「希望の国、日本」日本経団連 2007年1月1日(教育関連部分抜粋)


目次

 

概要

 

はじめに

 

1章 今後10年間に予想される潮流変化

 1.グローバル化のさらなる進展

 2.人口減少と少子高齢化の進行

 

2章 めざす国のかたち

 1.精神面を含めより豊かな生活

 2.開かれた機会、公正な競争に支えられた社会

 

 「希望の国」は内外に開かれた挑戦のフロンティアである。誰に対しても、公平にチャレンジの機会が与えられる社会である。ひとびとが、持てる知識や技能を最大限に活かし,公正なルールにのっとって競い合う社会である。そして、競争のなかで流された汗、尽くされた努力、発揮された創意やリーダーシップなどが成果に結びつけば、正当に報われる社会である。

 

 平等も軽視されない。法と社会規範の下に、人種、信条、性別、年齢、障害の有無などにより差別されないという平等は、「希望の国」では絶対的に保障される。しかし、結果の平等は求められない。公正な競争の結果としての経済的な受益の違いは経済活力の源泉として是認される。結果の平等は、ひとびとの研鑽、努力、勤労の意欲を殺ぎ、無気力と怠惰を助長する。結果の平等を重視した旧社会主義諸国が、息の詰まる官僚制国家となり、自壊していった歴史から学ぶべきことは多い。

 

 もちろん、本人の努力によっては解消できない格差や、不幸にして努力が成果に結びつかなかったことによってもたらされる格差が、経済的、社会的に固定化されることは避けなければならない。「勝ち組、負け組」といった考えを払拭し、失敗しても幾度でも再チャレンジできるようにする必要がある。たった一度の「お受験」や「新卒採用」で人生が決まるといった価値観や仕組みを改め、人生のステージごとにさまざまな選択を可能としていくことが必要である。キャリアアップや再就職の推進に向けた社会人の「学びなおし」のための環境整備、既卒者にも広く門戸を開いた採用制度の導入など、企業、教育機関、NPO、国・地方などが緊密に連携して、再チャレンジ可能な仕組みを作り上げていかなければならない。また、本人保証・第三者保証の合理化、融資や信用保証を通じた早期事業転換・再挑戦支援などにより、企業再生や再起業を支援する必要がある。

 それでもなお解消されない格差について必要最小限のセーフティーネットを用意することは社会の重要な努めである。しかし、その提供を公的制度にのみ委ねる必要はない。ボランティア、NPO、地域コミュニティが、介護や福祉などの分野で、これまでも良質なサービスを効率的に提供してきたことを忘れてはならない。公的制度が提供する場合であっても、納税者や負担者にとって、給付と負担の関係を理解しやすく、評価・監視も容易な地方がより大きな役割を果たすべきであろう。さらに、できる限り民間委託を進めることが、「お役所仕事」よりも「人間的で暖かいサービス」の実現、費用の削減につながる。

 

 3.世界から尊敬され親しみを持たれる国

 

3章 「希望の国」の実現に向けた優先課題

 1.新しい成長エンジンに点火する

 2.アジアとともに世界を支える

 3.政府の役割を再定義する

 4.道州制、労働市場改革により暮らしを変える

 5.教育を再生し、社会の絆を固くする

 

 「希望の国」を実現していくには、経済・社会に加え、教育や政治・憲法などをイノベートしていくことも欠かせない。

 

教育再生、公徳心の涵養

 

 資源に乏しい日本にあっては、未来を切り拓く自立した人材の育成が国の命運にかかわる最も重要な課題である。社会の一員としての規範をわきまえ、課題に使命感をもって取り組むことができる「志と心」、情報の収集や交渉、調整などを通じて目標を達成する「行動力」、深く物事を探求し考え抜く「知力」を備えた人材が求められている。

 学校への期待を大きい。しかし、初中等教育、とりわけ公教育における教育力の衰退、理数系離れをはじめ基礎学力の低下が指摘されて久しい。陰湿なイジメや「キレる」青少年の多発、非行、校内暴力などの事件もあとを絶たない。このままでは、誰に対してもチャレンジの機会が公平に開かれている国とはいえなくなるおそれがある。一国も早く、公教育の質的改善を進めていくことが求められている。

 経団連は、@均質な教育を見直し、個性や能力を最大限に伸ばす多様性を重視した教育に転換する、A学校や教員が切磋琢磨して自らの発意と創意工夫で学校経営や授業の改善を実現するための環境を整備する、B受け手の以降を反映した学習者主権を確立する、を基本理念とした教育の再生をめざす。

 現在の教育において最も欠けているのは、克己心、公徳心の涵養という視点である。自己中心的な考えが蔓延し、他人に迷惑をかけないといった最低限のモラルも確立されているとは言いがたい。ごみや騒音などをめぐる地域における争い、風紀の乱れ、さらには凶悪な少年犯罪をはじめとする治安水準の低下など、法や社会規範の遵守さえ確保されていない事例が少なくない。

