主張 国際学習到達度調査 学ぶ意欲育てる自由と条件を
経済開発協力機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)の結果が公表されました。対象は十五歳で、日本は高校一年生が二〇〇六年にうけました。
PISAの調査は、学校で学習した知識量ではなく、知識をもとに思考力や自分で問題を見つけて解決する能力などを見るものです。
日本の順位の「低落」が言われますが、考えなければならないのは順位よりその中身です。
順位でなく中身が心配
とくに学ぶことへの意欲の低さが心配です。日本の生徒は科学に興味や楽しさを感じず、「科学を必要とする職業につきたい」と思う割合もたいへん低いのが特徴です。科学への関心は調査した五十七カ国中最低と評価されました。
今回の調査は「科学」が中心でした。日本の生徒は、さまざまな現象を科学的に説明したり、あるテーマについて科学的調査で答えがでるかどうかを考えるなど論理的な問題が苦手です。また前回調査で増えた成績下位層の割合も大きな変化がありませんでした。
なぜ、学習への意欲が「ずば抜けて低い」(文部科学省)のでしょうか。何より、「高度に競争的」と国連から勧告されている教育制度の問題に目をむけないわけにはいきません。
高校受験のため、学習が知識のつめこみになり、一つの「正答」を知ればいいという風潮が顕著です。たとえばテストのため顕微鏡の各部分の名前を暗記、国語は問題文を読まずに設問から正しそうなものを選択する。入試体制がうみだす風景です。
調査でも「生徒が実験室で実験をおこなう」「先生は習った考え方が多くの異なる現象に応用できることを教えてくれる」と答えた割合は平均の半分でした。「生徒は課題の話し合いをする」はOECD平均42%にたいし日本は9%にすぎません。
政府や地方行政が学習指導要領などにより教員の教育活動を統制していることも問題です。今回うきぼりになった意欲や関心にしても、文部科学省は「関心・意欲・態度」の点数化を教員に強制してきました。その結果、関心などのチェックに忙しく肝心の授業がおろそかになると教員から悲鳴が上がりました。これで生徒の関心が育つはずがありません。
学ぶことは繊細な精神的営みであり、教育には自由が欠かせません。統制をもちこめば、教える側、学ぶ側の双方の意欲を損ない、結局は失敗することを政府は知るべきです。
また教育条件も「四十人学級」などではていねいに教えるには困難です。さらに本格的には、子どもから進学や将来の夢をうばう格差社会の影響など広い視野の検討が必要です。
文科省は「全国学力テスト」などの競争と詰め込みを強めるなど従来の方針の踏襲を表明しています。財務省は「教員の数が多すぎる」と人員削減すら求めています。しかし目を世界に転じれば、こうした日本の方向に未来がないことは明らかです。
広く世界に目を向けて
PISA調査で三回連続一位となったフィンランドは、大胆な教育改革をおこなっています。習熟度別学級の廃止など競争教育が大きく見直されました。学習指導要領の簡素化など教員の自由を保障し、教科書も教員が自由に選べます。「二十人学級」にして、学習が遅れている子どもへは特別な体制をとり「一人も落ちこぼさない」が貫かれています。
政府はひろく世界にも目をむけ、憲法にもとづいて、教育政策をおおもとからあらためるべきです。
しんぶん赤旗 2007年12月7日
学習指導要領改定 中教審部会の「審議のまとめ」について
教育統制強める 共産党国会議員団 石井文部科学部会長
中央教育審議会教育課程部会が七日公表した「審議のまとめ」について、日本共産党国会議員団の石井郁子文部科学部会長は同日、次の談話を発表しました。
◇
「まとめ」は、国が直接「重点指導事項」を教員に示し、その指示どおりに実施されたかどうかを全国学力テストなどでチェックすることにしています。さらに、本来多様であるべき「学力観」や「指導法」についても、特定の内容をしめしています。
これらは、改悪された教育基本法の具体化として、学校の教育課程への国家統制を強めるものにほかなりません。このようなことは憲法と教育の条理に反し、教育の自主性や創造性をうばうものであり、やめるべきです。
一、「まとめ」は、「習熟度別授業」など、競争と格差をひろげ、子どもを選別しようとする施策をあらためて強調しています。いま必要なことは、競争と選別をやめ、学力の底上げを進めることです。
また、「まとめ」は「家庭の責任」なるものを強調しています。「貧困と格差」で傷ついている家庭への公的支援にはまったく触れずに「責任」だけを押しつけるのでは、問題の解決にはなりません。
一、「まとめ」がこれまでの「学習内容の三割削減」をあらため、多位数の計算や生物進化など必要な事項を復活させたことは、現場の声をある程度反映したものです。
しかし全体として、不必要な学習内容も含んでおり、いま以上に深刻なつめこみ授業になる危険をはらんでいます。内容を精選・再編成して、総授業時数増なしで必要な学習ができる方向で見直すべきです。
小学校の外国語活動と中学校の武道必修化は、国民の間で意見が分かれており、強行すべきではありません。
一、「まとめ」は改悪教育基本法にそって、「愛国心」などを上から子どもに押しつけようとしています。国家による内心の自由の侵害は許されません。しかも、沖縄「集団自決=日本軍による強制」を教科書から削除せよとの検定意見に一言もふれない姿勢は、歴史の改ざん、特異な戦争観の強制を容認するものとして厳しく批判されなければなりません。
また「道徳」では、「学校生活で子どもの人権を尊重する」との視点を欠いており、子どもの声を聞き取る姿勢もありません。
一、「まとめ」は、教職員の定数増や教科書・学校図書館の充実に言及しています。現在、教員は総じて過労死ラインで働きながらも、授業準備など子どもと向き合う時間が確保できない状態にあり、教職員増は急務です。ところが政府・財務省は、増員どころか削減を計画しています。
国民の力でこうした自公政権の動きにストップをかけ、教育条件を前進させることをよびかけます。
しんぶん赤旗 2007年11月8日
統制強化 授業を増 中教審部会 指導要領改定へまとめ
学習指導要領の改定について審議してきた中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の教育課程部会は七日、「審議のまとめ」を決定しました。
「まとめ」は「改定教育基本法において…伝統や文化を尊重し、我が国と郷土を愛する…態度を養うことなどが教育の目標として規定されたことを踏まえ、各教科の教育内容を改善する」とのべ、「道徳教育」や「伝統や文化に関する教育」の充実を掲げています。
各教科の「重点指導事項例」を示し、それを子どもが身につけているか全国学力テストなどを通してチェックする仕組みをつくるなど教育内容への国家統制を強める方向です。
日本の子どもたちの学力について「活用力」に課題があるとしました。その背景・原因を「知識・技能を活用する学習活動のためには授業時数が十分でない」として、算数・数学、理科などを中心に現行より時間数を増やし、小学一、二年で週当たり二時間、小学三―六年と中学の全学年で同一時間の増加が必要だとしています。
前回の「学習内容三割削減」で削られた「多位数の計算」(小学校)、「生物の進化」(中学校)など多くの項目が復活しています。
総合的な学習の時間については小中学校とも縮減し、中学校の選択教科も削減。小学校での「外国語(英語)活動」の時間を新設し、中学校の体育では武道の必修化を打ち出しています。
一方で、「教師が子どもと向き合う時間の確保」などの条件整備が必要との認識を示しました。
日本共産党の石井郁子・国会議員団文部科学部会長は談話を発表し、「改悪された教育基本法の具体化として、教育課程への国家統制を強めるものだ」と批判しました。
中教審は今後、十二月か翌年一月に答申を提出。文科省は今年度中に学習指導要領を改定する計画です。
しんぶん赤旗 2007年11月8日
学力テスト 市町村別・学校別の成績
全都道府県が非公表 「序列化・過度の競争 懸念」
二十四日公表された全国学力テストの結果について、四十七都道府県すべての教育委員会が、同省から提供される市町村別、学校別の成績を「公表しない」ことが本紙の調べでわかりました。
公表しないと判断した主な理由について、県教委に対して市町村別・学校別の公表をしないように求めた文部科学省の実施要領を根拠にして、「学校の序列化と過度の競争をあおる懸念があるため」(京都府)とした回答が多くありました。
市町村や各学校に対し結果の取り扱いをどう指導するかについては、「(各市町村教委に対し)説明会を実施し、個々の学校名を明らかにした公表はしないなどの留意事項を確認した」(佐賀県)、「生徒に返すときは個人面談や学級指導を通して説明し、支援に役立つようにするよう文書を出した」(島根県)など、序列化や競争につながらないよう配慮を促す教委がありました。
一方で、「市町村の判断に委ねる」とした教委もあり、各都道府県で温度差がありました。
成績によって学校への予算配分に格差をつけるかについては、ほとんどの教委が「しない」としています。
結果をどう活用するかについて、九州のある県は「数字に示された結果を単純に比較するのではなく、調査結果をしっかり解釈し、学習環境などさまざまな状況との相関関係において特徴や課題について把握していく」としています。
また、「全国と比べるということではなく、課題を授業や勉強の改善に生かし、進めていくようにしていく。例えば、できなかった子どもたちに視点をあてるなど」とする県がある一方、「学力、学習状況を全国と比較し、県の学力向上の参考にする」と回答したところもありました。
政府に対する要望には、「調査が教委や学校の改善に結びついているのかどうか、よく検証しながら進めてほしい」「傾向をつかむのであれば、対象学年の全員ではなく抽出でもよいのではないか」とする声が寄せられました。
また、記名式に対する個人情報の漏えいの心配や、結果公表まで半年かかったことに対し、「一人ひとりの子どもの改善につながらないことになるので、今後、改善してほしい」など、政府の不手際を指摘する意見も複数ありました。
活用力など課題浮き彫り
全国学力テストの結果は、子どもの読解力や知識を実生活に活用する力が足りない現状を改めて示しました。
