしているのに、データを公表して『ダメだ』とレッテルを張られてしまうと、保護者の協力が得られなくなる。公立校には行かず、私立校に行くということになりかねない。それは子供にも伝わり、どうせ自分の学校は成績が悪いからと、やる気をなくしてしまうかもしれない。だから、市町村名を出したデータ開示はしないほうがいい」

 −−秋田県のデータ公表は

 「乱暴な話だ。勝ち負けは重要ではない。自分の市町村の位置さえ分かれば十分。他の市町村のデータを知らないと教育改革できないというのは間違った発想だ。開示を叫ぶ首長には、自分が『勝ち組』というおごりがある。住民の喜怒哀楽に思い至っていない」

 −−全国学力テストがなかった43年間は

 「やはりまずかった。『ゆとり教育』が子供をネガティブに保護してしまった。美しい言葉ばかりが踊り、『学力がなくても問題ない』という風潮に結びついた。不登校も非行も増え、この時期に教育は滑ってしまった。今回は、この反省から生まれた。事実を踏まえないと、着実なものは生まれない。問題が多いのに調査しないのは『臭いものに蓋(ふた)』にすぎない。副作用を最小限にするため、調査をしたことは評価すべきだ」

 −−公表制限は続くのか

 「原則は全部公開だが、例外として固有名詞は出せない。今は公表で傷つく人が多い。社会が成熟したら出すべきだ。原則と例外の取り扱いとを混同しては困る」

 −−成熟した社会とは

 「人は多種多様だと認められる社会。しかし、今の日本はすぐに人と比べて、画一化しようとする。現在、学力テストは過渡期にある。だからこそ、固有名詞と点数が結びついてしまう。それでは、成績の悪い自治体や学校は動きが取れない。『うちはうち、よそはよそ。成績が悪くても頑張ってよくなればいい』といえる社会ならば、データを公表しても順位付けにはつながらない」(福田哲士)

 ■寺田典城氏 県民に有益な情報は提供

 −−文部科学省は全国学力テストの実施要領で、市町村別成績の公表を認めていない

 「都道府県別成績は公表できて、市町村別の公表はできないのは理解できない。矛盾した実施要領は改善すべきだ。情報がごく一部の教育関係者に独占され、県民はもちろん、一般の先生方にさえ知らされていない。市町村も学校も、自分のところのデータしか知らない。法的拘束力のない実施要領によって、知事の公表を規制することはできない。また、60億円もの税金を使った事業で情報公開に消極的なままでは、文科省の存在意義も問われるだろう」

 −−公表の反響は

 「学校を含めて県民は総じて冷静で、興味本位に序列化するような動きもない。県庁に寄せられた意見の7割は公表に賛成で、反対の多くは教育関係者。教育の常識と社会の常識のずれを感じる」

 −−公表に抗議して次回の不参加に言及した自治体もあった

 「最終的にはすべて参加になった。『公表するなら参加しない』という駄々っ子の論理では、住民の理解を得られないだろう」

 −−序列化や過度の競争につながる懸念は

 「教育関係者だけの懸念で、本当に恐れているのは、学校に既に存在している“序列”が壊れることではないか。昔から『いい学校』といわれたり、『あの学校の校長になれば出世』とされてきたところが、実は成績が悪いことが明らかになれば、具合が悪いのだろう。しかし、成績は教育力を正確に示すものだ。教育関係者だけでなく、一般の人も情報を共有することが社会を動かす力になる」

 −−「公表は社会が成熟してから」との見方は

 「それは日教組と同じ意見で、時期尚早などと言い出したら、いつになれば公表できるのか。教育の現状を素直に明らかにした上で、将来に賭けるのが教育だ。『今は待った方がいい』などというのはピントが外れている」

 −−43年間はなかった

 「かつての秋田は貧しく、教育も不十分で、40年前の学力テストでも40番台が指定席。学力向上は県民の悲願で、私も教育を県政の最重要課題に位置づけてきた。これまでは成果を確認する手段がなく、不安もあった。全国ベースで自分たちの現状を把握し、学力向上策を実施するには、その基礎となる全国規模のテストが必要だ」

 −−公表に積極的な知事は少数派だが

 「知事はそれぞれの考えで行動すべきだと思う。今回の公表は教育を応援するもので、教育行政に介入する意図はない。しかし、知事には県民に有益な情報を提供する責任がある。権限の有無といった次元ではなく、県民の利益を確保し、説明責任を果たすため、大局的に考え、行動することも必要であると思う」(鵜野光博)



 【プロフィル】梶田叡一

 かじた・えいいち 兵庫教育大学長。昭和16年、島根県生まれ、67歳。京都大文学部卒。多面的な教育研究に力を注ぎ、大阪大教授、京都大教授、京都ノートルダム女子大学長などを歴任。平成16年から現職。第5期中教審副会長、学テの分析・活用に関する専門家検討会議座長。



【プロフィル】寺田典城

 てらた・すけしろ 秋田県知事。昭和15年、秋田県生まれ、68歳。早稲田大学第2法学部卒。秋田県横手市の建設会社社長などを経て、平成3年、横手市長選に立候補し、初当選。再選後、9年に秋田県知事選に出馬して当選。現在3期目。今年4月に任期満了で勇退する予定。

MSN産経ニュース 2009年3月20日

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新学習指導要領:文科省、補助教材を公表 先行実施に合わせ

 文部科学省は19日、09年度からの新学習指導要領先行実施に合わせ、小中学校で使用する算数・数学と理科の補助教材を公表した。新指導要領は小学校が11年度から、中学校は12年度から全面実施されるが、先行実施にあたり現行の教科書に載っていない部分を補うため教科書会社に委託して作成した。年度内に計約1680万部を配布する。学習指導要領改定に伴い、国が費用を負担して補助教材を作ったのは初めて。

 作成は6社に委託した。小中計76種で、平均ページ数は最も多い小4が2教科計74ページ、中1では計68ページ。配送費を含む総予算は約10億4000万円。

 小5算数の補助教材(学校図書)は「台形の面積」を取り上げる際、公式を覚えるだけでなく、記述式で求め方を児童に考えさせるスタイルを採用。3人の異なる考え方も示し、似ている点や違う点について話し合うことを促している。文科省は「新要領が目指す『言語活動の充実』を踏まえて工夫した」としている。【加藤隆寛】

毎日新聞 2009年3月19日

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「不当な支配」判決 教委の存在意義が問われた

 教育委員会はどこを向き、何のために存在しているのか。性教育をめぐり、都議らの一方的な教員非難を教育への「不当な支配」とし、損害賠償を認めた東京地裁の判決は、こう問いかけているようだ。

 判決によると、03年、都立七生(ななお)養護学校(現特別支援学校)で、教員たちが実践している性教育の内容が不適切だとして都議3人が学校を訪ね、「感覚がマヒしている」などと教員の資質を否定するような批判をした。これは当時の教育基本法にいう「不当な支配」で、同行した都教委職員には教員を保護する義務があった。だが職員は都議を制止したり教員を退室させたりすることもなく、非難されるに任せた−−というのである。

 この性教育は、体の部位に性器の名称などを盛り込んだ歌を作ったり、人形で説明するなど子供たちに具体的なイメージや理解を持たせようとした。

 性教育は歴史が比較的浅く、授業手法は試行錯誤の上に工夫されてきた。知的障害を持つ子供たちが学ぶこの学校では、子供たちが性犯罪の被害者にも加害者にもならないためにもわかりやすい授業を目指し、教員らが教材、指導法を模索してきたという。

 必要なのは学校や教員たちの体験や情報を共有し、各現場で実践を重ねることだ。そして性教育に限らず、現場に一方的な横やりを入れさせず、教員の研修機会を充実させるなど、教委が果たすべき役割は多い。

 もちろん授業を見たり批判したりしてはならないというのではない。より適した改善や向上を目指す自由で建設的な批判や討議、意見交換は活発に行われるべきだ。しかし、判決が指摘したように、都議の言動は教員を萎縮(いしゅく)させる高圧的な非難といわざるを得ない。そして傍観的態度をとった都教委の責任の重大さを考えなければならない。

