0350「日本国憲法を確定し、」「この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである」の削除

 

 

164国会 衆特別委 第8回(62日)

○笠井委員 …現行の基本法は、前文の冒頭で日本国憲法とのかかわりを明確にしております。ところが、法案では、「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、」「この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。」という憲法と教育とのかかわりを削除しているということがあるわけですが、これはなぜ削ったんでしょうか。

○田中政府参考人 教育基本法は、昭和二十二年の制定以来、半世紀以上が経過しておるわけでございまして、教育を取り巻くさまざまな状況が変化しておるわけでございます。
 今回の改正では、現行法の普遍的な理念は大切にしながら、今日、極めて重要と考えられる理念等を明確にしようとするものでございます。したがいまして、前文の見直しもあわせて行ったわけでございまして、今御指摘いただいておる文につきましては、「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。」これは昭和二十二年の議決でございます。
 今回提出させていただいております教育基本法案の前文の第一文では、「我々日本国民は、たゆまぬ努力によって築いてきた民主的で文化的な国家を更に発展させるとともに、世界の平和と人類の福祉の向上に貢献することを願うものである。」ということで、今日の時点に立って、さらなる目標を掲げたものでございます。

○笠井委員 冒頭に重要と考えられる理念、これを盛り込んだものだといって、そこから憲法を取ったというのは大変なことですよ。憲法の理想の実現の規定というのは、教育基本法が準憲法的性格と言われる何よりのゆえんだと思います。
 「教育基本法の解説」コンメンタールを見ましても、その最初の序のところで、国家としては、民主主義と平和を旗印として新しい日本の建設を目指すことになったのである、憲法の改正を初めとする各種の法律や制度の改革は、もとより必要であり有意義であるというふうに述べるとともに、真の民主主義と平和主義への転換は早急には達成され得ない、徐々に実現されていくほかない、そして、それは、根本において、教育の力にまたなくてはならないと。私、これは明快に解説していると思うんです。現に、制定当時、文部省自身が「あたらしい憲法のはなし」という副読本をつくって普及するなど、主権在民、基本的人権、平和主義などの憲法の理想の実現を教育の力で図ろうとしてまいりました。
 小坂大臣、法案で削除をしたのは、こうした理念、理想の問題がもう実現した、達成されたと考えるのか、教育の力にまたなくてもよい、こういうふうに考えるのか、その点、いかがでしょうか。

○小坂国務大臣 今、局長から説明申し上げたことも、日本国憲法の制定当時の状況を振り返って、あの当時は「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、」この日本国憲法を確定したことに新しい国家建設へ向けての、平和的な、民主的な国家建設へ向けての思いというものをそこに込めたんですよね。そして「民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。」と規定されておりまして、現在の状況を踏まえて、本法案では「我々日本国民は、」という形にして、今の、戦後の日本国憲法というものは我々の憲法として、しっかりと今日の平和的な、民主的な国家建設に大きな役割を果たしたという認識を持って、これを踏まえた上での今回の前文の規定として「我々日本国民は、」と、そうしてきたわけでありまして、この理念も……(笠井委員「もう達成されたのか、またなくていいのか」と呼ぶ)
 それでは、ここで言われた理念が達成されたから削除したのかといえば、そうではなくて、それなりにそういったものは引き継いでいる。今日も常にたゆまぬ努力を続けるという形の中で、この第一の部分ですね、「この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきもの」としているわけでございますけれども、これが削除されているわけではなくて、前文の第二文の部分に「我々は、この理想を実現するため、」こういうふうにして、引き続き理想の実現を継承しているわけでございます。
 ですから、この理念そのものは今後とも追求をするという前提に立って「個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する。」ということで、これらを教育によって推進していくんだということも受け継いでいるわけでございまして、そのように御理解をいただきたいと思います。

○笠井委員 達成されたわけじゃないと言われました。
 ところが、今度の法案では、今、前文で紹介したような憲法がないんですよ、「この理想」というところには。だから、憲法の理想を実現するためという意味じゃないんです、その文章は。だから全然違うんですね。今おっしゃったことから見れば、これは本当に削る理由はないというのは明確だと思いますが、いかがですか。

○田中政府参考人 ただいま、日本国憲法という文言がないではないかという御指摘でございましたが、三パラグラフを見ていただければわかりますように、現在提案させていただいております教育基本法案の中に「ここに、我々は、日本国憲法の精神にのっとり、我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し、その振興を図るため、この法律を制定する。」というふうにさせていただいております。