端的な例は小学校算数。基礎のA問題で、底辺が四センチ、高さ六センチの平行四辺形を図示して面積を求めさせたところ、96・0%の児童が二十四平方センチと正答しました。
ところが、活用のB問題で、地図に示された平行四辺形と正方形の公園の広さを比べる設問では、正答率が18・2%と激減。平行四辺形の底辺と高さ以外に斜辺の長さも示されたため、底辺×斜辺で求めた児童が誤答の四割以上を占めました。
小学校国語Bでは、同じ本を読んで書かれた二つの感想文に共通する特徴を聞く設問で、正答率が五割強。古紙の再利用が必要な理由、回収の際の注意点をそれぞれ二つずつ例文から抜き出す問題でも五割を切りました。
中学の数学Bでは、熱した水の温度と経過時間の一次関数グラフから水温(y)と時間(x)の関係式を作り、何分後に八〇度になるかを文章で説明させた問題の正答率が四割。無答率もほぼ四割に達しました。
読み書き・計算力アップ
全国学力テストの基礎的知識や計算力を問うA問題では、「勧める↓すすめる」「やく↓焼く」など漢字の読み書きと基礎的な計算の力は過去の同一問題に比べ向上がみられました。半面、確率の意味や円すいの体積などが正しく理解されていないことも分かりました。
二〇〇二年や〇四年に実施された抽出方式の「教育課程実施状況調査」などで出題されたことのある問題(小学校十三問、中学校十二問)で比べると、二十四問は正答率が上がりました。
算数・数学で正答率が上がったのは「半径十センチの円の面積を求める式と答え」(○四年、小5の61%から今回73%)「xとyを用いた連立方程式の解」(○二年、中2の68%から今回72%)など。
一方、中学校の数学では、さいころを振った時の目の出方を問う確率の問題で正答率が50%に達しませんでした。
また、円柱の容器いっぱいの水を、底面積と高さが等しい円すいの容器に移した時の正しい図を選ばせたところ、円すい二つ分とした誤答が36%に上り、正解である「三つ分」の38%とほぼ並びました。
しんぶん赤旗 2007年10月25日
全国学力テスト 結果公表 点数競争激化に懸念 文科省 都道府県別に序列
文部科学省は二十四日、今年四月に小学六年生と中学三年生全員を対象に実施した全国学力テスト(学力・学習状況調査)の結果を公表しました。都道府県別に正答率が示され、教育関係者から、自治体間・学校間の点数競争の激化を懸念する声があがっています。
全員対象のテストは中学生は四十三年ぶり、小学生では初めて。二〇〇四年に当時の中山成彬文科相が「競争意識の涵養(かんよう)」のためとして導入を提唱したものです。
今回、国語と算数・数学の二教科で実施され、二百二十一万人が受けました。
全国の平均正答率をみると、基礎的知識を問うA問題は小学の国語と算数、中学の国語がいずれも82%、中学数学は73%でした。これに対し、知識を実生活や課題解決に「活用する力」を問うB問題は中学国語の72%を除き、すべて60%台前半でした。選択式の設問に比べ、記述式の正答率が低い傾向もみられました。
都道府県別の正答率は、大半が全国平均の前後5ポイント以内に入り、差はほとんどみられませんでした。しかし、一部には平均より8―15ポイント低いところもありました。国立、私立の平均正答率は公立に比べて8―23ポイント高くなりました。
生活習慣や学習環境についての質問紙調査では、過去の同種の調査に比べて国語や算数・数学が「好き」「役に立つ」と答えた子どもが増え、一日の学習時間や読書時間も増加しました。
文科省は、市町村別、学校別の公表については各自治体の判断に委ねています。
しんぶん赤旗 2007年10月25日
中教審部会 徳育の教科化見送り 再生会議提唱に反論相次ぐ
中央教育審議会(文科相の諮問機関)は十五日、道徳教育のあり方を議論する専門部会(主査=本田和子前お茶の水女子大学長)を開き、教育再生会議が提唱した「徳育の教科化」の決定を見送り、部会の議論を締めくくりました。改悪教育基本法のもと、すべての子どもに「規範意識」を持たせるためとして徳育の教科化を狙ってきた安倍「教育再生」路線の事実上の破たんです。
部会では「道徳教育の充実を掛け声倒れに終わらせないため、教科化を一つの有力な選択肢とすべきだ」との意見も出されましたが、「良心の自由との関連などハードルも多く、決めるのは拙速だ」「教科にすれば重視されるというのは安易だ」など反論も相次ぎました。本田主査が議論を引き取り、教科化については「一つの選択肢」と指摘するにとどめて部会での議論をまとめる考えを示しました。
今後は教育課程部会に議論が移り、十年ぶりとなる学習指導要領の改訂案づくりが進められます。道徳を新たな教科とするには時間が不足しており、教科化が見送りとなることはほぼ確実です。
徳育教科化の見送り 特異な価値観押し付け 世論を前に行き詰まる
中央教育審議会(文科相の諮問機関)の専門部会が十五日、「徳育の教科化」を見送る方向で議論を収束したことは、安倍前政権の特異な価値観に立った「教育再生」路線が国民世論を前に行き詰まったことを示しています。
「徳育の教科化」は、安倍前首相肝いりの教育再生会議が今年六月に第二次報告で提唱し、中教審で審議している学習指導要領改定のテーマに、ねじ込んできたものでした。現在、小中学校で週一回行われている「道徳の時間」は、国語や算数のような教科ではなく、教科書や成績評価もありません。教育再生会議は、「すべての子どもたちに高い規範意識を身につけさせる」ためとして、徳育を「従来の教科とは異なる新たな教科」に格上げし、指導内容や教材を“充実”させることを提唱。点数評価はしないとしつつ、記述式などでの評価を検討する含みを持たせていました。
狙いは、国が検定する教科書などで特定の価値観を子どもに押し付けることです。安倍前内閣のもとで教育基本法が改悪され、「国を愛する態度」など二十もの徳目が「教育の目標」に掲げられたことなどからも明らかでした。
日本共産党は、上からの押し付けでなく、国民的討論と合意で市民道徳の規準を確立することを提起してきました。道徳教育については、憲法に基づき、基本的人権の尊重を中心に据え自主的に進めるべきだという立場から、戦前・戦中的な価値観を権力的に押し付けようとする「徳育の教科化」に、きっぱりと反対してきました。マスメディアも「教科にすれば文部科学省による統制が強まり、微妙な価値観を含む道徳教育が硬直し、画一化する懸念がある」(「日経」六月二日付社説)などと批判。中教審会長の山崎正和氏も徳育の教科化は「およそ学校教育にそぐわない」と反対を表明していました。
福田内閣は教育再生会議を存続させ、担当の首相補佐官(山谷えり子参院議員)も留任させましたが、安倍前首相の辞任後会議は開かれず、今後の行方も不透明です。福田内閣は同会議のあり方を含め、安倍「教育再生」路線を根本的に見直すべきです。(坂井 希)
しんぶん赤旗 2007年10月6日
混迷 教育再生会議 担当補佐官は再任だが… 文科相「バウチャー、なじまぬ」
安倍晋三前首相の突然の辞任で、存続が危ぶまれた“安倍氏肝いり”の教育再生会議。福田康夫新内閣では、山谷えり子教育担当補佐官が再任されたものの、閣内から「軽視発言」が続くなど混迷が続いています。
町村信孝官房長官は二十六日の記者会見で、年内に提出する予定だった第三次報告について、「努力目標は十二月らしいですが、充実した報告書をまとめるにあたって、いつでなければならないという会議ではない」と述べ、とりまとめを急がない考えを示しました。
この発言について、教育再生会議事務方は「まだ今後のスケジュールは決めていない。官房長官の個人的な考えとして、年内には間に合わないという一般論を述べたのではないか」と困惑気味です。
二十七日のNHK番組では、渡海紀三朗文部科学相が、同会議が今後議論する重要なテーマに挙げている教育バウチャー(利用券)制度について、「これで学校を選択するといっても地域差がある。義務教育という憲法二六条で保障されている権利が国民に担保されるのか。差ができる心配がある。教育には競争原理になじまない部分もある」と慎重姿勢を見せました。
同番組では、増田寛也総務相も「地方、とくに中山間地域では(バウチャー制度は)まったく考えられない。地域の実情をみてもっと議論する必要がある。地方部では、あそこ(再生会議)でなされている議論でどうかなというのはある」と不信感を示しました。教育バウチャー制度は、生徒数に応じて学校に予算を配分するもので、入学者が少ない学校を予算で差別することにつながり、国民からの批判も多く出ています。
また、自民党参院議員に転じた義家弘介氏が務めていた再生会議担当室長のポストはいまだに空白。「調整はしているが決まってはいない」(事務方)状況です。伊吹文明前文科相が「再生会議が引き継がれなくても困ることはないのではないか」(十二日)と述べるなど、一年前の“熱気”は感じられません。
しかし、再生会議の提言は、教員への統制を強化する教員免許更新制度などがすでに導入されました。提言に盛り込まれた授業時間数一割増や道徳の教科化などを具体化するため、中央教育審議会で議論が進んでいます。教育バウチャー制度、学校選択制の全国的導入などは財界が一貫して求めてきた課題です。
山谷補佐官は二十六日、「福田首相も『社会総がかりの教育再生』を掲げている。方向性はそれほど変わらない」と強調しています。教育再生会議への警戒はひきつづき必要です。
しんぶん赤旗 2007年10月1日
足立区テスト不正 全国的「学力テスト」への警告
東京の足立区教育委員会が、区の学力テストで一位になった小学校で不正があったことを認めました。
校長と五人の教員がテスト中答案をみてまわり、誤答をしている児童に指で「トントン」とたたいて示唆をあたえたり、学習に遅れのある児童の答案を全体集計から除外するなどしていました。平均点をあげる工作です。
徹底した平均点競争
区教委は個々の教員が不正をはたらいたと強調しますが、それは問題のすり替えです。問題の核心は、学校ごとに平均点を公表し競争させる「学力テスト体制」が、同区の教育をゆがめたことです。
同区は四年前にはじまった都のテストで二十三区中最下位になり、その対策として、小二から中三までを対象にした区のテストをはじめました。平均点を学校ごとに公表して学校選択の参考とする、今年度からはテストの成績によって学校に配分する予算に差をつける―徹底した平均点競争が導入されました。
区教委の号令で、学校は過去問題の練習に明けくれました。テスト当日の四月十九日まで、新学期の内容を授業しない学校もあります。
