2008年10月


トップページへ


元教授会見拒否に大分大学長「説明すべき」

 大分大学の羽野忠学長は三十日、二〇〇八年度教員採用試験で個別指導した学生のリストを県教委教育審議監の富松哲博被告(60)=収賄罪で起訴=に送っていた教育福祉科学部の元教授(64)が会見での説明を拒んでいることについて「遺憾だ。自分の立場をきちんと説明すべきだ」と述べた。県庁であった大学の定例会見で記者の質問に答えた。

 元教授はリスト送付による合格依頼の疑いを持たれていたが、「合格依頼はしていない」と否定。大学の調査でも「リスト送付と不正との関係は確認できなかった」とされた。

大分合同新聞 2008年10月31日

このページの先頭へ


教諭が教育長告発 “通知は守秘義務違反”

 二〇〇八年度教員採用試験で、県教委の小矢文則教育長(60)が合否結果を事前通知したのは地方公務員法の守秘義務違反に当たるとして、日出暘谷高校の早島浩一教諭(48)が三十日、大分地検に告発状を出した。

 告発状によると、小矢教育長は〇七年九月にあった〇八年度採用試験の二次試験前後に、収賄罪で起訴された富松哲博教育審議監(60)=起訴休職中=に複数の受験者の名前を告げ、合否確認し、二次試験合格発表の三十分ほど前に依頼者に合否を伝え、職務上知り得た秘密を漏らした―としている。

 早島教諭は「トップが法律に違反してもとがめられず、教育再生を訴えても、県民の理解は得られない。県民の思いと乖離(かいり)がある」とし、「教育長への責任追及の声が組合や校長会、教頭会などから上がらず、このままではいけないと思った」と話した。

 早島教諭は告発状の提出前に、口利き疑惑や事前通知について小矢教育長に公開質問状を出したが、回答はなかった。事前通知は既に小矢教育長も認めていることから、告発内容を罰則規定がある守秘義務違反に絞ったという。小矢教育長は「告発状を見てないのでコメントのしようがない。今後、捜査当局の捜査に全面協力し、対応を見守りたい」とコメントした。

大分合同新聞 2008年10月31日

このページの先頭へ


浅利幾美被告 判決の要旨

 県教委汚職事件で、大分地裁が三十日に浅利幾美被告=贈賄罪=に言い渡した判決の要旨は次の通り。

 【主文】
 被告を懲役一年二月に処する。この裁判が確定した日から三年間、その刑の執行を猶予する。

 【罪となるべき事実】
 被告は二〇〇八年度県公立学校教員採用試験の受験生の母親である。江藤勝由被告は(同試験が実施された)〇七年度、県教委義務教育課人事班課長補佐として、市町村立学校教員の採用試験の実施と、試験による採用候補者の決定に関する職務に従事していた。矢野哲郎被告は浅利、江藤の両被告と懇意にしていた。

 浅利被告は矢野被告と共謀。〇七年八月九日ごろ、別府市内のホテルのレストランで、江藤被告に、長男と長女が試験に合格するよう有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨で百貨店の商品券二千円券五百枚(計百万円相当)を供与。同十月十四日ごろ、別府市南立石の江藤被告方で、江藤被告に、長男と長女が試験に合格したことに有利かつ便宜な取り計らいを受けた謝礼として現金三百万円を渡し、江藤被告の職務に関してわいろを供与した。

 【量刑の理由】
 当時、県内の小学校の教頭を務めていた被告が教員仲間として懇意にしていた矢野被告から勧められ、江藤被告にわいろを供与した贈賄の事案である。

 犯行の動機に関し、被告は大分県の教員採用試験においては、本来不合格となるべき受験者が口利きによって合格しているとのうわさを耳にしていたので、自分の子どもたちが仮に合格点に達していても不合格にされる恐れがあるのではないかと思っていたとも述べているが、だからと言って、自らも不正に手を染めることが許されるものでないことは当然である。

 しかも、江藤被告にお願いすれば、合格点を多少下回っていても合格させてもらえるのではないかと思っていたというのであるから、単にほかの受験者が不当に有利に扱われることの反動として不利益な扱いを受けることを回避しようとしたものとは言えない。

 そして、そもそも本件では、わいろを供与したことの刑事責任が問われている。そのような行為がいかに許されないものであり、口利きとは質的に異なる犯罪行為であるかは容易に分かることであり、だからこそ被告も当初、金品を贈ることにしゅん巡した(ためらった)はずである。不正のうわさもある中、自分の子どもたちを何としても合格させたかったという親心も理解し得ないではないが、以上のような事情を考慮すると動機に酌むべき点があるとは言い難い。

 犯行の態様についても、矢野被告の勧めにより、犯行を決意したとはいえ、二回にわたり、計四百万円相当の多額の金品を江藤被告に供与したのであるから、悪質と言わざるを得ない。

 そして、県教委幹部に多額のわいろを供与し、しかも供与したのが小学校教頭の要職にあった(人だった)という本件犯行が、社会に与えた衝撃は大きく、大分県の教育界に対する国民の不信感をぬぐいがたいものにしたというべきであって、犯行の結果は重大である。以上によれば、被告の刑事責任は重い。

 他方、被告は本件犯行発覚後、捜査公判を通じて真摯(しんし)な反省の態度を示している。また、懲戒免職になるなど既に相当の社会的制裁も受けている。なお、捜査の過程で、大分県の教員採用試験においては、かねて口利きによる不正が行われていたことが判明しているが、そうした組織絡みの不正に対する社会的非難を被告一人に負わせるのも相当でない。そこで、これらの被告のために酌むべき事情も総合考慮すると、被告に対しては主文の刑を科した上、その執行を猶予するのが相当である。

大分合同新聞 2008年10月31日

このページの先頭へ


教員免許更新制 信頼回復の原点に立ち返れ

 来年度から始まる教員免許更新制の実施にあたっては、教員への信頼を回復するという原点に立ち返るべきだ。そのためには、入念な準備を怠ってはなるまい。

 更新制では、国公私立を問わず、小中高校などの教員免許に10年の有効期限が設けられる。10年に一度、最低30時間の講習を受け、試験で修了認定を得なければ、免許は失効する。

 講習を実施する各大学は今年度、本番に生かすため、「予備講習」を試行している。

 文部科学省が今月まとめた各大学の報告書によると、同じ教科でも小中高校では内容がかなり異なるため、一緒の講習では、教える側にも受講する側にも不満が強く、効果的ではない。演習や実習を伴わない講義も多い。

 受講者の評価を公表している大学のホームページを見ると、講習によって満足度に差がある。

 更新制の目的は「最新の教育事情に合わせ教員の知識・技能を刷新する」とされている。だが、学校裏サイト対策、保護者への対応など、学校でいま問題化している事態に対処できる講習は少ない。内容の充実が求められよう。

 対象は毎年10万人と見込まれている。大教室での一方通行の講義とならないよう、受講者数を適正な規模に絞ることも必要だ。

 更新制は当初、不適格教員の排除を目的に検討されていた。しかし、不適格教員には、指導改善研修を義務づけるなど、他の方法で対処することになった。

 だが、更新制でも厳正な修了認定は欠かせない。予備講習では、記述式問題で空欄やわずか数行の解答があったという。

 国も、受講者の評価などに基づき講習の内容や質を点検し、修了認定の基準を精査するなど、責任を持つべきだ。

 公立校教員には、都道府県教育委員会の10年経験者研修などが既に行われている。内容の重複を避けるには調整が必要だ。文科省は、更新制開始後の状況を踏まえて柔軟に見直し、将来的には一本化も検討すべきだろう。

 受講料は、1人3万円程度とされる。法改正で義務づけられた新たな制度の講習であり、教員の費用負担が不要の10年研修との整合性も考えれば、国による負担が妥当ではないか。

 更新制導入の背景には、教員への国民の不信感がある。講習で何を身につけるのか。取り組む教員の姿勢が、信頼回復への一歩となることも忘れてはならない。

讀賣新聞 2008年10月30日

このページの先頭へ


法曹の質 何のための司法改革か

 「『疑わしきは被告の利益に』という基本原則が理解できていない」「被告がアリバイを主張しているのに無視した答案があった」−。最近の司法修習生に行った修了試験で、不合格と判定された答案に対する教官らの感想だ。

 今や修習生の中心は、法科大学院修了者を対象とした新司法試験の合格者だ。最高裁は、修了試験で不合格と判定された答案の傾向などを、司法研修所教官らの感想とともに報告書にまとめた。

 「大多数は期待した成果を上げている」「口頭で考えを述べる能力に優れる。法科大学院の成果ではないか」などと前段は柔らかいが、言いたいのは明らかに後段だ。

 「実力にばらつきがあり、下位層が増加しているように感じる」「民法や刑法などの基本法について、表面的な知識にとどまり、事案に即した適切な分析検討ができない者が相当数含まれるのではないか」。さらには「実務法曹として求められる最低限の能力を習得しているとは認めがたい答案があった」など、かなり手厳しい。

 裁判官、検察官、弁護士の法曹3者で最も中立的な立場にあり、白黒の判断に慎重であるはずの裁判官らが、ここまで危機感をあらわにするのは尋常ではない。

 法科大学院は2004年にスタート。現在74校を数える。その修了者を対象に06年実施された初の新司法試験では約1000人が合格。そのうち986人が、1年間の司法修習を終えて修了試験を受けた結果、59人(約6%)が不合格となった。

 直近の旧司法試験合格者の修了試験不合格率は5%弱。数字だけみればわずかな差だが、新試験合格者は法科大学院で、法曹実務を念頭に置いた教育を受けているはずだ。旧試験合格者より成績が劣るのは、その存在意義が問われる結果といえよう。

 一連の司法改革では法曹の増員へ、法科大学院修了者の司法試験合格率を70−80%と想定した。しかし初年06年の48%から40%、そして今年は33%と下降線をたどる。合格者の数は、10年以降を目標とする「毎年3000人」に少しずつ近づいているが、修習生の下位層増加は合格者のレベルにも不安を抱かせる。

 実は最高裁と前後して、日本弁護士連合会も「緊急提言」をまとめ、法曹の「質」の低下に懸念を表明。増員計画の練り直しを求めている。

 地方の司法環境は依然厳しい。本県では、法曹の増員要請に自力で応えようと、法科大学院設置を目指した時期もある。熱心な活動は実らず、しかも首都圏を中心に当初の想定を上回る数の法科大学院が誕生した揚げ句、その意義が問われる状況では、地方にあって何のための改革か。

 法科大学院が理論と実務の懸け橋としての役割を果たせないのでは、司法修習期間の4カ月短縮も無意味どころかマイナスだ。法曹増員も、質の確保が前提だ。院の統廃合を含め新システムの厳格、かつ早急な見直しを望む。

岩手日報 2008年10月30日

このページの先頭へ


教職員不祥事 個の問題では済まない

 県内の教職員の不祥事が後を絶たない。特に今月に入って発覚した三件は悪質なものばかりだ。

 公立中学校の男性臨時講師による女子中学生へのみだらな行為、県立高校男性教諭による元臨時講師の女性への暴力行為と飲酒運転、そして、県立高校女性教諭のクラブ費詐取である。

 本年度、県内の教職員が懲戒処分となったのは七件に達し、うち三件が懲戒免職だ。飲酒運転の厳罰化など公務員倫理の徹底が口酸っぱく叫ばれている中、異常事態というしかない。

 不祥事発覚のたびに県教委は謝罪をし、緊急の校長会を招集したり、通知を出しているが、そうした対応では追いついていないわけだ。

 わいせつ行為や飲酒運転、クラブ費詐取などは犯罪行為であり、教師という以前に、人間としての自律心が明らかに欠如している。現在、裁判官に至るまで公職にある者がこうした不祥事を引き起こす世の中であり、モラルの再構築が求められるのは教師の世界だけではないかもしれない。

 だが、教師は子どもの人格形成に大きな責任を負い、範とならねばならぬ職業だ。その自覚があれば問題は起きないはずである。無論、まじめに取り組む教師がほとんどではあるが、これだけ不祥事が続いては個の問題として片付けるわけにはいかないだろう。

 近年、文部科学省の調査で気がかりなのは精神性疾患で休職した公立小中高の教職員の数が全国で年々増えていることだ。本県でも増加傾向にある。

 家庭教育の欠如や子どもの荒れ、間断なく続く教育改革などで教師が強いストレスにさらされているのは間違いないだろう。

 だからといって不法行為を許容することにはならないが、ストレスや心の病が「一線」を踏み越えさせることもある。支え合える職場環境づくりにもっと取り組むべきだ。

 県教委が行う研修も近年は幅広く、セクシュアルハラスメントやメンタルヘルスなどにも及んでいる。ただ問題はこうした研修が受ける側にとって効果あるものになっているかどうかだ。

 不祥事発覚の報道とともに、県教委の自己点検・評価の甘さも指摘されてた。こうしたお手盛りの姿勢が隙(すき)を生んでいるのではないか。県教委は採用から研修、日常の学校環境に至るまで徹底的に検証し、信頼回復に努めねばならない。

高知新聞 2008年10月30日

このページの先頭へ


<学力テスト>鳥取県教委が結果開示へ 09年度分から

 鳥取県教委は30日、文部科学省の全国学力テスト結果の開示を前提に、県情報公開条例の改正案の本格的な協議に入った。07、08年度分は現条例に基づいて非開示を決定したが、09年度分からは開示へ方向転換した。

 県教委事務局が示した条例改正案骨格は、開示によりデータが広く流布されることがないよう「特定の学校または学級を識別できる方法による公表、提供をしてはならない」と使用制限を導入し、違反者への罰則の可否も今後、検討するとしている。この骨格をたたき台に改正案をまとめ、11月定例県議会に提出したいとしている。

 同県では07年度の全国学力テストの開示請求に対し、第三者機関の県情報公開審議会が「開示すべきだ」と答申したが、県教委が8月、非開示を決定。平井伸治知事が「教育関係者の内向きの議論に流された」と批判し、県議会も開示を求める決議を採択するなど批判が集まっており、県教委は09年度以降のデータについて開示、非開示の両面から検討するとしていた。

 この日の協議で山田修平委員長は「条例の趣旨と子供たちへの配慮のバランスが大事」と述べ、改正自体には理解を示した。罰則には大半の委員が反対した。別の委員からは「使用制限は条例の趣旨に反する」との意見もあり、議論は紆余(うよ)曲折が予想される。【大川泰弘】

毎日新聞 2008年10月30日

このページの先頭へ


学力テスト 全員調査に無理がある

 全国学力・学習状況調査をめぐり、市町村別や学校別の成績の公表を求める動きが各地に広がっている。知事主導で市町村別成績の開示に踏み切ったところもある。

 文部科学省は競争の激化や学校の序列化を防ぐために、公表は都道府県別にとどめている。各教委にも個々の市町村名や学校名について控えるよう求めてきた。

 全員調査である限り、首長や住民から公表を求める圧力が高まるのは、ある意味で当然のなりゆきだ。全員調査だと、おのずと地域や学校の「順位」が決まる。気になるのも無理はない。

 学力テストは巨額を投じた公共の事業でもある。行政情報の公開を求める流れの中で、教委が開示を拒み続けられるかは疑問だ。

 全員調査で競争と序列化をあおりながら、情報は出さない。そんなやり方自体に矛盾がある。

 混乱は深まるばかりだ。学習指導に生かす目的なら、抽出調査で十分である。文科省は全員調査の廃止を決断すべきだ。

 情報公開条例に基づく開示請求は鳥取や埼玉、大阪などで出ている。鳥取県南部町は学校別データを部分開示した。市教委が非開示を決めた大阪府枚方市は、行政訴訟になっている。

 知事主導で市町村教委を説得し、公表する動きも相次ぐ。秋田県は市町村名を伏せて部分開示。大阪府は一部を除いて市町村名を明かし、部分開示した。

 大阪府と鳥取県の両知事は、予算編成権を盾に市町村に公表を迫る発言をした。教育の独立を侵害しかねない行為である。

 教委と自治体の責任は重い。学力テストは小学6年生と中学3年生の学力の一側面を示しているにすぎない。その数値や順位に一喜一憂していては、数値で測れない学力や、子どもたちの背後にある問題を見落としがちになる。

 日本の国内総生産(GDP)に対する教育投資の割合は、先進28カ国中、最下位。親の教育費負担は重く、収入の低い世帯ほど家計を圧迫している。日本政策金融公庫の調査だ。

 ただでさえ少ない国の教育予算から、学力テスト実施に、この2年間でおよそ135億円が使われた。ここでいったん立ち止まって、まずはテストから明らかになった課題の解決のために、予算を振り向けるべきである。

 少人数学級拡充のために現場の教員を増やし、貧困家庭の子どもへの就学援助を手厚くする。公教育の底上げに力を注ぐときだ。

信濃毎日新聞 2008年10月29日

このページの先頭へ


教育費負担増 家計の重荷減らす改革を

 1024万円。これは、子供一人が高校から大学卒業までにかかる費用という。

 「だから少子化が進むんだ」。そんな批判も聞こえてきそうだ。

 数字は今年2月に日本政策金融公庫が、国の教育ローンを利用した世帯に実施した調査結果だ。

 在学費用は世帯年収の34%を占める。年収400万円未満の家庭では教育費の負担は55・6%にも上る。ズシリと重みが伝わる数字だ。

 自宅外通学者を抱える家庭の仕送り額は年間96万円にも上る。

 一体、どうやって教育費をやりくりしているのか。調査によれば、旅行・レジャー、被服、食費を削り、子供たちは奨学金やアルバイトでしのいでいる。

 調査対象の家庭の平均的な子供の数は2人。平均年収は622万円。年収は前年比で22万円減。減収入の中の教育費負担増の実態が浮かんでくる。

 それにしても、日本の教育費は高すぎないか。そうでなくとも、家計への負担が重すぎないか。

 日本の教育予算は戦後、一般歳出の13%近くを占めたが2000年以降は9%前後に減っている。

 国民総生産(GDP)比でも1980年前後の1・75%がピーク。以後は1・05%(03年度)に減っている。財政に占める教育費の割合は、先進主要国・経済協力開発機構加盟国の中で最低水準。GDP比でも私費負担分を加えても、加盟国平均を大きく下回っている。大学など高等教育での学生1人当たりの教育費は4862ドルと、平均(8322ドル)の58%の水準。1位のデンマーク(1万4864ドル)の3割台だ。

 欧米では高等教育無償制をとる国も多い。教育は国造りの基礎。100年の大計だ。教育費の公費減・私費負担増は教育格差、ひいては所得や生活格差、社会の階層化に拍車を掛けかねない。

 世界に冠たるモノづくり大国・日本も基本は人づくりだ。教育大国・日本を目指し資源や予算の再配分、改革を行う時期に来ている。

琉球新報 2008年10月29日

このページの先頭へ


家計と教育費 「立国」の土台を揺るがす

 年収の三分の一以上が教育費に充てられている。少子化対策が叫ばれる中、教育費が家計を圧迫している姿がある。これが「教育立国」の現実なのか。

 日本政策金融公庫が教育ローン利用者を対象に調査した。小学生以上の子どもを持つ家庭(子ども二人)が、二〇〇八年度に見込む教育費は平均で世帯年収の34・1%に上ることが分かった。前年度より0・5ポイント増加したという。

