164国会 衆特別委 第9回(6月5日)
○石井(郁)委員 …基本法の発案者が、田中耕太郎元文部大臣ですね、その田中耕太郎自身が一九五二年のジュリストの創刊号でこのように書いています。教育基本法がなぜに教育の目的というような純教育哲学的事項に触れなければならなかったのかといえば、従来、我が国の教育法令が教育の目的を指示しており、そうしてそれが新憲法の精神に反しているということが多かったので、やむを得ない手段であったと。この教育の目的を書いたのは、本当にいわば戦前との関連でやむを得ない手段であったというふうに書いている部分に私はやはり大変注目をしなきゃいけないというふうに思うんですね。
ちょっと申し上げたように、その教育基本法一条というのは、「平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、」というようなことで、やはり一連の価値観は入っているわけです。述べられているわけですね。だから、これというのは、入っていることに対しては、やはり教育勅語にかわる民主的価値観を盛り込むことが求められていた。しかし、新しい民主主義的な憲法のもとで、教育の目的としてふさわしいものでも、やはり教育の目的にこれ以上の内容をつけ加えるということは決してしてはならないというのがこのときの立場だったんですね。
私、そこで大臣に伺いますけれども、やはり当時の立法当事者が国家による教育への関与の抑制という問題をこのように真剣に考えていたということについて、どのように思われますか。
○小坂国務大臣 今回の提案の第二条におきまして教育の目標を定め、これは、個人の人格の完成を目指すとともに、国家、社会の形成者として国民の育成をするという教育の目的を実現するためにも、今日重要と考えられる具体的な事柄を挙げている。このことは、教育の目標を、国民の代表者により構成される国会の審議を経て法律として制定されるということが適切な方法である、こういう認識に立っているわけでございます。
したがいまして、私どもは、教育に関する国の関与という点におきましては、これはあくまでも、憲法を初めとして法律によって定められた、そういったことについて、それを、行政的な手続に従って文部科学省として教育現場に対してその方向性を指示し、また、その法律の定めに従って行われた指導に基づいて各現場においてこれがなされること、これは、国による関与というよりは、法律に基づいた事柄の実行である、このように理解しているところでございます。
○石井(郁)委員 私は、今の御答弁というのは、本当に大変逆立ちした話だと思うんですよね。法律に目標を書けば何でもできるんだ、法律に従って行政を進めたらいいんだという話になっているわけですね。今私が伺っているのは、この法律にこういう教育の目的とか目標を書くということの問題性を話しているんですよ。
引用しています田中耕太郎は、「教育の目的に立ち入って規定するという異例を犯さざるを得なかった」、現行基本法もそういう異例を犯さざるを得なかったと。そしてその後、こういう現象というのはすぐ取り除くことができない、だから、教育基本法はすぐ変えようと思っていませんから、できないにしても、これを拡張、強化してはならないと言っているんですよ。これは一九五二年です。御存じのように田中耕太郎は、当時の発案者、そして最高裁の長官でいらっしゃいますよね。これを拡張、強化してはならないと言っているんですよ。
それを、今度はどうですか。まさに目的ではなくて、さらに教育の目標にして、事細かに、いわば「態度を養う」という徳目を二十項目も挙げて列挙しているわけでしょう。事細かに徳目を挙げる、まさに拡張、強化になっていませんか。こういう点については、大臣としてどのように検討されたんでしょうか。
○小坂国務大臣 教育の目標を法律で規定することによって、その教育の目標を人の内心にまで立ち入って強制しようとするものではありませんから、憲法の定める内心の自由に抵触するものではないと考えておりますし、それらの事柄をわかりやすくこの法律の中に明記することは、決してそれ自体が憲法に違反するわけではないわけでございますし、私は、抑制的かどうかという点においては、すべての事柄、法律を拡張的に解釈するというのはこれは行き過ぎであろうと思いますが、基本的には、その法律の範囲内にとどまるような意味でいえば、時のそれぞれの権力というものがそれぞれの時代の変遷の中でありますから、そういう意味では、ある程度抑制的に行われるということは私も考えておりますけれども、しかし、あくまでも法律で規定し、国民の代表たる国会議員の審議を経て決められたことというものを教育の目標として掲げ、それを教育の現場に浸透させること自体、それが違憲的なものであろうとか、あるいはなしてはならないことというふうには考えていないところでございます。
○石井(郁)委員 私が伺ったのは、こういう目的規定あるいは道徳的な規定を法律に盛り込むことについては、やはり拡張、強化してはならないということについて本当に真剣に検討されたのかどうか、どうもその形跡はうかがえないというふうに思うんですね。
そして今回の目標は、しかも、道徳心、公共の精神、伝統と文化の尊重、我が国と郷土を愛する態度等々、やはり国が徳目的な目標を決めるわけです。そして教え込むわけですね。さらに評価もするということになって、これは、憲法が禁止する内心の自由にやはり踏み込むことになるんじゃありませんか。これは非常に私は明白だというふうに思います。
大臣に最後に一言ですけれども、法律ですから、やはり法律は、その特質からして強制力を持つものですね。そういうものをお決めになるということについて、大臣、いかがですか。私は、大変重大な問題をこの今回の与党案ははらんでいるというふうに思いますが、法律は強制力を持つんですよ。教育の問題でそういうことを決めるということがやはり内心の自由に反するということについて、時間が来ましたので、やはり憲法の保障する内心の自由に反するということを私は最後に重ねて申し上げまして、きょうの質問を終わりたいと思います。