 全国で教育委員会制度に疑問符が付くような問題や事件が相次いだ。いじめ自殺への対応、高校の未履修問題、教員採用汚職などだ。また全国学力テスト結果公表問題では自治体や地域によって対応が分かれる。

 こうした状況で、教委を必ずしも置く必要はなく、首長が直接教育行政を掌握、遂行してもよいのではないかという意見もある。実際、議会の承認を得て首長が任命する教育委員が地元教育界功労者の「名誉職」と化し、事務局任せになっている所も少なくないといわれる。

 行政委員会である教委が首長と距離を保った存在とされるのは、首長の交代や急激な方針変更など外から左右されることなく、公教育に安定性や一貫性を担保するためだ。逆にいえば、教委は地域の学校教育に第一義的に責任を持ち、改善、充実に不断の関心と努力を払わなければならない。

 判決は改めてその原点を指し示したといえる。

毎日新聞 2009年3月17日

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プリンスホテルを送検へ 旅館業法違反容疑で社長ら

 グランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)が日教組の教育研究全国集会をめぐり関係者らの宿泊を拒否した問題で、警視庁は16日、旅館業法違反の疑いで、法人としてのプリンスホテルと社長ら4人を17日に書類送検する方針を固めた。

 警視庁によると、グランドプリンスホテル新高輪は2007年5月、日教組が08年2月に開催する予定だった教育研究全国集会の宿舎として約190室を確保する契約を締結したが、07年11月に右翼団体の街宣活動が予想されるなどとして正当な理由なく契約を破棄した疑いが持たれている。

 旅館業法では、宿泊者が感染症にかかっている場合や風紀を乱す恐れがある場合以外は宿泊を拒否できないと規定している。

 日教組は全体集会のための会場使用も拒否され、07年12月に契約解除の破棄を求めて仮処分を申請。東京高裁が08年1月に会場を使用させるよう命じる決定を出したが、ホテル側は従わず、全体集会が初めて中止となった。

 日教組はホテル側に約3億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こし係争中。

共同通信 2009年3月17日

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性教育判決 過激な授業は放置できない

 東京都議の言動に行き過ぎた面はあったかもしれない。しかし、政治家が教育現場の問題点を取り上げて議論し、是正していくこと自体は、当然のことと言えるだろう。

 都内の養護学校の教員らが、学校を6年前視察に訪れた都議から不当な非難を受けたと訴えていた裁判で、東京地裁は3人の都議と都に対して損害賠償を命じた。

 養護学校では、性器の付いた人形を性教育の教材として利用するなどしていた。都議らは教員に向かって「感覚が麻痺(まひ)している」などと批判した。

 判決は、都議が教員の名誉を違法に侵害したと認定した。

 改正前の教育基本法が禁じた、「不当な支配」にも該当し、現場に職員がいながら制止しなかった都にも賠償責任があるとした。

 だが、都にそこまで教員を保護する義務があったのだろうか。

 当時は、「男らしさ」や「女らしさ」を否定するジェンダー・フリーの運動とも連携した過激な性教育が、全国の小中高校にも広がっていた。

 小学校2年生の授業で絵を使って性交が教えられるなどした。

 性器の付いた人形が、都内80の小学校で使われていたことも明らかになり、国会でも取り上げられた。文部科学省が全国調査し、自治体も是正に取り組んだ。

 都議の養護学校視察は、こうした過激な性教育を見直す動きの一環として行われたものだ。

 原告の教員らは、知的障害のある子どもたちは抽象的な事柄を理解することが困難なため、教材に工夫が必要とも主張している。

 普通の小中高校の場合と同列に論じられないのは、その通りだろう。しかし、性器の付いた人形の使用まで必要なのか、首をかしげる人は多いのではないか。

 養護学校の学習指導要領解説書は、生徒の障害や発達段階を踏まえ、性に関する対応なども重視するよう求めている。

 教育が「不当な支配」に服することを禁止した以前の教育基本法の規定は、日教組などが教育行政の現場への介入を否定する根拠ともされた。

 「不当な支配」の文言は、新法にも引き継がれた。しかし、教育は「法律の定めるところにより行われる」とされ、教育委員会の命令や指導は「不当な支配」に当たらないことが明確にされた。

 教育をめぐる問題については、現場の意見を尊重しつつも、広く国民的な議論に基づいて進めていかなければならない。

讀賣新聞 2009年3月16日

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性教育 過激な内容正すのは当然

 東京都日野市の都立七生養護学校の性教育をめぐり都議が視察で批判したことに対し、東京地裁は、「学校の性教育に介入し、教育の自主性を阻害した」などと都や都議3人に計210万円の賠償を命じた。

 問題の性教育は性器のついた人形を使うなど不適切な内容であり、都議らの是正に向けた取り組みは当然の行為だ。これを不当とした判決は極めて疑問である。

 平成15年に過激な内容の性教育の問題を都議らが都議会で指摘したうえ視察した。性器の付いた男女の人形やコンドームの装着を教えるための男性器の模型などの教材が明らかになり、都議は「常識では考えられない」「感覚がまひしている」などと批判した。都教委は視察に立ち会い、教材を没収した。

 これに対し当時の教員ら31人が性教育の内容を批判され、教材を没収したのは不当として都と都議のほか、この視察を報じた産経新聞を相手取り計3000万円の賠償を求めた。判決は産経新聞への訴えは棄却し、都教委による教材没収などについても却下した。

 問題なのは、「視察した都議が教員を威圧的に批判した」などとして、「旧教育基本法が定めた『不当な支配』にあたる」との判断を示し、一部訴えを認めたことである。

 同校の当時の性教育には保護者の一部からも批判が寄せられていた。保護者の同意、発達段階に応じた教育内容など性教育で留意すべき内容から逸脱したものだ。

 これを是正しようとした都議らの行動を「不当」とするなら議員の調査活動を阻害しかねない。

 学校の授業は外部の目に触れにくく、独りよがりの授業がなかなか改善されない。保護者や地域の人々が教育内容を知り、不適切な内容に改善を求めるのは「不当介入」ではない。

 旧教育基本法の「不当な支配」をめぐる条文は、特定の思想を持つ団体などの教育現場への介入を戒める規定だが、教職員組合などは国や教育委員会の指導を「不当な支配」と曲解してきた。

 しかし、18年暮れに成立した新教育基本法に「不当な支配」の文言は残ったものの、教職員らに法を守ることを求める規定が追加され、曲解の余地はほとんどなくなった。性教育に限らず、教育委員会や校長は不適切な教育内容には毅然(きぜん)とした指導が必要だ。

産経新聞 2009年3月16日

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『不当支配』認定 教育介入へ当然の判決

 養護学校を訪れた東京都議が反論もさせないまま性教育を一方的に非難したのは旧教育基本法が禁じた「不当な支配」と認定された。現場に立ち入って教育の自主性を侵した行為を猛省すべきだ。

 東京都立七生(ななお)養護学校(日野市、現・七生特別支援学校)では一九九七年、生徒同士の性的交渉が発覚し、その後も性に関した問題行動が多発、学校全体で性教育に取り組んでいた。

 知的障害がある子供を対象とした学校で、分かりやすい性教育として、体の部位の名称を歌詞にして歌ったり、性器模型付き人形を用いていた。

 保護者との話し合いも重ねており、担当していた養護教諭は都教委の研修に講師で招かれ、授業の様子を講演したこともあった。

 都議三人は二〇〇三年、この養護学校を訪れた。東京地裁が判決で認定した視察状況はこうだ。

 三人は保健室で校長らに性教育に使われている人形などを提示させ「常識では考えられない」「不適切なもの」などと述べた。養護教諭には「こういう教材を使うのをおかしいと思わないか」「感覚がまひしている」と非難した。

 資料ファイルを持っていこうとする都議に教諭が「何を持っていくのか教えてください」と尋ねると、都議は「おれたちは国税と同じだ」とたしなめたという。

 判決は事実関係をこう認定したうえで、旧教育基本法が禁じた「不当な支配」に当たると判定している。「単なる視察だった」という都議に対し、意見交換することなく、学校を一方的に非難した違法行為だった、ともしている。

 判決に三都議は「視察と指摘で過激性教育が改善された意義は大きい」とコメントした。現場に介入した意図がうかがえる。成果を誇っており、反省がみられない。都民の負託を受けた現職議員として違法行為を恥じるべきだ。