 不況で収入は減少しているのに、授業料や通学費、塾の月謝など子どもの教育に掛かる出費は変わらない。年収二百万−四百万円の世帯では55・6%にも上る。四百万−六百万円の中所得者でも33・8%だ。所得が低いほど負担が重くのし掛かっている。

 教育費のあおりを受けて節約する最たるものは「旅行・レジャー費」という。これでは親子で生活を楽しむ余裕は生まれない。安心して子育てができる環境とも程遠い。国が声高に少子化対策を訴えてもむなしい。

 大学が全入時代といわれる。調査では高校入学から大学卒業まで子ども一人当たりの費用を千二十四万円とはじき出している。

 年間では百五十万円近い。国公立大に入学しても計八百三十四万円である。子どもが三人、四人と増えれば家計はどうなるのか。

 教育格差が心配される。子どもが教育を受ける権利は憲法で保障されている。それなのに親の所得で格差が生まれるとすれば由々しきことだ。「教育立国」の土台が揺らぐ。

 格差は競争社会を生む。学校では学力偏重主義だ。落ちこぼれを心配する親は子どもを塾へと駆り立てる。それが教育費をさらに押し上げる。

 悪循環を断つには公教育の充実が不可欠だ。だが、教育現場は疲弊している。精神疾患で長期休職する教職員が年々増えているという。

 精神を病むほど余裕のないところで、子どもが大きく育つわけがない。国や自治体は教員の定数を含め、教育現場の在り方を抜本的に見直すべきだ。

 教育は国や自治体にとっても将来への投資である。不況の影が大きく広がってきた今こそ「米百俵」の精神を思い出すべきだ。投資を惜しんでは少子化対策の道も閉ざされよう。

 子どもの将来のためにと親は歯を食いしばって教育費を捻出(ねんしゅつ)している。国や自治体は親の負担にもっと目を向けるべきだ。

 経済協力開発機構(OECD)によると、日本の国内総生産に占める教育への公的支出割合は主要二十八カ国中最下位という。教育現場まで効率優先主義が幅を利かすようでは「立国」などとは言えないはずだ。

新潟日報 2008年10月28日

このページの先頭へ


学テ地区別結果を発表 全国平均おおむね上回る

 鳥取県教委は二十七日、文部科学省が今年四月に小学六年生と中学三年生を対象に実施した「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)の地区別、市部・郡部別、学級規模別の平均正答率を発表した。地区間の平均正答率の開きは0・8−4・6ポイントで、県教委は「統計的に有意な差はなし」としたが、西部地区では算数AB、数学ABともに全国平均を下回った。近日中に県教委のホームページに掲載する。

 小、中学生とも国語二科目と算数(数学)二科目の計四科目の結果について分析。地区別では東、中部はいずれの学年、科目とも全国平均を上回ったが、西部では算数二科目、数学二科目で全国平均を下回った。

 このうち、小学六年生の算数A(主に知識を問う)では中部との開きが4・6ポイント、中学三年の数学B(主に活用を問う)でも中部と4・5ポイントの開きがあった。

 市部・郡部別、学級規模別では、平均正答率に大きな差はなく、おおむね全国平均を上回った。

 分析結果について、県教委小中学校課は「地域差は多少あるが、統計的に有意な差とはいえない。一定の教育水準が保たれている」としている。

日本海新聞 2008年10月28日

このページの先頭へ


新教育の森:風評で入学者減り、特色作り報われず 学校選択制度廃止決めた前橋市

 前橋市は全国で初めて、学校選択制度を廃止する。導入から4年半、特定の中学校に生徒が集まり、生徒数の偏りが無視できなくなった。地域との関係が薄れ、メリットより課題が大きくなったゆえの決断だった。【山本紀子】

 ◆部活や授業にしわ寄せ

 ある市立中では04年の選択制導入後、生徒が150人も減った。

 「野球部に9人そろわなくなり、試合に陸上部の選手を借りたこともある。今年は近くの中学と合同練習を始め、統一チームで試合に臨んだけれど士気は今一つでした」

 校長は振り返る。10年ほど前に荒れた時期があったためか、年々入学者が減った。部活動は停滞し、野球好きの男子は近隣の中学に流れた。

 授業への影響もある。生徒減に伴って教員も減らされ、複数の教員が教えるチームティーチングで、技術の先生が数学の教室に入ることも。保護者から「専門でないのに」と苦情も出た。

 1年生は40人を少し上回り2クラスがやっとの人数だ。「本当は4クラスが理想。毎年のクラス替えで新しい人間関係を作りたいけれど……」と校長はため息をつく。

 風評を抑え、ありのままの姿を地域に伝えたい。そう考えた校長は学校通信を地域の回覧板に載せた。全国学力テストの成績は学校評議員に知らせた。県平均を上回る科目が多い。農家の協力で大根作りを授業に取り入れるなど、地域との連携も重視している。生徒指導では毎朝、靴箱を見回り、来ていない子にすぐ連絡をとる。不登校はない。

 校長は切々と訴えた。「あの学校はよくないと言われるが、どこが悪いのか。ちゃんと見た上で言ってほしい」

 ◆活気ある伝統校人気

 一方、生徒数が3割増えた市立第五中。市中心部の静かな住宅街にあり、交通の便もよい。陸上部は県トップレベルで、卓球部も関東大会に出場、全国学力テストの成績も県平均より上だ。

 教室にはぎっしりと生徒が詰まる。1年生女子は「伝統校だからいいと思った。友達も作りやすい」。学区外から選択制で入学した生徒の割合は、3年生で21%、2年生で24%、1年生で30%と年々増えている。

 桐生直校長は「自転車通学が多く、安全面が少し不安」と話す。「新しいマンションも近くに建ち、さらに生徒が増えそう。少人数授業で二つ分の教室を使う教科もあるので、教室不足が心配です」

 ◆地元行事から疎遠に

 前橋市の学校選択制の利用者は年々増え、1年目の160人から今年度は421人に達した。一方、特定の中学で生徒数の増減が著しくなり、改革を重ねても減少を食い止められなくなった。

 別の学区に通う子が地元の行事に顔を出しにくくなる現象も生じ、自治会から苦情も届き始めた。同市後閑町で自治会長を務める村田良治さん(57)は「お墓で肝試しをする夏祭りや、みこしをかつぐ秋の農業祭もあるのに、顔見知りの子が出られず可哀そう。中学校に貸した田んぼで田植えなどをするが、地元の子が農村部ならではの体験をできないのもさみしい」と話す。

 こうした状況から市は「学校にとって地域の果たす役割は大きい」と、10年4月入学者を最後に廃止を決めた。市教委の清水弘己・学校教育課長は語る。「大人数の学校は校庭が狭くなりプールも順番待ち。大きいならではの悩みもある」。選択制のよい点は各校がカリキュラムに工夫をこらすようになったことだという。しかし「読書やドリルに力を入れても、それで選ばれることはほとんどないのです」と清水課長は苦笑した。

 ◇全自治体の約1割が導入
 学校選択制度は、規制緩和のため97年に旧文部省が通学区域の弾力的運用を認める通知を出し、各地に広まった。06年の文部科学省調査では、全国で約1割の自治体が導入している。28市区が導入する東京都内では、学校を自由に選べる制度をとる自治体が多く、学校間の人数の偏りが顕在化。入学率(校区内で住民登録している就学者数に対する入学者数の割合)に大きな差が出ている。

 ◇導入の目的と実態、ずれている−−嶺井正也・専修大教授
 学校選択制度の実情を調べている専修大の嶺井正也教授に現状を聞いた。

   *   *

 公教育の質を上げるため導入されたが、教育内容で選択する人は少なく、目的と実態がずれている。また、選ばれる学校とそうでない学校が固定化され、逆転は難しい。

 文教地区にあり部活も盛んな伝統校が好まれ、小規模校は避けられることが多い。選択基準は東京でも金沢市や広島市でも同じ傾向だ。荒れなどのうわさは、昔のことだったり実態がない場合も多いが、教員の努力でぬぐい去るのは難しい。

 先生たちは学校の特色作りに懸命だが、その努力は報われにくい。品川区の教員は、新校舎で人気の小学校の近くで苦労しており「校舎やグラウンドを整備して条件を均一にしてほしい」とぼやいていた。地元に住んでいない子どもへの家庭訪問や生徒指導も苦労が多いと思う。

 自由に選べる方がいい、という世の中の風潮があり、存続を望む保護者は多いと思う。しかし、極端な人数の偏りは好ましくない。前橋市は現実をよく見据えた英断をしたと思う。

毎日新聞 2008年10月27日

このページの先頭へ


学力テスト:開示問題混乱の原因は文科省通知…鳥取県知事

 鳥取県の平井伸治知事は21日、大阪市北区の毎日インテシオで開かれた関西プレスクラブの例会で講演し、全国学力テストの開示問題について「混乱の原因は文部科学省の中途半端な通知。規制したければ法令で定めればいい」と批判した。

 鳥取県が関西広域機構に加盟したことなどから招かれた。

 平井知事は、10人以下の学級を除いて学力調査の結果を開示すると規定した県情報公開条例を説明し、「地方自治の問題である条例のあり方、知る権利にかかわることに介入してくる姿勢が納得できない」と述べた。また、橋下徹・大阪府知事が市町村別データを開示したことについては「大阪には大阪の地方自治がある。自治権としては当然のこと」と理解を示した。【小島健志】

毎日新聞 2008年10月22日

このページの先頭へ


教委統合=京都府和束町など3町村

 京都府和束町、笠置町、南山城村の3町村は来年4月、教育委員会を統合する。財政難による歳出削減が狙いで、受け皿となる「相楽東部広域連合」設立に関する規約案を3町村議会が可決した。近く府に広域連合の設置許可を申請する。

 広域連合が担うのは教育委員会のほか、障害者自立支援協議会や福祉有償運送運営協議会などの7事務。

 3町村には4つの教育委員会があり、一本化により、教育委員を現行の計18人から5人に、事務局職員を計14人から10〜11人に減らす予定。年間4500万〜5000万円の経費削減が見込まれるという。

 3町村は2006年、行政事務の共同化を目的とした「相楽東部広域業務連携協議会」を設立。これまでにも広報誌の発行などを協力して行ってきた。(了)

時事通信 2008年10月22日

このページの先頭へ


法科大学院 厳しい自己改革が必要だ

 法科大学院の現状に不安を抱かせる結果が、また明らかになった。法科大学院の認証評価機関である日弁連法務研究財団は、二〇〇八年度の上期に認証評価した七校のうち三校について、設置基準などを一部満たしていないとして「不適合」と判定した。

 法科大学院の認証評価機関は同財団など三つあり、各校は五年に一回、評価を受けることが義務づけられている。不適合とされると、文部科学相が対象校に報告を求め、必要な改善指導をする。

 現在、法科大学院は七十四校あり、今回を含めて三十一校が評価を受け計八校が不適合となった。割合は約26%に上り、実に四校に一校が運営などに問題があったことになる。

 法科大学院は〇四年以降、全国各地に創設された。時代とともに司法へのニーズが多様化する中、法曹人口を増やして法的な思考力だけでなく、幅広い教養や人間味を兼ね備えた質の高い法律家を育成するというのが設立理念になっている。

 「身近で開かれた司法を目指す」という司法制度改革の一環だ。今回の評価では、学内での成績評価が甘かったり、バランスの悪いカリキュラムを組んでいたことなどが問題として指摘された。

 こんな状況で期待される法曹養成機関としての役割が、きちんと果たせるのか。残念ながら懸念を覚えざるを得ない。

 法科大学院については、厳しい自己改革が求められるような課題が相次いで表面化している。当初は修了者の70―80%が新司法試験に合格すると想定されたが、〇六―〇八年の合格率はそれぞれ48%、40%、33%と下がり続けている。

 さらに定員割れや教員不足の法科大学院も少なくない。最高裁の報告書は、新司法試験の合格者が中心となった最近の司法修習生に関して「実力にばらつきがあり、下位層が増加している」と分析した。

 法科大学院の質向上策を検討している中教審大学分科会の法科大学院特別委員会は先月、各校の自主的な定員削減や統廃合などを推奨するという中間報告をまとめた。文部科学省と法務省は、これを基に各校へのヒアリングを実施し、年内にも改善策を出すよう求めるという。

 学校によって事情は異なるだろうが、まず定員規模に応じた質の高い教員を確保した上で、指導内容を充実していくことが不可欠である。志願者や社会の信頼を得るためにも、これまでの取り組みをしっかり検証し改革を進める必要があろう。

山陽新聞 2008年10月20日

このページの先頭へ


学力テスト結果 何のための公表か考えて

 まだ2回目なのに、もうごたごたしだした。国が実施する全国学力テストの結果公表をめぐる動きである。

 大阪府では橋下徹知事が府内の全市町村教育委員会に公表を迫り、自主公表を決めている自治体に限定はしたものの、ついに全国で初めて市町村別の平均正答率の公表に踏み切った。同じく知事が公表に積極的な秋田県教委は、市町村名を伏せたうえで開示を決めている。

 九州・山口では県が市町村教委に結果の公表を求める動きはないが、情報開示に賛同する知事ら首長は少なくない。

 「過度の競争や序列化につながる恐れがある」と教委側が言えば、首長側は「住民が地域の学校の学力水準を知ることはよいことだ」と反論する。

 双方とももっともな主張だが、教委と首長の対立ばかりが注目を浴びるのは不幸な事態だ。肝心なのは、何のためのテストなのかということではないか。あらためて、そのことを考えてみたい。

 テストは昨年、国語と算数・数学の2教科で43年ぶりに復活した。小学6年と中学3年の全員が対象だ。狙いは、学校や学校設置者の市町村教委が子どもの学力状況を把握し、学力向上に向けた指導改善につなげることである。

 そこに本来、結果の公表という目的はない。もちろん、保護者や子どもは成績を知りたいだろうし、学校は当然知らせている。テストを実施する文部科学省も「情報を共有することは必要」として、市町村教委が自らの市町村の結果を公表したり、学校が自校の結果を明らかにしたりすることは推奨している。

 ただ、序列化などへの危惧(きぐ)から、都道府県段階で学校別だけでなく市町村別の結果を公表することは禁じている。それが公開論議を複雑にしているようだ。

 もっとも、橋下知事が非公表と決めている自治体の意向を無視したわけではない。自治体名を伏せる秋田県教委の方針も、同様の判断があったからだ。

 もともと学力テストの参加主体は市町村教委である。結果を公表するか否かは、学校運営に直接責任を持つ市町村教委の判断を尊重するのが筋だ。鹿児島県では48市町村教委(合併前含む)のうち39市町村教委が公表している。自治体の自主性に委ねての結論であり、これがあるべき公表の姿ではないか。

 私たちは、どうしても「序列」に関心が集まりがちな全員参加型のテストは見直すべきだ、と訴えている。子どもたちへの指導改善に役立てるのなら、抽出テストで十分可能と考えるからだ。

 しかし、現状を認めるとしても、単に結果を公表することに意味はない。

 結果を分析し、どういう改善策を講じるのか。そうしたことを加味した公表こそ、意義があると言いたい。地域住民も保護者も、学校をより理解する手助けになるからだ。そこから、学校に地域が協力しようという機運も生まれよう。

西日本新聞 2008年10月20日

このページの先頭へ


学テ、国は考え方明確に=埼玉県教育長

 全国学力テストの成績公表問題に関し、埼玉県教育委員会の島村和男教育長は20日の定例記者会見で、来春の第3回テストに向け「今これだけ論議が盛り上がっているので、(文部科学省は)考え方をはっきりして、直すべきものがあるのか明らかにしてほしい」と述べた。

 同教育長は「国の示した要領に基づき実施している。県が一括して公表しないという約束、前提が基本だ」と強調。「学力という特定の一部分だけで学校の教育活動が評価され、それが一人歩きすることのないようにすべきだ」と、公表には消極的な姿勢を示した。

 同県では市町村別、学校別のテスト結果についての開示請求に対し、昨年11月に不開示を決定。請求者が1月に異議を申し立て、3月に情報公開審査会に諮問され、現在審議中となっている。(了)

時事通信 2008年10月20日

このページの先頭へ


指導力不足教員 「減少」にも安心はできない

 各地の教育委員会が「指導力不足」と認定した教員数は、3年連続で減少したが、安心してはいられまい。

 指導力不足教員には今春から指導改善研修が義務づけられた。教員の信頼回復に向け、各教委は厳格に認定し、改善の余地がなければ免職など教壇からの“退場”を促すべきだ。

 文部科学省のまとめでは、都道府県・政令市教委が昨年度認定した指導力不足教員は371人で、2006年度より79人減った。

 これまで教委によって定義や判定基準、研修期間が異なり、認定数にもばらつきがあった。このため、「氷山の一角」ではないか、とみられてきた。

 4月に施行された改正教育公務員特例法では、指導改善研修は最長でも2年となった。研修終了時にはどの程度改善されたかを判定し、現場復帰か転任・免職かなどの措置を講じることになった。

 文科省は2月に指針を作り、定義のほか、具体例も示した。教える内容に誤りが多い、児童生徒の質問を受け付けない、対話もしない――などだ。文科省は各教委の定義などが指針に沿っているか、早急に点検すべきである。

 指導力不足教員の8割余りは、40、50歳代だ。文科省では、「従来と同じやり方で、児童生徒や保護者の変化に対応できていない」と説明している。

 だが、「トラブルの原因が自分という自覚がなく、他人に責任を転嫁する」「板書が乱雑で筆順も誤りが多い」など、適性や向上心に疑問符の付くケースも多い。

 教員不信を背景に、指導力不足など不適格教員を排除する仕組みとして検討された教員免許更新制は、結局、「排除を直接の目的とはしない」ことになった。その代わりが、指導改善研修と研修後の免職を含む措置だ。

 こうした経緯があるだけに、指導力不足教員の認定と研修、その後の措置について、各教委は一層厳しい姿勢で臨む必要がある。

 一方、1年間の条件付き採用(試用)期間後、正式採用に至らない教員は、301人と過去最多を更新した。02年度の約3倍だ。採用自体に問題はなかったのか。

 大分県の教員採用汚職事件を機に、各教委で採用試験の見直しが進められている。

 公正な試験と同時に、教員としての適性や能力を的確に見極めるにはどうすればよいのか。筆記、面接など試験の成績と教員になった後の評価をもっと追跡調査し、試験を工夫すべきではないか。

讀賣新聞 2008年10月20日

このページの先頭へ


学校の元気 教育現場の環境改善を

 気になる傾向だ。今、学校現場で何が起きているのだろうか。生徒や先生共に、元気や覇気がないように見える。そんなことを裏付けるいくつかのデータが出た。

 全国の公立小中高校で、責任の重さに耐えられずに、降格を希望する先生が増えている。校長や教頭、主幹教諭ら管理職が一般教員などに自主的に降格する「希望降任制度」を2007年度に利用したのは、106人に上った。前年度から22人増えて、2000年度の調査開始以来、最も多いという。文部科学省の調べで分かった。