テストで測れるのはせいぜい学習内容の一部です。それに授業がふりまわされれば、学力そのものがつかなくなります。しかもテスト体制で放置されるのは、本来もっともていねいに教えられるべき、学習の遅れがちな子どもです。
さらに、昨年の教育基本法国会で日本共産党が指摘したように、テスト対策で、運動会や自然教室などが中止・短縮されています。子どもが育つ土台をやせ細らせる愚行です。子どもたちのストレスはつよく、保健室に駆け込む子どもが一日百人をこえる学校もあるといいます。
教員自身も被害者です。校長は、平均点をどれだけ上げるのか目標を示せと区教委から指導され、数値で徹底的に管理されるようになりました。校長は、同様のことを教員にします。教員は異議を述べれば「君は異動してもらう」と脅されます。こうした体制こそ不正をうんだ温床にほかなりません。
この問題は全国的な問題です。政府はこの四月、国民の反対をおしきって全国学力テストにふみきりました。政府のねらいは、足立区のような「学力テスト体制」を日本全体にひろげることです。日本共産党は、次のことをつよく主張します。
第一に、全国学力テストの結果を足立区のような形で公表して、全国の学校を平均点競争にかりたてることをやめることです。全国学力テストの結果発表は十月です。政府の規制改革・民間開放推進会議は「学校ごとの結果公表」を主張しましたが、それは文科省の通知すら否定している乱暴な主張です。学校ごとの公表は自治体の権限であり、自治体は公表を見合わせるべきです。
第二に、そもそも必要のない全国学力テストをやめることです。学力の全国的調査なら数パーセントの抽出調査で十分です。全国学力テストに使われている数十億円もの税金は、少人数学級の実施にまわすべきです。
子どもの成長を中心に
政府は学力以外でも、数値目標で教育をしばろうとしています。しかし、それによって傷つくのは子どもたちです。日本共産党は国民のみなさんと力をあわせて、競争と統制の「教育改革」をやめさせ、子どもの成長を中心にすえた教育を築くために全力をあげます。
しんぶん赤旗 2007年8月4日
特異な価値観 押しつけ 「学テ」で競争に駆り出す 安倍首相の 「教育再生」
安倍晋三首相は参院選の中で、「すべての子どもに高い水準の学力と規範意識を身につける機会を保障するのが私の教育再生」と各地で演説しています。その内容は子どもと親の願いにこたえたものでしょうか。
先行実施で早くも弊害
安倍自民・公明政権が「学力向上」策として四月に実施したのが、全国いっせい学力テストでした。「教育にもっと競争原理が必要だ」(中山成彬元文科相)として導入したもので、学校や教員、子どもを競争させれば学力が向上するという考えにもとづきます。
安倍首相は自著で「保護者に学校選択の指標を提供できる」(『美しい国へ』)と主張。テスト結果を全面的に公表し、学校選択制を全国に広げることをねらっています。
しかし、テスト結果公表と学校選択制、テスト結果を反映した予算配分というやり方を、国に先駆けて実施した東京都足立区では、早くも弊害が現れました。テスト中に教師が間違った答えを書いている子どもに合図するなどの不正や過去の問題を繰り返し練習するなど、本来の学力向上とは無縁な事態を招いています。東京都内では学校選択制の結果、新入生が一人も来ない学校が生まれています。
安倍首相が手本とするイギリスでは、テスト結果公表と学校選択制により、人気校周辺の不動産価格が高騰。成績の悪い学校は低所得者層の集まる地域に取り残されるなど「教育の階層化」が生じ(阿部菜穂子著『イギリス「教育改革」の教訓』)、安倍首相のいう「すべての子どもに高い学力」とは逆の状況が起きています。
「道徳」を成績評価
競争原理の持ち込みとともに、安倍首相が売りにするのが「規範意識の徹底」です。「新しい教育基本法には道徳の精神を書き込んだ。国や地域を愛する心をしっかりと書き込んだ」ことを実績とアピールしています。
「愛国心教育」を誇る安倍内閣のもとで起きたのは、「特定の価値観」の公教育への持ち込みでした。
文部科学省は三月、日本青年会議所の「近現代史教育プログラム」を「新教育システム開発プログラム」の委託事業に採用しました。教材として使うDVDは、日本のアジアへの侵略戦争を「愛する自分の国を守りたい、アジアの人々を白人から解放したい」という戦争だったと描いたもの。「戦後植えつけられた、贖罪(しょくざい)国家意識を払しょくするため」(日本青年会議所の池田佳隆前会頭)という特異な内容です。
日本共産党は国会での追及と草の根の力で、日本青年会議所が、文科省の委託事業を辞退するまでに追い込みました。
しかし、安倍首相の直属機関「教育再生会議」は、道徳を「教科」にすることを打ち出し、検定教科書や成績評価によって特定の価値観を子どもたちに注ぐ仕組みをつくり、戦前・戦中の非民主的な価値観の押し付けをねらっています。
民主党は、教育基本法の改定で、政府案以上に「愛国心」を盛り込んだ対案を出しました。競争教育への対決軸もありません。
教育への国家介入と競争教育に真正面から対決しているのは日本共産党です。参院選の公約にも、憲法の平和・人権・民主主義の原理にたった教育を掲げ、子どもの成長を中心にすえた教育の実現に力を尽くすことを訴えています。(西沢亨子)
しんぶん赤旗 2007年7月27日
首相は教育「再生」言うが 自民公約に「予算増」なし
教室ぎゅうぎゅう 先生くたくた さらに教員1万人削減を計画
安倍首相は、参院選の中で「教育再生は安倍政権の最重要課題」とさかんにアピールし、自民党の公約の二番目に「教育を再生する」とうたいます。しかし公約には父母や関係者の願いである教育予算の増額については何の記述もありません。
予算比率が最低
教育条件でみると、日本は先進国で最低水準にあります。
GDP(国内総生産)に対して、どれだけ教育に公的予算を使っているかの比率を比べたOECD(経済協力開発機構)の調査(二〇〇三年)で、日本は3・5%と加盟三十カ国のなかで最下位。OECD平均の七割以下で、アイスランド(7・5%)、デンマーク(6・7%)など北欧諸国の半分程度です。
その結果、一クラスの子どもの人数は平均で小学校二十九人、中学校三十四人と、韓国に次ぐすし詰め状態。ヨーロッパ十九カ国の平均は小学校二十人、中学校二十三人で、一クラスの上限人数は三十人以下が当たり前です。いまだに四十人が上限の日本は、国際水準からかけ離れています。
文部科学省は“個に応じた教育”だとして、習熟度別授業を強引に広めていますが、学習効果が疑問なうえ、子どもに劣等感を抱かせたり、時間割の調整、打ち合わせの増加などで教員の多忙化に拍車をかけています。
文科省の調査で、小・中学校教員の一日の平均労働時間は十時間を超え、一カ月の残業時間は過労死ラインを超える九十時間に上ります。しかも、子どもとかかわるのでなく、管理職への報告書づくりなどに忙殺され、精神疾患による休職者数は十三年まえの四倍近くなっています。
広田照幸・日大教授(教育社会学)は、「教員や財政支出を減らし、金をかけずに『改革』したしわ寄せが教育現場にきている。教育に金を出し教員を増やすことこそ必要だ」といいます。
少人数学級こそ
しかし、安倍自公政権に、教員や教育予算増額の方向はまったくありません。〇五年の行政改革推進法により、「教員一万人削減計画」を決め、教育条件をいっそう下げようとしています。安倍首相は「教員の数と学力との関係は必ずしも一致しない」(参院文教科学委員会、五月二十二日)などと、予算、教員増に背を向けています。
日本共産党は、学力保障にも一番有効な少人数学級を国の制度で実施するよう求めるとともに、地方自治体では住民とともに運動して、地方独自の少人数学級実現の力となってきました。
参院選では、世界最低水準の教育予算をひきあげ、手厚い教育条件を実現することを公約に掲げ、「三十人学級」の実現や、就学援助への国庫負担金制度復活・抜本的増額などを求めています。
しんぶん赤旗 2007年7月24日
派兵延長・教育3法 成立 与党強行 戦争する国作り狙う 会期12日延長与党方針決定
自民、公明両党は二十日、参院本会議で自衛隊のイラク派兵を二年間延長するイラク特措法改悪案と、教育に対する国家統制を強化する教育三法案の採決を強行し、両法案を賛成多数で可決、成立させました。日本共産党と民主、社民、国民新の各党が反対しました。
両法案は、安倍晋三首相の「戦後レジームからの脱却」や戦争する国づくりに直結するもの。昨年の臨時国会の最終盤に参院本会議で、教育基本法の改悪と自衛隊の海外派兵を本来任務に位置付ける「防衛省」法を、一日のうちにごり押ししたのに続く暴挙です。
民主党は、参院の委員会で採決を強行した自民党の田浦直外交防衛委員長と狩野安文教科学委員長の解任決議案を相次ぎ提出。午後一時からの参院本会議で与野党の攻防が続きましたが、両決議案は、与党の反対多数で否決されました。日本共産党は決議案に賛成しました。
一方、衆院でも午後一時から、民主、社民、国民新の野党三党が提出した河野洋平議長不信任決議案の採決が行われ、与党の反対多数で否決。日本共産党は賛成しました。
これに先立ち、自民、公明両党の幹事長、国対委員長らは都内で会談。二十三日までの国会会期を七月五日まで延長する方針を決めました。
日本共産党はこれまで、イラク特措法延長は、イラク国民に多大な犠牲をもたらした米国のイラク侵略戦争をいまだに支持し続ける日本政府が、「人道復興支援」の名のもとで、自衛隊による米軍の戦争支援を続けるためのものだと批判。
教育三法は、教育に対する国家統制の強化をはかり、これまで以上に教育現場を委縮させる内容で、学校、教職員、子どもたちにさらなる困難を押しつけるものだと反対してきました。
--------------------------------------------------------------------------------
国会前 緊急抗議行動
「採決強行を許さない。参院選で審判を下そう」。唱和が国会前で響き渡りました。教育改悪三法とイラク特措法改悪が強行可決された二十日夕、教職員や市民ら百五十人が緊急の抗議行動を行いました。
全労連の小田川義和事務局長は「国民が求める年金や貧困と格差の問題に背を向け、悪法の強行をくりかえす政党に参院選で審判を下そう」と訴え。「教育改悪三法を学校現場に持ち込ませないたたかいをすすめる」(米浦正・全教委員長)「参院で審判を下すのが私たちのやるべきこと」(玉田恵・新婦人事務局長)との発言に、「よし」と声が飛びました。