 都教委は本来、政治的干渉から教育現場を守る役割がある。しかし、都議に同調し、教育の自主性をゆがめる行為に加担した。判決を重く受け止めねばならない。

 性教育は研究の歴史が浅く、さまざまな方法論がある。知的障害がある子供への性教育指導はさらなる工夫もいるだろう。特別支援学校では試行錯誤しながら実践の仕方を探っているのが実情だ。

 学校の努力を調べないまま、都議のいう“常識”だけで判断できる問題ではない。強引な介入や干渉は現場を萎縮(いしゅく)させるだけだ。

中日新聞・東京新聞 2009年3月16日

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就職協定 「復活」を呼び掛ける前に

 就職氷河期の再来が懸念されている時節である。当事者である学生はどう見ているだろうか。

 どんどん早まっている企業の採用活動に歯止めをかけようと、文部科学省や大学側と日本経団連など経済四団体が意見交換した。大学側は就職協定復活を含むルールづくりを要望したが、企業側の理解は得られなかった。

 いまや、大学三年生から就職活動を始めるのが当たり前のようになっている。採用活動の時期が早くなり、学業に悪影響を与えている。こんな不満が大学側から出されて久しい。

 企業側も見過ごしてきたわけではない。日本経団連は企業に対して適切な採用活動を促すため、早期の活動自粛などを盛った新卒者の採用に関する倫理憲章をまとめている。

 それでも状況は良くならない。だからといって、形骸(けいがい)化して廃止された就職協定に再び頼ろうとするのは安易すぎる。必要なのは就職や採用活動を問うだけでなく、大学の在り方を見詰め直すことではないか。

 かつて、大学生の就職活動は四年生で始めるのが一般的だった。就職協定が定めていたのは会社訪問開始や内定の解禁時期だ。ただし紳士協定にすぎなかったため企業の「協定破り」が後を絶たず、一九九六年には有名無実化を理由に廃止された。

 こうした歴史を振り返ると、単に協定を復活させれば事態が好転するとは思えない。不況の影響で、企業が採用数を絞るのは確実だ。選別は厳しさを増し、それだけ学生も必死になるだろう。協定を復活させたとしてもルール破りが横行するだけではないか。

 優秀な学生を早く囲い込みたいという企業の思惑が、採用活動の前倒しを招いたことは事実だ。しかし、大学が被害者とばかりもいえない。

 少子化が進む中で多くの大学は就職支援部門を強化し、学生の就職実績向上に力を入れてきた。それが新入生獲得の武器にもなるからだ。

 学業の邪魔はしないでほしいと企業に訴えながら、就職を目指す学生の尻をたたく。大学が自らの二面性を棚上げにしたままでは、問題の根本的な解決にはつながらないだろう。

 学業に積極的に取り組み、学生生活を充実させることがその後の人生を豊かにする。大学がこのことを学生にきちんと伝え、自らの姿勢を正してこそ採用活動正常化の土台ができる。学業で鍛えられた人材は貢献度も高いのだと企業に訴えることも重要だ。

 大学や企業ではなく、学生の立場を第一に考える。就職問題に取り組むなら、この視点が欠かせない。就職協定の復活を呼び掛ける前に、学問の府がなすべきことは少なくないはずだ。

新潟日報 2009年3月16日

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学費援助提案 高校生泣かさぬ国民の運動を

 日本共産党は十一日、学費が払えず高校を卒業・入学できない若者をださないための緊急提案を発表し国民的運動をよびかけました。

急速に悪化する事態
 たまたま当日夜、NHKテレビの番組「クローズアップ現代」は、「貧しくて学べない」を特集しました。ご覧になりましたか。

 登場した高校生の一人は、父が経営する自動車部品会社の受注が激減し、自宅は売却、一家で工場に暮らしています。ユニホームが買えず、大好きな部活動をやめました。勉強だけは続けたいと、片道二百円の運賃を節約して一時間以上かけ歩いて通学します。しかし新学期の授業料のめどがたたず、今の公的制度では救えません。

 この十年、貧困と格差がひろがり、こうした若者が増えています。しかも昨年来の経済危機による収入減や「派遣切り」で、事態はいっきに深刻化しました。私立高校の授業料滞納者は九カ月間で三倍、約二万五千人もいます。

 憲法は「ひとしく教育を受ける権利」(第二六条)を保障し、教育基本法は「経済的地位」による「教育上(の)差別」を禁じています(第四条)。高校卒業は、就職にとって事実上不可欠の条件となり、進学率は97%をこえています。家庭の経済的事情で退学する若者を一人もださないことは社会の使命であり、政治の大きな責任です。

 政府も日本共産党の質問に「何としても避けなければならない」「最大限の努力をする」と答弁しました(河村官房長官)。誰もが認める、国民的課題です。

 中退者を出さないために、やるべきことは特別難しいことではありません。まず、学費が払えなくなったら自動的に退学・除籍にするという、“悪魔のサイクル”を断つことです。子どもの一生、国民の権利にかかわる問題を商品の売買契約のように扱うのは間違いです。「滞納すれば卒業証書を渡さない」などの動きも問題です。

 全国には退学・除籍とせず、支払い猶予などで生徒を守る自治体や学校があります。やる気があればできることです。すべての自治体・学校での実施を求めます。

 同時に、そうして就学を保ちながら、学費滞納等を解決する経済的支援が必要です。

 一人ひとり相談に乗り、現行制度を駆使することも必要ですが、それではどうにもならないケースがあります。日本共産党はそのために、緊急の「高校生救済貸し付け」を提案しました。無保証人、無利子、高校生が将来一定の収入をえるまで返済猶予など、困っている人が借りられる制度です。利子補給の費用はわずかで、これも国、自治体がやる気になれば、ただちに実施できます。

社会のゆがみただそう
 現在の授業料免除制度は、公立向けも、私立向けも、都道府県で減免の対象や額に大きな差があります。奨学金や、家計急変・単親家庭への支援は、成績基準や支援のタイミングなど、困っている人に使いにくいものです。諸制度の拡充と改善をつよく求めます。

 問題の根底には、社会のゆがみがあります。世界が高校、大学の無償化に向かっているとき、自民党政治は、親に「世界一の高学費」を負担させてきました。誰もが安心して学べる社会を展望し、貧困の克服とむすんで、全国で運動を広げようではありませんか。

しんぶん赤旗 2009年3月15日

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性教育判決 創意つぶす「不当な支配」

 教育は、不当な支配に服してはならない。

 教育基本法にこう、うたわれているのは「忠君愛国」でゆがめられた戦前の教育への反省からだ。その意味を改めてかみしめる司法判断が示された。

 東京都内の養護学校で、性教育を視察した都議3人が教員を非難した。教員らが起こした訴訟で東京地裁は、その内容が「不当な支配」にあたると認め、都とともに賠償を命じた。

 3都議は03年、都教育委員会職員らとともに学校を訪れた。性器がついた人形などの教材を見て、性教育の方法が不適切だと決めつけた。女性教員2人に高圧的な態度で「こういう教材を使うのはおかしいと思いませんか」「感覚が麻痺(まひ)している」と難じた。

 これは穏当な視察ではない。都議らは「政治的な主義、信条」にもとづいて学校教育に介入、干渉しようとした。教育の自主性を害する危険な行為で「不当な支配」にあたる。判決の言うところは、そういうことだ。

 きわめて妥当な判断である。教育に対する政治の介入への大きな警鐘といえる。都議らだけでなく、すべての政治家が教訓とすべきだ。

 傍観していた都教委の職員らについては、判決は「不当な支配」から教師を守る義務に反した、と指摘した。都教委が「学習指導要領に反する」として教諭らを厳重注意としたことも、「裁量権の乱用だ」と批判した。

 外部の不当な介入から教育の現場を守るべき教育委員会が、逆に介入の共犯だと指摘されたに等しい。

 知的障害をもつ子どもたちが、性犯罪の被害者にも加害者にもならないためにどうしたらいいか。現場の教員らは日々悩みながら工夫を重ねていた。やり玉にあげられた人形は、自分のからだの部位を把握することも難しい子どもたちに、わかりやすいようにと考えた末の結果だ。