 沖縄県内を見ると、03年度に1人、07年度には2人の制度利用者がいた。いずれも教頭から教諭への降任希望だった。

 降格を希望したのは、教頭から一般教員へが最も多く、70人に上った。校長や教頭を補佐する主幹教諭などから教員へは31人だ。教頭や主幹教諭はサラリーマン社会では、中間管理職と呼ばれるクラスだろう。上と下から板挟みになり、悩んだ末の決断、といった構図が見て取れる。

 理由として「健康上の問題」が最多で56人に上った。ストレスから来る神経症や、うつなどの精神疾患も多いという。

 こんな学校現場に嫌気が差したのか、1年で教壇を去っていく新人教員も増えている。07年度の1年間で301人にも上る。5年前の3倍近くにもなり、学校現場を取り巻く環境の厳しさが浮き彫りになった格好だ。ここでも、3割が神経症などの病気を理由にしており、見過ごせない状況だ。

 先生たちの厳しい環境が生徒たちへも波及しているのか、高校生も元気がないと考えるのは、うがち過ぎだろうか。「高校生新聞」を発行する高校生新聞社(東京)の調査で、18歳から選挙権を持つことに賛成する高校生は反対を12ポイントも下回って20%にとどまった。「どちらともいえない」が39%もおり、社会への関心の薄さが気に掛かる。

 学校の元気が社会の活性化につながる。文部行政の肝要だ。

琉球新報 2008年10月19日

このページの先頭へ


学力テスト 指導の改善へ積極公表を

 全国学力テストで大阪府の橋下徹知事が初めて市町村別成績を部分開示した。ほかの自治体でも秋田県が市町村別成績の部分開示を決め、鳥取県南部町は学校別の成績を出した。文部科学省は積極的な公表を前向きにとらえ、学力向上の取り組みを支援すべきだ。

 文科省は学力テストの実施要領で、成績公表は都道府県別にとどめている。それぞれの自治体、学校が自身の成績を公表することは認めているものの、各教育委員会に市町村別、学校別成績は公表しないよう求めている。理由は、昭和30年代の学力テストで学校間の成績競争が起きたとして、過度の競争や序列化を招かないためとしている。

 当時は、日教組が、教員の勤務評定に反対するとともに、学力テストに対しても、激しい反対闘争を展開した。

 文科省だけでなく、依然として成績公表をためらう教委が多い。教育界は「競争」に臆(おく)し、悪平等になりがちだ。外からの評価を嫌う傾向も強く、事なかれ主義に陥りやすい。

 橋下知事の開示方針は学力テストで2年連続で低迷した結果に強い危機感を持ったからだ。成績開示のほか府教委、知事部局が協力して学力向上策を打ち出した。

 公表に反対したものの、大阪府吹田市の阪口善雄市長は「一部の『居眠りしている教師』の目を覚ますインパクトもあった」とした。結果があいまいでは対策も立てられず、無気力な教員の授業は改善できない。

 学力テストは教科書にでている基礎知識とその活用力を試すもので、過度の競争や序列化を招く内容ではない。生活習慣との関連も分析される。保護者はほかと比べて子供たちの学校の成績を知りたいはずで情報を共有すべきだ。

 一連の成績公表の動きは、住民などからの情報開示請求に伴うものだ。各教委がさらに積極的に成績を公表できるよう文科省は原則公表に改める必要がある。

 学力テストの復活は、ゆとり教育の失敗が学力低下を招いたのがきっかけだった。読解力不足など学力をめぐる課題は多い。

 ノーベル賞受賞報告に文科省を訪れた小林誠、益川敏英両氏も考える力を養えない教育の現状に苦言を呈した。学力テストの結果をもっと活用し、確かな学力をつける指導改善が急務である。

産経新聞 2008年10月18日

このページの先頭へ


学テ結果公表 教育観欠いたごり押しだ

 知事の権限を勘違いしている。全国学力テストの市町村別成績開示に踏み切った大阪府の橋下徹知事のことだ。軽率な判断がもたらす結果を憂慮する。

 橋下知事は八月末に発表された学力テストの都道府県別成績で大阪府が振るわなかったことに激怒、府教育委員会に対して市区町村別成績を公表するよう迫っていた。

 自治体行政の責任者が子どもたちの学力や体力の現状を気遣うのは当然である。場合によっては政策の変更を迫られるかもしれない。学力テストの結果についても、一喜一憂する必要はないが精緻(せいち)な分析は必要だろう。

 だが学力テストの結果は、データを持っている市町村の教育委員会がそれぞれの責任において解析し、教育行政に反映させるべき性格のものだ。知事が強権を行使して開示させるなど、教育行政の本旨をゆがめる行為である。

 橋下知事は市町村教委が開示要求を拒んだ際「開示、非開示は予算編成に反映させる」と述べている。どう喝以外の何ものでもあるまい。

 データ開示に積極的なのは大阪府だけではない。寺田典城秋田県知事が「市町村教委が公表できないなら、私の責任でやらざるを得ない」と述べているほか、「(開示への対応を)教員配置に生かす」と公言する知事もいる。

 教育委員会制度を理解していない発言だ。都道府県教委のみならず、市町村教委まで知事の威光に従わせようというのだろうか。

 昨年、四十三年ぶりに復活した全国学力テストについては、「無用な競争をあおるだけだ」との批判も根強い。文部科学省が市町村別や学校別のデータ公表を行わないよう求めているのはそのためである。

 結果が公表されれば数字が独り歩きするのは目に見えている。市町村別ランキングが生まれ、教育格差がさらに拡大する恐れがある。学校別の成績開示となるとなおさらだ。

 学力を決定づけるのはさまざまな要素がある。親の収入、地域の伝統や環境、教師の力量もその一つだ。

 学力テストに有効性を認めるとすれば、何が原因でその成績になったかを突き止め、事後の指導に生かすことができたケースであろう。

 保護者らが子どもの通う学校の成績を知りたいとする気持ちは分からぬでもない。しかし、そのことによって学校や教師への不信感が芽生えたとしたら、悪影響は計り知れない。

 文科省は大阪府などの対応に不快感を示しているが、元をつくったのは国である。結果の開示が市区町村、学校のランキング化につながると警鐘を鳴らすより、学力テストそのものを見直した方がいい。

新潟日報 2008年10月18日

このページの先頭へ


橋下知事、塩谷文科相を批判=序列化懸念なら「学力テスト県別結果出すな」

 大阪府が全国学力テストの一部市町村の平均正答率などを開示したことに対し、塩谷立文部科学相が不快感を示したことについて、橋下徹知事は17日、「序列化を懸念すると言うなら、国は都道府県別の結果を出すなと言いたい」と批判した。府庁内で記者団に答えた。

 橋下知事は「都道府県教委に市町村別結果が渡らないよう、国と市町村教委だけで学力テストをやればいい。その上で市町村教委の自主的な判断に委ねるなら結果は示されず、国民は納得しない」と指摘した。 

時事通信 2008年10月17日

このページの先頭へ


大阪府の学テ開示「好ましくない」と塩谷文科相

 大阪府が学力テストの市町村別結果を一部開示したことについて、塩谷立文部科学相は17日の閣議後会見で、「あくまでも(公表は市町村の判断に委ねるとした)実施要領に基づくことが大前提であり、決して好ましいということではない」と苦言を呈した。

一方、「情報開示請求を受けて行ったという点では多少は理解はできる」とも述べており、今後、他の自治体の動向にも影響を与えそうだ。

 塩谷文科相は、大阪府ではすでに非公表を決めていた自治体については開示されなかったことを挙げ、「公表する予定だからいいというわけではない。もう一度(府教委から)事情を聴いて、今後どうするかを検討したい」とした。

 また、大阪府の橋下徹知事が府教委から受けとった情報を開示したことについても、「本来なら問題があると思う」と指摘。その上で「今後は知事の約束も取り付けなくては、と思うところもある」と述べた。

産経新聞 2008年10月17日 11時33分配信

このページの先頭へ


大分県教委汚職 こんな処分で「幕引き」か

 こんな処分で、もう「幕引き」なのか。誰もが疑念を抱くだろう。

 大分県教委の汚職事件で、県教育委員会は監督責任などを問うとして、県教育委員でもある小矢文則教育長を減給2分の1(6カ月)の懲戒処分にした。同時に、ほかの教育委員5人は報酬の2分の1を3カ月、自主返納するという。

 教育委員の「処分」自体、事件の重大性や広がりを考慮すれば、決して重いとは言えない。なかでも、県教委トップの減給処分は、これで妥当か。

 小矢教育長には、2008年度の教員採用試験での口利き疑惑が指摘されている。本人から明確な説明を欠いたままの処分先行は、事件全体の解明をうやむやにするものだと言わざるを得ない。

 今回の汚職事件では、ナンバー2の2人の教育審議監まで逮捕された。1人は前審議監の二宮政人被告(62)=収賄罪で公判中=だ。もう1人は現審議監の富松哲博被告(60)=収賄罪で起訴=である。これだけでも異常というべきだ。

 ところが、2代前の審議監だった大分大教授も教え子の不正採用にかかわった疑惑が浮上し、退職した。小矢教育長は市民団体から、不正採用を働きかけたとして大分地検に告発状が出された。

 この2人とも、富松被告に特定の受験者の名前を伝えたことは認めている。一方で、合否の事前通知を依頼しただけで「合格依頼ではない」と言う。だが、そうだとしても、採用試験の公正さをねじ曲げる許されざる行為である。まして、小矢教育長は誰から、いつ頼まれたのか、口を閉ざしたままなのだ。

 今回、不正に金品が絡んで汚職事件となった。しかし、県内各界各層からの「口利き」がまん延していたことが分かっており、こうした行為を許した土壌こそが一連の腐敗の構図の核心だろう。

 大分県教委が8月にまとめた調査報告書は、口利きの常態化を物語る関係者の証言を集めてはいる。だが、その口利きは誰が誰に、どのようにしたのか。その結果は、どうなったのか。そうした追跡はまったくしていないのだ。

 他方で、「不正には厳しく臨む」として08年度だけ教員採用試験で21人を不正合格者と認定した。全員に自主退職を求めて、応じなかった6人の採用を取り消し、教育現場は混乱した。

 では、本丸の県教委はどうするのか。今回の処分でいいわけがない。不正合格とされた人の大半は誰が不正を頼んだかを知らず、厳正であるべき教員採用や昇任人事をゆがめた「口利き集団」のほとんどは、いまだ匿名のままである。

 広範囲な口利きリストが存在していたことも、公判で明らかになっている。大分県教委は再調査に踏み出すべきだ。自ら手を付けるのが困難なら、第三者機関が徹底して調べ直してほしい。

 県教委が不正のウミを出し切らずして、信頼回復はあり得ない。

西日本新聞 2008年10月16日

このページの先頭へ


公表方法を再検討=来年度の学力テスト−文科省

秋田県教育委員会と大阪府が相次いで全国学力テストの市町村別成績の開示を決めたことを受け、文部科学省は16日、テスト結果の公表方法を再検討する方針を明らかにした。専門家による検討会を近く設け、2009年度の実施要領を年内にまとめる。

検討会では各地の教委から意見を聞く予定。教委・学校への結果提供の早期化や、データを有効活用するための分析のあり方なども話し合う。 

時事通信 2008年10月16日

このページの先頭へ


情報公開を問う:学力テスト成績非開示 県議会本会議、開示求める決議案可決 /鳥取

全国学力テストの市町村別、学校別の成績を県教委が非開示とした問題について、14日の県議会本会議で自民党系議員ら21議員が「条例の趣旨に反する」として開示を求める決議案を提案し、賛成多数で可決された。

採決に先立ち、福本竜平議員(自民党)が03年6月の定例議会で「11人以上の学級については成績を開示すべきだ」とした条例改正の経緯を説明。福本議員は「立案した議会は立法府としての責任を果たす」と開示を強く求めた。

市谷知子議員(共産党)と松田一三議員(無所属)が反対の立場から論陣を張った。市谷議員は開示は「競争教育を推進する」と批判した。

中永広樹教育長は決議について「県教委として重く受け止めている」とコメントした。09年度以降の結果の取り扱いについては、新たに加わった教育委員と開示、非開示の両面から検討していくという。【宇多川はるか】

毎日新聞 2008年10月15日

このページの先頭へ


学力テスト開示求める決議 鳥取県議会が可決

鳥取県教育委員会が県情報公開審議会の答申に反して、全国学力テスト結果の学校別、市町村別データを非開示としたことについて、県議会は9月定例会最終日の14日、「全国学力テストの開示を求める決議」を提出し、賛成多数で可決した。

決議は「テスト結果を教育現場だけでなく、保護者や地域と共有することは、学力向上の課題を明らかにし、学校、家庭、地域が連携・協力して子供たちの健全な育成への取り組みを可能にする」などと、県教委が情報公開条例の趣旨を尊重して、開示するよう強く求めている。

決議に対して、市谷知子議員(共産)が「子供たちを成績重視の競争に追い込む」などとして反対を表明。これに対し、内田博長議員(自由民主クラブ)は「県議会は、教委が下した情報公開条例違反の疑いのある判断に対し責任ある意思を示さなければならない。教育現場から一切の競争を排除したら、子供たちの好きなスポーツは成立しない」などと反論した。

産経新聞 2008年10月14日 17時48分配信

このページの先頭へ


全国学力テスト 意義がよく分からない

昨年43年ぶりに復活した全国学力テストをめぐり、鳥取市の市民団体は、鳥取県教委に市町村別と学校別結果の文書非公開処分の取り消しを求めて提訴した。同県南部町教委では、住民請求を受け昨年度の学校別平均正答率を開示した。大阪や埼玉などでも同様の動きがある。

もとより各自治体にはそれぞれに情報公開条例がある。制度上、住民に保障された権利である点は見逃せない。

学力テストの実施要領は、各市町村独自の判断で結果を公表することを認めている。過度の競争や序列化を戒める文科省の「教育的配慮」は制度論、あるいは公表、非公表それぞれにある教育論とのせめぎ合いの中で、どこまで本気なのだろうか。

一連の問題発言で就任5日で大臣を辞め、今期限りで議員も退くという中山成彬前国交相は、全国学力テストの導入を決めた当時の文科相だ。問題とされた発言を含め、置き土産となった「持論」は、覚悟の上の発言だろう。

それだけに過激な印象は否めない。学力テストを提唱した理由について「日教組の強いところは学力が低いのではと思ったから」だという。これには同氏なりの確信があるようで、日教組はもとより文科省筋からも因果関係に否定的見解が示されても、考えは変わらない。

学力テストは、今年2度目の実施を終えてなお、その意義をめぐってさまざま議論がある。60億円の国費を投じ約230万人の児童生徒を駆り出す背景に、文部行政トップの個人的興味があるとしたら、その意義を疑わざるを得ない。

今年のテスト結果が公表されたのは、実施から4カ月後の8月末。忘れたころの公表に加え、指導の手掛かりとなる答案は返されない。

しかも今回、文科省が意図的に難易度を上げたため、平均正答率は各教科で8―16ポイント低下。昨年調査との比較は困難だ。昨年、今年と違うテストを行ったに等しい。

その結果、確実に分かるのは、その年ごとの平均と、全国や地域で「学力」レベルがどの位置かという一点に尽きる。「結果を個々の指導に生かす」という触れ込みとは裏腹に、いたずらに競争をあおる結果になりかねない。

全国学力テスト復活は、2003年の国際調査で日本の順位が下がり、学力低下が懸念されたのがきっかけだ。ゆとり教育は学力重視へ転換。強い危機感の反動で、目的意識の共有も不十分なままスタートした感がある。

テストと同時に行われる学習・生活環境調査では、昨年に続き給食費や学用品購入などで就学援助を受ける子どもが多い学校ほど正答率が低くなる傾向が示された。家庭の所得による「教育格差」を放置して、学力だけを問うのが教育とは思えない。

日本がモデルとした英国では、学校や自治体間の競争激化が問題化。廃止を含め見直しの方向という。国内外の先発例に学ぶ力が欲しい。

岩手日報 2008年10月10日

このページの先頭へ


連日のノーベル賞 地道な努力に学びたい

連日の朗報に胸が弾む。世界経済が大変な局面に突入するなど社会全体に閉塞(へいそく)感が漂っているだけに、なおさらかもしれない。

今年のノーベル物理学賞に、素粒子論の南部陽一郎、小林誠、益川敏英の3氏が決まったのに続き、化学賞は発光生物学者の下村脩氏に授与されることになった。これで日本人の受賞は計16人を数える。

何より今年の受賞ラッシュは歴史に残る快挙である。医学生理学、物理学、化学の科学3賞に限ってみれば、受賞者9人のうち4人までが日本人である。米仏の各2人、ドイツの1人を大幅に上回るのだ。

4人には、心から「おめでとう」と言いたい。同時に今回の受賞は、私たちが忘れがちな「大切なこと」を問い掛けているような気がする。

物理学賞の南部氏は現代の素粒子論の基礎をつくり、小林、益川両氏は素粒子のクォークは少なくとも6種類あり、互いに変身し合うという「小林・益川理論」を打ち立てた。

3人の研究は物質の根源に迫るものであり、一言では言い尽くせないほどの試行錯誤の繰り返しだったろう。オワンクラゲから緑色蛍光タンパク質(GFP)を初めて発見した化学賞の下村氏にしても、無数のオワンクラゲを毎日毎日捕獲しながら研究を重ねるという人知れぬ苦労があった。

その研究の成果は、宇宙が現在の姿であることを説明するのに欠かせない理論となり、がん細胞の広がりなどを追跡する手法の開発につながっていく。基礎科学や基礎研究がいかに大事かを表している。

地道な努力は必ず報われる。このことを4人が示した意義は計り知れない。

同時に、独創性の大切さも見せつけた。固定観念にとらわれない発想、研究がいかに重要か。若手研究者のみならず、模倣がはびこる現代への警鐘と受け止めたくもなる。

87歳にしてなお、「謎解きが一生の趣味」と話す南部氏の姿勢に老いは感じられない。

相次ぐ受賞によって、日本の科学界が黄金時代を迎えたような錯覚に陥りやすい。しかし4人の研究成果は50年から30年も前のものだ。南部、下村両氏は米国で研究を続けた「頭脳流出組」でもある。

つまり花開いたのは、戦後の貧しさの中でコツコツ研究した成果なのだ。過去の努力の結晶と言ってもいい。

それを考えれば、子供の理科離れが進む現代は大丈夫なのかとむしろ心配になる。政府は科学振興策に力を入れるようになったが、独創的な研究者がどれほど育つか。

「科学というのは楽しいこと。若い人たちがあこがれを持ってもらえるような環境づくりが必要」。この益川氏の言葉は、現在の教育に欠けているものを明快に示している。

秋田魁新報 2008年10月10日

このページの先頭へ


大学の知で地域活性化を

川崎市多摩区にキャンパスを置く専修大学と川崎市は、人材育成や人的交流で包括的に連携・協力する基本協定を結んだ。自治体という公的セクターを介して、大学に集積する知的資源を地域活性化に結び付ける試みといえる。市民ニーズに合った学びの場の提供などを通し、成熟社会の形成を先導する役割を期待したい。