日本共産党の参院議員が駆けつけ、井上さとし参院議員は「数の暴力で悪法を押しつける勢力に平和も教育も語る資格はない」と批判。強行を重ねるのは国民との矛盾が広がっているからだと指摘、「悪法を許さないたたかいをさらに広げ、参院選で審判を下そう」と呼びかけました。
行動は、国民大運動実行委員会、安保破棄中央実行委員会、中央社会保障推進協議会が呼びかけました。
しんぶん赤旗 2007年6月21日
教育3法成立 憲法を力に国家介入を許さず
自民、公明の与党が強行成立させた改悪教育三法は、教育への国家介入を強める改悪教育基本法の具体化をはかるものです。安倍政権が、教育基本法改悪につづき教育三法でも、反対や慎重審議を求める国民の声を無視して強行成立させたことは、民主主義にも、理解や納得を重んじるべき教育の条理にも反するものとしてきびしく抗議します。
競争原理との矛盾
改悪教育基本法の成立とその具体化をはかるという安倍政権の「教育再生」は、改めて国民との矛盾を深めています。
具体化の一つ、四月に実施された「全国いっせい学力テスト」(全国学力・学習状況調査)は、学校の序列化につながると批判されてきました。
自治体のなかには、“教育への競争原理の持ち込みと子どもたちの豊かな人間関係の土台づくりは両立しない”と、全国いっせい学力テストに参加しなかった教育委員会もあります。
実際、テストの点数をあげようと、町ぐるみで事前対策にあたる教育委員会が出るなど弊害も出ています。しかも、民間企業に委託された採点作業で、解答の正誤の判断基準が変わる混乱が起こっています。作業にたずさわる三千人の労働者のうち、二千七百人が派遣労働者です。日本共産党の井上さとし参院議員の質問に、伊吹文明文部科学相も実態を認め、「不利益がないよう、もう一度解答を見直すよう指示している」と、答えています。
テストの一つひとつの解答に、子どもたちの思いや考えがつまっています。その採点作業を、学校現場や教育の専門家と切り離されたところで行っているために、混乱が起きています。点数のみを競い合い、学校の序列化のためにおこなわれている全国いっせい学力テストがもつ問題点の一つが露呈しました。
成立した教育三法は、義務教育の目標に「愛国心」などを持ち込み、教員への統制を強化し、自治体の教育委員会にたいする文部科学相の「指示」「是正」の権限を盛り込んでいます。国家統制を強めるやり方に、与党推薦の公述人も「現場は抑圧されることが強くなり、意欲をなくしてしまうのではないか」とのべています。教育の自主性、児童生徒の内心の自由という教育にかかわる憲法の原則を踏みにじる教育三法に教育関係者は、強い懸念をもっています。
安倍晋三首相は十九日の参院文教科学委員会で自民党議員から「戦後レジーム(体制)からの脱却」について問われて、「国を愛する心を子どもたちに教えていかなければ、日本はいつか滅びてしまう。今こそ教育再生が必要だ」とのべています。
安倍首相が「教育再生の参考にする」といって、文部科学省が委託事業として採択したのは、「日本の戦争はアジア解放のためだった」とする靖国神社の主張とまったく同じ戦争観にたつ「靖国DVD」でした。過去の日本やドイツの戦争を侵略戦争と認めることは戦後の国際社会の土台であり、根本原則です。「靖国DVD」は、植民地支配と侵略への反省をのべた村山首相談話など政府の立場にも反し、批判の声があがっています。
子どもの成長を中心に
教育三法は成立しましたが、私たちの手には憲法があります。日本共産党は、参議院選挙政策でものべているように、国が介入する競争・ふるいわけの教育に反対し、憲法に立脚した教育をすすめることを強くよびかけていきます。
しんぶん赤旗 2007年6月21日
「たしかな野党」として、くらしと平和をまもりぬきます
──2007年参議院選挙にのぞむ日本共産党宣言(12の重点政策)
【10】改悪教育基本法にもとづく教育への国家介入に反対し、子どもの成長を中心にすえた教育を実現します。安心して子育てできる条件を整えます
(1)国が介入する競争・ふるいわけの教育に反対し、憲法に立脚した教育をすすめます
学力問題やいじめの問題、貧困と格差の広がりがもたらす教育現場への影響──子どもと教育をめぐる困難の打開が痛切にもとめられています。
ところが安倍内閣は、こういう深刻な問題にはまともに目を配らず、改悪された教育基本法にそって、教育への国家介入を強めることに力をそそいでいます。4月には、学校の序列化につながる「全国いっせい学力テスト」の実施を強行しました。こんどの国会では、義務教育の目標に“愛国心”などをもちこみ、教員への統制を強化し、自治体の教育委員会にたいする文科大臣の「指示」「是正」の権限を盛り込むことなどを内容とする「教育3法」の成立を押し切ろうとしています。
さらに自公政権は、「徳育」という新しい教科を設け、検定教科書によって特定の価値観を子どもたちに押しつけようとしています。これは思想・良心の自由に反する重大な問題です。しかも、安倍首相が押しつけようとしている価値観は、「戦後レジーム(体制)からの脱却」という首相の主張にそった、戦前的な価値観です。安倍首相が「教育再生の参考にする」といい、文科省が予算をつけた委託事業では、「日本の戦争はアジア解放のためだった」という、靖国神社の主張とまったく同じ戦争観を中学生におしえこむアニメ(DVD)までつくられています。
その一方で安倍内閣は、教育予算を引き上げ、教育条件を整備することに背をむけています。しかし自公政権の下で日本の教育予算の水準は、先進国(OECD=経済協力開発機構=加盟)30カ国中最下位、平均の7割以下しかなく、教育条件も劣悪なものです。そのうえ安倍内閣は、「教員1万人削減計画」など教育条件をさらに切り下げようとしています。
日本共産党は、日本の教育が抱える深刻な問題を解決するために、保護者、教職員をはじめ、国民のみなさんと力をあわせます。
──憲法の平和・人権・民主主義の原理に立脚した教育をすすめ、教育内容、方法への国の不当な介入に反対します。思想・良心・内心の自由を侵す“愛国心”の押しつけ、「君が代・日の丸」の強制をやめさせます。侵略戦争・植民地支配を美化・肯定する教育にきびしく反対します。
──教育をゆがめる全国いっせい学力テストの継続・実施に反対します。子どもたちを競争に追い立て、ふるいわけする教育の是正に取り組みます。
──いじめ問題の根本にある、競争教育や管理一辺倒の教育をただし、人間を大切にする教育の実現をめざします。教員にいじめを見ないように仕向ける「いじめを5年で半減」などの数値目標化を是正します。
──日常の授業など学校生活の全体を子どもの人権、個人の尊厳を尊重しあうものにして、子どもたちが健全で豊かな市民道徳を身につけられるようにします。
──少人数学級を実施し、すべての子どもがわかるまで丁寧に教えられるようにします。
──貧困と格差から子どもと教育を守ります。就学援助への国庫負担金制度を復活し、抜本的に増額します。高校、大学、専門学校などの授業料負担の軽減措置の大幅拡大、無償の奨学金制度の創設で、授業料が高くて進学をあきらめる青年をださないようにします。
──教職員・保護者・子ども・住民が学校運営に参加できるようにし、風通しのよい、みんなでつくる学校をめざします。教員の「多忙化」を解決します。
(2)安心して子育てできる社会にするために、くらしの安定と経済的保障を充実させます
子育てへの不安と負担が大きく広がっています。若い世代で増大する不安定で低賃金の非正規雇用や長時間労働が、子育てへの大きな障害になっています。増税・社会保障切り捨てのなかで、出産費用、子どもの医療費、保育料、教育費など、経済的負担も増えつづけています。「仕事と育児の両立」「子育てへの負担の軽減」──誰もが言いますが、現実には、これと正反対の政治がすすめられています。子育てへの不安と負担を軽減するために、政治の姿勢を転換させていきます。
男性も女性も仕事と子育てを両立できる働き方にしていきます……長時間労働の是正、正規雇用の拡充とパート・派遣社員への均等待遇の確立、最低賃金の引き上げ、子育て中の夜間・休日勤務、単身赴任の制限などをすすめます。
女性が結婚、出産後も安心して働き続けられるように、男女賃金格差の是正、妊娠・出産による解雇や不利益な取り扱いをなくします。育児休業を男女ともに取得しやすいように、所得保障6割への増額、派遣・パート労働者への拡大、中小企業への支援、「パパクォータ制度」の導入などをすすめます。
子育てへの負担を軽減します……児童手当を、小学六年生まで月額一万円に倍増するとともに、支給対象の18歳までの引き上げをめざします。子どもの医療費無料化を国の制度にするとともに、出産費用の軽減、不妊治療の保険適用をすすめます。保育料・幼稚園教育費を軽減します。
政府が、保育所への「待機児童を3年でゼロにする」と公約して5年経ちますが、待機児童はゼロどころか3万9千人です。公的保育の切り捨てをやめ、「保育所整備計画」をつくって保育所の拡充・整備をすすめます。学童保育を量質ともに整備します。
出産直後からの子育ての不安や児童虐待、子どもの障害などの問題にこたえるため、小児病院、児童相談所、保健所、子育て支援センターなどの相談・支援体制を拡充します。
憲法を生かして、一人ひとりを大切にする教育をすすめます
──教育への国家統制をやめさせ、憲法が保障する教育の自由・自主性を守ります
──「競争原理」のもち込みをやめ、人間的な連帯や助け合いを育くむ教育をきずきます
──“世界最低水準”の教育予算をひきあげ、手厚い教育条件をととのえます
──「靖国DVD」「従軍慰安婦削除」「沖縄戦記述」など侵略戦争を正当化する教育を許しません
教育再生会議第2次報告 特定の価値観を子どもに押しつけるもの 石井郁子党国会議員団・文教科学部会長が談話
日本共産党の石井郁子党国会議員団・文教科学部会長は一日、教育再生会議第二次報告について次の談話を発表しました。
一、報告が「徳育の教科化」をうちだしたことは重大です。これは結局、国が検定する教科書などで特定の価値観を子どもに権力的に押しつけようというものであり、憲法が保障する「思想、良心の自由」に真っ向から反します。
