テーマ:教育三法提出に至るまでの経緯の批判的検討

報告者:大橋 基博(名古屋造形芸術大学)

200748

 

1 報告の狙い

 報告のねらいは、教育三法改正案の出てくる経緯を分析しその正統性を検討することであるが、結論的にいうならば、教育三法改正案は、そのプロセス、中味ともに異常ともいえるものである。

 

2 教育三法提出の背景

 まず、教育三法改正案提出の背景には、以下のような五つのことが考えられる。

 @1947年教育基本法の「改正」、A教育再生会議の議論・報告、B教育基本法改正前から進められていた改革の加速、C総裁選の公約であった安倍首相の「教育再生論」と支持率低下の中での政権浮揚策の模索、D地方分権一括法で失われた文科省の権限の回復、である。

 

3 教育三法作成過程の問題点

 教育三法改正案の作成過程の問題点としては、2つのことがあげられる。1つは「教育再生会議の位置づけと運営の問題点」、2つ目は「中教審の審議の問題」である。

 1つ目の問題点では、安倍首相の総裁選公約を実現するための組織として教育再生会議が設置されているが、当初、中教審のうえに位置付けることが考えられており中教審との関係が問題となっている。会議の構成に関しては教育学者がいないことが問題である。論議に関しては新自由主義政策と国家主義・新保守主義政策との矛盾と安倍首相の体系的な政策がない故に、教育再生会議の議論は紛糾している。そして、首相直属という名のもとに政治的介入が行われ、文科省は長年の懸案事項を実現するために再生会議を利用している。会議の非公開といった不透明性、拙速な審議など、運営をめぐる問題点は限りがない。

 次に中教審の審議の問題について、審議に至る過程では、教育再生推進派と自民党文教族との間に争いがあり、伊吹文科相は「法案を作成する場合は必ず中教審を通さなければならない」と発言し、教育再生会議をしばしば牽制している。これに対して安部首相は三法案提出にあたり、中教審に1ヶ月の審議期間で結論を出すことを迫った。安倍首相の頭には再生会議があっても、中教審はなく、伊吹文科相にとっては中教審の結論をもらうことだけが重要な課題となったという問題があげられる。

 中教審による審議のプロセスの問題点としては、4つのことが挙げられる。すなわち、@過密な審議日程が強いられた。1ヶ月で審議会開催数が12回、そのうち休日は1日中審議を行うこともあったこと、A過去の答申、報告等を利用し、審議を簡略化したこと、B形式的なヒアリング(228日に2グループに分かれ、30団体、約15分で開催された。同会は定足数に達せず「合同懇談会」となる。これでは形式すら整わず、関係者の声を軽視するものである)、C結論が出ない問題を両論併記で答申していることなどがあげられる。このような中で、@中教審の自立性が喪失し、A審議経過で官邸の圧力を容認し、結論部分でも両論併記にして最終的に官邸に一任するという審議会として有るまじきことまで行い、B結果、審議機関として形式化、形骸化してしまった。中教審にわずかに残された権威もすべて喪失したということがいえるだろう。

 

3 今後の課題

 最後に、今後の課題として以下のような3点があげられる。

 第一に、衆院で設置するといわれている特別委員会の問題である。これは10日間で審議を終え、参院へ渡すと考えられているが、膨大な内容の法案を連日審議できるのか、委員会で出された問題点を委員会が開かれている最中に解明できるのかという問題があげられる。もともと改正法案の内容は教育の基本原則にかかわる部分と技術的なものが多く含まれ、国会議員がそれを理解するには相当な時間がかかるはずである。もし理解する時間も与えられないまま連日審議を行なうのであれば、それは国会の法案審議権を実質的に奪うものであると言える。

 第二に、教育改革が十分な議論、実証抜きで行われることへの警鐘をならす必要があげられる。

 第三に、教育三法案の検討を通して、2006年教育基本法の具体的な問題点を国会審議を通じて明らかにし、その対抗軸として2006年教育基本法の改正の展望を導き出すことである。