協定の中で注目したいのは、大学院相当のコミュニティ・ビジネス専門教育課程の開設を打ち出した点である。時代の変化や新たな住民意識を踏まえた判断だ。

地方分権、地方自治がかつてなく関心を集めている状況である。社会人の「学び直し」を教養の習得のままで終わらせず、地域が抱える課題解決のための人材の育成に発展させる必要があるのではないか。知の拠点である大学が豊富な知的財産、人的なネットワーク、情報網を持っているからこそ実践的なカリキュラム内容の設定が可能になるのだろう。

今回のケースにかかわらず、大学側にとっても知的資源を社会の中で有機的に活用していくことは時代の要請ではないか。とりわけコミュニティ・ビジネス分野での人材育成は、時宜にかなった取り組みといえよう。それは同ビジネスが立脚する基盤が地域の現状と一体であるからである。

高度経済成長期以降、川崎をはじめ大都市圏の郊外はベッドタウンとして人口が急増し、近年でも若年層の流入が続く新旧混在の住宅地という側面が強まっている。並行して、子育て、老人福祉、街づくり、商店街の活性化、環境保全、教育・生涯学習など、地域が抱える課題は多岐にわたるようになった。すべての問題について行政にきめ細かな対応を要求するには限度があるといえよう。

同ビジネスの対象は、個々の住民にとって重要なテーマでありながら、行政の施策が必ずしも十分には行き届かない領域である。その担い手となるのは自立した市民にほかならない。川崎の場合も、多様な市民運動や生涯学習活動の中で、団塊の世代や子育てが一段落した主婦が中心的役割を果たしている。専門課程の開設はそうした地域のリーダーの養成という意味合いがあるはずだ。

大学と自治体の連携は全国的に広がりを見せている。大小多数の企業が集積する県内では、これまで科学技術分野での産学連携が活発だった。中小企業が求める技術とのマッチングなどを通して、新たな産業や雇用の創出に一定の成果を生んできたといえよう。

百三十万人が住む川崎は、都市政策の生きた教材といっても過言ではない。大学の知を幅広く地域振興につなげていくためには、学生も含め、実際の街づくりや諸施策への参画の機会も必要ではないか。それは若者が地方行政への関心を高めるきっかけにもなる。

神奈川新聞 2008年10月10日

このページの先頭へ


法科大学院改革 求めたい適正配置への視点

法科大学院修了者を対象にした新司法試験の合格発表が、先ごろあった。新司法試験は今年で三回目。合格者は二千六十五人で合格率は前年を7ポイントも下回る33%、七十四校ある大学院のうち三校は合格者がなく、合格率もばらつきが大きかった。

こうした状況を受け、法科大学院の質向上策を検討している中教審大学分科会の特別委員会が、各校の自主的な定員削減や統廃合を推奨し、法科大学院全体の入学定員縮小を目指すとした提言の中間まとめを了承した。これまで各校の取り組みに委ねられてきた法科大学院改革が、現実味を帯びてきたと言える。

法科大学院は、法曹(裁判官、検察官、弁護士)を養成する専門職大学院。国の司法改革が目指す法曹人口の大幅な拡大を受け、二〇〇四年以降、全国で七十四校が開校し、〇六年から新司法試験も始まった。

当初、新司法試験では受験者の70−80%が合格すると想定された。しかし、実際には一年目が48%、二年目は40%、今年はさらに低下した。合格率の低迷は、法科大学院の乱立が一因だ。当初の構想では、全国で十五−二十校、定員は四千人程度が適切とされたが、少子化時代の大学の生き残り策もあり、七十四校(総定員約六千人)が次々と開校した。

一部の法科大学院が、夢を抱き高額な学費を納めて入って来た学生、社会人や理科系から法曹を目指して転身して来た人たちの信頼を裏切る形となっていることは否めない。

一方、日本弁護士連合会(日弁連)は、このほど司法試験合格者を一〇年までに年間三千人にまで増やすという政府計画に対し、ペースダウンを求める緊急提言をまとめた。学生らは「合格者二〇一〇年三千人」を前提としており、計画が変更されれば影響は大きい。

提言の理由の一つとして、日弁連は新司法試験合格者の質が低下していることを挙げている。これに対し法科大学院協会は、新試験に合格した司法修習生が、全体として旧試験時代の修習生に比べて劣るという客観的証拠はないと反論している。

法科大学院が、さまざまな問題を抱えているのは事実。志願者数も減少傾向で、本年度は全七十四校のうち四十六校が定員を割り込んだ。教員不足も深刻だ。中教審の特別委は、こうした大学院だけでなく、新司法試験の合格率が低い状況が続く大学院も改革の対象に加えた。

今年の新司法試験でも、大都市の大学院に合格者が集中、地方の苦戦が目立った。合格実績を上げることができない大学院は、いずれ淘汰[とうた]されるとみられる。熊本大の法科大学院は合格者が〇六年一人、昨年二人と低迷したが、今年は三十三人が挑み、七人が合格。合格率は21%で、全国平均には及ばなかったものの、前年を11ポイント上回った。優秀な人材を集めるため、来年度の入学生から、成績優秀者に授業料の半額を給付する奨学金制度を創設するという。

今後、法科大学院再編の動きが加速しそうだが、地域に根差す法曹の養成という点で、地方の法科大学院が果たす役割は大きい。法科大学院改革には、単なる乱立解消の統廃合だけでなく、法曹養成の適正配置という視点も求めたい。

熊本日日新聞 2008年10月10日

このページの先頭へ


学力テスト結果 公表ルールの見直しが必要だ

全国学力テストの結果は、教育施策や学習指導の改善に結びつけてこそ意味がある。わが子の通う学校や自分の住む地域の児童生徒の学力水準すらわからないようでは、その目的は果たせまい。

鳥取県南部町教育委員会が町民の情報公開請求を受け、町立小中学校別の平均正答率を開示した。市町村教委が学校別の結果を開示したのは、初めてという。

「地域の力を借りて家庭学習などの改善を進めないと、教育の課題は解決できない」。南部町教委は、こう説明している。

テストは昨年から、小6と中3を対象に、国語、算数・数学で復活した。文部科学省は、過度な競争や序列化を防ぐためとして、結果の公表方法を事前に定めた。

市町村教委は自らの市町村の結果を、学校は自校の結果をそれぞれの判断で公表できる。だが、都道府県教委は市町村別・学校別を、市町村教委は学校別を公表できない――というものだ。

東京都墨田区や広島県福山市などでは、区市教委が公表を促し、公立小中のほぼ全校が、すでに自校のホームページに、正答率や改善策などを掲載している。

市町村別結果については、大阪府知事は、開示する意向という。秋田県教委は、市町村名を伏せた形での部分開示を決めた。

学校は、保護者や地域住民の協力なしには成り立たない。文科省もそれを承知しているからこそ、地域が学校を支援する事業に今年度から予算を付けたはずだ。

情報を共有できず、テスト結果を近隣市町村とも比較できないようでは、適切な支援は難しい。家庭、地域と学校との意思疎通の強化は、非行やいじめ、不登校の防止にも役立つ。文科省は公表方法を見直すべきだろう。

無論、注意も必要だ。墨田区などは以前から自治体独自のテストで同様の措置をとっていた。正答率は、改善策を具体的に説明する際の根拠の一つになっている。

保護者や住民が、正答率に一喜一憂しないことも大切だ。

鳥取県や大阪府の知事のように、市町村への予算配分と結果公表の有無を絡めた発言は、適切さを欠く。学校現場への圧力や格差助長につながりかねない。

足立区の小学校長らが区のテストで不正な指導をした背景には、テスト結果の伸び率を学校予算に反映させる仕組みがあった。

テスト結果の開示は、あくまで学力向上につなげる手段の一つだ。それを忘れてはならない。

讀賣新聞 2008年10月10日

このページの先頭へ


化学賞受賞 光を放った日本の頭脳

米ボストン大名誉教授で海洋生物学者の下村脩(おさむ)さんと米国の研究者二人の計三人に、ノーベル化学賞が贈られることが決まった。

物理学賞の独占に続き、日本人の頭脳がまた世界で評価された。金融不安など暗い話題を吹き飛ばすような朗報だ。

夏の夜を彩るホタルの黄緑色の光は、神秘的でどこか謎めいている。

下村さんは、生物が光を発する原因となるタンパク質を、海を漂う発光クラゲから抽出した。

この「緑色蛍光タンパク質」は紫外線を当てると光り、細胞内でタンパク質の動きを追う目印となる。

近年、飛躍的に発展している分子生物学など生命科学の研究には欠かせない役割を果たしている。

下村さんの研究者歴は、いわゆるエリートとは異なる。幼少期を旧満州で過ごし、十六歳のときに疎開先の長崎県で原爆を体験。敗戦の混乱で、中学の卒業証書がなく、高校進学できなかったという。

後に、長崎医大薬学専門部に入学し、長崎大学の実験実習指導員として研究生活の第一歩を記している。

これまで、自然科学分野での日本人ノーベル賞受賞者は、京大、東大など有名大学の出身者が占めていた。

国内のアカデミズムの権威からやや離れた経歴を持つ下村さんが、その才能を本格的に発揮したのは、留学先の米国だった。

一九八七年に医学・生理学賞を受賞した利根川進さんもそうだが、研究資金が潤沢な米国などで、成果を挙げている日本人研究者は数多い。

自由な発想を尊重し、外国から優秀な頭脳を受け入れる柔軟な土壌があるのだろう。

裏返していえば、日本の研究現場には、息苦しさや大学院を出ても研究ポストが得にくいなどの問題があるのではないか。

頭脳流出を食い止めるためにも、海外の研究者が日本に集うような魅力づくりが急務だ。

子供たちの理科離れが叫ばれて久しい。自然の中にひそむ原理や法則を見つけ出す力は、受験技術の習得だけでは身につけられない。

自らの頭で考え、知る喜び、見つける感動を味わえる教育が、一層求められている。

下村さんで、日本人のノーベル賞受賞者は十六人を数えるが、まだ日本人女性受賞者は出ていない。

国内の研究機関で女性研究者が占める割合は約12%で、米国の34%、フランスの28%などに遠く及ばず、韓国の13%よりも低いという調査結果もある。

女性が研究に集中しやすい環境整備も必要だ。

北海道新聞 2008年10月9日

このページの先頭へ


“快挙四重唱”たたえたい ノーベル賞ラッシュ

米国発の金融危機などによって暗雲が覆う日本に、大西洋を隔てて米国の向こうにあるスウェーデンから朗報が相次いで届いた。

米シカゴ大名誉教授の南部陽一郎さん(87)、高エネルギー加速器研究機構名誉教授の小林誠さん(64)、京都大名誉教授の益川敏英さん(68)が、三人枠の二〇〇八年のノーベル物理学賞を受ける。独占受賞だ。

三人とも理論物理学者で素粒子研究に重要な貢献をしたと認められ、日本初の共同受賞にもなった。

米ボストン大名誉教授の下村脩さん(80)は、今はタンパク質の働きをとらえる「標識」に使われている緑の蛍光タンパク質をクラゲから見つけた功績でノーベル化学賞に輝いた。

日本人のノーベル賞受賞は、〇二年の小柴昌俊さん(物理学賞)、田中耕一さん(化学賞)以来で六年ぶり。受賞者は今回を合わせ十六人になる。一挙に四人受賞するのも初めて。“快挙四重唱”をたたえたい。

南部さんらが研究している素粒子は、すべての物質の元になる最も小さな粒。南部さんは、約百四十億年前の宇宙誕生の直後には質量(重さ)を持っていなかった素粒子が重さを獲得する理論を導き出した。

小林さんと益川さんは、素粒子の種類の一つであるクォークが三種類しか見つかっていなかった当時、六種類あると予言する理論を共同で提唱した。

南部さんの理論は一九六〇年、小林・益川理論は七三年に公表された。下村さんが蛍光タンパク質を見つけたのは六一年。理論の正しさや役に立つ発見としてノーベル賞に値すると認められるまでの時間が長い。

宇宙誕生の謎などにも迫る南部さんらの理論物理学は、紙と鉛筆と頭脳さえあればできるという。日本人初のノーベル物理学賞を一九四九年に受けた故・湯川秀樹博士も、この分野の研究者だった。

湯川博士の研究に刺激を受けたという南部さんは第二世代、南部さんとの共同受賞を喜ぶ小林さん、益川さんは第三世代になる。今回の受賞は、日本のお家芸とされる理論物理学の底力や水準の高さが、後輩たちにしっかり受け継がれていることを示した。

また、大学などでの研究に目先の実益が求められる傾向が強まっている中で、今回の受賞が地味な基礎研究の大切さに光をあてたことにも着目したい。

下村さん自ら「何の利用法も応用価値もなかった」と話す研究の成果が、発見から約三十年たった九〇年ごろからの遺伝子工学の発展に伴って、とても有用なものと再評価された。

一方で、子どもの理科離れ、若者の理工系学部離れが指摘されている。基礎研究が日の目を見るまで時間がかかることも関係しているといわれる。

だが、七十歳近いのに理科少年の雰囲気を漂わせる益川さんは、受賞会見でちゃめっ気も出しつつ「科学は大変おもしろい。科学にあこがれを持っていれば勉強しやすい」と話していた。

快挙四重唱が、謎の解明にコツコツ挑む研究の素晴らしさ、目先にとらわれないで「あこがれ」に向かって息長く取り組む大切さを子どもたち、若者に伝えるきっかけになればいい。

東奥日報 2008年10月9日

このページの先頭へ


ノーベル賞 この朗報生かす道をこそ

世の中の沈みがちな気分をぬぐい去ってくれるように、2日続きのとびきり大きな朗報がスウェーデンからもたらされた。

ノーベル賞の発表でおととい、物理学賞に3人の日本人の名前が挙がり、きのうはさらに化学賞でも。ノーベル賞2分野でのダブル受賞は2度目だが、4人もの人が受賞するのは初めてだ。

もちろんその研究の中身は暮らしの場ですぐにのみ込めるような内容ではない。それでも多くの人が、誇らしい気持ちでニュースを聞いたことだろう。

たとえ業績の意味合いは十分理解できなくても、それぞれに個性豊かな語り口や伝えられる人生の軌跡から、胸に響いてくるものがある。

夢や志を抱き続ける意志の保ち方。若い世代が自分たちへの励ましのメッセージとして受け止めてくれればと思う。

遠回りのようでもいつか報われる道。働き盛りの世代にとっても、日々の仕事に向き合う自分の心の構えを少し検証し直すきっかけになる。

研究環境をどう整えていくべきか。教育関係者や行政の担当者は、現在の取り組みを問い直し、今後に思いを巡らせる機会にしてほしい。

化学賞を受賞した下村脩氏(80)=米ボストン大名誉教授=は、緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見者。緑に光るクラゲの発光の仕組みを研究したのがきっかけになった。

下村氏が化学構造を解明したGFP遺伝子をほかの生物に組み込めば、緑に光る「標識」として使える。現在では生命科学の研究に不可欠な材料とされ、がん組織の検出など医療分野での応用も進んでいる。

遺伝子工学のその後の発展がなければ、応用価値は全く生まれなかったかもしれない。下村氏自身がそんなふうに振り返ったというエピソードは、基礎研究の重要性を示しているように聞こえる。

南部陽一郎氏(87)=米シカゴ大名誉教授=に小林誠氏(64)=高エネルギー加速器研究機構名誉教授=と益川敏英氏(68)=京都大名誉教授=。物理学賞を受賞した3人は、素粒子物理の世界で「標準理論」と呼ばれる理論体系の構築に貢献したことが評価された。

「対称性の破れ」の概念や「粒子と反粒子の振る舞いの差」といった用語を見ると、門外漢には自然科学というよりもむしろ、哲学の術語に見える。故湯川秀樹博士、故朝永振一郎博士らが切り開いてきた日本の理論物理学の力を感じ取ればいいだろうか。

政府は科学技術基本計画(2006年から第3期)で「今後50年間で30人程度の受賞」を目標に掲げている。基本計画のスタートは、若い世代を中心にした理科離れ、科学不信の増大という事情があった。

卓抜した異才たちの受賞に祝福を送る一方で、この社会として問い直したいのは、将来に目を向けた環境づくりの展望である。受賞者たちの提言に耳を傾けて、今回の朗報を生かす道を模索したい。

河北新報 2008年10月9日

このページの先頭へ


化学賞 基礎研究の重みを示し

またも朗報がスウェーデンから届いた。ノーベル化学賞の受賞者の1人に海洋生物学の下村脩氏が選ばれた。

前日の物理学賞3氏に続き、これで日本人のノーベル賞受賞者は合わせて16人になる。

クラゲも深く研究すれば、生命科学や医学に大きく貢献する−。下村さんの受賞は、そんな親しみさえ感じさせる。

緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見が評価された。紫外光を当てると、その光を吸収して緑色に輝き出すタンパク質だ。

GFPを利用して、特定のタンパク質が動けば緑色に光る標識として使われるようになっている。細胞が生きたまま中のタンパク質を観察できる。生物学、医学、薬学での貢献は極めて大きい。

1960年に渡米して、発光メカニズムの研究一筋に取り組んできた。GFPは61年に、オワンクラゲから発見した。

当時は、発光物質は酵素の働きで光ると信じられていた。酵素は絶対必要なのかと考えつつ、研究に励んだ。それがGFP発見につながったという。常識にとらわれないことの大切さを、後に続く研究者も学びとりたい。

GFPは発見された最初の段階では、美しい緑の光を放つ不思議な物質にすぎず、とりたてて利用法もなかった。化学構造を解明した1979年で化学者としての仕事も終わった、と下村さん自身も考えていた。

それが、大きく変化する。90年ごろからの遺伝子工学の発展に伴って、生命科学やバイオテクノロジーの研究で幅広く使われるようになっている。

応用価値のなかった研究が、後日脚光を浴びたことになる。「基礎研究が大事であることを示している」。下村さん自身の言葉を重く受け止めたい。

日本は「技術立国」を掲げている。新技術は国際競争力を高めるのは確かだ。

しかし、目先だけ考えていては大きな飛躍はない。一見役に立ちそうでない基礎的な研究が、長い目で見れば、成果をもたらす。下村さんの研究生活がそのことを物語っている。

若者の理科離れが指摘されている。地味な基礎研究をしていたのでは、就職は厳しい。研究者として残るのも狭き門だ。

頭脳の海外流出も気掛かりだ。下村さん自身も早くから米国で研究している。日本の若者がもっと、基礎研究に魅力を感じられる施策を強めねばならない。

信濃毎日新聞 2008年10月9日

このページの先頭へ


ノーベル賞 自由な学風が未知を開く

突然脚光を浴び、戸惑いがちに喜びを語る研究者の姿にすがすがしさを覚えた人も多いだろう。ことしのノーベル物理学賞を日本人三氏が独占した。

受賞者は、南部陽一郎・米シカゴ大名誉教授、小林誠・高エネルギー加速器研究機構名誉教授、益川敏英・京都大名誉教授である。いずれも、物質をつくる素粒子研究の基盤を成す理論が評価を受けた。