 より積極的に、自らの社会を自らの手で支えようという気概や、社会全体の福祉の増進に貢献するといった意味における公徳心も十分に育っていない。子育て家族の支援、防犯、再チャレンジ環境の整備など、さまざまな分野で地域コミュニティの重要性が指摘されている。また、福祉や環境、天災・人災への対応において、ボランティアやNPOの役割は大きい。さらに欧米では、文化・芸術の振興なども個人や企業の寄付により支えられているところが少なくない。こうした要請に応えていくため、他人を尊重し、弱者を思いやる心が求められている。

 誠実、勤勉、克己心といった個人的な美徳に加え、正義、寛容、慈善、同胞愛など公徳心がなければ、どのような社会も成立しない。こうした美徳や公徳心は、国民一人ひとりが、大切にすることや、してはならないことなど、基本的な価値観を共有する共同体の一員であるという自覚をもつことにより育まれる。学校や家庭での教育を通じ、歴史的に形成されてきた国民、国土、伝統、文化からなる共同体としての日本を愛する心と、その一員としての誇りと責任感を培っていくことが求められる。美しい薔薇が健やかな枝に咲くように、美徳や公徳心は愛国心という肥沃な大地から萌え出る。

 国民の8割は愛国心を育てることが必要であるとの意識を共有している。にもかかわらず、国を愛する気持ちが強いとする人は二人に一人にとどまっている。とくに、国際的にみて、若い世代に国に対する無関心さが目立つ。国旗や国歌に対する意識をみると、米国や中国の高校生の過半は、誇り、親しみ、愛着などの肯定的な気持ちを抱いているのに対し、日本の高校生の過半は「何とも感じない」と特異な状況にある。

 

 図表第29 愛国心に関する国民意識 ()

 図表第30 国旗・国歌に対する高校生の意識 ()

 

 自らの国を愛する心がなければ、他国の国民感情を理解し、尊重する心は生まれない。愛国心を持つ国民は、愛情と責任感と気概をもって、国を支え守る。しかし、愛国心は、侵略や軍国主義とは無縁である。むしろ、諸国民が、健全な愛国心を持ち、他国の国民と対等に接し、協力・協調することが正義と秩序を基調とする国際平和につながる。

 愛国心は、改革を徹底していく前提でもある。これからわれわれが進む道は決して平坦ではない。石くれやいばらも多く、痛みも覚悟しなければならない。国民に国を愛する心がなければ、「希望の国」に至る道筋を歩み続けることはできない。

 

10年後の姿(教育再生、公徳心の涵養)

→公教育が本来果たすべき機能を取り戻し、公教育に対する国民の信頼が回復している。初中等教育における総合的な学力水準は世界トップレベルを維持している。国を支える指導的人材を見出し、その能力を積極的に引き出す教育が行われている。

→国民一人ひとりの心のうちに、国を愛する気持ちが自然と溢れ、日本に対する誇りと責任を胸にしながら、日々の生活を営んでいる。国旗や国歌を尊重する気持ちが育まれている。

→社会のあらゆる場面において、ひとびとの公徳心が高まっている。家庭や学校、地域社会の教育を通じ、しっかりした躾を体得し,豊かな人間性を備えた子どもが育っている。世代を問わず、法や社会規範を尊重し,遵守することが当たり前に行われている。個人や企業が主体的に「公」の役割を担い、教育の再生をはじめとした社会貢献活動に積極的に参加している。

 

CSRの展開・企業倫理の徹底 ()

 

政治への積極的参画 ()

 

憲法改正

 (中略)

 1946年の制定当時と比較し、内外情勢も、国民意識も大きく変化している。憲法の歴史的価値をたな卸しし、引き継ぐべきもの、新しく創造するもの、変えるものを整理し、より国家理念にふさわしい憲法に改正していく必要がある。経団連は2010年代初頭までに憲法改正の実現をめざす。

 

10年後の姿(憲法改正)

2010年代初頭までに、新しい時代の日本にふさわしいかたちに憲法が改正されている。憲法の規定と現実の乖離が解消され、憲法が国民に身近なものとなり、信頼感が高まっている。

→効果的な安全保障政策により、国民の安心・安全が確保されるとともに、国際社会の平和と安定に寄与している。

 自衛隊は、国民の強い信任のもと、迅速かつ効果的に、国益の確保のための任務を遂行している。

 日米同盟はより深く強固なものとなるとともに、安全保障や国際貢献に関する基本方針が明確になることにより、近隣諸国からの信頼が高まっている。さらに、国際平和構築に向けて積極的に貢献し、国際社会からの信頼と尊敬を得ている。

 

4章 今後5年間に重点的に講ずるべき方策

 

5章 2015年の日本の経済・産業構造

 

おわりに

 

アクションプログラム2011


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