20061222

 

内閣総理大臣 安倍晋三 殿

公明党委員長 大田昭宏 殿

参議院教育基本法に関する特別委員会委員長 中曽根弘文 殿

参議院議長 扇千景 殿

 

 

参議院教育基本法に関する特別委員会における法案の強行採決、および、

参議院本会議における法案の採決に抗議する

 

「【アピール】公述人・参考人として教育基本法案の

徹底審議を求めます」呼びかけ人

西原博史(早稲田大学教授)

廣田照幸(日本大学教授)

藤田英典(国際基督教大学教授)

 

 

 去る1214日、与党は、参議院教育基本法に関する特別委員会において政府提出にかかる教育基本法の全部を改正する法案を強行採決し、翌15日には、参議院本会議において、与党のみの賛成によって法案を可決した。

 私たち3名は、衆議院および参議院の特別委員会において発言をした参考人・公述人18人とともに、法案の内容的問題を8点指摘し、法案の徹底審議を求めるアピールを公にした。このアピールは、大多数の国民は法案の165国会における採決ではなく、徹底審議を求めていることを明らかにした同時期の世論調査とも共鳴するものであった。また、わずか4日の間に、18千余の市民がこのアピールに賛同する電子署名に名前を託したことは、世論が165国会における法案採択ではなく徹底審議へとさらに移行していることを示していた。

 にもかかわらず、与党は、特別委において強行採決、さらに、本会議において国会議席数にのみ頼んでの法案採決を行った。

 

 私たちは、準憲法である教基法の改正にあたっては、十分な国民的議論を経る必要があり、かつ、国民的合意の形成を追求すべきであることを主張してきた。

 しかし、与党は、国会運営に当たって、参考人質疑、中央・地方公聴会を国民から出される論点に真摯に耳を傾け、新しい論点の所在を明らかにすることはせず、それらを儀式としてのみ取り扱った。衆議院においては中央公聴会を行ったその数時間後には与党だけで法案を特別委で採決するという暴挙に出た。参議院においては、将来教師を志望している学生から出された、公聴会終了後すぐに採決されれば自分は仲間を裏切ることになるという趣旨の発言にもかかわらず、その2日後には、特別委での採決を強行した。

 与党は、180時間にも上る審議の中で、立法事実も立法者意思も明らかにすることはできず、何のために、どのような内容の法律が必要とされているのかを説明する、法案提案者が果たすべき最低限の責任さえも果たすことはなかった。

 与党は、審議過程の中で委員から提起されたさまざまな懸念、参考人・公述人が指摘したさまざまな論点について、それに正面から応えることはせず、準憲法たる教基法の審議にあたってすべての政党が保つべき、真摯さと誠実さを示すことはなかった。

 与党は、本来であれば、参照することもが許されないはずにもかかわらず、政府案作成のプロセスにおいて、自民党新憲法草案との整合性をチェックした事実を明らかにした。これは憲法擁護尊重義務(憲法99条)に反している。一政党の憲法試案に基づいて法案を作成している以上、「不当な支配」を禁止した1947年教基法にも反するものである。

 

 政府案は、法案作成とその審議のプロセスに幾重にも欠陥を有しているのであり、165国会における採決はありえなかったはずである。

 にもかかわらず、科学的論証をまったく欠いている教育政策(学力テスト、学区選択などから構成される新学力テスト体制。あるいは、いじめ対策としての子どもへの規範意識の注入等)を兎にも角にも実現したいとの衝動を抑えることなく、憲法改正という教育外在的な動機に突き動かされ、さらには、来年秋に予定されている参議院選への悪影響を取り除いておきたいとの政党の政治的思惑を優先させて、1947年教基法を与党だけで改正したことは、絶対に許されるものではない。

 私たちは、165国会における法案の採決を決断した与党代表に、そして、基本法という特別な意味を持つ法律の改正であることを正当に重視しないまま国会運営を行った特別委委員長および参議院議長に対して、抗議の意思をここに断固表明する。

 

 私たちは、教育再生会議答申、政府によって提出されるであろう学校教育法などの改正法案、文科省による学習指導要領の改定など、2006年教基法を具体化するためのいかなる政府の行為をも、今後、徹底的に精査し、その問題点を国民に訴え、国民的議論に基づく検証を実行する決意である。

 そのときに、政府、文科省および与党が、「個人の尊重」を基本原理とする日本国憲法を十分に尊重した政策や法律のプランを提出し、自らのプランについての説明責任を十分に果たし、国民から出されるはずの懸念と疑問に真摯に応答すべきことを今から求めておきたい。また、議会関係者が、これらのことを十分に配慮した議会運営をすべきことも求めておきたい。

 最後に、これらの求めに応じることなくプランを強行すれば必ずや大きな禍根を日本の公教育に残すことになる、ということを強く警告する。