南部さんは半世紀前に唱えた「自発的対称性の破れ」という理論で受賞した。本来は質量を持たない素粒子が質量を獲得するための基本的なメカニズムとして注目されるという。

小林さんと益川さんは一九七三年に発表した「小林・益川理論」が評価された。根源的な素粒子であるクォークが三種類しか見つかっていなかった時に少なくとも六種類あると予言した。

三人はそれぞれに個性的だ。長年世界をリードする南部さんは天才肌といえる。「(受賞は)大してうれしくない。社会のお祭り騒ぎ」と言ってのけた益川さんと寡黙な小林さんがコンビだったというのもほほえましい。

そうした中で目を向けたいのは、独創的な理論を構築できた背景に自由な研究環境があったことだ。

一九五〇年代に米国に留学し、米国籍を取って現地で研究を続ける南部さんは「(シカゴ大は)自由で雰囲気がよかった」と振り返った。益川さんと小林さんが学んだ名古屋大物理学教室でも闊達(かったつ)な議論が尊重されていた。

同じ理論物理学でノーベル賞を受けた湯川秀樹、朝永振一郎の両氏を生んだ京都大理学部も自由だった。科学の進歩には談論風発を促し、切磋琢磨(せっさたくま)する場が大切ということだろう。

国立大学が独立法人化され、財政難の中で効率的な教育や研究が重視されがちだ。今回のノーベル賞が目立たない基礎研究に光を当てたことは歓迎する。だが昨今の大学や科学をめぐる事情を思えば、投じた一石もまた重い。

三人は、真理への到達こそ価値と考える科学者の品格あるたくましさを感じさせた。受賞にはしゃがず、研究の苦労も口にしない。一方で次代を担う若手にアドバイスを送り、その育成環境を整えるよう求めた。

一流の科学者を育てるために財政的な支えが必要なのはもちろんだ。さらに三人は、性急な成果を求める風潮にも警鐘を鳴らしたといえる。

物理学賞に続いて発表された化学賞では米国在住の下村脩・ボストン大名誉教授の受賞が決まった。オワンクラゲからの緑色蛍光タンパク質発見というユニークな研究が実った。

快挙に拍手を送るだけではもったいない。今後の日本の教育や研究の在り方を考える好機にもしたい。

新潟日報 2008年10月9日

このページの先頭へ


ノーベル化学賞 若い研究者も後に続け

日本の科学技術の実力を示す快挙が続いた。三人のノーベル物理学賞受賞に続き、下村脩氏の化学賞受賞も決まった。この勢いを失うことなく、若い基礎研究者は後に続いてほしい。

下村氏は、オワンクラゲ(発光クラゲ)の発光器官から「緑色蛍光タンパク質(GFP)」を発見した業績が評価された。

GFPをつくる遺伝子を他の生物のDNAに組み込めば、特定のタンパク質が作用したとき緑色に光る「標識」として使え、生きた細胞内での物質の動きの観察が可能になる。医学など生命科学の研究推進に画期的な成果をもたらした。

前日の三人の物理学賞受賞決定に続き、わが国のノーベル賞受賞は快進撃といってもいいほどだ。

再度、日本人の研究が世界的評価を受けたことを喜びたい。

下村氏の活躍の場は米国にあった。長崎大で生物発光の研究に取りかかり、名古屋大助教授時代にウミホタルの発光タンパク質の結晶化に成功したものの、国内での知名度は高いとはいえなかった。

受賞対象の業績は、研究の場を米国に移してからである。

前日、物理学賞受賞が決まった南部陽一郎氏の業績も米国で成し遂げられた。遡(さかのぼ)れば、同じく物理学賞受賞の江崎玲於奈氏(一九七三年)、医学・生理学賞受賞の利根川進氏(八七年)も米国など海外での研究が評価された結果だ。

共通するのは、下村氏らが国内にとどまっていたら、国際的に認められたかどうかだ。

米国に世界中から研究者が集まるのは、独創性のある研究の意義を十分に認め、年齢や地位に関係なく、正当に評価し、それに見合った処遇をすることが背景にあると指摘されている。

日本人研究者が海外で活躍するのは歓迎だが、その理由が国内では自由に研究できないためであれば、研究体制を根本的に反省しなければならない。

わが国も九六年から始まった三期にわたる「科学技術基本計画」で、若い基礎研究者の処遇を徐々に改善してきてはいる。だが、依然として博士課程を終えた若手研究者の多くが就職できないなど、とても十分とはいえない。

基礎研究は一見、何の役にも立ちそうにないが、後になって思わぬ成果を生む。科学技術にはこうした基礎研究の支えが欠かせない。若い基礎研究者が国内で安心して研究に打ち込める体制づくりこそ今、最も求められている。

中日新聞・東京新聞 2008年10月9日

このページの先頭へ


連続ノーベル賞  基礎研究への情熱学べ

日本人ってすごい−。連日の朗報にそう誇らしく思った人も多かろう。

下村脩米ボストン大名誉教授がノーベル化学賞に決まった。米国の研究者二人との共同受賞だ。下村氏は米国在住だが、福知山市の出身だけに、喜びもより身近に感じられる。

日本人三人の物理学賞受賞の興奮も冷めやらぬ中での快挙。日本人が同じ年に複数、受賞するのは、物理学賞に小柴昌俊東京大特別栄誉教授、化学賞に田中耕一島津製作所フェローが輝いた二〇〇二年以来だ。

下村氏の授賞理由は「緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見と開発」というものだ。残る二人は、GFPを使ってほかの生物の細胞を光らせたり、着色したりすることに成功した。

下村氏が緑色の光を発するオワンクラゲからGFPを発見したのは、一九六一年にさかのぼる。

最初に発見したのは青く発光する、別の「イクオリン」というタンパク質だった。その過程で微量のGFPを見つけ、これがイクオリンが放つ青い光のエネルギーを奪い、緑の光に変換していることを突き止めた。

下村氏が化学構造の解明に成功したのは七九年。しかし、この時点ではGFPは美しい緑の光を放つ不思議なタンパク質に過ぎなかった。その後、遺伝子工学の発展とともに、大きな役割を担うようになる。

GFPを作り出す遺伝子を、ほかの生物のDNAに組み込むと、その蛍光が「標識」となり、特定のタンパク質の動きが一目で分かる。九〇年以降、生命科学やバイオテクノロジーの研究には欠かせない「道具」となった。

応用価値のなかった研究が、年月を経て非常に有用なものになる−。下村氏の受賞は、基礎研究の重要性をあらためて示したと言えよう。

物理学賞を受賞した小林誠高エネルギー加速器研究機構名誉教授が受賞会見で基礎研究の現状を嘆いた。

国立大の独立行政法人化を契機に、国の運営費交付金は削減が続く。各大学は研究の成果に応じた競争的資金の獲得を迫られ、実学重視の傾向はますます強まっている。

「競争的資金に頼らない基礎研究の充実が必要だ」という、小林氏の指摘は重い。

四人の受賞が若い研究者や教え子を勇気づけ、「理科嫌い」と言われる若者に刺激を与えたのもうれしい。

益川敏英京都産業大教授の受賞に「研究内容を知りたい。授業にも出たい」と、目を輝かせた学生がいた。

「あらゆることに、興味を持って」(益川氏)、「自分を信じて、大いに頑張ってほしい」(小林氏)。若い人に、ぜひ受け止めてもらいたい。

四人の受賞は、私たちにあらためて考えるすばらしさを教えてくれた。

京都新聞 2008年10月9日

このページの先頭へ


ノーベル化学賞 基礎研究の意義示す快挙 

スウェーデンの王立科学アカデミーが今年のノーベル化学賞を、発光生物学者の下村脩氏(米ボストン大名誉教授)に贈ると発表した。前日、物理学賞の共同受賞が決まった三氏に続く日本人の快挙である。

下村氏は、発展著しい生命科学の分野でも不可欠の道具となった緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見者で知られ、この発見と生命科学への貢献が認められた。

後に生命科学の躍進につながる一歩となったのは、海中で緑色に光るオワンクラゲという不思議な生物との出会いだ。

下村氏には長い渡米生活のきっかけになる研究があった。まだ名古屋大の研究生のころのことで、ウミホタルの発光物質の結晶化に成功し、それが発光生物の研究にのめりこませる動機となった。

科学の発見は、得てしてこうした偶然の重なりがきっかけになるものだ。

オワンクラゲの研究は、留学先での成果である。約一万匹のクラゲを集めて発光物質を抽出し、一九六一年に自ら発光する特異なタンパク質イクオリンを発見する。その精製中に微量のGFPを見つけた。さらに、そのGFPがイクオリンから発光のエネルギーを奪ってクラゲを緑色に光らせている仕組みの解明に結実した。

この発見がもとになり、生命科学への応用の扉が開かれていく。

GFPを作り出す遺伝子を他の生物のDNAに組み込むと、緑色の発光を標識のように使える。タンパク質の働きを生かしたまま可視化する道具となり、医学や創薬など幅広い分野で応用が可能になった。

「何の応用価値もない研究が、後日非常に有用になった例だ。基礎研究が大事であることを示していると思う」。下村氏はかつて、そんなふうに語っている。

自らの研究を信じて地道に努力を積み重ねる。そんな科学者の姿が浮かぶ。一昨日、物理学賞の受賞が決まった三氏の生き方にも通じるものがある。

ただ今回の下村氏、物理学賞を受賞した南部陽一郎氏とも滞米生活が長い。

自然科学の分野で四人の受賞者を出したことは、わが国の基礎科学のすそ野の広さを示すもので素直に喜びたい。だが一方で、国内の研究環境に目をやることも忘れてはなるまい。地道な研究を長く続けるためには、研究環境がその人にあっていることが重要だが、その条件が満たされているか。せっかちな成果主義に陥っていないか。

あらためて見詰め直す機会としたい。

神戸新聞 2008年10月9日

このページの先頭へ


ノーベル化学賞 連日朗報 科学立国に弾み

今年のノーベル化学賞に、生命科学分野で不可欠な“道具”となっている緑色蛍光タンパク質(GFP)を発見した下村脩・米ボストン大名誉教授=米マサチューセッツ州在住=が選ばれた。物理学賞での三人受賞に続く連日の明るいニュースだ。

日本人のノーベル賞受賞は一九四九年に物理学賞を受けた湯川秀樹博士以来、合わせて十六人となった。化学賞は二〇〇二年の田中耕一・島津製作所フェロー以来で、五人目である。

授賞理由は「GFPの発見と開発」。GFPは紫外線を当てると緑色に輝きだすタンパク質で、発見者の下村氏のほかに、GFPを使って他の生物の細胞を生きたまま光らせたり、緑色以外に着色したりすることに成功した二人の米国人研究者も受賞が決まった。

下村氏は渡米中の一九六一年、オワンクラゲの発光物質を抽出する過程でGFPを発見した。生物の中には多くの種類のタンパク質があるが、特定のタンパク質の働きを生きたまま見ることができる道具として、生物学や医学、創薬など幅広い分野で利用されている。

興味深いのは、下村氏がGFPを発見し、蛍光を出す化学構造を解明した時点では「美しい緑の光を放つ不思議なタンパク質にすぎず、何の利用法もなかった」(下村氏)という点だ。その後、九〇年ごろからの遺伝子工学の発展に伴って、生命科学やバイオテクノロジーの研究に幅広く使われるようになり、今では欠かせないツールになっている。基礎研究の重要さを示す好例といえよう。

科学技術立国を目指す日本にとって、相次ぐノーベル賞受賞は久々の朗報であり、今後への弾みになろう。研究体制や人材育成などの環境づくりに、さらに力を注いでもらいたい。

山陽新聞 2008年10月9日

このページの先頭へ


ノーベル賞 「知」探究の面白さ伝えたい

動物や大地など、この世界に存在するあらゆる物質の構成要素をつきつめると、どんな世界が広がるのか。

素粒子をめぐる根源的問いに答えたのが故湯川秀樹博士以来、連綿と続く日本の卓越した理論だ。宇宙全体の歴史の解明にもつながり、壮大なロマンをかき立てる。

こんにちの物理の基礎となる先駆的考え方を確立した日本人がノーベル物理学賞を受賞した。しかも米シカゴ大の南部陽一郎名誉教授、高エネルギー加速器研究機構の小林誠名誉教授、京都大の益川敏英名誉教授の三人同時だ。

日本人では物理学賞と化学賞をダブル受賞した二〇〇二年以来、六年ぶりとなる。世界的権威とダークホース的サラリーマン研究者の取り合わせで話題をさらったが、驚きは当時をしのぐ。

快挙にはうれしい続きがあった。興奮冷めやらぬなか、化学賞に米ボストン大の下村脩名誉教授が選ばれた。

発光物質と酵素の作用で発光するホタルなどに対し、オワンクラゲは自ら発光する特異なタンパク質を持つと一九六一年につきとめた。

四人に共通するのは、目先の実用性より好奇心をあるがままに解放して真理を探究した姿勢だ。このことは日本の科学の現状に一石を投じる。

たとえば下村さんの発見は、いまや生命科学やバイオテクノロジーの研究には欠かせない。タンパク質を蛍光標識することで、脳の神経細胞が発達したり、がん組織が広がったりする過程を観察できるようになった。

「何の応用価値もない研究が後日非常に有用になった一例」と振り返る下村さんは、「基礎研究が大事なことを示している」と訴える。素粒子理論と同じだろう。

生活の苦しい戦後まもなく、紙と鉛筆があればできる理論物理に挑んだ南部さんは「荒野に一人立つ予言者」と尊敬された。「自発的対称性の破れ」という斬新な概念を打ち出したのはくしくも下村さんと同じ六一年だ。

その一世代下に当たる小林さんと益川さんは、素粒子の一種クォークが最低六種類あると七二年に予言した。

顕彰は遅すぎた感もある。それでも地味な基礎研究に光が当てられた事実は後進を奮い立たせるにちがいない。

日本の大学は競争圧力にさらされている。文部科学省が国立大に導入した成果主義的な予算配分のほか、大学側は企業との連携で研究予算を確保するなど自助努力を迫られる。ノーベル賞は、そうした目に見える成果への偏重を戒めるものにもなった。

かつての南部少年らのような科学の不思議に目を輝かせる子どもの好奇心をはぐくみ、「知」の探究に挑む人材育成の第一歩にしたい。

愛媛新聞 2008年10月9日

このページの先頭へ


ノーベル賞 基礎研究の重要性示した

連日のビッグニュースだ。ノーベル物理学賞を日本の三人の理論物理学者が同時受賞したのに続き、化学賞でも日本人研究者の受賞が決まった。

日本人のノーベル賞受賞は二〇〇二年以来で、その時も物理学賞と化学賞の同時受賞だった。今回の四人を合わせると計十六人になる。

物理学賞を受けるのは、宇宙を構成する物質の根源である素粒子の研究に貢献した南部陽一郎・米シカゴ大名誉教授、小林誠・高エネルギー加速器研究機構名誉教授、益川敏英・京都大名誉教授だ。

物理学賞の受賞者はこれで七人となり、しかも、五人は素粒子理論物理学の研究に携わった。授賞枠の三人を独占したのも初めての快挙となる。

南部氏は宇宙が誕生した際、物質と反物質が同時に存在したのに、なぜ物質だけが残ったのかを示す理論を提唱した。また、小林、益川両氏は物質を構成するクォークと呼ばれる基本の素粒子が六種類あることを理論的に共同で予言した。

南部氏は一九六〇年、小林、益川両氏は一九七三年にそれぞれ提唱している。当時は独創的との受け止めが先行したが、次第に理論の正しさが確認され、現在では宇宙がいまの姿であることを説明するのに欠かせない標準理論となっている。

一方、日本で五人目の化学賞受賞者となる下村脩・元米ウッズホール海洋生物学研究所上席研究員は、緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見者だ。紫外光を当てると緑色に光るGFPは、タンパク質に目印をつける道具として、いまや生命科学などの分野で幅広く活用されている。

四人の受賞は日本の基礎科学研究のレベルの高さとともに、基礎研究の重要性をあらためて示した。業績、栄誉を心からたたえたい。

日本の科学技術政策は応用研究重視の風潮が強い。特に最近は大学の研究費配分でも成果主義が導入され、その傾向がますます顕著になっている。

成果の見えやすい研究や、経済に直結する研究の重視は、日の当たりにくい基礎研究の衰退につながる。学問の多様性が失われるだけでなく、科学技術立国を底の浅いものにしかねない。

今後は感性豊かな若者が腰をじっくり据えて研究に取り組むことのできる環境整備が何より求められる。受賞ラッシュをその契機としたい。

高知新聞 2008年11月9日

このページの先頭へ


ノーベル賞 4氏の頭脳を誇りに思う

ストックホルムから連日、うれしいニュースが届く。ノーベル物理学賞を日本人の3氏が独占した興奮が冷めないなか、化学賞でも日本人が選ばれた。若い研究者にとって何よりの刺激と励ましだ。4氏の頭脳を誇らしく思う。

物理学賞に決まった南部陽一郎さん(米国籍)、小林誠さん、益川敏英さんは、素粒子物理学の分野での予言性に満ちた研究が高く評価された。

紀元前、古代ギリシャの哲学者デモクリトスらは、これ以上は分割できない究極の存在があると考え、その意味でアトム(atom)と名付けた。近代になって原子の構造解明が進み、原子核を構成する陽子や中性子は、クォークと呼ばれる素粒子の組み合わせからなっていることが分かっている。

宇宙は限りなく熱い1点から始まってなお膨張し続けているとする「ビッグバン理論」が定説になるにつれて、素粒子物理学は宇宙創成期の謎にも迫る華やかな研究になった。

原子の構造を解明する中間子論で1949年に日本人初のノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士(1907−81)をはじめ、日本には理論物理学の伝統に厚みがある。3氏は、その土壌に開花した頭脳である。

3氏の授賞理由に共通するのは「対称性の破れ」という耳慣れない言葉だ。専門家でなければ、「ごく小さなずれ」と理解してもいいかもしれない。

南部さんは、自然界の物質に質量があるのは、このずれがあるからだと気付き、宇宙に質量を持った物質がある理由を解明するための道筋を示した。

小林さんと益川さんは、素粒子のクォークが3種類しか見つかっていなかったときに、クォークには少なくとも6種類あって互いに変身し合うという理論を発表した。2人が30歳前後のころだ。この理論の正しさは、近年になって相次いで確認された。

化学賞に決まった海洋生物学者の下村脩さん(米国在住)は、少年期に長崎原爆を体験し、長崎で薬学を学んだ。九州に縁の深い人である。

発光クラゲから緑色蛍光タンパク質(GFP)を発見し分離した功績が認められた。GFPを作り出す遺伝子をほかの生物のDNAに組み込めば、特定のタンパク質が緑色に光り、追跡・観察できる。生命科学や生物学、医学、創薬などの分野で広く利用されている。

発見当初、とくに利用法がなかったというGFPが、遺伝子研究の進歩で思いがけず有用なものになったという。この経緯は基礎研究の大切さを物語る。応用科学だけでなく、基礎科学、基礎研究でも世界をリードする日本でありたい。