 都教委自体、問題視される前はこの学校の教員を講師に招く研修会を共催していたほどだ。議会で追及された途端に手のひらを返すとはあきれる。

 都教委からの厳重注意の後、性教育への取り組みが各地で低調になるなど、現場への影響も小さくなかった。

 これだけでなく、日の丸・君が代をめぐる起立と斉唱を義務づけ、大量の教職員を処分してきた石原都政下の都教委では、現場の自主性を害するような政策が続いてきた。

 教育基本法は06年に改正された。「不当な支配に服することなく」の後の「国民全体に対し直接に責任を負う」というくだりが、「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの」と変わった。

 行政の権限が強まった感は否めない。それだけに、管理強化で教育現場の萎縮(いしゅく)を招いてはならない。

朝日新聞 2009年3月14日

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性教育介入は「不当な支配」 七生養護学校事件で東京地裁判決 都議らに賠償命令

 東京都立七生養護学校(現七生特別支援学校)の性教育を一部の都議や都教育委員会が「不適切だ」と決め付け、教材の没収などを行ったのは教育の自由の侵害だとして、当時の同校の教員・保護者ら三十一人が損害賠償などを求めた訴訟で、東京地裁(矢尾渉裁判長)は十二日、都議らの行為は旧教育基本法一〇条の禁じた教育への「不当な支配」に当たるとし、三人の都議と都に総額二百十万円の賠償を命じました。

 判決は自民党の田代博嗣、古賀俊昭両都議と民主党の土屋敬之都議が二〇〇三年七月に同校を訪れ、性教育を「不適切」と決め付け、養護教諭らを「感覚がまひしてる」などと非難したことは、「政治的主義・信条に基づき性教育に介入・干渉するもので教育の自主性を阻害する危険性がある」としました。

 また、都教委は「不当な支配」から同校の教員を保護する義務があったにもかかわらず、都議らを制止しなかったとしました。

 都教委が「不適切な性教育」を理由に同校教員を「厳重注意」としたことは、「性教育の内容の適否を短期間で判定するのは容易でなく、制裁的取り扱いがされれば、教員を委縮させ、創意工夫による教育実践の開発がされなくなる」と指摘。厳重注意は裁量権の乱用で違法と判断しました。

 教材の返還と、「過激性教育」と報道した産経新聞に対する謝罪広告の請求は認めませんでした。

 原告団長の日暮かをるさん(60)は「突然、教材を持ち去られ、授業ができなくなり、悔しい日々だったが、本当にうれしい判決です」とのべました。原告側弁護団の児玉勇二弁護士は「教育現場への不当な介入で教員や子どもたちが追い込まれている中、画期的な判決」と評価。改悪後の教育基本法でも「不当な支配」の規定は変わっていないと指摘し、今後に生きる判決だと強調しました。

しんぶん赤旗 2009年3月13日

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学テ参加是非、結論持ち越し 愛知・犬山市教委

 全国学力テストに公立校が唯一不参加の愛知県犬山市の教育委員会は13日、来年度のテストに参加するかどうかを話し合ったが結論は出ず、次回に持ち越すことになった。23日に臨時会を開き、採決して決める。

 瀬見井久教育長を含む教育委員6人は「参加した場合、学校現場との信頼関係が崩れるのではないか」などを議論。「近隣の市町では不具合は出ていない」などの意見が多かったが、結局見解はまとまらなかった。

 犬山市は2年連続でテスト不参加だが、参加を主張する田中志典市長が委員を入れ替えるなどし、参加の可能性が高まっている。

 不参加を主導してきた瀬見井教育長は委員会終了後、報道陣に「採決まで冷却期間を置くことにした」と説明。傍聴した田中市長は「早く結論を出すべきだ。既に十分議論した」と述べた。

共同通信 2009年3月13日

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文科省「心のノート」改訂 規範意識を重視

 文部科学省は13日、小中学校の道徳などで使用を求めている教材「心のノート」の改訂版を公表した。道徳教育の強化を柱の1つとする新学習指導要領を4月から先行実施するのに合わせ、規範意識育成を重視する内容が特徴となっている。

 新たに加えた内容では小学校低学年用で、うそや悪口など「してはならないこと」をイラストで説明。中学校用は「ひとをころすべからず」とつづった福沢諭吉の「ひびのおしへ」を示した。

 小学校高学年用は日の丸を掲げた北京五輪の日本選手団の写真とともに、国家や社会など集団の一員としての自覚を求める内容も追加した。

 B5判で現行より8−16ページ増やした。文科省は約520万部を作成、小中学生や担当教員に配布する。同省は「学校だけでなく家庭でも活用してくれれば」としている。

共同通信 2009年3月13日

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県教委:学力テスト結果、秘密会で開示 退席の委員「越権行為」 /高知

 ◇教育関係者、なし崩しになれば問題
 県教委が12日、県議会総務委員会に全国学力テストの結果を示した問題。守秘義務が課されることを理由に中沢卓史・県教育長は「法的に問題はない」と話したが、秘密会を退席した2人の委員は「越権行為だ」と主張。教育関係者も「なし崩しになれば問題だ」と不快感を示した。

 秘密会を提案した森田英二委員(自民)は「市町村別の実態がよく分かり、予算を審議する上での根拠となった」と話した。一方、秘密会の採択に反対した井上自由委員(県民クラブ)は「秘密のベールに包まれた中で議論はできず、県民への説明責任も果たせない」。中根佐知委員(共産党と緑心会)は「文科省の方針を踏みにじるような越権行為で、やりすぎだ」と反発した。

 テスト結果の公表は過度な競争をあおるなどの理由で、市町村などの自主公表を除き、都道府県教委は公表できない規定になっている。子どもへの影響について中沢教育長は「秘密が担保されているので基本的にないと思う」との認識を示した。高知市の松原和広教育長は「どのような資料が示されたかは承知していないが、県教委は(結果を公表しない)市教委の立場を理解していると思う」とコメントした。

 各市町村議会でも同様の動きが出ることも予想され、市町村教育委の関係者は「秘密会であっても、なし崩し的に続くと問題があるのでは。守秘義務はきちんと守ってもらいたい」と注文を付けた。【服部陽、近藤諭】

毎日新聞 2009年3月12日

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高知県教委が市町村別成績示す 全国学力テ、県議会に非公開で

 高知県教育委員会は12日、「予算審議で必要」と求められ、県議会総務委員会に2008年度の全国学力テストについて県内の市町村別成績を示した。委員会は非公開で開かれた。

 高知県の中学校の成績は全国平均を大きく下回ったため、09年度予算では、特に結果が悪かった高知市の学力向上策に約1億4000万円が計上されている。

 総務委では、自民党県議らが「県費を高知市に投入するのに、ほかの市町村よりどれだけ悪いか分からない」とデータを求める動議を提出。共産党や社民党の議員は「公表できない情報を特定の議員が知るのは権力の乱用」と反対したが、賛成多数で可決された。

 文部科学省の実施要領は、県教委による市町村別などの成績公表を禁じているが、県教委は「非公開の委員会なので公表ではない」としている。

共同通信 2009年3月12日

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青少年意識調査「今どきの子供らは―」

 県内の小学6年生、中学2年生、高校2年生の計1258人を対象に県が昨秋実施した「2008年度青少年の意識に関する調査結果」は、児童生徒の気質や生活の傾向がうかがえて興味深い。刃物やインターネットの規制といった差し迫った問題にとどまらず、保護者や教師、地域住民が子供との接し方を考え直すきっかけを与えてくれる。

 まず、子供らの愛郷心が薄れていないことに驚く。青森県が好きだという児童、生徒が9割に近い。住んでいる地域が好きな子供も85%に達した。地域の大人へのあいさつは77%が「いつも」「ときどき」行い、大人からのあいさつも7割の子供が日常的に受けているという。

 隣近所の人とのあいさつが中心であれ、地域内のコミュニケーションは失われていないようだ。大人は、不況をはじめ本県特有のさまざまな課題に囲まれて日々閉(へい)塞(そく)感が募るばかりだが、子供が持つ郷土への愛着を損なわないようにしたい。朝夕に子供と交わす「おはよう」「こんばんは」は、将来にわたって豊かな地域を築く土台になるだろう。