しかも、安倍政権が押しつけようとしているものは、この間の「靖国DVD」問題で明らかなように、「日本の戦争はアジア解放のためだった」などのきわめて特異な価値観です。戦前型の教育の復活ともいうべき「徳育の教科化」につよく反対します。
市民道徳の教育は、憲法にもとづき、基本的人権の尊重を中心にすえ、自主的にすすめるべきです。
一、わが国の教育予算の水準は、OECD(経済協力開発機構)三十カ国中最下位です。ところが、報告は「教育予算は、効率化を徹底」するとして、教育予算の引き上げに背をむけ、差別的な配分をすすめようとしていることは許されません。
一、報告は「授業時数の10パーセント増」をいいますが、授業時数をふやせば学力が向上する科学的根拠はありません。それは、“学力世界一”のフィンランドの授業時数が現在のわが国より短いことからも明らかです。学力保障に一番有効な施策が少人数学級であることは周知の事実であり、そうした施策こそすすめるべきです。
一、報告は「教員評価をふまえたメリハリのある教員給与」をうちだしました。しかし、上からの評価によって給与を上げ下げすることは、教員の目を子どもでなく、行政や管理職にむけさせ、教員への権力統制をつよめるものです。
一、報告は大学問題に言及しましたが、世界できわだって高い授業料や貧弱な勉学・研究条件の元凶となっている、極端に低い大学予算の問題にはふれませんでした。その一方で、競争原理の徹底と再編統合をうちだしたことは、大学の健全な発展の基盤をほりくずすものです。
一、教育再生会議は、委員に教育研究者を加えず、会議はマスコミ非公開という、他の審議会では考えられない運営がつづいています。こうした会議が、安倍首相の戦前回帰的な発想や財界の競争至上主義の考えにそって、「教育再生」を考案しても、教育がよくなるどころか、現場を混乱させるだけです。憲法と教育の条理に立脚して、ひろく国民の英知をあつめ、教育を抜本的に改革する方向に転換するべきです。
しんぶん赤旗 2007年6月2日
侵略美化 靖国DVD告発に反響 石井質問 韓国TVが紹介
日本の侵略戦争を美化する日本青年会議所製作の“靖国DVD”が学校現場に持ち込まれている―このことを告発した日本共産党の石井郁子衆院議員の国会質問(十七日)が反響を広げています。「学校で使うな」と各地で教育委員会への申し入れがおこなわれる一方、韓国のテレビがこの問題を取り上げるなど、国際的にも波紋を呼んでいます。
「誇り」と題するDVDはアニメを通じて、日本の戦争を「自衛のための戦争」、アジア解放のための戦争だったと主張し、靖国神社の遊就館が展示している内容と基本的に同じものです。これを教材にした教育事業が文部科学省の委託事業に採用され、全国の学校で実施されようとしています。
二十二日には韓国のニュース専門のケーブルテレビ局が「日本文科省、戦争美化の授業を委託」とのタイトルで“靖国DVD”を批判する番組を放送し、石井議員の国会質問も紹介しました。
番組は「日本の右翼勢力が、誤った歴史観を子どもたちに注入し、これを政府が事実上あおっており、子どもたちの歴史観が危険な段階に達するとの指摘が出ています」とコメントしました。
新潟、富山、高知では日本共産党が県や市の教育委員会に、このDVDを学校に持ち込ませないように申し入れ。新潟県の義務教育課長は「私も元校長なので、話の通りだとすれば、私が校長なら使わない」と答えました。
文科省の本質出たと話題に
インターネット上でも話題になり、多くのブログ(ネット上の日記)が取り上げています。
「文部科学省のホンネというか、本質が出た」(愛知県の男性)、「まさかこんなものに国の予算がつくなんて」(大阪の工業デザイナー)、「アジア解放のための戦争だって? もしこんな事をほかのアジア諸国で発言したら笑いものです」(米国在住)。
国会の石井室や党本部にも問い合わせや激励の電話が連日寄せられています。
しんぶん赤旗 2007年5月27日
教育3法参院審議 統制強化ではなく教員増やせ
教育への国家統制を強める改悪教育基本法を具体化する教育三法(学校教育法、教員免許法、地方教育行政法)改定案の参議院での本格的な審議が、文教科学委員会で始まりました。
安倍内閣は、教育三法改定案で教育にたいする国の関与と統制を強化する一方で、世界からみてもあまりにも貧弱な日本の教育予算の現状を改善しようとはしていません。
国民の願いに反する
衆議院の審議でも、参考人から相次いで出されたのが、教職員の多忙化解消のための教育予算の大幅な増額です。「もっと子どもたちと向き合える時間がほしい。子どもたちのために授業準備がしたい」という教職員の努力と国民の願いに、政治がどうこたえるかが問われています。
日本は、世界の主な資本主義国三十カ国が集まっているOECD(経済協力開発機構)のなかで、経済力(GDP、国内総生産)にたいする教育予算の割合がもっとも低い国です。日本共産党の井上哲士参院議員が、「世界水準に引き上げるべきだ」と迫ったのにたいし、安倍晋三首相は、GDP比で少ないと認めたものの「単純には比較できない」といって、引き上げを否定しました。
保護者も教育関係者も圧倒的に支持している少人数学級を国の制度として実現する点についても、安倍首相は「全国一律ではなく」「画一的ではなく」などといって否定しました。
自治体独自の少人数学級は、東京を除く四十六道府県に広がっています。国民の要求が高く、教育効果も試されずみです。二年前までは、文部科学省の中央教育審議会も文部科学相も少人数学級の必要性を認めていました。この少人数学級実現の道を断ったのが、首相直轄の経済財政諮問会議であり、昨年の行革推進法です。五年間で一万人もの教職員の削減をしようというのです。
首相が英断すれば、国の制度として少人数学級の実現への道が開けるのに背を向けています。世界一の教育をめざすといいながら、貧弱な教育予算の水準は引き上げない安倍首相の「教育再生」は、国民の願いと離反しています。
衆議院の審議で浮かび上がったのは、改悪教育基本法をうけて国家統制の強化をはかり、これまで以上に教育現場を委縮させ、さらなる困難を押し付けることです。教員組織を大きく変え、これまでの校長、教頭、教諭という組織から、校長、副校長、主幹教諭、指導教諭、それに教諭という、職階による上意下達の体制をつくるのも、その一つです。免許更新制による官製研修の押し付けも、教員の資質向上につながらないばかりか、教員自身の自主研修を困難にします。
「我が国と郷土を愛する態度」など、多くの徳目を義務教育の目標として掲げ、その達成を義務づけるのは、国が特定の価値観を子どもたちに強制するもので、憲法に保障された内心の自由を侵害するものとして許されません。そればかりか、日本が過去にやった植民地支配や侵略戦争を「正しかった」と美化する「靖国史観」を学校現場に持ち込む動きもあります。「愛国心」の強制がこうした危険な動きに拍車をかけているとすれば重大です。
参院で廃案に追い込もう
国民も教育関係者も強く望み、教育効果も高い世界でも当たり前となっている少人数学級に背を向けて、子どもや学校に命令だけを強めるような「教育再生」では、教育はよくなりません。教育三法改定案は廃案にすることが必要です。
しんぶん赤旗 2007年5月23日
憲法施行60年 世界に誇る九条守ってこそ
日本国憲法が施行されて、きょうで六十年を迎えました。
憲法が施行された一九四七年は敗戦の翌々年です。前文に「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」とあるように、憲法は侵略戦争と暗黒政治への反省の中で誕生しました。
以来六十年、憲法がよってたつ主権在民、恒久平和、基本的人権の保障、議会制民主主義、地方自治などの原則は国民の手で守り抜かれてきました。改憲タカ派の安倍内閣の下で、九条をはじめ改憲の動きが強まるなか、この憲法の先駆的意義を広げることが、いよいよ重要です。
戦後の息吹のなかで
六十年を迎えるにあたり、現憲法が審議された衆院の本会議、委員会、小委員会の会議録を読み直してみました。当時の吉田茂首相が次のように発言しています。
「本改正案の基調とする所は、国民の総意が至高のものであるとの原理に依って諸般の国家機構を定め、基本的人権を尊重して国民の自由の福祉を永久に保障し、もって民主主義政治の基礎を確立すると共に、全世界に率先して戦争を抛棄(ほうき)し、自由と平和を希求する世界人類の理想を国家の憲法条章に顕現するにあるのでありまして…」(原文はカタカナ)
「国民の総意が至高」というだけで「主権在民」とは明言しない政府案のあいまいさは、審議のなかで日本共産党が追及し、他の党も、「主権が国民に存することを宣言」するとの修正を受け入れました。日本共産党が敗戦から三カ月後に「主権は人民にある」と明記した「新憲法の骨子」を発表し、国民の間でも民主的な憲法を求める息吹が広がっていました。
注目されるのは、戦争を放棄し、戦力は持たないと宣言した憲法九条の論議です。日本共産党は「他国征服戦争に反対する」「他国間の戦争に絶対参加しない」などの明記を求めました。アジアと世界を侵略した誤った歴史は二度と繰り返さないとの反省をこめ、世界でも先駆的な憲法の条文を練り上げた制憲議会の意気込みは、会議録でのやりとりを通じても読み取ることができます。
安倍首相はその憲法を、「二十一世紀の時代の大きな変化についていけなくなっている」と非難し、九条を変え、「自衛軍」を公然と持ち、「集団的自衛権」を行使してアメリカと一緒に「海外で戦争のできる国」にしようとしています。安倍首相は侵略戦争を肯定する改憲タカ派です。侵略戦争を肯定する勢力が九条改憲を推進するのは、日本国憲法の精神を根本から踏みにじり歴史に逆行するものです。
憲法九条は、日本の平和を守る重要な力になってきただけでなく、世界の平和の秩序を作る上でも先駆的な意義を持っています。いまや世界で、戦争ではなく話し合いで国際紛争を解決していこうというのが大勢になっています。九条改憲は、こうした世界の流れにも、真っ向からそむくものとなるのは明白です。
国民は九条改憲望まず
制定以来六十年間、改憲を許さず、日本国憲法を守りぬいてきたのは国民のたたかいです。近年改憲に反対し、九条守れの世論と運動が広がる中で、改憲を主張してきた「読売」の調査でさえ、改憲に賛成という回答が減り、半数をきりました。九条守れはどの調査でも多数です。
憲法六十年を、草の根の力をさらに広げて改憲を阻止し、世界に誇る憲法を守る大事な節目にするために、日本共産党は国民のみなさんと共同して、力をつくす決意です。