近年、理科が嫌いな子どもが目立つという報告がある。4氏の受賞は、こうした子どもに科学の楽しさとロマンを教える格好の話題でもあるだろう。

西日本新聞 2008年11月9日

このページの先頭へ


ノーベル賞 4人の日本人科学者に祝福

ことしのノーベル賞は、日本人の受賞ラッシュにわいている。

ノーベル物理学賞に、素粒子論の南部陽一郎・米シカゴ大名誉教授(87)と、小林誠・高エネルギー加速器研究機構名誉教授(64)、益川敏英・京都大名誉教授(68)が決まったのに続き、化学賞を米マサチューセッツ州在住の下村脩・米ボストン大名誉教授(80)が受賞した。

物理学賞の日本人三人独占受賞は初めて。日本人の受賞は十六人だが、科学部門の受賞はこれで計十三人となった。日本の科学界は、独創性で世界の一翼を担っている。量だけでなく、質でも成長してきた。そのことを強く印象づけた。

物理学賞は二〇〇二年の小柴昌俊東京大特別栄誉教授に次ぎ、計七人となった。湯川秀樹博士以来、日本の素粒子論の実力と伝統が脈々と受け継がれていることを証明した。化学賞は〇二年の田中耕一・島津製作所フェロー以来で五人目だ。

南部氏の一九六〇年の先駆的な理論が、現代の素粒子論の基礎をつくった。素粒子論で世界的に最も影響力を発揮し続けた大物理学者で、この理論で自然界に存在する四つの基本的な力のうち三つが一つに統一された。

小林、益川の両氏が七二年に提唱した小林・益川理論は究極の粒子トップクォークをいち早く予言し、現代素粒子論の一翼を担った。宇宙の起源にもかかわる重要な理論とされている。

いずれも「自然界の対称性の破れ」の理論で、素粒子論の柱になってきた。小林・益川理論の正しさが最近の加速器実験で確かめられていた。実験より約三十年も先んじた理論だった。

ともに名古屋大出身の小林、益川両氏は京都大の助手同士で議論しながら理論を築いた。戦後の貧しさの中で日本の科学技術が欧米に追いつき、しかも流行に流されずに独創性が芽吹いた時期の成果といえる。

化学賞の下村氏は六一年に、生命科学分野で不可欠な“道具”となっている緑色蛍光タンパク質(GFP)を、オワンクラゲから発見したことなどが評価された。

益川氏は、麻生太郎首相からの祝福の電話で若者へのメッセージを求められ、「科学にロマンを持つことが非常に重要」と語った。「若い人たちが科学にあこがれを持ってもらえるように日本社会の環境づくりが必要」とも話した。

日本は今、若者の理科離れが指摘されている。国際調査では「理科に関係する職業に就きたい」とする中学生の割合は約20%で、米国やオーストラリアの半分程度。全国の国立大でも工学系で志願者が二倍を切る大学が増えるなど、深刻な工学部離れが進んでいる。

ノーベル賞受賞者四人の誕生は、日本人が社会経済や文化の基盤をなす基礎科学の分野で、世界的な貢献ができることをあらためて示してくれた。

これを機に、科学にロマンを持ち、独創性を発揮しようとする若者が増えることを期待したい。同時に、そんな若者たちを支え、はぐくむ環境づくりに力を入れていかねばならない。

熊本日日新聞 2008年10月9日

このページの先頭へ


ノーベル賞 若い研究者が後続く環境に

素粒子論の研究者である小林誠、益川敏英、南部陽一郎さんのノーベル物理学賞に続いて、同化学賞に緑色蛍光タンパク質(GFP)発見者の下村脩さんの受賞が決まった。

日本人の物理学賞は02年の小柴昌俊さんに次ぎ、計7人となり、同年の田中耕一さん以来の化学賞は5人目。物理、化学という重要部門のアベック受賞という快挙は、日本の科学界にとっては大きな朗報だ。

一般人の頭では素粒子やタンパク質の働きなどは理解が難しいが、宇宙の起源にもかかわる理論やタンパク質を生きたまま可視化する道具と聞けば胸躍る。

■独創性芽吹いた時期■
湯川秀樹博士以来、日本の素粒子論は、この3人によって画期的な飛躍を遂げた。

南部さんが1960年に構築した先駆的理論によって現代の素粒子論の基礎はつくられた。

さらに、小林さんと益川さんが72年に提唱した小林・益川理論は究極の粒子トップクォークの存在をいち早く予言。現代素粒子論の一翼を担った。

「自然界の対称性の破れ」の理論は素粒子論の柱となり、小林・益川理論の正しさは最近の加速器実験で確かめられたという。

実験より約30年も先んじた考え方で、素粒子論で次に受賞することが確実視されていた。

南部さんは戦後の頭脳海外流出組。名古屋大出身の小林さんと益川さんは京都大の助手同士で議論を重ねて理論を築いた。

紙と鉛筆にも不自由した戦後の貧しさの中で、日本の科学技術が欧米に追いつき、独創性が芽吹いた時期の成果である。

■光る「標識」に使える■
GFPは紫外光を当てると、その光を吸収して緑色に輝き出すタンパク質。下村さんが渡米中の1961年、オワンクラゲから発見した。GFPを作り出す遺伝子をほかの生物のDNAに組み込んで、特定のタンパク質が働けば緑色に光る「標識」のように使えるという。

「人類のために最大の貢献をした」(ノーベルの遺言)人々に与えられるノーベル賞は個人に授与されるもので、その成果は、人類共有の知的財産となり、人々の生活を豊かにしてきた。

近年、日本の高校生が大学理工系学部を敬遠する傾向が続いているという。学問に向き合う態度にもよるが比較的、遊ぶ時間のある文系学部に比べて、実験などに拘束される。博士号まで取得しても、それに見合った待遇の就職口はなかなか見つからない。

若い研究者が「ロマンを抱きつつ飯が食える」環境を整えたい。科学技術に過度なナショナリズムを持ち込むことは好ましくないが、ノーベル賞の受賞射程圏により多くの日本人が名を連ねるように産学官挙げて、努力を続けるべきだ。それが結果的には国の繁栄の元ともなる。

宮崎日日新聞 2008年10月9日

このページの先頭へ


ノーベル賞 基礎科学研究の励みに

今年のノーベル賞は物理学賞と化学賞で日本人4人の受賞が決まった。一度に4人もの研究者の業績が世界的に高く評価された快挙を喜びたい。

これで日本人のノーベル賞受賞は計16人になる。そのうち科学部門が13人を占める。独創的な研究で世界の一翼を担ってきた日本の科学界が質を高めた証しに違いない。

受賞が決まった研究はいずれも、奥深い自然界の探究に情熱を注いだ結果だ。地道な基礎科学に光が当てられたことは研究者の大きな励みになろう。科学の魅力に若い世代を引きつけるきっかけにもしたい。

物理学賞は素粒子論の南部陽一郎、小林誠、益川敏英の3氏に贈られる。湯川秀樹博士、朝永振一郎博士も素粒子物理にかかわる研究で受賞している。3氏は20世紀後半に、その実力と伝統を担ってきた。

南部氏は1960年に「自発的対称性の破れ」の理論を提唱した。これは宇宙の誕生直後には質量がなかった素粒子が、やがて質量を持つようになったメカニズム解明につながる理論として注目され、素粒子物理の「標準理論」の基礎となった。

南部氏はその後も数々の先駆的理論を発表し、「10年先を知りたいなら南部氏の論文を読め」と言われるほどだ。世界的な影響力もある学者だけに受賞は遅すぎた感すらある。

小林、益川両氏は73年、素粒子のクォークが6種類あれば、「CP対称性の破れ」が矛盾なく説明できるとする「小林・益川理論」を発表した。宇宙の起源にもかかわる重要な理論とされている。

だが、理論の正しさが裏付けられたのは最近のことだ。高エネルギー加速器研究機構が進めた実験で検証され、ノーベル賞受賞を後押しした。理論実証まで多くの研究者がかかわったことも忘れてはなるまい。

化学賞は生命科学の飛躍的な進展に不可欠な緑色蛍光タンパク質(GFP)を発見した下村脩氏が受賞する。GFPは紫外光を当てると、その光を吸収し輝くタンパク質だ。

下村氏は60年代、米国でオワンクラゲを集めて発光のメカニズムを調べた。当初利用法はなかったものの、今や医学や創薬など幅広い分野で活用されている。これも基礎科学の研究がいかに大切かを物語る。

研究に効率性を求めれば、こうした偉大な発見も生まれようがない。国の財政状況は厳しいが、科学技術予算の確保など研究の環境を整え、次代を担う人材を育てたい。

南日本新聞 2008年10月9日

このページの先頭へ


ノーベル賞に4氏 世界が認めた基礎研究

金融危機が続き、経済分野を中心に重苦しい空気が漂う中、明るいニュースが相次いで飛び込んできた。

二〇〇八年のノーベル物理学賞を、三人の日本人が受賞する。日本人が授賞枠の三人を独占するのは初めてだ。その上、化学賞も、受賞者三人のうち一人が日本人研究者だというから驚く。研究史に残る一大快挙だ。

物理学賞を受賞するのは南部陽一郎・米シカゴ大名誉教授(87)、小林誠・高エネルギー加速器研究機構名誉教授(64)、益川敏英・京都大名誉教授(68)の三氏。

化学賞には下村脩・米ボストン大名誉教授(80)らが決まった。

四氏の受賞を心から祝福するとともに、日本の基礎研究のレベルの高さがあらためて証明されたことを喜びたい。

物理学の三氏はいずれも素粒子論の研究者だ。

南部氏は「自発的対称性の破れ」という理論を提唱し、素粒子物理学の基礎を形成したと評価された。素粒子論研究の最先端を走り続け、世界の物理学者の尊敬を集める存在だという。

小林・益川両氏は、宇宙の始まりから自然界に存在したと考えられる「対称性の破れ」を提唱。宇宙が現在のような姿であることを説明するには欠かせない理論になっているそうだ。

下村氏はオワンクラゲから緑色蛍光タンパク質(GFP)を分離するのに世界で初めて成功した。GFPは生物学や医学など幅広い分野で利用されているという。

四氏の受賞に対しては、国内の研究者から「時間の問題だった」「むしろ遅すぎるくらい」だとのコメントが寄せられている。

南部氏はかつてノーベル賞候補の常連だった。

受賞者の喜びの表情や発言などからは、研究に向き合うそれぞれの姿勢が伝わってきて、興味尽きない。

ひょうひょうとした雰囲気を持つ益川氏。受賞の知らせに「社会のお祭り騒ぎ」と冷めたように言い放った。子どもたちに対しては「知ったかぶりをすることが大切。何かの拍子に自分の未熟さがわかり、さらに勉強しようと思うはずだ」とユニークなメッセージを送った。

南部氏は「できそうもないことを考えることが好きだ」と言った。日々の努力の積み重ねと独創性があったからこそ、脚光を浴びる現在があるということを、つくづくと感じさせられる。

日本人のノーベル賞受賞者は計十六人となった。

子どもの学力低下や理科離れ、理工系離れなどが問題視されているだけに、四氏の快挙は、日本が科学技術立国としての潜在力をまだ持っている―という自信を国民に与えるに違いない。

私たちの身の回りにはまだ多くの謎が潜む。ノーベル賞の話題が知的好奇心をくすぐり、基礎研究や技術開発に挑む人々が数多く出ることを願う。

県内にもやがて、沖縄科学技術大学院大学ができる。そこからノーベル賞受賞者が誕生することにも期待したい。

沖縄タイムス 2008年10月9日

このページの先頭へ


ノーベル賞 4氏受賞を大きな励みに

2008年のノーベル物理学賞を南部陽一郎・米シカゴ大名誉教授と小林誠・高エネルギー加速器研究機構名誉教授、益川敏英・京都大名誉教授の3氏、同化学賞を下村脩・元米ウッズホール海洋生物学研究所上席研究員が受賞することが決まった。

日本人のノーベル賞受賞者は合わせて16人となる。一挙に4人の受賞は過去最多となる。

物理学賞の3氏は自然界を構成する物質の根源に迫る素粒子物理の理論体系構築に、重要な貢献をしたことが評価された。

下村氏は生命科学分野で不可欠な“道具”の緑色蛍光タンパク質を発見したことが認められた。

世界的な連鎖株安や食品偽装、凶悪事件など暗いニュースが続く中、4氏の受賞は国民にとって大きな喜びであり、誇りでもある。

若い世代が4氏の受賞をさまざまな分野で大きな励みにすることを望みたい。

政府は、科学技術で日本が世界をリードする「科学技術創造立国」を目指している。一方で、子どもの理科離れが言われて久しい。

4氏のノーベル賞受賞に、若手研究者からは子どもたちが理科好きになればと波及効果を期待する声も上がっている。それほどのインパクトが今回の快挙にはある。

2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹氏は「基礎科学は必ずしも経済活性化や新しい産業に結びつかない。だが、人間の心は豊かにする」と述べている。

「心の教育」の視点を理科教育に取り入れることも必要だろう。

理論物理学は日本の「お家芸」とも言えるが、理系研究者は博士号を取っても就職先が見つからない厳しい現実があるという。

益川氏は「若い人たちが科学にあこがれを持ってもらえるように、日本社会の環境づくりが必要なのではないか」と話している。

若い世代が後に続くことができる仕組みづくりを整えなければ「お家芸」といえども安穏としてはいられない。

琉球新報 2008年10月9日

このページの先頭へ


下村氏受賞―これぞ基礎研究の輝き

なんと2日連続の朗報だ。ノーベル物理学賞の興奮さめやらぬ間に、こんどは米ウッズホール海洋生物学研究所の元上席研究員、下村脩さんがノーベル化学賞を受賞することになった。

下村さんは、海の中で光るオワンクラゲがもつ緑色蛍光たんぱく質(GFP)を見つけた。この物質で目印をつけておけば、細胞の中で生命活動を担うたんぱく質の動きをたやすく観察できる。GFPはいまや、世界中の研究室で欠かせない「道具」だ。

下村さんは便利な道具を開発するために研究を始めたわけではない。なぜ生物は光るのか、という素朴な疑問から発光のメカニズムを追いかけて、たどりついた物質が幅広い研究の道具に使えることがわかった。基礎研究の成果がどんな応用につながるのかは予想がつかない。

物理学賞の南部陽一郎さん、小林誠さん、益川敏英さんも素粒子物理学という基礎科学だった。02年に続く物理学賞・化学賞のダブル受賞で、日本の科学の底力を世界に印象づけた。

とはいえ、それは必ずしも「いま」の実力ではない。

下村さんがGFPを見つけたのは1960年代だ。小林さんと益川さんの仕事は35年前だし、南部さんの業績は半世紀もさかのぼる。4人がそうだったように、ノーベル賞につながる独創的な研究は多くの場合、20代や30代ぐらいの若いときに生み出される。

いま優秀な若手をいかに育て、かれらが存分に力を発揮できる環境を整えるか。優れた研究をどれだけ支援していくのか。それが日本の未来の科学力を左右する。

06〜10年度の第3期科学技術基本計画は、研究開発予算の目標として計25兆円を掲げている。07年度は3.5兆円で、米国の17兆円や欧州連合の12兆円、中国の10兆円に見劣りがする。もっと思い切った投資がほしい。

さらに問題は、厳しい財政事情の下で、すぐに実用化できそうな応用研究に予算が集中し、何に役立つのかわかりにくい基礎研究に対しては投資が少なくなりがちなことだ。日本学術会議はこの8月、「基礎研究の基盤をおろそかにすれば、長期的には我が国の科学技術政策に危機的な状況を生み出す」と訴えた。

予算の配分にあたっては、「基礎研究の土台なしに応用研究の発展はありえない」という意識がほしい。

最後にものをいうのは人材だ。自然の不思議を追いかける楽しさや答えを見つけた時の喜びを幼いころから体感させる。柔軟な発想や思考を伸ばす。子どもたちの理科離れ、学生の理系離れがいわれる今こそ、そうした教育を工夫すべきだ。

4人の受賞を、日本の科学研究や教育の環境を改善する機会にしたい。

朝日新聞 2008年10月9日

このページの先頭へ


ノーベル化学賞 海外に飛躍した先輩に学べ

スウェーデンから、2日続けて、うれしい知らせが届いた。

世界的な海洋研究センターとして知られる米ウッズホール海洋生物学研究所の元上席研究員、下村脩さん(80)に8日、ノーベル化学賞が贈られることになった。

前日の物理学賞に続き、同じ年に両賞を日本人が受賞するのは2002年以来、2回目だ。日本人受賞者も16人になる。日本の科学の実績が積み上がり、世界に認められるようになったのだろう。

下村さんは、発光するオワンクラゲから、緑色の蛍光を発するたんぱく質「GFP」を見つけたことが評価された。

生物学研究に革命を引き起こした物質だ。共同受賞した米国人研究者2人が開発したGFP利用技術を使えば、生物の細胞がどう活動しているか、直接、見ることが可能になる。

細胞内では、たんぱく質がいろいろな物質と反応している。例えば、インスリンを作る膵臓(すいぞう)のベータ細胞内でも、専用のたんぱく質が働いている。

このたんぱく質にGFPをつけておけば、ベータ細胞が活動すると、蛍光を発するので分かる。

がんや認知症の研究でも、この手法で、がん細胞の転移や、脳で細胞が壊れる仕組みに迫ることができる。40年以上前に発見された物質だが、今や動物実験では、基本の技術といってもいい。

いつノーベル賞を受賞してもおかしくない成果だった。

下村さんは、今年の物理学賞の受賞が決まった、米シカゴ大名誉教授の南部陽一郎さん(87)と歩みが似ている。若いころ日本を飛び出し、米国人に伍(ご)して、大きな業績を上げた「海外流出組」の研究者である。

今、日本の若手研究者に異変が起きている。米国への留学生が5万人近くいた2000年前後のピークから一昨年は約1万人減り、さらに減り続けている。

米国では、科学研究の最先端分野で、厳しい競争が日常的に繰り広げられる。それに耐えて、勝ち抜くだけの能力を備えた研究者が減っている、という嘆きも日本国内でしばしば聞く。

下村さんは、長崎の大学を卒業後、就職を目指したが、「君は会社に向かない」と言われ、名古屋大で研究者を目指した。そこでの成果が米国で注目され、飛躍へとつながった。

ベテラン研究者の2日続けての栄誉だ。日本の若手も、大いに奮起してもらいたい。

讀賣新聞 2008年10月9日

このページの先頭へ


ノーベル化学賞 生命現象探る道具の革命だ

物理学賞の興奮も冷めやらないうちに、スウェーデンから吉報が届いた。日本人のノーベル化学賞受賞は物理学賞と並んで6年ぶりだが、00〜02年には3年連続で受賞している。今回の受賞でますますノーベル賞が身近になったことを喜びたい。

授賞対象となった「光るたんぱく質」は、紫外線を当てると緑色に明るく光る物質で「緑色蛍光たんぱく質(GFP)」と呼ばれる。その性質が生物学や医学のさまざまな分野で欠かせない道具となり、現代の生命科学研究に革命をもたらした。このGFPを1962年、北米海岸を漂うオワンクラゲから最初に発見したのが下村脩博士だ。

生物の体の中では、さまざまなたんぱく質がいろいろな細胞で働いている。この働き方に異常が生じると病気になることがある。また、その働き方を知ることは、生命の仕組みを知ることにもつながる。