 また「学校生活が楽しい」という子供が、年代が進むにつれて徐々に減る傾向にある。小6で88%、中2で85%、高2で78%。それぞれの割合は2年前の調査とほぼ変わらない。「楽しくない」と答えた16%は少数とはいえ、ゼロに近づけたい。その理由の上位は「授業」(66%)、「嫌いな友達がいる」(36%)、「嫌いな先生がいる」(32%)だった。「いじめ」を理由に挙げた小(13%)、中(10%)、高校生(4%)に対しては、教師や親が十分目配りし、地域住民を含めいじめの根絶に努めなければならない。

 家庭環境の質問では、「家は安心していられる場所」と答えた子供が9割以上。また、父親との会話は、母親に比べて相変わらず少ないようだ(81%対93%)。父母や教師に対する要望では、「子供の立場で考えて」「話をきちんと聞いて」「やさしさ」といった項目が、いずれも2割以上と比較的高率だった。決して甘やかすばかりではなく、家庭や学校が居づらい場所にならないよう、子供らの願いに真剣に耳を傾けたい。

 調査結果を分析した有識者は、自己否定的な子供が増えたことを懸念している。「自分が好き」と答えた子供の割合が、10年前の調査と比べ各年代とも減少したためだ。小6が75%(約6ポイント減)、中2で51%(約14ポイント減)だが、高2では46%(約11ポイント減)と半数に満たなかった。

 その理由は容姿、学業、性格とさまざまだろう。本当に困った時の相談相手として、意外に割合が低かった父親(20%)、先生(10%)は、自ら子供とのかかわりを再考してほしい。

陸奥新報 2009年3月12日

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新学習指導要領実施本部の開催について

 3月9日、新しい高等学校学習指導要領、特別支援学校学習指導要領等が公示されたことを受け、塩谷文部科学大臣、松野副大臣、山内副大臣、萩生田政務官、浮島政務官が出席して、新学習指導要領実施本部が開催されました。新学習指導要領の円滑な実施に向けて

 会議では、塩谷大臣から、

「教育基本法や学校教育法の改正、教育振興基本計画の策定などを推進してきたが、本日の改訂により、「生きる基本」を育成する基盤が整い、改革はいよいよ実行の時を迎えた。

 今後、新しい学習指導要領の周知・広報や条件整備の推進について、学校現場からの視点で政策を考えていく必要がある。新学習指導要領の円滑な実施と確実な定着に向けて全省的に施策を実行していきたい。」

旨の挨拶がありました。

 続いて出席者からは、

「教員研修への配慮、ICTの充実と学校のマネージメントの必要性」(松野副大臣)

「生きる基本・生きる力をしっかり基本に据えること」(山内副大臣)

「改正教育基本法を踏まえた教科書の充実」(萩生田大臣政務官)

「情報の共有と現場第一主義が大事」(浮島大臣政務官)

などの発言がありました。

 本年4月から、全国の小・中学校で新学習指導要領の先行実施が始まります。

 文部科学省では、新学習指導要領の円滑な実施に向けて、引き続き周知・広報に努めるとともに、指導体制の整備、教科書の質・量両面での充実、理科設備等の充実、道徳用教材等に対する支援、武道場の設置などの条件整備を推進することとしています。

 また、高等学校・特別支援学校の新学習指導要領等についても、平成21年度中にしっかりと趣旨・内容の説明に取り組んでいきます。

※ 新学習指導要領実施本部とは、新学習指導要領の円滑な実施に向けて、文部科学省全体として総合的に取り組んでいくため、事務次官を本部長とし、各局の局長をメンバーとして構成している会議です。

本部長:文部科学事務次官

本部長代理:玉井文部科学審議官

副本部長:初等中等局教育局長

本部員:大臣官房長、生涯学習政策局長、高等教育局長、科学技術・学術政策局長、スポーツ・青少年局長、文化庁次長、文教施設企画部長、私学部長、大臣官房審議官(初等中等教育局担当)

文部科学省 2009年3月12日

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臨床研修制度 目先だけの見直しには疑問

 医師不足問題を受け、新卒医師の臨床研修制度の在り方を協議してきた厚生労働省と文部科学省の検討会が見直しの提言をまとめた。研修期間を事実上、短縮するとともに、都道府県ごとに定員を設けて医師を確保する狙いだが、研修の質の低下を招くだけでなく、医師不足対策としても疑問だと言わざるを得ない。

 現行の研修制度は、医師免許取得後、二年間で七診療科を回ることを必修としている。見直しでは、二年の研修期間は維持するものの、必修だった七科目を内科や救急など三つに削減、小児科、産婦人科などから二科目を選択必修とする。これらの研修を一年で終え、二年目は将来、専門にする科に絞った研修とする。現場で診療も担い、即戦力としての活用も期待されている。

 研修医の都市部偏在を是正するため、都道府県ごとに研修医の定員を設けるほか、各病院の募集枠にも制限をかける。一方で、大学病院などの定員枠は優遇する。

 研修制度は二〇〇四年度にスタートした。臨床医として必要な、多くの基礎的能力を養うのが狙いだ。それまで、新人医師の多くは出身大学の付属病院で、医局という専門分野に入って研修を受けた。しかし、専門以外は診療できない医師が増えるなど問題点も多く、その反省から導入された。「多くの科を経験し、診療の幅が広がった」「当直でどんな患者が来ても何とか対応できるようになった」など、研修医と病院関係者の双方から一定の評価がある。

 ただ、研修先を自由に選べるようにしたため、症例が豊富で研修内容が充実し、待遇も良い都市部の大規模病院に人気が集まった。大学は、地域の自治体病院などに医師を派遣する役割を担ってきたが、若い医師が集まらなくなって困った。そこで各地に派遣してきた医師を引き揚げる動きが相次ぎ、地方で医師不足が顕在化した。このため大学側が中心となって研修制度の見直しを求めていた。

 背景には、大学が人材を確保できなければ深刻化する医療崩壊は止められないという危機感がある。

 見直し案は、医師不足対策に研修期間を充てるようなもので、現場からは「研修の質が低下する」との批判が強い。制度開始から五年足らずでの目先だけの大幅変更には疑問が残る。医師不足対策という観点でも、定員の設置で一定の効果はあるかもしれないが、根本的な解決にはならないのではないか。

 大学病院に研修医が集まらないのは、「若い医師が学べるような症例が少ない」「雑用や下働きが多く、研修に専念できない」からだという指摘もある。大学には臨床、研究、教育を行わねばならない事情もあるが、若手医師が十分な研修を受けられないのであれば、医療の安全にもかかわる。指導医体制を充実させ、研修医に「魅力がある」大学病院に変えていくことが課題だ。

 本来、医師不足と、研修がどうあるべきかは別問題だ。まずは研修制度を充実させる。地域医療については、その重要性を学ぶ教育、実習などにも力を入れ、医師にとっても魅力ある職場とする。そうした取り組みが必要だ。

熊本日日新聞 2009年3月11日

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町村前官房長官、学力テスト下位は「教職員組合が原因」

 町村信孝・前官房長官は9日、福井市で開かれた講演会で、地元北海道の全国学力テストの結果が下位となり、教育の見直しを進めていることを挙げ、「一つの大きな原因は教職員組合。いかばかりか、子どもを害している」と発言した。

 町村氏は北海道のテスト結果を「ワースト3」と紹介し、「文部大臣2度もやってるのに、何やっていたのかと言われても反論するすべもない」。教職員組合を批判する大阪府の橋下知事を持ち上げて「これを正そうというのが橋下知事。先日、激励の電話をしました」と明かした。トップクラスだった福井県については「非常識な先生が少ないのではないか」とした。

 さらに北海道で聞いた話として、「熱意のある先生が子どもを教えようとしても、やめさせてしまうのが教職員組合の幹部の仕事なんです。いい教育ができるわけがない」と攻撃した。

朝日新聞 2009年3月9日

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「英語の授業は英語で」 高校の改訂指導要領を告示

 文部科学省は9日付で13年度に本格実施される高校の新学習指導要領を告示した。10年ぶりの改訂で、英語の授業は英語で行うことを基本とし、教える単語数も4割増とする▽義務教育の内容も必要に応じて教える▽国・数・英で「共通科目」を新設する▽週30コマ以上を教えてもよい――といった内容を明記したことが特徴だ。昨年12月に改訂案を公表していた。