しんぶん赤旗 2007年5月3日
主張 教育3法 国家が子どもを踏みつぶす
衆議院教育再生特別委員会で審議中の教育三法案は、昨年十二月に自民、公明両党が強行成立させた改悪教育基本法の具体化をはかるためのものです。
憲法の原則に反する
教育とは、子どもとの信頼関係を基礎とした文化的営みです。教育への国家統制の具体化は、教育の条理に反するものであり、国民の思想・良心の自由を保障し、教育の自主性を保障した日本国憲法の原則と相いれません。
昨年の教育基本法の論戦では、日本共産党の追及に、政府も、「憲法上、教育内容への国家の関与はできるだけ抑制的に」と認めています。
教育三法案は、「学校教育法の改正」で、義務教育の目標に「国と郷土を愛する態度」などを加え、子どもたちに特定の価値観をおしつける。「教員免許法・教育公務員特例法の改正」で、教員免許状に十年の有効期限をつける。「地方教育行政法の改正」で国の地方への権限をつよめ、私学の自主性を侵害する―。こうした具体化が、「国の権限は強まらない」どころか、国家統制につながることは明らかです。
二十六日の特別委員会では参考人質疑がおこなわれ、四人の専門家がおもに教員免許更新制について意見をのべました。免許更新制は、十年の有効期間を定め、三十時間の講習終了を免許更新の条件としています。
野党推薦の参考人がのべたように教員の身分は不安定になり、免許失効の不安にさらされ、自らを多忙へと追い込んでいくことになります。
国の主導による免許更新講習や研修は教員に必要な資質・能力の画一化につながる懸念が出されています。与党推薦の参考人も「講習が国主導で画一的ということになると、自主性、自律性がおかしくなる」とのべました。自主性、自律性は教師の専門職としての命です。教師の専門性には「自主性をつつみこんでいる」(与党推薦の参考人)といいます。
研修の量は増えても、自主的な研修、学び合いの機会が減少すれば専門職としての教師の質の低下につながりかねません。「教師への信頼は具体的な教育実践と地域や保護者との交流で獲得されるべきもの」であり、免許更新で信頼は得られないという、参考人の意見に耳を傾ける必要があります。
いまでも教員は授業の準備に十分な時間がとれず、子どもたちと向き合う時間がとれないほどに多忙だと、政府も認めざるを得ません。免許更新制の導入で、教師から子どもたちとの交流の時間をさらに奪うことになるなら、国家が子どもの学ぶ権利をふみつぶすことになります。
学校現場がかかえる学力やいじめの問題、教師の多忙化を解決する有効な方法はあります。三十人以下学級の実施をはじめ、国際的にみても遅れている教育条件を抜本的に整備することです。
政府がやるべきは、教育現場から批判があがっている改悪教育基本法の具体化をはかることではなく、OECD(経済協力開発機構)参加国最下位の教育予算を抜本的に引き上げることです。
国家統制の具体化廃案に
改悪教育基本法は成立した直後の昨年十二月二十二日に公布・施行されましたが、実効性は教育三法に委ねられています。教育三法案を廃案にして、改悪教育基本法の具体化を阻止しましょう。
子どもの未来のために、教育の自由と自主性を保障した憲法に依拠したたたかいを広げるときです。
しんぶん赤旗 2007年4月28日
全国学力テスト 参加押し付けと序列化やめよ
文部科学省は二十四日、小学六年と中学三年のすべての子どもを対象に、全国一斉に学力テスト(全国学力・学習状況調査)を実施する予定です。
全国学力テストは、昨年十二月に自民・公明両党が強行した改悪教育基本法にもとづいて実施されるものです。学校や子どもたちの競争をいっそう激しくして、「勝ち組」「負け組」にふるいわける教育を地方に押し付けようとしています。それは、二〇〇四年十一月四日の経済財政諮問会議で当時の中山文部科学相が「競争意識の涵養(かんよう)」をあげて全国学力テストの実施をかかげたことでも明らかです。
競争教育に広がる批判
日本共産党の石井郁子議員が衆院本会議(十七日)や教育再生特別委員会(二十日)での質問でも取り上げたように、学校と子どもの「序列化」という全国学力テストのねらいは、教育の本来のあり方と矛盾します。
全国の市町村教育委員会のなかで唯一全国学力テストへの不参加を表明している愛知県犬山市教育委員会は、「教育に競争原理を持ち込めば、子どもや教師の社会に格差が生まれ、豊かな人間関係を育(はぐく)む土壌をなくしてしまいます」と保護者用チラシで説明しています。
少人数による学び合いの授業を積極的にすすめ、すべての子どもの人格形成と学力保障に全力を注いできた十年に及ぶ成果に立脚して、「競争原理と犬山の教育理念は相いれない」と、全国学力テストへの不参加を決めました。
犬山市の市長は、全国学力テストに賛成の立場ですが、参加するかどうかを決めるのは市町村の教育委員会の独自の権限です。市長も「学力テストや教育のあり方について、これほど真剣に議論した教育委員会は恐らく他にはないだろうと、素直に認めたいと思います」と広報(四月十五日号)でのべています。
政府は、「学力の向上」をめざして全国学力テストを実施するとしています。しかし、「序列化」や過度の競争で学力は向上するどころか、子どもたちが傷つき、学ぶ喜びが奪われています。
「競争は教育の世界で否定すべきだ」とする意見が全国学力テストに賛成する専門家からも出されています。「一部官庁は、結果を公表し、学校を競争状況に放り込んで活性化を図る民間企業的政策を求めるが、教育の世界の中では否定すべきこと。教育は製品とは違い、公共性を持つ」(「東京」四月十七日付)と指摘しています。
全国学力テストでは、国語と算数・数学のテストとともに、学校と子どもにたいして、家庭・学習状況についての多数の質問が用意されています。全国学力テストの回収、採点、集計、発送などの業務は、受験産業に丸投げされています。
子どもの個人情報や学校情報が受験産業に握られることにたいして、保護者や市町村教育委員会のなかに不安が広がっています。
学校ランキングに反対
安倍晋三首相は国会答弁で、「個々の市町村名や学校名を明らかにした結果の公表は行わない。学校間の序列化や過度の競争をあおらないよう配慮する」とのべました。しかし、これまで自らの著書では結果の公表を主張してきました。
日本共産党は、「いっせい地方選挙にあたっての基本政策」でのべているように、教育をゆがめる全国学力テストへの参加の押し付けをやめさせ、点数公表による学校ランキングに反対をつらぬきます。
しんぶん赤旗 2007年4月23日
主張 教育関連法案 改悪教育基本法の具体化やめよ
改悪教育基本法を具体化するための法案(学校教育法など四つの法律の改定)が今月中に国会に提出されようとしています。安倍首相の性急な指示によるものです。
検討されている法案は、国の権限をつよめ、徹底した教員統制をはかり、「愛国心」教育など特定の国家観に基づいて、子どもを鋳型にはめこむ流れをつくろうというものです。
教員、子どもへの命令法
安倍首相は、反対論がつよく中央教育審議会では結論が出なかった、文部科学大臣の教育委員会への関与を、法案に盛り込むように指示しました。これは、教育委員会に今日なおつよく残る、上の指示優先、子ども・住民不在の風潮を助長するだけです。
いま教育委員会に必要なのは、上からの圧力ではなく、子どもや保護者、教職員、住民の意見をくみとる民主的な姿勢です。
首相は、子どもの生命等にかかわる緊急の場合、教育委員会への関与が必要と言いますが、それなら、すでに地方自治法に必要な規定があり、新たな立法はいりません。
教員への統制も重大な問題です。
法案は、副校長、主幹、指導教諭を新設するといいます。管理職をふやして教員への統制をつよめようというものです。
いち早く主幹を導入した東京都では、校長ら経営層が教育方針を考え、その方針を主幹らが指導監督して、一般教員に実践させるという、命令による教育がつよまりました。
教育の営みは、子どもと教員との人格的接触をつうじて行われる文化的営みであり、上からの命令ですすめられるものではありません。
教員免許更新制は、十年ごとに免許を失効させ、更新には国が関与する講習の「修了」が必要というものです。これも、教員統制の手段となりかねません。
こうした上からの圧力を一身にうけるのは子どもたちです。
法案は、義務教育の「目標」を書き込み、「国を愛する態度」など数多くの「態度」を身につけることを盛り込もうとしています。
文部科学省は、教育基本法二条(教育の目標)に同様の規定があるといいますが、教育基本法二条こそ国会審議で子どもの内心の自由を侵す憲法違反の条項として問題となったものです。
その結果、政府は「愛国心通知表」を事実上、撤回せざるをえませんでした。それをふまえれば、教育基本法二条をそのまま学校の具体的目標にすべきでないことは明らかです。
すでに行政の指導で、「黙って最後まで掃除する子を80%」「(道徳の時間の)価値項目を自己の生き方に結び付けて考える児童を80%」達成など、子どもの態度を数値目標化して押し付ける動きがおきています。「ほかの歌では見ないのに、『君が代』の時だけは、僕たちの口が開いているかどうか見てまわる」など「日の丸・君が代」の強制も深刻化しています。
子どもの態度や内面にたいする行政の干渉は、子どもの心を傷つけ、子どもののびやかな成長をうばう最悪のやりかたです。
憲法に基づく教育を
国民がねがっているのは、子どもの笑顔を最優先に、子どもとともに悩み、励ましあうことができるような教育です。
私たちは、法案の国会提出につよく反対し、憲法に基づき、一人ひとりの子どもが大切にされる教育のために、全力をあげます。
しんぶん赤旗 2007年3月14日
中教審が教育3法案答申 国の介入を強化
中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)は十日、合同分科会と総会を開き、教員免許法等改定案など教育三法案の答申を決め、伊吹文明文科相に提出しました。答申を受け、伊吹文科相は「今月中に国会に三法案を一括して提出して審議をお願いしたい」「国会で成立させ、現場へ反映させる」と述べました。三法案はいずれも改悪教育基本法の具体化となるもので、国家の教育への介入を強化し、教育現場の困難を拡大するものです。
中教審内で意見が割れていた地方教育行政法改定案については、「国の法律上の責任を果たすことができるよう、適切な仕組みを構築」するとし、国の関与強化を打ち出しました。