しかし、こうした物質の場所や動きは体の外から見ていてもわからない。そこで、たんぱく質に「標識」をつけて行方をモニターする方法が登場した。下村さんが発見したGFPは、それまでの標識物質とは発光のメカニズムが異なり、生きた細胞でねらったたんぱく質を追跡することが簡単にできた。遺伝子工学の手法と結びつき、誰もが使う道具となっていった。

この標識の威力をさまざまな生物で証明したのが、共同受賞者のマーティン・チャルフィー博士だ。ロジャー・チェン博士はGFPの発光メカニズムの解明に貢献したほか、異なる色の標識で複数の現象を追跡することを可能にした。GFPの仲間は、アルツハイマー病による神経細胞の変化や、がん細胞の増殖などの追跡にも役立っている。

ノーベル賞は、現時点で発展を遂げた分野の扉を開いた人に与えられるといわれる。それを思うと、3人の受賞はまさに時宜を得たものだ。最近のノーベル賞が応用分野に注目する傾向があることも受賞を後押ししたかもしれない。

一方で、基礎研究の重要性は見逃せない。下村さんがGFPを発見したのは、最初から応用をめざしてのことではない。留学先の米国でオワンクラゲの発光現象の謎を突き止めようと、地道に実験を繰り返した。捕獲したクラゲは数十万匹にも及ぶというから、知的好奇心と研究への情熱は並大抵ではない。その基礎研究が遺伝子工学と結びつき、応用へと発展した。

日本の政府は科学技術基本計画で「ノーベル賞受賞者を50年間で30人程度」という数値目標を掲げている。だがノーベル賞は政府が「目標」とすべきものではない。

受賞は個人の知的好奇心や努力と、それを支える研究環境についてくる結果であり、今年の日本人4人の受賞もそれを物語っているのではないだろうか。

毎日新聞 2008年10月9日

このページの先頭へ


日本を元気づける連続受賞

連日の朗報である。ノーベル物理学賞に続き化学賞でも日本人の下村脩ボストン大学名誉教授の受賞が決まった。物理学賞、化学賞のダブル受賞は6年前と同じだが、科学分野で日本の受賞者が合計4人も出れば快さいを叫ばずにはいられない。

化学賞の受賞理由は「緑色蛍光たんぱく質GFPの発見と開発」。GFPの発する明るい緑の光は、生物の組織や細胞の複雑な動きを読み取る目印として活用されている。

下村名誉教授は米国留学中の1962年にオワンクラゲから発光物質のGFPを世界で初めて分離し、イクオリンと名付けた。それまで生物発光は、ホタルと同じようにルシフェリンとルシフェラーゼの反応によるとされていたが、GFPは発光の仕組みも違う新物質だった。

GFPの光を目印として利用し、生物の生きた組織の挙動を精密に追跡する仕組みを、同時に受賞が決まった米国の2人の研究者が開発した。アルツハイマー病で神経細胞が壊れていく経緯や、膵臓(すいぞう)でインスリンをつくるβ細胞の動きの分析など、GFPは人類にとっての難敵の病気を科学的に解明するうえで強力なツールとなっている。

下村名誉教授はGFPの発見後帰国して、名古屋大の助教授になり、60年代半ばには厳しいが研究に専念できる「競争的環境」を求め再び米国に渡る。昭和天皇も訪問されたウッズホール海洋生物学研究所などで研究を続けた。物理学賞の受賞が決まった米国籍の南部陽一郎シカゴ大学名誉教授と同じ頭脳流出組だ。

下村名誉教授は旧長崎医科大学出身でほとんどが旧帝大出身という日本人受賞者のなかでは異色。実力で世界的成果を上げ、評価されたことは地方大学を大いに元気づけよう。

物理学、化学両賞で日本の4人が受賞した喜びは尽きないが、賞は過去の業績に対して贈られる。両賞とも評価された業績は60―70年代の研究。いずれも受賞者が若いころに上げた成果だ。その意味では好奇心と情熱のあふれる若い研究者が伸び伸びと研究ができる環境を整えることがいかに大事かも教えている。

科学技術力は研究者の層の厚さに比例する。受賞に浮かれず、若手研究者育成に力を注ぐことが重要だ。

日本経済新聞 2008年10月9日

このページの先頭へ


ノーベル化学賞 独創的な研究のはずみに

メダルラッシュの感がある。前日の物理学賞3人の受賞に続いて米国在住で、ボストン大学医学校名誉教授の下村脩(おさむ)さんに対し、今年のノーベル化学賞が贈られることが決まった。

下村さんは、発光生物学者である。太平洋のオワンクラゲから緑色蛍光タンパク質(GFP)を発見した。クラゲから分離したGFPに紫外線を当てると光ることに気づいたのは1960年代のことだった。GFPは驚くほど明るい緑色の蛍光を発する。

この性質を利用して、GFPは現在、脳の神経細胞の発達過程や、がん細胞が広がっていく様子を調べるための手段として不可欠の存在になっている。

調べようとするタンパク質の遺伝子にGFPの遺伝子を結合させると、その蛍光が目印となって研究者は、目的のタンパク質が細胞内のどこにあって、どのように移動するのかといったことまでを、視覚情報として把握できるようになったのだ。

このすぐれたGFP蛍光マーカーの登場で、分子生物学や基礎医学の研究は飛躍的に発展したと評価されており、以前からノーベル賞の呼び声が高かった。

その背景には並外れた根気強さがあった。毎年、クラゲの採集を続け、それまでに知られていた発光物質とは異なるメカニズムを突き止めるのに15年以上を費やしている。

日本人科学者のノーベル化学賞は、1981年の福井謙一さんから2002年の田中耕一さんまでの4人に続いて、今回の下村さんで5人に達した。理論畑の福井さんを除いて全員が、実用性の高い技術の研究だ。

日本の化学研究は強い。他の領域の自然科学者もこの快進撃を励みとして、ますます独創的な研究に取り組んでもらいたい。

しかし、日本の科学技術に関して気になることもある。そのひとつは、国民の科学技術離れが進み、ものづくりの分野においても基盤が揺らぎ始めているという現実である。

3人の物理学賞にしても30年以上前の成果である。今の大学や研究者育成のあり方では、将来が気がかりだ。

これからも発展を続けるには、国民全体が科学に関心を持つことが必要だ。下村さんのたゆまざる研究によるノーベル賞を、そのきっかけとしたい。

産経新聞 2008年10月9日

このページの先頭へ


全国学力テスト:結果公表、市町村名伏せる 自治体反発受け配慮−−県教委 /秋田

注目を集めた全国学力テストの結果公表について、県教委は市町村名を伏せた形での公表にとどめた。自治体別の結果公表に反対する全25市町村の反発を考慮した結果、「部分公開」に落ち着いたが、有識者からは混乱を招く可能性を懸念する声も上がっている。

8日に会見した根岸均・県教育長によると、県教育委員6人は当初、市町村別の結果公表で一致していたという。ただ、市町村やPTAの意向、県議会の議論を受け、2日の臨時県教委会議で「機が熟していない」「(県と市町村間に)ギャップがある」など慎重論が相次いだという。

根岸教育長は「地域によって同じ問題の正答率に大きな差がある」と話し、指導方法の改善に生かすため来年度以降も市町村教委の自主的な公表を求めていく考えを示した。

部分公開による影響を心配する声もある。秋田大学教育文化学部の浦野弘教授(教育方法学)は「これで何が分かるのか。市町村を特定する方向に関心が向かい、混乱を招くだけ」と批判する。市町村特定の可能性については、根岸教育長も「憶測を呼ぶ懸念はある。リスクはゼロではない」と認めている。

一方、自治体教委の対応は決まっていない。横手市教委は「市町村別の結果は非開示が望ましいと県教委に伝えていたが現時点で見解は言えない」と言う。寺田知事が「中学校は秋田で一番」と述べた東成瀬村教委の鶴飼孝教育長は「対応は近日中に決めたい」と話した。県教委によると、県教委の決定に反対の意見はまだ寄せられていないという。【岡田悟】

◇知事は公表示唆
寺田典城知事は8日、「数字が出たのはすごい」と一定の評価をしたが、「(各市町村教委が)自分のポジションはここと分かればもっと教育に生かせる」と話し、知事判断で市町村名を公表する可能性を示唆した。また「県民や市町村教委の反応を見たい」と述べた。

【百武信幸】

毎日新聞 秋田版 2008年10月9日

このページの先頭へ


橋下知事「市町村の数字は肝」 全国学テ開示で

全国学力テストをめぐり、秋田県教育委員会が市町村名を伏せて成績の一部開示を決めたことを受け大阪府の橋下徹知事は9日、記者団に対し「市町村の数字がどうなっているかは肝だ」と強調、秋田県の対応を批判した。

橋下知事は、府内の各市町村教委に平均正答率の開示を訴えており、理由として「各地域、家庭の課題をオープンにしてみんなで学校運営に取り組んでもらうため」と説明。秋田県教委の決定は「公表のための公表だ。何をしようとしているのかはっきり見えない」と指摘した。

一方、大阪府内の自治体が公表の是非について揺れていることに関しては「市町村教委の事務局がやっと右往左往してきた。うれしい。今まで何もしてこなかったから」と述べた。

共同通信 2008年10月9日

このページの先頭へ


ノーベル賞 日本物理の底力みせた

一度に三人の日本人ノーベル賞受賞者の誕生だ。

素粒子の謎を解くのに貢献した南部陽一郎さん、小林誠さん、益川敏英さんの三人に、ノーベル物理学賞が贈られることが決まった。

日本人の受賞は、二〇〇二年の小柴昌俊さん(物理学賞)、田中耕一さん(化学賞)の同時受賞以来、六年ぶりの快挙だ。

日本の基礎科学のレベルの高さを、あらためて世界に強く印象づけた。三人の業績をたたえたい。

ノーベル物理学賞はこのところ、素粒子・宇宙分野と物性・応用分野が交互に受賞していた。

昨年は物性・応用分野で仏独の研究者が受賞しており、今回は素粒子・宇宙分野からの受賞が予想されてもいた。

宇宙や物質は何でできているのか。その素朴な疑問は、おそらく人類が誕生して以来の問いだろう。

私たちは物質は、分子や原子でできていると習った。原子の成り立ちをさらに詳しく探求していくと、もっと小さい、さまざまな素粒子でできていることが分かっている。

南部さんは、宇宙が誕生した際に、物質と反物質が同時に生まれていたのに、なぜ物質だけが残ったのかを説明する理論を打ち立てた。

また小林さんと益川さんは、物質を構成するクォークと呼ばれる基本の素粒子が、六種類あることを理論的に予言した。

いずれも、世界の物理学の標準理論になっている。

三人はそれぞれに才能を発揮して、宇宙創成の謎に果敢に挑み、成果を挙げた。

理論物理学と呼ばれる分野は、かつては紙と鉛筆、それに秀でた頭脳があればできるといわれた。

一九四九年に日本人初のノーベル賞受賞者となり、戦後間もない時代の国民に勇気を与えてくれた湯川秀樹さんも理論物理学者だ。以来、日本の得意分野でもある。

一方、物理学研究は近年、高エネルギー加速器と呼ばれる巨大な実験施設を使い、電子などを高速で衝突させて、理論予測を実証することも行われている。

莫大(ばくだい)な資金が必要となるため国際協力も進んでおり、今年からスイスで世界最大の加速器の運用が始まった。

日本も実験に参加している。三人のノーベル賞受賞者の誕生は、この分野で日本が今後もリーダーシップをとっていくことにもつながる。

科学技術予算の投入は、ともすると経済効果に直結しやすい生命科学や材料工学などに偏りがちだ。

国は究極の知的関心に答える基礎科学にも十分な配慮をしてほしい。

北海道新聞 2008年10月8日

このページの先頭へ


物理学賞 三氏の快挙をばねに

うれしい知らせが飛び込んできた。ノーベル物理学賞に、素粒子理論の日本人3氏が決まった。研究水準の高さを示すものだ。

受賞するのは、小林誠、益川敏英、南部陽一郎の3氏。すべての物質を形づくる素粒子について、理論的な研究業績が高く評価された。

小林、益川両氏は、まだ若い助手時代に、クォークは少なくとも6種類あり、互いに変身し合うという理論を発表した。

当時は、3種類のクォークしか発見されていなかった。残る3種類は、その後の実験で見つかり、理論は実証されている。

南部氏は、2人より年長で、半世紀あまり世界の研究をリードしてきた。長く米国で研究を続け、米国籍を取得している。

素粒子の世界の現象を説明するのに決定的な役割を果たした。南部氏の理論は、小林・益川理論にも引き継がれている。

3人とも業績を挙げてから、長い時間を経ている。待たされた末の受賞だ。祝福したい。

日本人のノーベル賞受賞は、6年ぶりだ。これで各賞合わせて15人になる。

物理学賞では湯川秀樹、朝永振一郎、江崎玲於奈、小柴昌俊各氏の4人から今回、一挙に7人に増える。日本が得意とする理論物理学の伝統が生きている。

3人の快挙から学びたい。

飽くなき科学探求の精神がその一つだ。若き日の小林、益川両氏は、研究室で熱い論議を重ねた。個性の違う2人が力を合わせたから大きな進展があったという。

素粒子研究は難解である。実生活にすぐに「役立つ」ものでもない。しかし、基礎研究を積み重ねることこそが、科学全体を底上げする。人類に福利をもたらす。

日本政府も、基礎科学に十分な資金を投じることが大切だ。

素粒子研究は、理論と実験が相まって進展する。スイス・フランス国境には、素粒子実験施設の巨大加速器ができ、日本の研究者も建設、実験に携わっている。

今度の受賞もきっかけにして、理論と実験両面の素粒子研究に広く目を向けたい。

子どもたちにも、3人の受賞は大きな感動を与えるだろう。研究の世界に入る若者が増えれば、日本の基礎科学の未来は明るくなる。益川氏は「自分としてはたいしてうれしくない。社会のお祭り騒ぎだ」とも述べた。冷静な科学者精神といえるだろう。若者たちも、お祭り騒ぎに終わらせず、向学心のバネにしてほしい。

信濃毎日新聞 2008年10月8日

このページの先頭へ


ノーベル物理学賞 お家芸に新たな勲章三つ

スウェーデン王立科学アカデミーが今年のノーベル物理学賞を、日本人の三氏に贈ると発表した。南部陽一郎氏(米シカゴ大名誉教授)▽小林誠氏(高エネルギー加速器研究機構名誉教授)▽益川敏英氏(京都大名誉教授)の三氏だ。一つの賞で、日本人が共同受賞するのは初めてである。

南部氏は素粒子物理学の「CP対称性の破れ」という理論を提唱。小林、益川両氏は物質の最小単位であるクォーク(素粒子)が六種類あることを予測し、宇宙誕生の謎を解く「小林・益川理論」を発表した。

いずれも素粒子物理学の発展に大きく貢献し、「物質と宇宙の理解に革命を起こした」というのが受賞理由である。

素粒子物理学は日本のお家芸ともいえる分野だ。一九四九年には素粒子論の先達である湯川秀樹氏が日本人最初のノーベル賞を受賞し、六五年に朝永振一郎氏が続く。三氏の受賞はこれに次ぐものだ。

今回の受賞が、宇宙理論のさらなる跳躍台となることを願わずにいられない。

南部氏は物質の究極のもとは「粒」ではなく「ひも」であるなどと、数々の独創的なアイデアを提唱し、質量の起源や宇宙誕生に迫る手がかりを与えてきた。

一方、素粒子論に新たな地平を切り開いたとされる「小林・益川理論」は、ふろで浮かんだアイデアから生まれ、二人で練り上げた成果というところが面白い。

失敗や実験の手違いから予期しない発見が生まれる。過去の日本人受賞者の中にもそういう人がいた。がり勉だけでは、ひらめきやアイデアは生まれない。教育論にもつながる話ではないか。

三氏の研究と深い関係がある国際プロジェクトが先月、欧州で始まったことは、この分野への関心をさらに高めるだろう。

欧州合同原子核研究所がスイス・フランス国境で運転する「大型ハドロン衝突加速器」だ。百三十七億年前の宇宙大爆発「ビッグバン」から一兆分の一秒後の状態を再現し、あらゆる物質が素粒子の状態で激しい衝突を繰り返す状態を観測する。

南部氏が研究対象とした、質量の元といわれる「ヒッグス粒子」という素粒子が観測で確認できると期待されている。

三氏が打ち立てた壮大な宇宙理論は、ここ数年以内にこの巨大装置によって、より多くの研究者に確かめられるだろう。

宇宙がますます身近になる。くめども尽きない関心から、三人に続く若き研究者がもっともっと現れてほしい。

神戸新聞 2008年10月8日

このページの先頭へ


ノーベル賞 夢広がる一挙3人受賞

今年のノーベル物理学賞に、素粒子物理の「標準理論」と呼ばれる理論体系の構築に重要な貢献をした南部陽一郎・米シカゴ大名誉教授=東京都生まれ、米国籍、小林誠・高エネルギー加速器研究機構名誉教授、益川敏英・京都大名誉教授の三人が決まった。

日本人のノーベル賞受賞は二〇〇二年の小柴昌俊・東京大特別栄誉教授(物理学賞)、田中耕一・島津製作所フェロー(化学賞)のダブル受賞以来六年ぶりで、計十五人になる。日本人の共同受賞は初めてで、しかも一挙に三人が栄誉に輝いた。日本人研究者のレベルの高さをあらためて証明したといえよう。心から喜びたい。

授賞理由は、南部氏が「素粒子物理学と核物理学における自発的対称性の破れの発見」、小林、益川の両氏が「クォークが自然界に少なくとも三世代以上あることを予言する、対称性の破れの起源の発見」となっている。物質はクォークなどの最小の構成単位「素粒子」でできているとされる。いずれもその素粒子論で大きな発展を導いた研究成果である。

日本人の物理学賞受賞はこれで計七人を数える。特に理論物理学は日本が得意とする分野であり、一九四九年の故湯川秀樹博士、六五年の故朝永振一郎博士に次ぐ快挙となった。

若者たちの理科離れが言われる。小林氏と益川氏が受賞対象となった理論を誕生させたのは七二年のこと。若い二人が研究室で熱い議論を重ねたことが、今回の喜びに結びついた。若い人たちが科学に興味を持ち、どんどん後に続いてほしい。

殺伐とした事件が相次ぎ、米国発の金融危機の影響で景気後退の色も濃くなっている。久しぶりの明るいニュースで元気を取り戻そう。

山陽新聞 2008年10月8日

このページの先頭へ


ノーベル賞―紙と鉛筆、一挙に花開く

日本の科学を大いに元気づける知らせが6年ぶりに北欧から届いた。

米シカゴ大学名誉教授の南部陽一郎さんと、高エネルギー加速器研究機構名誉教授の小林誠さん、京都大学名誉教授の益川敏英さんのノーベル物理学賞の同時受賞である。

南部さんの受賞研究は「対称性の自発的破れ」をめぐる理論だ。この奇妙な言葉は何を意味するのか。

よく使われるたとえ話がある。

円いテーブルにナプキンが並んでいたとする。右に置かれたのをとるか、それとも左か。迷っているうちに誰かが右を選べば、みんな右をとる。

対称とはどの向きも同等ということだが、それがふとしたことで壊れ、そこに一つの向きが現れる。物質世界に広くみられる現象だ。

この自然界の根っこにあるしくみを理論づけたことで「粒子にはなぜ重さ(質量)があるのか」といった素粒子論の難題の解決に道筋をつけた。

小林さんと益川さんの研究は宇宙の対称性の破れに迫るもので、SFの香りがする。素粒子には、ふつうの粒子とそっくりだが、電気の正負などが逆の反粒子という一群がある。ところが、この宇宙はほとんどがふつうの粒子でできており、反粒子の「裏世界」は見あたらない。それはなぜか。この問いに向き合った。