 文科省は同日、特別支援学校の新指導要領と教育要領も告示した。全員分の個別の指導計画の作成を義務づけており、幼稚部は09年度、小学部は11年度、中学部は12年度、高等部は13年度から本格実施される。一部は前倒しで今春から実施される。

 改訂案公表後、文科省が一般から意見を募ったところ約3600件の意見が寄せられたが、文科省が内容を大きく変更した部分はなかった。(上野創)

朝日新聞 2009年3月9日

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文科省:高校の新指導要領、きょう告示 「ゆとり」見直し完了

 文部科学省は9日、10年ぶりに全面改定した高校の学習指導要領を告示する。言語活動や理数教育、伝統文化に関する教育の充実などが改定の柱。英語はコミュニケーション重視に方針転換し、授業を英語で行うことを基本とする。小中学校の新指導要領(08年3月告示)に続き、前回改定で削られた内容の復活などが進められ、脱「ゆとり教育」への見直しが完了。

 各教科で小中学校の内容を復習する機会の設置を促進し、基礎学力不足の生徒への対応も充実させる。

 13年度入学生から適用し、数学と理科については12年度から先行実施。教科書の要らない総則部分などは10年度から適用する。

 特別支援学校の新学習指導要領も同日、告示する。すべての幼児、児童、生徒について個別の指導計画作成を義務付けることなどが改定の柱。【加藤隆寛】

毎日新聞 2009年3月9日

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高校の新学習指導要領を告示=文科省

 文部科学省は9日付の官報で、2013年度の新入生から適用する高校の新学習指導要領を告示した。学習内容を広げる半面、義務教育段階の反復を認め、学校の実情に応じたカリキュラムを組めるようにした。数学、理科は12年度から先行実施する。

 特別支援学校の新指導要領も同日付で告示。08年3月には幼稚園、小中学校分を告示しており、「脱ゆとり」に転じた指導要領が出そろった。

 高校の新指導要領は、英語で標準的な単語数を500増の1800語とし、教員が英語で指導するよう定めた。理数では前回改定で消えた項目が多く復活。詳細な事項を扱わないとした「歯止め規定」は削除した。

 各教科で論述・討論の学習を充実させ、伝統・文化の教育も重視した。(了)

時事通信 2009年3月9日

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中学校の丸刈り なぜ大島だけなのか?

 大島地区の多くの中学校で男子生徒に丸刈りを事実上強制しているのは人権侵害に当たるとして、鹿児島県弁護士会が県と同地区の教育委員会に、丸刈りを強制する校則を廃止するよう指導を求める勧告書を送った。

 丸刈りを強制する校則が国民の基本的人権を定めた憲法や、子どもの意見表明権を保障する子どもの権利条約、個人の尊厳や自主的精神の育成を重んじる教育基本法に違反しているという内容だ。勧告に法的拘束力はないが、県弁護士会は是正されない場合にはより強い警告を出すことも検討しているという。

 男子中学生への丸刈り強制は全国的にみればほぼ廃止されているが、県教委によれば県内には校則になっている中学校が39校あり、うち37校が大島地区に集中している。だが、大島地区だけで丸刈りの強制が必要とする積極的な理由は見あたらず、むしろ人権意識の希薄さが目立っている。教育委員会や学校は校則のあり方を見直すべきだ。

 県弁護士会は奄美市の市民団体から人権救済の申し立てを受け昨年6月、同地区の59中学校に頭髪に関する校則や生徒指導について文書で照会した。回答のあった39校のうち、17校で丸刈りの強制があることを確認したという。

 丸刈りを強制している学校のほとんどが「伝統、文化、慣習である」「頭髪を自由化すれば非行に走る」などを理由に挙げている。しかし、丸刈りは僧侶などを除けば明治時代の断髪令以降の髪形で、学校で強制されたのは大戦中のこととされる。非行の問題にしても具体的なデータはなく、科学的根拠に基づくとは言い難い。いずれも現状を維持するための理由でしかあるまい。

 丸刈りを強制する実際の理由は生徒管理の問題だろう。髪形をみれば一目で中学生と分かり、指導しやすいからだ。PTAの中にも丸刈りを望む声があるというのも同様の理由と思われる。ただ、この考え方には生徒の個性を尊重したり、自主性を育てようという教育的な視点が欠けている。それは、生徒と学校が一体となって丸刈りの校則を廃止した全国の多くの例を見れば明らかだ。

 体の一部である髪の形はもとより他人に強制されるべきものではない。そうした基本的な権利が、子どもであることを理由に侵害されているのは残念でならない。校則を学校の自主性に任せているという教育委員会の人権意識も問われている。

南日本新聞 2009年3月8日

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秋休み廃止に思う

■父母、学校現場が問題視
 新年度から市立小中学校は2学期制の運用規定を見直し、「秋休み」を廃止する。父母や教職員のアンケート調査で「適切でない」との回答が大多数を占めたためだ。授業時数の確保は、夏休み入りをずらして調整する。

 確かに2学期制の区切りは問題が多かった。明治時代から続く春、夏、冬の3回の休みに加え、学期調整休の秋休み導入で「4学期のような感覚になる」と指摘された。

 特に学校現場は「夏休みが明け、学習意欲が高まってきたところで秋休みに入り、学習意欲の低下につながる」と問題視、父母も休みの対応に戸惑っていた。

 調査で「秋休みはない方がよい」と答えた保護者は94.9%、学校管理職は91.9%にものぼった。この回答が問題点を集約しており、制度の見直しで学習効果のアップを期待したい。

■2学期制導入前の不安が的中
 しかし学識者で2学期制改善を検討した委員会では、3学期制復活を求める声も多かった。ただ、時期的に学校運営計画の変更は間に合わない、というのが現場の意見だ。

 石垣市が2学期制を導入したのは2005年。石垣、石垣第二、大浜、川平の4中学校で試行、翌06年から全市立校で実施した。長く続いた3学期制を変更したのは、学校5日制やゆとり教育などで減った教科の授業時数を確保するための苦肉の策だった。市教育委員会は始業式や終業式、定期テストの回数が減り、教師側も通知表を作成する負担が軽減される、とメリットを強調、実施に踏み切った。

 保護者側からすると、2学期制は通知表の回数が減り、子どもの学習課題がつかみにくくなると慎重論が強く、「1学期の途中で休みが入り、指導の継続性が中断される」と不安視されていたのである。

■3学期制復活の動き
 その完全実施から3年。父母の不安は秋休み廃止という形で改善されることになった。だが、2学期制の実施効果については具体的な説明がない。

 試行から4年間も経過すれば、2学期制の総括と評価が公表されてしかるべきだろう。今回の制度改善が、現行の学期改善を前提にしていたのは疑問に思う。

 父母や学校現場のアンケート調査も3学期制と2学期制の比較・効果を聞く機会とすべきだった。保護者からは現行の学期制度の是非を問う意見も強い。特に全国学力テストで厳しい結果に直面しているだけに、保護者は柔軟かつ効果的な教育行政を求めているのである。

4月からは郡内で最も早く2学期制を導入した八重山商工高校が、3学期制に戻す。実施5年間を総括し、元の学期が効果的と判断したのだ。また県立高校の複数校が、八商工と同様に3学期復活の動きを見せている。

 2学期制の教育的効果は判断が分かれるところだろう。だが、秋休みの廃止を決めたように問題点があったことは確かだ。竹富、与那国両町の教育委員会が2学期制に踏み込まなかったのはこのような問題点を危惧(きぐ)していたのかも知れない。

 学期制の変更には相当の労力を要するだろう。しかし所期の目的である効果が得られぬまま、規定のレールを走り続ければ影響を受けるのは児童生徒だ。

 市教委は真摯(しんし)に保護者や現場の意見に耳を傾け、改善すべきは改善する前向きな姿勢を示してほしい。

八重山毎日新聞 2009年3月7日

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ブラジル人児童 学ぶ場を奪わないよう

 急激な景気悪化の影響で通学する子どもが減り、経営難に陥っている無認可のブラジル人学校の支援に、文部科学省が乗り出した。

 私立の各種学校の認可基準と、学校法人などの認可基準は、都道府県知事が規定している。それらの緩和を求める方針だ。認可校になれば、行政支援の対象となるからだ。

 ただ、認可のハードルを下げても、条件を満たせない学校は残る。施設の家賃も払えないなど、苦しい経営を強いられている学校が少なくない。

 国籍や親の経済状況にかかわらず、どの子も教育を受ける権利を保障されなくてはならない。児童や生徒への直接支援も含めて、子どもの学ぶ場を奪わないよう、手だてを尽くしたい。