ただし、具体的内容では文科相が教育委員会に是正指示ができる条項の新設は、賛成の「多数意見」と、反対の「強い意見」の両論併記としました。
国の権限強化の方向に対して合同分科会で石井正弘・岡山県知事が「了承できない」として反対しました。
学校教育法改定案については、「我が国と郷土を愛する態度」を義務教育の目標に新たに明記。また学校に「副校長」や「主幹」の職制をおくことができるとしました。
教員免許法等改定案では、教員免許に十年ごとの更新制を導入。「指導が不適切な教員」について、一定期間研修を課した上で、免職などの措置を講ずるとしています。
答申のポイント
【学校教育法改定】
〇義務教育の目標に「国を愛する態度」「公共の精神」などを明記
〇副校長などを新設
【教員免許法等改定】
〇教員免許更新制の導入
〇指導が不適切な教員の人事管理の厳格化
【地方教育行政法改定】
〇文科相による教育委員会への是正措置(賛否両論を併記)
解説
どうみる 中教審答申
国が教員を徹底統制
中央教育審議会が十日発表した答申は、政府が今国会提出をめざす教育三法改悪の骨格を示しました。
答申は総論で「改正教育基本法にのっとって、新しい時代にふさわしい教育を力強く総力を挙げて進めていかなければならない」と述べ、三法改悪が改悪教育基本法の具体化であることを強調しました。
答申が示した法案の特徴は、国の教育に介入する権限を強化し、教員への徹底した統制の仕組みを導入することにあります。そのねらいは、「愛国心」などの徳目の強制、一斉学力テストなどの競争とふるいわけの教育を学校現場に押し付けようというものです。
○学校教育法
答申は学校教育法について(1)幼稚園、義務教育(小中学校)、高校の目的、目標の改定(2)学校評価規定の新設(3)副校長、主幹、指導教諭の新設を求めました。
義務教育の目標に新たに「規範意識」「公共の精神」「家族や家庭の役割(の理解)」「我が国と郷土を愛する態度」を盛り込みます。「国を愛する態度」など二十におよぶ徳目を盛り込んだ改悪教育基本法第二条にもとづくものです。「人格の完成」という個人尊重の教育から、公の名による国家への奉仕強調という方向が鮮明です。安倍晋三首相の好きな「規範意識」が幼稚園の目標にまで盛り込まれ、政治の露骨な介入が危ぐされます。
上からの学校評価は教員の自律性を奪います。「いじめ半減」の数値目標が、いじめ隠しをもたらしたように教育現場の荒廃を招きます。
副校長など新たな職制の設置は学校を上意下達の組織に変えようというものです。
○教員免許法等(教育公務員特例法を含む)
十年ごとに三十時間の講習を義務付ける教員免許更新制の導入を求めました。免許更新制は教員の身分を不安定にし、政府の言うことを聞く教師をつくるものです。
国が内容を決める官製研修では教員の力量向上に役立ちません。現場の自主的研修を保障することこそ必要です。
世界で教員免許更新制を行っているのはアメリカのみですが、日本と違って教員の知識等に極端な差があるので、教員の研修を促すのが目的です。更新で実際に免許が失効する恐れは皆無といわれています。
また答申は教育公務員特例法を改定し、指導力不足教員の認定・研修を盛り込むこととしました。すでに全都道府県で行われている制度ですが、「認定が一方的」「研修で草むしりをさせられる」など多くの問題が指摘されています。法律に格上げすることでゆがみを助長する恐れがあります。
○地方教育行政法
地方に対して国の権限を強化する文科省の改定案に対し、中教審では地方の首長の委員や識者から「地方分権の流れに逆行する」と強い反対意見が出ました。
その結果、焦点の文科相の地方教育委員会に対する是正措置は反対意見との両論併記となりました。政府内の決着は来週以降の安倍首相の判断に持ち越されました。
原案にあった都道府県の教育長任命への国の関与は見送り。私学への教育委員会の「指導・援助・助言」について、指導は否定しましたが、援助・助言は含みを残しました。(北村隆志)
しんぶん赤旗 2007年3月11日
主張 全国学力テスト 個人情報を国と大企業が握る
文部科学省が予定している全国一斉学力テスト(四月二十四日)が実施されれば、日本全国の小中学校の子どもと家庭の個人情報を受験産業と国が握ることになるという重大な問題に懸念の声があがっています。
「質問紙」に書き込ませて
文科省の全国学力テストは、小学校六年生と中学三年生のすべての児童・生徒に、国語と算数・数学のテストを全国一斉に受けさせ、学校と子どもに成績順の序列をつけるというものです。子ども、学校間に過度の競争とふるいわけを強いる全国学力テストは、子どもの心を傷つけ“学校嫌い”をひろげ、“すべての子どもに基礎学力を身につけさせたい”という国民の願いに逆行します。
加えて浮かび上がってきたのが個人情報保護にかかわる問題です。
全国学力テストには、教科のテストとともに、学校や家庭での勉強や生活について子どもにたずねる「質問紙」があります。
昨年十一―十二月に実施された全国学力テストに向けた予備調査では、「質問紙」の回答用紙に、学校名、男女、組、出席番号とともに、名前を記述するよう求めています。質問は、生活習慣や人間関係、教科の好き嫌いなど九十二項目に及びます。
「今住んでいる地域が好き」か、など内心にかかわる質問、「あなたの家には本が何冊くらいありますか。(教科書や参考書、漫画や雑誌は除きます)」など、家庭環境にかかわる質問が数多くあります。
これらの個人情報を文部科学省が一手に握るだけではありません。全国学力テストの回収、採点、集計、発送業務は民間企業に委託します。小学校は進研ゼミで知られるベネッセコーポレーション、中学校はNTTデータが教育測定研究所・旺文社グループと連携してあたります。受験産業が業務を請け負うのです。
子どもへの百項目近い質問と教科テストで得た個人情報を、これらの民間大企業も独占できるのです。塾やけいこごとにかかわる質問も少なくありません。「一週間に何日、学習塾(家庭教師を含む)に通っていますか(夏休みなどを除く)」と質問し、答えも「毎日」「六日」「五日」「四日」「三日」「二日」「一日」「通っていない」の八項目を用意するほどの念の入れようです。
個人名までかかせて、通塾状況をこんなにくわしく質問すること自体、「特定の営利企業が国民の税金をもって、自分たちに有利なデータを独占的にとることがあってはならない」(伊吹文明文部科学相、二月二十一日衆院文部科学委員会)とされる行為です。
日本共産党の石井郁子衆院議員が求めたように、全国学力テストへの参加・不参加は児童・生徒、学校、教育委員会の判断にまかせ、個人名を書かないことも認めるべきです。
情報の紛失、流出の恐れ
民間企業が請け負う学力テストをめぐっては、最近も山梨県と長野県の十五の小学校約二千人分の個人名入りデータが紛失する事故が起こっています。業務を請け負った企業が委託した電算処理システム会社から、別の配送会社へ運送会社が搬送する過程で不明になっています。
全国学力テストを請け負う大手企業も物流を中心に工程によってそれぞれ企業に業務を委託します。全国学力テストで得られる個人情報は、先の紛失事故の比ではありません。
受験産業と国が全国の子どもと家庭の個人情報を握る全国学力テストは、個人情報保護の観点からも重大であり、中止すべきです。
しんぶん赤旗 2007年3月2日
中教審 国の介入強化に異論 教員免許法・学校教育法の骨子固める
中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)は二十五日、総会と分科会を開き、改悪教育基本法の具体化となる教育関連三法改定案について集中審議を行い、教員免許法と学校教育法の改定案の骨子を固めました。教育委員会「改革」に関する地方教育行政法改定案については、焦点となっている教育委員会への国の介入を強めることに対し、委員から反対意見が続出し、結論は見送られました。
中教審は二十八日に関係団体からヒアリングを行ったうえで、法案の通常国会提出に向けて、三月上旬にも答申をまとめる構えです。
地方教育行政法に関しては、教委の事務が法令違反や「著しく不適正な場合」に国が勧告や指示ができるとしたことに対して、中教審の三村明夫副会長が「『著しく』はあいまいな概念。非常に裁量的なものだ」と批判。
教員免許法改定案は、教員免許に十年ごとの更新性を導入するのが柱です。学校教育法改定案には、改悪教基法二条(教育の目標)を踏まえ、小中学校の目標規定として「我が国と郷土を愛する態度」や「公共の精神」などを盛り込むことを明記しました。
しんぶん赤旗 2007年2月26日
全国学力テスト 受験産業に個人情報 氏名明記 塾通いの有無まで調査 石井議員、中止を要求
四月二十四日に小学六年と中学三年を対象に行われる全国一斉学力テストについて、委託先のベネッセコーポレーションとNTTデータが採点・集計を行い、こうした企業に個人情報が流れる危険性が明らかになりました。二十一日の衆院文部科学委員会で石井郁子議員は「個人情報を受験産業と国が握ることになり重大な問題だ」と指摘し、学力テストの中止を求めました。
学力テストには国語と算数・数学の学力調査のほかに「児童・生徒質問」があり、「一週間に何日学習塾に通っていますか」「学習塾でどのような内容の勉強をしていますか」などを学校名、個人名を明記して答えさせます。石井氏は、ベネッセは「進研ゼミ」を事業の一つにした受験産業、NTTデータは旺文社と一緒になってテスト開発を行っている企業と連携していると指摘し、「受験産業がさらに拡大する」と追及しました。
また昨年実施した予備調査では、学校への「質問紙」もありました。不登校、生活保護世帯の児童の割合、「校長の裁量経費があるか」など学力テストとは関係のないことまで聞いています。
伊吹文明文部科学相は「特定の営利企業が国民の税金を持って自分たちに有利なデータを独占的にとることはあってはならない」と述べつつ、「契約書の内容として、企業が営業活動に使うことになれば処罰される。そういうことはきちっとやっている」と個人名の記入などを容認しました。
石井氏は、学力テストの中止を要求するとともに(1)学力テストへの参加・不参加は生徒、学校、教育委員会の判断に任せる(2)個人名を書かないことも認めるべきだと強く求めました。
解説 個人情報巡る大問題示す 全国学力テスト 石井議員質問