どちらも日々の暮らしには縁遠い。だが、人々の世界観を豊かにする。知的好奇心に根ざす純粋科学である。

もともと日本には初のノーベル賞受賞者である湯川秀樹さん、2人目の朝永振一郎さんに象徴される理論物理の伝統がある。「紙と鉛筆」の科学だ。3人はその継承者といえよう。

歴史を振り返ると、こうした純粋科学も長い歳月を経て人々の生活を一変させることがある。たとえば1920年代に築かれた量子力学は半導体物理の礎となり、20世紀末にIT社会を花開かせた。純粋科学は未来社会に可能性を与えるのである。

今回、基礎の基礎といえる科学に一挙に賞が贈られることを喜びたい。

この受賞からは、今日の科学に対するいくつもの教訓が読み取れる。

南部さんはアイデアを畑違いの分野から得た。いま応用面でも注目されている超伝導の理論を素粒子論に生かしたのである。専門のタコつぼに陥らなかったことが成果に結びついた。

小林・益川理論の声価が実験によって定まったことも忘れてはならない。理論が予想する粒子は90年代までに見つかった。00年代に入ってからは精密な実験が理論を裏づけた。いずれも巨大加速器による実験で、費用面でも技術面でも一朝一夕には実現できない。

科学には視野の広さと息の長さが欠かせない。3人の快挙はそんなメッセージを発信している。

朝日新聞 2008年10月8日

このページの先頭へ


ノーベル賞 知の伝統を引き継ぎたい

日本の科学界に、最大級の朗報が届いた。

今年のノーベル物理学賞が、米シカゴ大名誉教授の南部陽一郎さん、高エネルギー加速器研究機構(KEK)名誉教授の小林誠さん、京都産業大教授の益川敏英さんに贈られるという。

2003年から途絶えていた日本人のノーベル賞受賞者は、これで一気に15人となった。

3人とも、研究対象は、物質を細かくした先の素粒子だ。

南部さんは、素粒子がどうして生まれてくるのかを考えた。何もないところでも、ぽんと生まれるというのが答えだった。その理由は、自然界では「自発的に対称性が破れる」ためだ。

小林さんと益川さんは、粒子とその対になる「反粒子」に着目した。例えば、電子の反粒子は陽電子だ。両者がぶつかると光になって、消える。

宇宙が誕生したころ、粒子と反粒子は同数あったと考えられている。だが今は、反粒子が珍しい存在になった。粒子と反粒子は完全に対称ではないため、宇宙が成長するうち、反粒子が偏って消えることが多かったためらしい。

このことから、素粒子の数や種類を最もうまく説明する理論を築き、素粒子の法則である「標準理論」の基礎になっている。

素粒子研究では、日本から過去に、湯川秀樹、朝永振一郎、小柴昌俊の3氏がノーベル賞を受賞している。知の伝統が生きた。

折しも今夏、フランスとスイス国境では、欧州合同原子核研究機関の大型円形加速器が動き始めた。質量の起源や宇宙の成り立ちを探究する。日本も建設に100億円以上を拠出しており、KEKや東京大から研究者約100人が参加している。

ただ、心配なのは、近年、若者が物理学をはじめとする理工学系を敬遠していることだ。東京大でも、物理学科は、年によって定員割れになることがある。

地味なうえ、実験で長時間拘束される。一人前になるには、通常、修士課程までで6年、博士課程までで9年かかる。

その割に就職は厳しい。安定した職につけない博士号取得者「ポスドク」の数は年々増え、すでに1万6000人を超える。

これでは、理工系に進学しても将来の道を描けない。政府と大学は、科学者、技術者の育成システムの改革に取り組むべきだ。若者たちの科学への夢と期待が、今回の受賞決定を機に、少しでも膨らむことも期待したい。

讀賣新聞 2008年10月8日

このページの先頭へ


ノーベル賞 基礎研究が勇気づけられた

02年の小柴昌俊、田中耕一両氏のダブル受賞から6年。そろそろ日本人が受賞してもおかしくないとの期待が高まっていたが、3人の共同受賞は予想外で、うれしい驚きだ。

しかも、対象は49年に湯川秀樹博士がノーベル賞を受賞して以来、日本の「お家芸」とみなされてきた素粒子物理学である。日本の基礎科学の底力が改めて確認されただけではない。宇宙の成り立ちに深くかかわる成果であり、子供たちの科学への夢をはぐくむ効果もある。3人の快挙をたたえ、拍手を送りたい。

益川敏英、小林誠両博士の受賞の対象となった理論は、「CP対称性の破れ」と呼ばれる物理現象に関係している。この「破れ」は、私たちの世界が「物質」だけで成り立っていて、性質が反対の「反物質」が見あたらないのはなぜか、という疑問に答える考えだ。

両博士は、この現象を説明するには素粒子のクォークが6種類必要だ、と提唱した。その後、クォークは次々と発見され、95年には六つ目のトップクォークが確認された。さらに、日本の大型加速器「Bファクトリー」は2人の理論の正しさを観測で証明した。これが2人の受賞を後押ししたことは間違いない。

南部陽一郎博士は、「自発的対称性の破れ」という概念を素粒子の分野で確立した。この世界の物質には質量があるが、それはいったいなぜか。根源的な問いの背景に、自然界の対称性が破れるという現象があると提唱した。この理論は、現在の素粒子の標準理論の基盤となっており、自然界に働く四つの力のうち三つの力を統一する理論の基礎につながった。

受賞が決まった3人のうち益川、小林の両博士が「純国産科学者」、南部博士が「頭脳流出派」である点にも注目したい。益川、小林両博士は留学経験がなく、国内で独自に研究を続けてきた。一方、50年代に渡米して以来、米国で活動し、米国籍を得ている南部博士も学問の基礎を学んだのは日本だ。いずれのケースも日本人の独創性を示す証拠と考えられる。

「高根の花」と思われてきたノーベル賞はこの10年で身近なものとなった。同時に目先の成果にとらわれない基礎研究の重要性もクローズアップされた。そうした中で気になるのは、日本の科学技術政策が経済偏重に向かっていると思われることだ。政府は科学技術を経済活性化の主要な柱と考え、大学の研究にも効率や応用を求めている。しかし、第一級の発見は経済効果を第一に考える環境からは生まれないはずだ。

今回の受賞は60〜70年代の業績に与えられたものだ。現在の研究環境はノーベル賞に結びつく人材を育てるにふさわしいか。今回の受賞をきっかけに改めて考えたい。

毎日新聞 2008年10月8日

このページの先頭へ


素粒子研究の底力示す受賞

湯川秀樹・朝永振一郎両博士らの伝統を引き継ぐ日本の理論物理学の面目躍如といえようか。ノーベル物理学賞は日本で育った3人の研究者が一挙に受賞する快挙だった。

受賞した米シカゴ大学の南部陽一郎名誉教授、高エネルギー加速器研究機構の小林誠名誉教授、京都大学の益川敏英名誉教授は、湯川・朝永両博士らの流れをくむ素粒子理論の研究者だ。

受賞理由となった成果は「対称性の破れ」と呼ばれる現象を説明する理論の構築。南部教授はその先駆けとして1960年代から成果を上げて素粒子理論をリードし、早くからノーベル賞候補と目されていた。「ひも理論」など時代を先取りする理論を提案するなど、その業績は世界から一目を置かれてきた。

一方、小林教授と益川教授は「CP対称性の破れ」という現象を説明するいわゆる小林・益川理論を35年前につくりあげた。ビッグバン後に宇宙にあったとされる「反粒子」が消えた謎を解き明かす理論で、素粒子の基本粒子のクォークが六つあると予言した。

当時はクォークが三つしか見つかっておらず、世界の反応は六つもあるはずがないと冷ややかだった。しかし、クォークは1990年代半ばに六つ目が見つかり、理論の正しさが示された。さらに高エネルギー加速器研究機構が大がかりな実験で「CP対称性の破れ」の検証に取り組み、理論が裏付けられた。

1950年代に渡米して米国で名をはせた南部教授に対し、小林教授、益川教授は国内を中心にして研究してきた。両氏の発表論文は英文とはいえ国内誌だったので、欧米からは無視されたという。受賞にはその業績を紹介し続けたり、大掛かりな実験で理論を検証したりした多くの研究者の貢献がある。その意味で受賞は日本の素粒子研究者すべてに向けられたといってもよい。

日本は6年前に物理学賞を受賞した小柴昌俊東大名誉教授が開拓したニュートリノ研究でも世界をリードし、素粒子分野で強みを見せている。素粒子論はいまは宇宙論とも絡み総合力が問われている。受賞を機にさらに研究に磨きをかけ、世界に貢献する成果を上げてもらいたい。

日本経済新聞 2008年10月8日

このページの先頭へ


ノーベル物理学賞 日本の理論研究の底力だ

しばらく遠ざかっていたノーベル賞が一挙に日本に戻ってきた。

京都大学名誉教授の益川敏英さん、高エネルギー加速器研究機構名誉教授の小林誠さんと米国籍でシカゴ大学名誉教授の南部陽一郎さんの3人に、今年のノーベル物理学賞が贈られることが決まった。

6年前の小柴昌俊さん(物理学賞)と田中耕一さん(化学賞)のダブル受賞以来の朗報である。

日本初の受賞者、湯川秀樹博士の生誕101年にあたる今年、日本の基礎科学の研究力が正当に評価されたことを喜びたい。

益川さんと小林さんは、物質の根源を探る素粒子物理学の分野で大きな成果をあげた。あらゆる物質は基本粒子「クォーク」で構成されているが、2人が研究に取り組んでいた1970年代の初期には、何種類のクォークが存在するのかもわかっていなかった。

2人は、物質と反物質の差を示す「CP対称性の破れ」という現象によって、われわれの宇宙が存在していることに注目し、対称性の破れが生じるためには、物質を構成するクォークには、少なくても6種類が必要であることを示したのだ。

この「小林・益川理論」は、2人が京大理学部の助手であったときの共同研究だ。35年ほど前のことである。南部さんは、60年代に素粒子を扱う場の量子論で「対称性の破れ」という理論を提唱していた。

今とは異なり、パソコンなどは存在しなかった時代の研究だ。

まさに紙と鉛筆による研究で、現在の素粒子物理学の骨格をなす「標準理論」の一角を築き上げたのだから、その創造性は驚きに値する。巨額の研究費が投じられることが当たり前になりつつある今日の自然科学の在り方に一石を投じる受賞であろう。

日本が輩出したノーベル賞受賞者は、これで計15人となった。自然科学では12人で、うち7人が物理学賞である。

また2000年以降の日本人科学者のノーベル賞は、7人に達した。自然科学分野の若手研究者には、この快進撃を励みとして、ますます独創的な研究に取り組んでもらいたい。

ただし、国が進める研究強化策では競争力を重視するあまり、若手研究者の身分が不安定になっている。当時のように研究に没頭できる環境も必要である。

産経新聞 2008年10月8日


文科相は論理破綻=学テ開示で、大阪知事

大阪府の橋下徹知事は8日、全国学力状況調査(全国学力テスト)の学校別の平均結果を開示した鳥取県南部町教育委員会を塩谷立文部科学相が批判したことについて、「市町村の判断に任せるのが分権の趣旨というなら、学校別を公表しようが市町村の判断。本当に過当競争を防ぐなら、市町村の判断に委ねることは一切駄目だとしなくてはいけない。論理が破綻(はたん)している」と批判した。府庁で記者団の質問に答えた。

また、「文科省は、教員の評価につながる恐れがあるから公表は嫌だという本当の理由を言って議論しなければいけない」と述べた。

さらに「国が決めたルールは地方の実情に応じて変えられるというよい例ができたと思う」と述べ、南部町教委の結果開示を評価した。(了)

時事通信 2008年10月8日

このページの先頭へ


学テ、平均正答率を開示=秋田県教委

秋田県教育委員会は8日、全国学力テストの市町村別結果について、市町村名を開示せず、市町村ごとの平均正答率を開示、請求者に通知した。(了)

時事通信 2008年10月8日

このページの先頭へ


大阪府 学力テストの市町村別成績 公開へ 全国で初

全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の市町村別成績を巡り、大阪府の橋下徹知事は府内市町村分について公開する方針を固めた。府への情報公開請求に対し、府情報公開条例に基づいて判断した。同成績では、秋田県教委が8日、市町村名を伏せた形で公開を決めたが、府は市町村名も示す考え。すべて公表されるのは都道府県で初めてとなる。「地域の序列化につながる」と公開に反対する文部科学省や、すでに市町村として非公開を決めた府内自治体の教委などの反発が起きそうだ。

市町村別の科目別正答率のほか、成績と補習授業や早寝・早起きなどの関連の分析結果を公表する準備を進めている。

市町村別成績について、文科省は各市町村教委が自ら公表することは禁じていないが、都道府県教委には通達で非公表を要請しており、府教委は9月16日、情報公開請求に対し、非公開を決定。橋下知事は翌17日、府教委から市町村別成績のデータ提供を受け、公開・非公開を検討していた。

橋下知事は、「結果が示されないから市町村教委は甘えている」として公表を主張。府内の一部自治体は自主公表したが、「点数にこだわるのは教育の本質を忘れている」とする吹田市などが公表を見送っている。

讀賣新聞 2008年10月7日

このページの先頭へ


適切でない=南部町の学テ開示−文科次官

鳥取県の南部町教育委員会が全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の学校別平均正答率を開示したことについて、文部科学省の銭谷真美(ぜにや・まさみ)事務次官は6日の記者会見で「実施要領から見ると適正ではない。要領の趣旨を含めて、結果の適切な取り扱いをお伝えしたい」と批判した。

銭谷次官は、同省の要領で学校別の結果公表が各校の判断に委ねられていると強調。「各校が自分たちの学校の状況を十分に分析し、指導改善策を併せて示すという公表の仕方であってほしかった」と述べた。 

同町教委は2日、情報公開請求を行った住民に対し、昨年4月に実施された全国学力テストの学校別正答率を開示した。(了)

時事通信 2008年10月6日

このページの先頭へ


法科大学院 法曹の質向上へ再編急げ

中央教育審議会の特別委員会が法科大学院の定員削減や統廃合を促す中間報告をまとめた。レベルの低い大学院が淘汰(とうた)されるのは当然として、本来の設立趣旨を生かせる再編が急務だ。

法科大学院は、司法改革に伴い、弁護士や裁判官ら法曹の新しい人材養成機関として平成16年に開設された。法学部卒業生など既修者向けの2年コースと、社会人など法学未修者対象の3年コースがあり、修了者は新司法試験の受験資格が得られる。

新司法試験の合格率は当初7、8割程度と想定された。ところが修了1期生から想定を大幅に下回る結果となり、3回目の今年の合格率は約33%と前年実績をさらにおよそ7ポイント下回った。合格者ゼロの大学院も3校あり、修了者のレベルや法科大学院の教育の質自体への懸念が高まっている。

法科大学院は現在74校あり、定員は全体で約5800人となっている。当初は20校程度と予想されていたことを考えれば、「乱立」との批判もうなずける。

入学者の質の確保が難しくなっているほか、学部との兼務で専任教員が少ないなど教育体制の課題を多くの大学院が抱えている。

100人を超える大人数の授業や受験対策偏重の授業を行っているところもあり、大学評価機関から設置基準に合わないと指摘された法科大学院もある。受験知識偏重などと批判が強かった旧司法試験制度の反省から導入された意図からは隔たる状況だ。

法科大学院は年間100万〜200万円の学費がかかる。入学者には相当な負担だ。法曹のプロを養成するねらいに見合った教育が行われず、合格率が低迷するようなら、志願者は減り、入学者の質はさらに低下しかねない。

実際、74校のうち46校で定員を割り込んでいる。それでも定員削減の検討を進めている大学院はまだ一部にすぎない。

新制度では、法学部出身以外にも多様な人材を法科大学院で鍛え、法曹界を活性化させるねらいが込められていた。

だが、社会人ら未修者の合格率は低迷しており、期待通りの形にはなっていない。地域による弁護士の偏在解消も課題だ。中間報告が指摘するように、再編では大学院同士の「競争的な環境」をつくると同時に、夜間コースや奨学金拡充など幅広い人材養成に一層の工夫が求められるだろう。

産経新聞 2008年10月5日

このページの先頭へ


「義務教育と塾」議論を 与党再生検討会が中間報告

 与党教育再生に関する検討会(座長・保利耕輔自民党政調会長)は二日、中間報告を公表した。

 受験競争が激化する中で、本来、学校教育で得られるはずの基本的な知識の部分まで塾が担っているケースもあるなどと指摘し、義務教育と塾のあり方について、それぞれを所管する文部科学省と経済産業省が協議すべきだと提案。報告は麻生太郎首相らに提出した。

 報告は、道徳教育、大学・大学院、塾、体育とスポーツのあり方など十項目について問題提起した。道徳教育に関しては、戦後の新憲法下で個人の尊厳が強調され画一的な教育は難しくなったとしつつ、「道徳を教えるに当たっては(宗教の)戒律がそうであるように、ある程度の強制力が必要ではないか」としている。

時事通信 2008年10月3日

このページの先頭へ


学テ、学校別結果を開示=全国で初−鳥取

鳥取県の南部町教育委員会が全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の学校別結果を開示していたことが3日、分かった。文部科学省によると、市町村教委が学校別データを開示したのは、全国で初めてという。

永江多輝夫教育長は開示について、「昨年から教育委員会で前向きに協議してきた」とした上で、「学校にとって都合の悪い情報を出さないというのではなく、開示をして学校、地域一体となって学力向上を目指したい」と述べた。このほか、町教委は町の平均正答率を広報誌で公表するという。

町教委によると、町内に住む男性が9月16日に開示請求。同月30日の定例教育委員会で、全会一致で開示を決め、今月2日に手渡した。

情報公開条例に基づき、個人が特定される可能性がある児童数の少ない1校を除く小中計4校について、昨年実施された学校別平均正当率を開示したという。

文科省は、学校間の序列化が生じ、市町村の参加辞退があれば、調査に支障を及ぼす恐れがあるとして、学校ごとの結果を公表しないよう通知。開示請求についても、同様の支障が生じないよう適切な判断を求めている。

学校別結果の開示をめぐっては、鳥取県の市民団体も県教委に学校別結果の開示を請求。県教委の非開示決定に対し、非開示処分の取り消しを求め、2日に提訴した。(了)

時事通信 2008年10月3日

この頁の先頭へ


トップページへ