 文科省の調査では、ブラジル人学校は2007年度時点で全国に88校ある。ペルー人学校3校を含めて約1万人が通っている。そのほとんどが無認可校で、私学助成の枠の外に置かれてきた。

 無認可校の運営は、授業料収入が頼りだ。それが昨年秋以降、不況の直撃を受けている。

 日系ブラジル人の多くは派遣労働者だ。親の失業で学費を払えなくなったり、家族で帰国せざるを得なくなったりして、学校を辞める子どもが増えている。

 長野県内のブラジル人学校の2月の児童生徒数は、昨年春と比べて半分弱にまで落ち込んだ。退学者が相次ぎ、閉校に追い込まれたところもある。

 文科省の対応は後手に回ってきた。有識者による作業部会が発足して、緊急の支援策が話し合われている。自治体がすでに始めている取り組みを参考にして、子どもたちに届くきめ細かな施策を詰めてほしい。

 浜松市は新年度から、無認可のブラジル人学校で学ぶ児童生徒の教科書代を助成する。市町村合併で使わなくなった旧役場庁舎を、校舎に貸すことも決めている。岐阜県は市町村と合同で、親が失業したブラジル人学校の子どもの授業料補助を始めた。

 長野県には02年から続く「サンタ・プロジェクト」がある。県と民間団体などが、就学の困難な外国籍の子どもの授業料や教科書代を援助する取り組みだ。

 90年代以降、日系ブラジル人労働者が増え、地域社会の一員になっているにもかかわらず、福祉や教育面の公的支援は遅れがちだった。子どもの学ぶ場を確保するためにも、親の働く環境や生活基盤の安定を図りたい。

信濃毎日新聞 2009年3月6日

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ブラジル人学校  社会で支える施策を

 親の失業で子どもたちが激減したブラジル人学校が、経営難に苦しんでいる。

 ほとんどが無認可の学校で、公的な支援や助成が受けられない。支援を受ければ、学校に子どもたちが戻ってくる環境をつくれる。

 文部科学省は認可の権限をもつ都道府県知事に、認可基準の緩和を働きかけるよう検討している。都道府県には認可に向けて柔軟に対応してもらいたい。

 同時に、文科省は都道府県に問題を投げ出さないで、自ら公的な支援策を打ち出すべきだ。

 日本は子どもの権利条約に批准している。条約は、児童の教育を受ける権利を保障するよう締約国に求めているのだ。子どもの国籍は問われない。

 ブラジル人学校は、二〇〇七年度時点で十二県に八十八校あり、計約一万人の子どもたちが通っている。

 滋賀県では、四校で三百人余の子どもたちが勉強しているが、昨秋と比べて半分近く減ったという(県教育委員会)。

 無認可の学校は「私塾」と同じで、経営は授業料収入に頼っている。その授業料は、さまざまな助成を受ける学校法人に比べて高くなるのが実情だ。

 各種学校などの認可を取ると、助成金や、授業料にかかる消費税の免除など優遇措置を受ける利点がある。また、通学定期券の割引も受けられる。

 ただ、認可基準は土地建物の自己所有や運営資金の一年分確保などで、経営基盤の弱いブラジル人学校にとってクリアするのは厳しい。認可されているのは全国で四校に過ぎない。

 滋賀の四校もすべて無認可だ。県教委によると、これまでに認可の申請はなく、相談が一件あっただけという。

 しかし、県内のブラジル人学校の日系人校長の一人は、認可そのものを知らないと言っている。地域の住民たちから米や野菜、募金を贈られたが、行政の支援はない。授業料を値下げし、教員の給与もカットしたが、経営は厳しいという。

 ブラジル人の子どもの二割が、ブラジル人学校に通っているとみられる。公立学校では言葉が通じずにいじめにあったり、母国語を十分に勉強できないという親の心配もあるからだ。

 滋賀では、県教委が失業したブラジル人ら外国人を雇用し、公立学校への外国人児童の受け入れ対策に乗り出すことにした。いろいろな形で公的支援を繰り出すのは良いことだ。

 公立校と同様に、私塾扱いのブラジル人学校も社会的な役割を果たしていると言いたい。経営状態が心配で認可できないなら、経済的に支援しながら条件を整備していけばいい。

 ブラジル人学校を社会で支えていく施策を、国や自治体は考えてほしい。

京都新聞 2009年3月6日

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ブラジル人学校 共生と支援の輪広げよう

 不就学や環境になじめないブラジル人の子どもたちが通う学校を支えてきた地域の人たちには朗報だろう。文部科学省は、経営に苦しむ無認可のブラジル人学校支援策として、都道府県知事が権限を持つ私立各種学校の認可基準を緩和するよう指導する方針を固めた。

 国内のブラジル人学校は十二県に八十八校あり、無認可が八十四校とほとんどを占める(二〇〇七年度)。岡山県内では昨年四月、ブラジル人就労者が県内最多の総社市に中四国・九州地域では初めての学校「エスコーラ・モモタロウ・オカヤマ」が開校し、地元NPO法人が運営に当たっているが、無認可のままだ。

 文科省の狙いは、公的助成の対象となる認可校に転換を促すものだ。私立校への自治体の助成は、設置主体が私立学校法上の学校法人や準学校法人であることを条件とする場合が多く、文科省は法人の認可基準も緩和を求めるという。

 無認可校の収入は授業料に頼っているが、昨秋以降の不況で保護者の失業などによる退学者が相次いでいる。

 「モモタロウ」でも、非正規労働者として働く保護者の失業を受け、一時は生徒が半数以下に激減した。今年からは、親の経済的負担軽減策として一部クラスで授業料を免除する緊急措置をとったため運営が厳しさを増している。文科省の方針は歓迎すべきものだろう。

 国内に住む外国人はこの十年間で一・五倍に増え、約二百十五万人。岡山県でも長期滞在する外国人は人口の1%を超え、岡山市は市民七十人に一人が外国人だ。地域社会は人口減少の中で確実に「国際化」が進んでいる。外国からの隣人とどう共生し、支援していけるのか。一人一人が考えたい。

山陽新聞 2009年3月6日

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臨床研修見直し/医師の地元定着を図りたい

 免許を取ったばかりの医師に、大学や市中の病院で2年間にわたる実地研修を義務づけた臨床研修制度が見直される。

 2004年度の導入以降、研修医が都市の一般病院に集まり、地方の医師不足が深刻化したという実態があるからだ。見直しは当然のことと言える。

 だが、それは事態を改善するテコの一つにすぎない。大学を含め地方は、引き続き医師の地元定着を促す取り組みを充実させていかなければならない。

 今の制度は7つの診療科目を必修とし、大学や地域の病院で実習する。研修先については、研修医と病院双方の希望が合えば自由に選べる仕組みだ。

 このため、症例が豊富で待遇もいい大都市の民間病院に新卒研修医の人気が偏り、地方の大学病院に残る人材がぐっと減った。それを補おうと、大学の医局が地域の病院に派遣していた医師を引き揚げたことから、医師不足を加速させた。

 こうした問題点を踏まえ厚生労働、文部科学両省の検討会が先ごろ見直し案を提言。国は新年度から、それを反映させる方針だ。ポイントは二つある。

 一つは研修医が都市に集中しないよう、都道府県や病院ごとに募集定員を制限し地方枠を増やすことだ。特に、大学病院に定員枠を多く配分。研修医を増やす狙いがある。

 もう一つは必修科目の削減。内科、救急、地域医療の三つに絞る。必修に費やす期間を1年に縮め、2年目は希望する専門科目に特化できるようにすることで、研修医を即戦力として活用しようというのだろう。