全国一斉学力テストをとりあげた二十一日の衆院文部科学委員会の日本共産党の石井郁子議員の質問は、同テストが個人情報保護にとって重大な問題をもつことを明らかにしました。
同テストでは、試験問題・解答用紙とともに、児童・生徒にたいする「質問紙」を配り、子どもたちは学校名、個人名を書いて提出します。
石井氏は、昨年十一―十二月に行われた全国学力テストに向けた予備調査の問題例をあげました。
通塾状況など受験産業が欲しくてたまらないような質問ばかりが並んでいます。個人名をかけば、点数から生活状況まですべての回答が個人情報となります。「自分は、家の人から大切にされている」「あなたの家には本が何冊くらいありますか」などの質問まであります。これは、学力調査の目的を超えて個人・家族の状態まで聞き出すものです。
この情報の集計を行うのが、文科省が事業を委託した二つの企業です。小学校は、進研ゼミで知られるベネッセコーポレーション、中学校はNTTデータが担当します。
また予備調査では学力調査に名をかりた学校情報の収集ともいえる質問をしており、文科省が学校にたいする直接統制に乗り出すことができるようになっています。
日本共産党は、全国学力テストが競争教育を激化させ、子どもと学校を序列化するとして反対してきました。今回さらに文科省と一部企業が子どもと学校の情報を一手に握り、受験産業と結託した国による教育の管理統制につながりかねないことが浮き彫りになりました。
また銭谷真美初等中等教育局長は学力テストの費用として、民間企業に計六十七億円(〇六年度に十八億円、〇七年度に四十九億円)の税金が支払われると答弁。学力テストで民間企業が巨額の「甘い汁」を吸う構図です。(藤原 直)
しんぶん赤旗 2007年2月22日
主張 再生会議報告 教育に背く競争とふるいわけ
政府の教育再生会議が、第一次報告を提出しました。教育に競争原理を徹底させ、上からの管理もつよめようというもので、改悪教育基本法の具体化そのものです。
国民との矛盾広げる
「ゆとり教育」を見直すといいますが、その中心は全国いっせい学力テスト、習熟度別学習の徹底、学区自由化などの競争メニューです。それらが、入学者ゼロの学校をつくり出し、勉強の遅れがちな子どもの排除にむかうなど、子どもを傷つけ学力保障にもつながらないことは、東京都などの先行例で証明済みです。
また「授業時数の10%増」といいますが、すでに文科省の圧力で多くの学校で授業時数はギリギリまで延長されています。始業式の日も授業、文化祭や林間学校まで削って授業と、子どもも先生もくたくたなのが実態です。
「学力世界一」といわれるフィンランドは、日本より授業時数が短いことが知られています。
いま必要なのは、一人ひとりを丁寧にみられる少人数学級、教材研究の時間がとれるような教員数の確保、子どもの実情にそって教えられるような学校・教員の自主性の保障です。重要な事項を深く教えられるように、系統性を欠く学習指導要領を見直すことも欠かせません。
報告は、いじめ対策として、出席停止や体罰禁止の通達の見直しなど、子どもを押さえつける方向も突出させました。委員からも「出席停止を導入したアメリカでは…反社会的行動が増えた」など問題視されていたものです。いじめをする子どもの背景も無視し、体罰や威圧で押さえつけることは、いじめの温床を広げるだけではないでしょうか。
教員にたいしては、管理職をふやし、成果主義賃金を導入し、教員を委縮させる教員免許更新制を導入するといいます。すでに民間企業で社員の協力関係を壊し、業績悪化の原因となっている成果主義賃金を適用することは、教育を台無しにしかねません。
金八先生の脚本家、小山内美江子さんらは「大人が子どもを管理して長時間にわたり知識教育を押しつける」と批判する提言を公表しました。報告と広範な国民との矛盾は、ますますつよまるでしょう。
教育再生会議は、会議は非公開、しかも多くの教育関係者を排除して進められました。そんな運営で一方的な結論をだし、国民について来いといわんばかりに押しつける。安倍首相の「美しい国」の鋳型に子どもと教育を押し込めようという思いあがった感覚が、すけて見えます。
報告は「教育界」を「閉鎖性」ときめつけましたが、その報告自体が閉鎖的です。こうした安倍政権のやり方に教育再生をまかせるわけにはいきません。
憲法にもとづく教育を
子どもの人間的成長という視点をすえて、子どもの現実をふまえた議論こそおこなわれるべきです。
いまの子どもに必要なのは、人間をばらばらにする競争ではなく、まわりとのあたたかい人間関係です。つめこみ教育にもどるのでなく、主権者として生きることと深くつながる学習です。
威圧的に管理されることでなく、「個人の尊厳」です。OECD三十カ国中最下位の教育予算をふやすことも急務です。
日本共産党は、そうした憲法に基づく教育を、国民全体でひろく討論しながら、つくりあげることをつよく主張します。
しんぶん赤旗 2007年1月26日
国家介入・競争を強化 教育再生会議第一次報告 通常国会に関連法案
安倍晋三首相の直属機関である教育再生会議(野依良治座長)は二十四日、首相官邸で総会を開き、第一次報告を正式決定しました。報告は昨年十二月成立の改悪教育基本法を具体化するものです。学校選択制や教員免許更新制、第三者機関による学校の監査システムを導入するなど、教育への国家介入を強化し、教育にさらなる競争と選別を持ちこむ内容になっています。
安倍首相は報告を受けて、二十五日召集の通常国会に教員免許更新制導入のための教員免許法改定案、教育委員会「改革」として地方教育行政法改定案、学校教育法改定案の三法案を提出し、成立を目指すことを明言しました。
第一次報告では、二〇〇二年度から小中学校で実施されている「ゆとり教育」の見直しを提言。授業時間の10%増とともに習熟度別授業の拡充、学校選択制の導入を掲げています。
いじめを繰り返す子どもに出席停止措置の活用を明記。体罰禁止の緩和を念頭に三月末までに規定を見直すよう求めています。
また、不適格教員を排除するとして教員免許更新制の導入を提言。学校や教育委員会に対する第三者機関による外部評価制度の導入も求めています。
今後の検討課題には、学校週五日制の見直しや学校を予算で差別する教育バウチャー(利用券)制度の導入などを挙げました。
再生会議は、政府の「骨太の方針」に反映させるため五月に第二次報告、年末には最終報告を決定し、改悪教育基本法のさらなる具体化を進める方針です。
第一次報告ポイント
一、「ゆとり教育」の見直し。授業時間の10%増加。全国一斉学力テストの実施。習熟度別授業の拡充。学校選択制の導入。
一、いじめや暴力行為を繰り返す子どもに対し出席停止措置を活用。「体罰」についての通知を二〇〇六年度中に見直す。
一、高校での奉仕活動の必修化。大学の九月入学の促進。
一、不適格教員の排除、教員免許更新制の導入。
一、副校長、主幹などの管理職を設置。学校教育法の改定。
一、第三者機関による学校、教育委員会の外部評価、監査システム導入。
一、教育委員会の「抜本的改革」。
管理強化容認できない
石井副委員長がコメント
日本共産党の石井郁子副委員長は、教育再生会議の第一次報告についてメディアに問われて次のように答えました。
◇
教育再生会議は、発足以来、マスメディアにも非公開の“密室”で審議してきました。こういうやり方は、国民の権利にかかわり、切実な関心事となっている教育の問題を議論するやり方として、最もふさわしくないものです。
今回の第一次報告は、いわゆる「ゆとり教育」を見直すことを“目玉”の一つにしていますが、中心的な内容は「全国学力テスト」の実施、「習熟度別教育」の拡充であり、競争教育をいっそう助長するものです。また、いじめについていえば、その中身が体罰を容認しかねないものとなっていることは重大です。
今回の報告は、わが国の教育の根底にある「競争と管理」や、政府の教育介入を強め、改悪教育基本法の具体化につなげようとするものであり、容認できません。
しんぶん赤旗 2007年1月25日
教育再生会議第1次報告案 いじめ・学力 解決に逆行
教育再生会議が十九日、大筋了承した第一次報告最終案は、安倍内閣による改悪教育基本法の具体化の第一歩ですが、教育問題の解決に逆行するものばかりです。
ストレス助長
いじめ対策として、「体罰禁止規定の見直し」をもりこんだことは、いじめの温床として指摘される教員による体罰を大々的に広げかねない深刻な問題です。
体罰は教育と相いれないものであり、学校教育法一一条で禁止されています。一九四八年の法務庁長官通達で(1)罰として廊下に立たせる(2)遅刻したら教室に入れない(3)用便に行かせない―も体罰として禁じました。報告案は「問題児童・生徒」を教室から排除できるように、この通達について〇六年度中に見直すことを「四つの緊急対応」の一つとしています。
いじめる側に懲罰で対応することは、いじめをますます教師から見えにくくさせ、陰湿化させる危険も強くあります。
「ゆとり教育」を見直すとして、公立学校の授業時間の一割増加を求めていることも、学力向上につながるどころか、子どものストレスを助長するものです。
すでに全国で「授業時数確保」の名目で、授業が延長され、「金曜日はくたくたで授業にならない」「始業式から授業がある」など限界となっているのが実情です。その上さらに授業時数の増を求めるのはまったく実情に合いません。
国際学力調査トップで注目されるフィンランドは中学校の必修授業七百九十六時間で、日本の八百十七時間より少なく、世界最短クラスです(OECD『図表でみる教育』〇五年版)。教員の自主性の尊重、二十人学級などの教育条件整備、そのもとで学習のおくれがちな子どもへのゆきとどいたケアなどが、“成功”のひけつといわれています。
教員給与に優劣の差をつけるのも、教育実践の要である教師集団の協力をむずかしくします。教育委員会の広域化も住民が自分たちの町の子どもを自分たちで育てるという気風を弱めるものです。
与党から批判
教育の実情と遊離し、現場にいっそうゆきすぎた競争と管理を持ち込む報告案について、文部科学省や与党からも批判があり、そうした反発を避けるため政府は第一次報告も五月に予定されている第二次報告、最終報告も閣議決定しない考えです。身内からの反対で拘束力をあいまいにせざるをえないところに、安倍首相がもくろむ「教育再生」のもろさが現れています。(北村隆志)
しんぶん赤旗 2007年1月20日