 地元の大学病院に多くの研修医を確保し、医局が担っていた医師の地域派遣機能を再構築することに、見直しの意図があるのは明らかだ。「医療崩壊」と言われる地域の実情を思えば、医学生の進路選択の自由を制限するのも、やむを得まい。

 ただ、大学病院に対し研修医からは「雑用や下働きが多すぎて実習に専念できない」という批判がある。大学はそうした実態を改め、魅力的な研修プログラムを用意する必要がある。自治体とも連携し学部段階から地域医療の重要性を理解させるための工夫も凝らすなどして、地元定着につなげていきたい。

 だが、見直し案で気に掛かるのは医師のなり手が少ない産科と小児科を必修科目から外し選択にする点だ。研修で興味を持つ機会が減ることで志望者の一層の減少を招かないか心配だ。

 必修科目削減については「医師の質が低下する」という声が強い。幅広い知識と技能を身に付けるのが研修導入の目的であり、もっともな指摘だ。実施に移すまでに、これで十分か再考してもらいたい。

 もとより医師不足は医療費抑制政策などとも深く絡む。医学部定員増に向け、国はようやくかじを切った。診療報酬を改め待遇を改善し勤務医の過酷な長時間労働をなくす必要もある。

 見直しを一つ一つ積み重ねていかなければ、根本的な解決は望めない。大学病院の医師派遣機能復活は、それに至るまでの過渡的な対策と位置付けたい。

河北新報 2009年3月3日

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文科省携帯調査 実態認識して対応探ろう

 文部科学省が小中高校生の携帯電話の利用について、初の実態調査を行った。携帯を持っている率は小学六年で24・7%、中学二年で45・9%、高校二年では95・9%に達した。

 携帯やネットを利用した犯罪や「ネットいじめ」が年々増えている。調査では、中二と高二で65%程度が他人の悪口などを書き込むチェーンメールなどのトラブルを経験していた。

 掲示板などに自分の悪口を書かれた経験が高二で9・4%あった。中高生の20%以上は自らチェーンメールを送り、約5%は悪口を書き込んでいた。

 今年一月、文科省が公立小中学校への携帯持ち込み原則禁止を通知した。既に大部分の学校が原則禁止にしている実情に基づいたものだ。岡山県内では昨年十二月時点で、小中高の持ち込み禁止比率が全国平均を7―3ポイント下回っていた。

 しかし、今回の調査では実際に使う場面は小中高とも「部屋などで一人で」が最多だった。学校への持ち込み禁止が、いじめ防止などにどの程度効果があるのか疑問が残る。

 親と子の「ずれ」も明らかになった。犯罪に結びつく事例が出ている自己紹介サイト「プロフ」に自分の情報を公開したことがある高二は44%に上った。だが、高二の保護者で「公開したことがあると思う」と答えた人は17%だった。

 子どもたちの間に爆発的に広まった携帯の負の側面が顕在化してきた。情報教育やアクセス制限の強化がいわれる中で行われた、初の本格的全国調査である。さらに調査を重ね、大人が実態をより深く認識しつつ対応策を探り、実行していく姿勢が肝要ではないか。

 親もまず、子どもとネット社会のかかわり具合を正しく知ることから始めよう。

山陽新聞 2009年3月2日

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教科書検定審 聖域化は歪曲可能にする

 教科用図書検定調査審議会(検定審)が、申請図書や訂正申請などの情報が流出した場合に審議を一時停止する規定などを盛り込んだ「審議会決定」案を総括部会で了承した。

 審議の透明化に逆行し情報統制を強める動きであり、断じて容認できるものではない。

 検定審は2008年度から使用される高校日本史教科書検定の際、沖縄戦「集団自決」(強制集団死)の日本軍の強制に関する記述を、ろくな審議もせずに削除・修正した。

 文部科学省・教科書調査官の意見を丸のみして受け入れたからだ。その結果、県民から「歴史の歪曲(わいきょく)」と厳しい批判を浴びた。

 結論を出すまで審議内容を秘匿したのでは、再び同様の事態が起きる恐れがある。

 仮に、時の為政者が、ある歴史的事実について、自身の政治的信条に沿って教科書の記述を変更したいと考えたとする。

 為政者の意を酌み、文科省の教科書調査官が検定審に修正案を示すとどうなるか。恐らく「集団自決」の時と同様、ろくな審議もせずに決定されてしまうだろう。

 検定内容が公表された段階で「事実を正確に伝えていない」と抗議し修正を求めたところで手の打ちようがない。「教科書検定への政治介入は許されない」として政府が突っぱねるのは火を見るより明らかだ。

 為政者は検定審を隠れみのにすることで、いくらでも歴史をゆがめることが可能だ。このような仕組みを放置していいはずがない。

 検定審は「外部からの圧力がなく静謐(せいひつ)な環境を確保することが重要」と言うが、何よりも大切なのは歴史を正しく継承していくことだ。

 時の為政者の思惑に左右されることなく正しい歴史教育を実践するには検定審の密室性を排し、会議そのものを全面的に公開するしかない。それによって、検定の過程で不適切な判断が下されていないかチェックが可能になる。

 検定審は当初、教科書検定手続きの透明化をうたったが、ふたを開けてみれば情報管理の強化や執筆者の自由を束縛することに重きが置かれた。掛け声と中身がこれほど懸け離れた例も珍しい。

 教科書検定の密室化が進むのは危険な兆候だ。検定審の聖域化を許してはならない。

琉球新報 2009年3月2日

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臨床研修の見直し 効果的運用に期待する

 新人医師に義務づけられている臨床研修制度が見直される。都道府県や病院ごとの募集定員の制限と、必修診療科目数の削減が柱だ。

 見直し案は、有識者15人からなる厚労省と文科省合同の検討会が、提言としてまとめた。両省は、2009年度の募集から提言を反映させる方針。見直しの目的は、医師不足の解消だ。

 研修制度は、新卒医師に病院で2年間の研修を義務付ける制度で、04年に始まった。以前は大半が出身大学の医局に残っていたが、いきなり専門分野に入るため、資質の偏りが指摘されていた。さらには研修医を小間使いにするような実態もあったことから、研修医が病院を自由に選べるようにした。

 その結果、都市部や臨床例の多い民間病院を選択する医師が増加。大学病院は人手不足に陥り、地域の公立病院に派遣していた医師を引き揚げる動きが相次いだ。医師不足が加速した要因とされる。

 今回の見直しでは、地域に加え病院ごとの定員も調整することで、研修医の偏在を是正。東京、大阪などの大都市は低く、地方は高く設定するほか、地域への医師派遣機能を持つ大学病院などの定員枠は優遇するという。

 加えて必修診療科に費やす期間を1年に短縮し、2年目は研修医が将来希望する専門科に特化できるようプログラムを弾力化。即戦力を養う方向だ。本県はじめ、地域医療が崩壊の危機に直面している地方にとって、制度の見直しには「即効薬」としての期待が掛かる。

 しかし、必修科目の削減に対しては、制度本来の目的に照らし教育現場などから「医師の質が低下する」などと、研修の形骸(けいがい)化を懸念する声が上がっている。定員枠を調整しても、それで大学病院に若い医師が戻るかどうかは未知数。医局や大学病院が、研修内容を改善するなど魅力づくりに努めなければ、見直しの効果も多くは望めまい。

 地域医療の危機的状況は待ったなしだが、その大きな要因である医師不足の解消を、ひとり研修制度の在り方だけに求めるのは無理がある。遠因を探れば、増大する医療費に危機感が高まった1980年代以降、その抑制へ医学部定員を削減。一方では、へき地などへの医師の派遣を大学病院に任せきりにしてきた国の医療政策の在り方が問われてしかるべきだろう。

 本県では、県立6医療機関の無床化をめぐり、県行政と地域が対立する状況が続いている。双方、それぞれの立場で主張する地域医療を守るための「闘い」は、地域の枠の中だけでは完結しない。こうした図式には、どうにも理不尽な思いが否めない。

 構造化する地域医療の危機打開には、医師に一定期間、地方勤務を義務づけるなど制度的な下支えも検討すべき時期だろう。その下地づくりの意味も込め、研修制度見直しが、実際の運用で若い医師の使命感や意欲を一層高める方向になるよう願いたい。

岩手日報 2009年3月1日

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